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2026.08.19 らしくコラム

機密コンピューティングとは|使用中データを守る

機微なデータをクラウドで処理したい。ただ、クラウドの基盤そのものに、どこまで中身を委ねてよいのか——。そんな悩みに応える技術として、名前を聞く機会が増えているのが「機密コンピューティング(Confidential Computing)」です。ひとことでいえば、データが「使われている(処理されている)」まさにその最中を守る技術になります。これまでのデータ保護は、保存中と通信中が中心でした。機密コンピューティングは、そこに抜けていた「使用中」の守りを埋めるものなのです。

とはいえ、ハードウェアの仕組みが関わるため、言葉だけではつかみにくい面もあります。本記事では、クラウドでの開発や、機微なデータの取り扱いに携わる情報システム部門・事業部門の担当者に向けて、機密コンピューティングとは何か、どんな仕組みで守るのか、どこで役立ち、何に気をつけるのか、そして受託・委託開発で押さえるべき点を整理します。なお、本記事は一般的な情報の整理です。対応状況や仕様は移り変わるため、具体は各クラウドの公式情報や専門家にご確認ください。

機密コンピューティングとクラウドでのデータ保護を表すイメージ

機密コンピューティングとは

機密コンピューティングとは、データが処理されている最中(使用中)に、その中身を守るための技術です。ポイントは、ハードウェアの力を借りて、処理の場をまわりから隔離するところにあります。CPUのなかに、外から中身をのぞけない「隔離された箱」を用意し、そのなかでデータを扱う。こうすることで、同じサーバーで動くほかのプログラムはもちろん、OSやハイパーバイザー、さらにはクラウドの管理者からも、中身を読み取れないようにするのです。

なぜ、こうした技術が求められるのでしょうか。クラウドで機微なデータを扱うとき、私たちは基盤を提供する事業者を、ある程度は信頼して任せています。機密コンピューティングは、その「信頼しなければならない範囲」を狭める技術だと捉えると分かりやすいでしょう。基盤そのものが万一のぞき見しようとしても、箱のなかは守られる。だからこそ、規制の厳しいデータや、外に出したくない情報をクラウドで処理する後押しになるのです。全体像を図にまとめました。

機密コンピューティングがデータの使用中を守る仕組み・TEE・アテステーション・機密VMを示す図

この記事のポイント

  • 機密コンピューティングは、データの「使用中(処理中)」を守る技術で、保存中・通信中に続く第三の守りです。
  • ハードウェアで隔離した「信頼された実行環境(TEE)」を使い、OSやクラウド管理者からも中身を隠します。
  • 「機密VM」なら既存のワークロードを載せ替えやすい一方、処理の負荷や対応環境の見極めが要ります。

データ保護の3つの局面

機密コンピューティングの位置づけは、データ保護の「3つの局面」に照らすと、すっきり見えてきます。データは、その状態によって、守り方が変わるのです。整理してみましょう。

局面 データの状態 主な守り方
保存中(at rest) ディスクなどに保管されている 保存データの暗号化
通信中(in transit) ネットワークを流れている TLSなどによる暗号化
使用中(in use) メモリ上で処理されている 機密コンピューティング

一つ目の「保存中」は、ディスクに置かれたデータを、暗号化して守る局面です。二つ目の「通信中」は、ネットワークを流れるデータを、暗号化の仕組みで守る局面になります。この二つは、すでに広く使われてきました。ところが、抜けていたのが三つ目の「使用中」です。データを実際に処理するとき、いったんメモリ上では中身が見える状態になりがちで、そこが手薄になっていました。機密コンピューティングは、この使用中の局面を守り、3つの局面をつないで、データを扱う流れ全体をカバーしようとするものなのです。

仕組み——TEEとアテステーション

では、使用中のデータをどうやって守るのでしょうか。中心にあるのが「TEE(信頼された実行環境)」です。TEEは、CPUのなかに設けられた、隔離された実行の場を指します。そのなかのメモリは暗号化され、外側からは中身が読めません。同じマシンで動く別のソフトや、OS、ハイパーバイザーといった特権的な層でさえ、TEEの内部には手を出せないのです。処理は、この守られた箱のなかで行われます。

もう一つ欠かせないのが「アテステーション(遠隔検証)」という仕組みです。いくら箱が堅牢でも、「本物のTEEで、想定どおりのプログラムが動いている」と確かめられなければ、機微なデータを預ける気にはなれません。アテステーションは、TEEが暗号による証明書のようなものを提示し、ハードウェアが本物であることと、動いているソフトが正しいことを、遠くの相手が検証できるようにする仕組みです。この検証を通ってはじめて、鍵やデータを箱へ渡す。そうした流れを組むことで、危なげなくデータを託せるようになります。クラウドの鍵・シークレット管理と組み合わせて設計されることも多い部分です。

主な方式と、クラウドの「機密VM」

機密コンピューティングを支えるTEEには、いくつかの方式があります。代表的なのが、CPUメーカーが提供する仕組みで、Intel TDX(およびSGX)、AMD SEV-SNP、ARM CCAなどが挙げられるでしょう。細かな違いはありますが、いずれも「ハードウェアでメモリを暗号化し、隔離する」という考え方は共通しているのです。どの方式を使えるかは、動かす環境やクラウドによって変わってきます。

実務での入り口として広がっているのが、これらを用いた「機密VM(Confidential VM)」です。仮想マシンまるごとを、TEEの守りのなかで動かせるようにしたもので、多くのクラウドが提供しています。うれしいのは、アプリケーションを大きく作り替えなくても、既存のワークロードを載せ替えやすい点です。細かくコードへ手を入れる方式に比べ、導入の敷居が低いため、まずは機密VMから試す、という進め方がとりやすくなっています。コンテナのセキュリティ対策と合わせて、クラウド上の守りを重ねていく形もよく採られます。

