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列指向データベース入門|分析を速くする格納
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 列指向データベースは、同じ列の値をまとめて連続して格納し、集計処理を速くする仕組みです。
- 行指向は1件ごとの読み書きが得意で、列指向は特定の列だけを大量に読む集計が得意です。
- 列指向は更新の多い業務処理には向かないため、既存の行指向データベースとの役割分担が欠かせません。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
集計レポートが重く、表示されるまで待たされる。開発会社から「列指向データベースを使いましょう」と提案されたが、いま使っているデータベースと何が違うのか分からない——。分析基盤(集計・分析用のデータベース)の検討を始めた企業では、こうした戸惑いが起こりがちです。列指向データベースとは、表のデータを行ごとではなく列ごとにまとめて格納し、大量データの集計・分析を速く処理できるようにしたデータベースです。
見積もりや請求のデータを集め、集計や粗利の計算を速く回したいといった用途に向いています。ただし万能ではなく、1件ずつの登録や更新が多い業務処理には向きません。本記事では、システム開発の発注担当者やプロジェクトマネージャーに向けて、行指向との違い、集計が速くなる理由、向いていない場面、そして外部に委託するときに確認したい点を整理します。
目次
列指向データベースとは
行指向データベースは、1件分のデータ(1行)をひとまとまりにして、近い場所に格納する方式です。これに対して列指向データベースは、同じ列の値どうしをまとめ、連続した領域に置きます。どちらも表の形のデータを扱う点は変わりません。違うのは、保存するときにデータを並べる順番です。この並べ方の違いが、後で見る処理速度の差を生みます。
「ID・名前・金額」という3列の受注データで考えてみましょう。行指向では、1件目の「ID・名前・金額」がひとまとまりで置かれ、その後ろに2件目、3件目が並びます。列指向では、まずID列の値がまとまって並び、続けて名前列、金額列の順に並びます。
行数や列数が少ないうちは、違いをほとんど体感できません。データ量が増えるにつれて、格納方式の違いが処理時間の差としてはっきり表れてきます。
身近なところでは、会員情報や注文情報を保存する業務システムに、行指向のデータベースがよく使われます。一方、データウェアハウス(分析用にデータを集めて蓄える仕組み)やBIツール(集計結果を表やグラフで見る道具)の裏側では、列指向の仕組みが採用されている例が少なくありません。
行指向との違い
行指向と列指向は、得意な操作と向いている用途が違います。主な違いを表にまとめました。
| 観点 | 行指向 | 列指向 |
|---|---|---|
| 得意な操作 | 1件分のデータをまとめて読み書きする | 特定の列だけをまとめて読んで集計する |
| 向いている用途 | 受発注・在庫更新などの業務処理 | 集計・分析・レポート作成の処理 |
| 書き込みの特性 | 1件を1か所にまとめて書けるため負荷が軽い | 1件の値が複数の列に分かれ、書き込みの負荷が重くなりやすい |
| 典型的な問い合わせの例 | 注文ID123の明細を1件取得する | 全注文の金額列を合計する |
業務画面の「注文ID123の明細を見せてほしい」という要求と、集計の「今月の金額列を合計してほしい」という要求を比べると、読みたいデータの形がまったく違うことが分かります。
行指向のデータベースで集計すると、1行ずつすべての列を読み込んでから、必要な列だけを取り出す処理になりがちです。行数が増えるほど、使わない列まで読む負荷が積み重なり、応答が遅くなります。会員の表に数十の項目が並んでいても、集計で使うのはその一部だけ、ということは珍しくありません。商品コード・在庫数・入荷予定日など数十項目を持つ在庫の表から在庫数の合計だけを知りたいときも、行指向のままでは他の項目まで一緒に読み込むことになります。
なぜ集計が速くなるのか
集計処理の多くは、表のすべての列ではなく、一部の列だけを大量の行にわたって読み込みます。列指向では、同じ列の値だけをブロック(ディスクやメモリが一度に読み書きするデータのまとまり)に集めて置くため、集計に使わない列のブロックには触れずに済みます。同じ表を行指向と列指向で格納したときの並び方を、次の図で比べてみます。
図のように、行指向では1行分の値が連続して並ぶため、特定の列だけを取り出すときも、行ごとに他の列の値を読み飛ばさなければなりません。列指向では同じ列の値が連続して並ぶので、必要な列のブロックだけを読めば済み、むだな読み込みが減ります。
Amazon Redshiftの公式ドキュメントは、100列の表から5列だけを使う集計クエリ(データベースへの問い合わせ)を例に挙げ、列指向なら表全体のおよそ5%のデータを読むだけで済むと説明しています。*2 行指向であれば、使わない95列分のブロックまで読み込むことになります。この差を表にすると、次のとおりです。
