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RLHFとは|人間のフィードバックによるAIの学習
ChatGPTのような対話AIは、なぜ「こちらの意図をくんで、それらしく役立つ答え」を返してくれるのでしょうか。実は、大量の文章を学んだだけのモデルは、知識は豊富でも、人の指示に素直に従うわけではありません。「次に続きそうな言葉」を並べることには長けていても、「この質問に、こう答えてほしい」という人の期待に沿うとはかぎらないのです。その隔たりを埋め、モデルを「使える対話相手」に仕上げる代表的な工程が、RLHFです。
RLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback、人間のフィードバックによる強化学習)は、専門的な響きの割に、考え方そのものはシンプルです。本記事では、生成AIの業務活用を検討する情報システム部門や事業部門の担当者に向けて、RLHFとは何か、どんな手順で行うのか、ファインチューニングやプロンプトとどう違うのか、そして外注を考えるうえでの勘所を整理します。
目次
RLHFとは——「知識」と「役立ち方」のあいだを埋める仕上げ
RLHFとは、人間による評価を手がかりにして、AIの受け答えを「人の意図に沿った、役立つもの」へと仕上げていく工程を指します。大量の文章から学んだだけのモデルは、いわば物知りではあるけれど、こちらの求めに応じた答え方は身についていない状態です。同じ質問に対して、そっけない答え、的外れな答え、まわりくどい答えなど、さまざまな返し方があり得るなかで、「どれが望ましいか」の感覚を、人の評価を通して教え込んでいくわけです。
ポイントは、正解を一つずつ書き与えるのではなく、「こちらの答えのほうが良い」という人の好みを手がかりにする点にあります。文章の良し悪しは、たった一つの正解に決めきれないことが多いものです。そこで、複数の答えを見比べて優劣を示してもらい、その傾向をモデルに反映させていきます。この「比べて教える」やり方が、RLHFの核になる発想です。近年の対話AIが、指示に素直で、扱いやすい受け答えをするようになった背景には、こうした仕上げの工程があります。
この記事のポイント
- RLHFは、人の評価を手がかりに、AIの受け答えを「人の意図に沿った役立つもの」へ仕上げる工程です。
- お手本を学ぶ・好みを教える・好みへ寄せる、という3つのステップで進みます。
- 正解を真似させるファインチューニングとは異なり、「どちらが良いか」の比較で好みを反映するのが特徴です。
RLHFの3つのステップ
RLHFは、大きく3つのステップに分けて進みます。それぞれが何をしているのかを、順に見ていきます。全体像を図にすると、次のとおりです。
第一のステップは、お手本を学ぶ段階です。良い受け答えの例を人が用意し、モデルにそれを真似させます。「こういう問いには、こういう調子で答える」という土台を作る工程で、教師ありの追加学習にあたります。第二のステップは、好みを教える段階です。モデルに複数の答えを出させ、人がそれらを見比べて「こちらのほうが良い」と優劣をつけます。この判断の傾向を再現する仕組みが「報酬モデル」で、いわば人の好みを代わりに採点してくれる審査役です。第三のステップは、好みへ寄せる段階です。報酬モデルの採点が高くなる方向へ、モデルの受け答えを少しずつ調整していきます。ここで用いられるのが強化学習で、「良い評価が返る振る舞いを増やしていく」という考え方です。この3段を経て、モデルは指示に素直で、望ましい受け答えに近づいていきます。
ファインチューニング・プロンプトとの違い
RLHFは、よく似た言葉と混同されがちです。とくに「ファインチューニング」や「プロンプト」との関係を整理しておくと、理解がはっきりします。
| 言葉 | 何をするか | だれの工夫か |
|---|---|---|
| ファインチューニング | 正解の例を真似させる(教師あり) | モデルを作る側 |
| RLHF | 答えの優劣を比べ「好み」を反映 | モデルを作る側 |
| プロンプト設計 | 指示や文脈の渡し方を工夫する | モデルを使う側 |
ふつうのファインチューニングは、「この問いには、この答え」という正解の例を用意して、それを真似させる教師ありのやり方です。RLHFの第一ステップも、この教師あり学習にあたります。両者の分かれ目は、その先です。RLHFは、一つの正解を与えるのではなく、「どちらの答えが良いか」という比較を通じて、決めきれない良し悪しの感覚を反映していきます。一方、プロンプトの設計は、でき上がったモデルを「使う側」の工夫です。指示の書き方や、渡す文脈の整え方でモデルの振る舞いを引き出すもので、モデルそのものを作り替えるRLHFとは、そもそも手を入れる場所が違います。「作る側の仕上げ」がRLHF、「使う側の工夫」がプロンプト、と捉えると混乱しません。
RLHFでできること・できないこと
RLHFは、対話AIを扱いやすくするうえで大きな役割を担う工程です。とはいえ万能の魔法ではなく、過度な期待はかえって運用のつまずきを招きかねません。できることと、できないことを分けて捉えておくのがよいでしょう。
まず、できることから見ていきます。第一に、指示への従いやすさが増します。ぶっきらぼうだったり的外れだったりする答えが減り、意図をくんだ受け答えに近づくのです。第二に、不適切だったり有害だったりする出力を減らす方向にも働きます。人が「望ましくない」と評価した傾向を、避けるように仕上げられるからです。一方、できないこともあります。RLHFは、事実関係の誤りをゼロにするものではありません。もっともらしいのに間違っている回答、いわゆるハルシネーションを封じ切る仕組みではないのです。また、人の評価そのものに偏りがあれば、その偏りをモデルが引き継ぐこともあるでしょう。RLHFは受け答えを「望ましい方向へ寄せる」工程であって、正しさそのものを保証するものではありません。この理解が、現実的な出発点になります。