使いどころと、気をつける点

機密コンピューティングが持ち味を発揮するのは、「基盤への信頼を減らしたい」場面です。たとえば、規制の厳しいデータや、社外に出したくない情報をクラウドで処理したいとき。あるいは、複数の会社が、互いに生データは見せずにデータを持ち寄って分析したいとき。さらには、暗号鍵やAIモデルといった、とりわけ守りたいものを扱うときにも役立ちます。いずれも、処理の場そのものを守りたい、という動機が共通しています。

いっぽうで、気をつけたい点もあります。まず、処理の負荷です。隔離や暗号化のぶん、性能に影響が出る場合があり、用途に見合うかの見極めが要ります。次に、対応環境の選定です。使える方式やインスタンスは、クラウドや世代によって異なるため、前提を踏まえた設計が欠かせません。そして何より、これを入れれば守りが万全になる、というものではない点です。アプリケーションそのものの作り込みや、鍵の管理、アテステーションの設計まで含めて、はじめて意味を持ちます。過信せず、守りの一枚として位置づけるのが賢明です。

受託・委託開発で押さえる実務ポイント

機密コンピューティングの活用を外部と進める場合は、いくつかの点をすり合わせておくと見通しが立ちます。まず、何を守りたいのかの整理です。すべてを箱に入れる必要はなく、とりわけ守りたいデータや処理はどこかを見定めることが出発点になります。守る対象がはっきりすれば、どの方式や機密VMが見合うか、対応するクラウドやインスタンスは何か、という選定にも筋道が立ちます。

次に、アテステーションと鍵管理の設計です。TEEが本物だと確かめてから鍵やデータを渡す、という流れをどう組むかは、機密コンピューティングの肝になります。ここを既存の鍵管理の仕組みとどうつなぐかを、あらかじめ相談しておきたいところです。加えて、性能への影響をどう測り、どこまで許容するかも、早めにすり合わせておくと後で慌てずにすみます。守りたい対象の整理から、方式の選定、アテステーションの設計、性能の見極めまでを見通して一緒に描ける相手だと、任せたあとも安定して運用しやすくなります。

まとめ:機密コンピューティングで押さえる3つの視点

機密コンピューティングは、データを扱う流れの「使用中」を守る、新しい一手です。押さえておきたい視点は三つに整理できます。第一に、保存中・通信中に続く第三の守りとして、処理されている最中のデータを、ハードウェアで隔離して守る技術であること。第二に、中心となるのは「信頼された実行環境(TEE)」と、本物のTEEかを確かめる「アテステーション」であり、機密VMなら既存のワークロードを載せ替えやすいこと。第三に、これだけで守りが万全になるわけではなく、処理の負荷や対応環境の見極め、鍵管理やアプリの作り込みと合わせて意味を持つことです。まずは、自社のどのデータや処理を、とりわけ守りたいのかを見定めるところから。判断に迷う部分があれば、公式情報の確認とあわせて、外部の知見を頼るのも堅実な選び方といえます。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)として、クラウド上のシステム開発を、データの守りまで含めて一貫して受託しています。何を守りたいのかの整理から、機密VMや方式の選定、アテステーションと鍵管理を織り込んだ設計、性能への影響の見極めまで、機密コンピューティングの活用を見据えてご提案できるのが強みです。どこから手を付けるべきか、現状把握の段階からご相談いただけます。

よくある質問

機密コンピューティングは、保存データの暗号化やTLSと何が違うのですか。

守る局面が違います。保存データの暗号化は「保存中」、TLSは「通信中」のデータを守るものです。これに対して機密コンピューティングは、データが処理されている「使用中」を守ります。従来は手薄だった処理の最中をカバーし、3つの局面をつないでデータを扱う流れ全体を守ろうとする点が特徴です。

TEEとは何ですか。

TEE(信頼された実行環境)とは、CPUのなかに設けられた、隔離された実行の場のことです。そのなかのメモリは暗号化され、外側から中身を読めません。同じマシンで動く別のソフトやOS、ハイパーバイザーといった特権的な層でさえ、内部には手を出せない仕組みで、機密コンピューティングの中心にあります。

アテステーションは、なぜ必要なのですか。

預け先が「本物のTEEで、想定どおりのプログラムが動いている」と確かめるためです。いくら隔離の箱が堅牢でも、それが本物かを検証できなければ、機微なデータを渡す気にはなれません。アテステーションは、ハードウェアとソフトが正しいことを暗号によって証明し、遠くの相手が検証できるようにする仕組みで、鍵やデータを渡す前提になります。

導入はハードルが高いのではないですか。

方式によります。アプリを細かく作り替える方式は手間がかかりますが、「機密VM」なら仮想マシンごと守りのなかで動かせるため、既存のワークロードを載せ替えやすく、入り口として取り組みやすくなっています。まずは守りたい対象を絞り、機密VMから試すという進め方が現実的です。

これを入れれば守りは万全になりますか。

万全になるわけではありません。機密コンピューティングは使用中のデータを守る一枚であって、アプリそのものの作り込みや鍵の管理、アテステーションの設計と合わせて、はじめて意味を持ちます。処理の負荷や対応環境の見極めも欠かせないのです。過信せず、守りを重ねるなかの一つとして位置づけるのが賢明です。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑

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  1. *1 参考:Google Cloud「Confidential VM overview」(https://docs.cloud.google.com/confidential-computing/confidential-vm/docs/confidential-vm-overview)。TEE・機密VM・対応方式の一般的な参考として。
  2. *2 参考:Microsoft Learn「Azure confidential computing」(https://learn.microsoft.com/azure/confidential-computing/overview)。使用中のデータ保護・アテステーションの参考として。


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