| 格納方式 | 読み込む対象 | データ量の目安 |
|---|---|---|
| 行指向 | 使わない列も含め、行に含まれるすべてのブロック | 表全体とほぼ同じ量 |
| 列指向 | 集計に使う5列分のブロックだけ | 表全体のおよそ5%*2 |
ディスクから読み込む量が減れば、メモリ(処理中のデータを一時的に置く場所)に載せるデータの量も減ります。この両方が減ることが、集計クエリの応答時間を縮めます。数十億件の行を扱うデータウェアハウスでは、この差が集計にかかる時間に直接表れやすくなります。
もう一つの理由が圧縮です。列の中には同じ種類の値や似た値が並びやすいため、列ごとにまとめて圧縮する方式と相性がよく、ディスクの容量と読み込む量の両方を抑えられます。Google Cloudの公式ドキュメントも、列の中は行全体より値の重複が多いため、同じ値の繰り返しを短く書き換える方式で圧縮しやすいと説明しています。*3 列ごとにデータを保存するファイル形式のApache Parquetでも、圧縮の効率の高さが採用の理由の一つに挙げられています。*1*4
たとえば「契約ステータス」のように、値が「契約中・解約済み・休止中」の数種類しかない列では、同じ値が続けて並びやすくなります。値そのものではなく「同じ値が何件続くか」に置き換えて表せば、保存に使う容量が小さくなります。名前や住所のように値がばらつく列より、種類の少ない列のほうが圧縮の効果が出やすい傾向があります。
空欄(NULL、値が入っていない状態)の多い列も、列ごとにまとめておくと圧縮しやすくなります。記録した日時のように順に増えていく値の列も、圧縮しやすい列の代表例です。
向いていない場面
1件のデータをまとめて追加・更新・削除する業務処理では、列指向は不利です。1件の値が複数の列に分かれて格納されているため、1件を書き込むたびに複数の列ブロックへ分けて書き込む必要があります。受発注システムや会員管理のように1件単位の登録や更新が頻繁に起きる業務処理では、行指向のほうが同じ処理を軽く済ませられます。
ECサイトの受注画面から新しい注文を1件登録する処理で比べてみましょう。行指向では、その1件分の値を1か所にまとめて書き込めば終わります。列指向で同じことをすると、ID・名前・金額の値がそれぞれ別の列ブロックへ振り分けられ、書き込み先が何か所にも分かれます。登録済みの注文金額を1件だけ直す更新でも、該当する列のブロックを探して書き換える必要があります。
会員データをまとめて更新するバッチ処理(一定量のデータをまとめて処理する方式)でも、行指向より書き換えの手間が増えやすくなります。追加や更新が主な処理であるほど、行指向の設計が向いています。
反対に、その日に届いたログをまとめて追記し、あとは読むだけというデータもあります。追記が中心で更新がほとんど起きない場合は、列指向でも書き込みの負担は目立ちにくくなります。どちらの方式にするかは、書き込みの頻度と単位まで見て判断します。
主な使いどころ
列指向データベースは、大量データの集計・分析を続けて行う基盤で使われてきました。代表的な用途は次の3つです。
- データウェアハウス:複数の業務システムから集めたデータを蓄え、部門をまたいだ集計に使います。経営会議向けの月次集計が典型です。
- BIツールを使う分析基盤:ダッシュボードやレポートを作るための集計クエリを速く処理します。日次・週次で更新する定型のレポートと相性のよい用途です。
- ログ分析:アクセスログや操作ログのように、時間の順に積み上がる大量データの集計に向いています。特定の期間・項目だけを絞り込んで集計する使い方に合います。
これらに共通するのは、業務システムで発生したデータをまず行指向のデータベースに保存し、そこから集計向けの列指向データベースへ取り込む流れです。業務処理と分析処理を1つのデータベースで両立させようとせず、役割の違う2種類のデータベースを組み合わせる構成は、実務では珍しくありません。
この取り込みの処理は、一般にETL(抽出・変換・格納の処理)と呼ばれます。取り込みの頻度は日次のバッチのこともあれば、もっと短い間隔で反映することもあります。経営会議向けの月次集計なら日次の取り込みで足りることが多い一方、日々の売上をこまめに追いたいなら短い間隔での取り込みが必要になり、そのための仕組みも複雑になります。
外部に委託するときに確認しておきたい点
列指向データベースそのものを一から作る場面は少なく、既存の分析基盤の製品を選び、使い方を整えるのが実務の中心です。開発会社に委託するときや、提案をレビューするときに確かめておきたい点を4つ挙げます。
一つ目は、分析のための用途か、業務処理のための用途かです。提案されたデータベースが集計・分析のためのものか、受発注や会員管理のような業務処理のためのものかを、まず分けて考えます。提案書やRFP(提案依頼書)への回答に「集計処理」「分析基盤」とあれば、列指向が候補になります。「受発注」「会員登録」に列指向を当てはめる提案であれば、その理由を尋ねてみるとよいでしょう。