つまずきやすい難所
RLHFにまつわる話には、あらかじめ想定しておきたい難所があります。踏まえておくと、判断のずれを避けやすくなります。
一つ目は、自社でRLHFを一から行おうとすることです。良質な評価データを人手で集め、報酬モデルを作り、強化学習を回すには、相応の人手と計算資源がかかります。多くの企業にとっては、すでにRLHFを経た基盤モデルをそのまま利用するほうが現実的です。二つ目は、RLHFさえ施せば問題ないという思い込みです。前述のとおり、事実の誤りや評価の偏りは残り得ます。用途に応じて、出典を確かめる仕組みや人の確認を組み合わせる姿勢が要ります。三つ目は、手法の選択肢を一つに絞ってしまうことです。近年は、報酬モデルを介さずに好みを直接反映するDPOのように、より手軽な手法も広がっています。目的や規模に見合ったやり方を選ぶ視点が欠かせません。四つ目は、評価する人の基準を曖昧にしたまま進めることです。「良い答え」の物差しが人によってばらつくと、仕上がりも揺らぎます。何を望ましいとするかを、あらかじめそろえておく必要があります。
外注・自社導入で確認しておきたい点
生成AIの業務活用を外部に委託する、あるいは自社で導入を進める場合、RLHFに関しては次の点を事前にすり合わせておくと、認識のずれを防ぎやすくなります。まず、そもそも自前の追加調整が必要なのか、という見極めです。多くの用途では、RLHF済みの基盤モデルを使い、指示の工夫や、関連文書を検索して渡す仕組みで十分に目的を果たせます。自社独自の調整に踏み込む前に、既存モデルで足りるかを確かめておきたいところです。
次に、調整が必要な場合の手法と範囲です。教師ありの追加学習で足りるのか、好みの反映まで踏み込むのか、DPOのような簡略な手法で十分か——目的と規模に照らして設計してもらうと、費用と効果の釣り合いがとりやすくなります。あわせて、評価の基準づくりも欠かせません。何を「望ましい受け答え」とするのか、その物差しを一緒に定めておくと、仕上がりが安定するはずです。加えて、事実の誤りや偏りへの備えとして、出典の確認や人によるチェックをどう運用に組み込むかまで含めて相談できると、任せたあとのつまずきを抑えやすくなります。
まとめ:RLHFで押さえる3つの視点
RLHFは、対話AIが「使える相手」になるための仕上げの工程です。押さえておきたい視点は3つに整理できます。第一に、RLHFは人の評価を手がかりに、受け答えを人の意図へ寄せる工程であり、お手本を学ぶ・好みを教える・好みへ寄せるという3段で進むこと。第二に、正解を真似させるファインチューニングや、使う側の工夫であるプロンプトとは、手を入れる場所が異なること。第三に、指示への従いやすさは増すものの、事実の誤りや偏りをゼロにするものではなく、確認の仕組みと組み合わせて使うべきものだということです。自社で一から行うか、既存モデルを活かすか、どの手法を選ぶか——判断に迷うところがあれば、外部の知見を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
RLHFとファインチューニングはどう違いますか。
ふつうのファインチューニングは、正解の例を用意して真似させる教師ありのやり方です。RLHFの最初のステップもこれにあたりますが、その先が異なります。RLHFは一つの正解を与えるのではなく、複数の答えの優劣を人が比べ、その好みを反映していきます。決めきれない良し悪しの感覚を教えられる点が、RLHFならではの特徴です。
RLHFを施せば、AIは間違った答えを出さなくなりますか。
なくなるわけではありません。RLHFは受け答えを望ましい方向へ寄せる工程であって、事実の正しさを保証するものではないのです。もっともらしく見えて誤っている回答は、RLHFを経ても残り得ます。用途に応じて、出典を確かめる仕組みや人による確認を組み合わせることが現実的です。
自社でRLHFを行う必要はありますか。
多くの場合、必要ありません。すでにRLHFを経た基盤モデルを利用し、指示の工夫や関連文書を検索して渡す仕組みで目的を果たせることが少なくないためです。自社独自の調整に踏み込む前に、既存のモデルで足りるかを確かめることをおすすめします。踏み込む場合も、目的と規模に見合った手法を選ぶ視点が欠かせません。
DPOという言葉を聞きました。RLHFと同じものですか。
目的は近いですが、やり方が異なります。RLHFが報酬モデルという審査役を作ってから調整するのに対し、DPOは報酬モデルを介さずに、好みの比較を直接モデルへ反映する簡略な手法です。近年広がっており、規模や目的によってはこちらのほうが手軽に扱えることもあります。どちらが向くかは用途しだいです。
RLHFの「強化学習」とは何ですか。
良い評価が返る振る舞いを増やしていく学習のやり方です。RLHFでは、人の好みを再現する報酬モデルの採点が高くなる方向へ、モデルの受け答えを少しずつ調整します。犬にごほうびで芸を覚えさせるのに近い発想で、望ましい答え方に寄せていく仕上げの工程と捉えると分かりやすいでしょう。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
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- *1 参考:Amazon Web Services「What is RLHF? – Reinforcement Learning from Human Feedback Explained」(https://aws.amazon.com/what-is/reinforcement-learning-from-human-feedback/)。RLHFの一般的な解説の参考として。