二つ目は、更新の頻度です。データが1件ずつ頻繁に更新されるのか、まとまった単位で取り込まれるのかで、向いている格納方式は変わります。更新の頻度と単位を具体的に確かめ、候補の製品が得意とする取り込み方と合っているかを照らし合わせます。冒頭で挙げた見積もりや請求データの集計のように、まとめて取り込んで読むことが中心の処理なら、列指向の検討に進めます。
三つ目は、既存の行指向データベースとの役割分担です。どちらのデータを、いつ、どう連携させるかを先に設計しておくと、後の工程での手戻りを抑えられます。連携の頻度(毎日か、リアルタイムに近いか)、連携が止まったときに業務へ出る影響、2つのデータベースの値が食い違ったときにどちらを正しいとみなすかも、あわせて決めておきたい点です。
四つ目は、運用の費用と体制です。列指向の分析基盤には、扱うデータ量やクエリの実行量に応じて費用が変わる製品が少なくありません。想定するデータ量とクエリの頻度で費用がどの程度になるか、データ量が増えたときに費用がどう変わるかを契約前に開発会社へ確かめ、誰が運用と監視を担当するかも決めておくと、稼働後に想定外の費用や作業が出るのを防ぎやすくなります。
まとめ:列指向データベースで確かめたい3つの点
列指向データベースを取り入れるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、速くしたい処理が集計・分析なのか、1件ずつの業務処理なのかを分けること。第二に、データの更新の頻度と単位を確かめ、列指向が得意な取り込み方と合うかを見ること。第三に、既存の行指向データベースとの役割分担と連携の方法、運用の費用を先に決めておくことです。この3点を踏まえておけば、「分析を速くしたくて入れたのに、登録や更新が遅くなった」という事態を避けやすくなります。分析基盤の設計に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
列指向データベースは、行指向データベースの代わりになりますか
置き換えを前提にするものではありません。実務では両者を併用し、業務システムのデータを分析基盤へ取り込む構成が一般的です。どちらか一方に統一するのではなく、処理の中身ごとに向いた方式を選びます。
既存の業務システムを列指向データベースに移行すべきですか
業務処理そのものを列指向へ移行する必要はありません。業務システムは行指向のまま運用し、そこから分析用の列指向データベースへデータを取り込む構成が実務の中心です。列指向を使うのは、分析・集計の処理に限って考えるとよいでしょう。
列指向にすると、圧縮率はどの程度変わりますか
具体的な圧縮率はデータの種類や重複の多さで変わるため、一律には言えません。同じ列に同じ種類の値が並ぶため、列ごとにまとめて圧縮する方式と相性がよく、行指向より高い圧縮の効率を見込みやすい方式です。実際の効果は、導入前に自社のデータで確かめておくと判断しやすくなります。
導入の前に、どんな検証をしておけばよいですか
本番導入の前に、実データに近いサンプルで集計クエリの応答時間を確かめておくとよいでしょう。想定した速さが実際に出るかを事前に確かめられ、導入後の手戻りを避けやすくなります。
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出典
- *1 参考:Apache Parquet 公式ドキュメント「File Format」(https://parquet.apache.org/docs/file-format/)。列指向のファイル形式の構造と、列ごとの符号化・圧縮の記述を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:Amazon Web Services「Amazon Redshift Database Developer Guide – Columnar storage」(https://docs.aws.amazon.com/redshift/latest/dg/c_columnar_storage_disk_mem_mgmnt.html)。行指向と列指向のブロックへの格納の違いと、100列の表から5列を使うクエリは表のおよそ5%のデータを読めば済むという説明を参照(2026年9月確認)
- *3 参考:Google Cloud「BigQuery storage overview」(https://docs.cloud.google.com/bigquery/docs/storage_overview)。列の中は行全体より値の重複が多く、符号化で圧縮しやすいという説明を参照(2026年9月確認)
- *4 参考:Apache Parquet「Overview」(https://parquet.apache.org/docs/overview/)。列指向のファイル形式としての目的(効率的な格納と圧縮)の記述を参照(2026年9月確認)