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2026.08.19 らしくコラム

EUデジタルIDウォレットとは|2026年開始と企業対応

EU(欧州連合)で、公式のデジタル身分証アプリを配る取り組みが動いています。それが「EUデジタルIDウォレット(EUDIウォレット)」です。改正された電子認証の規則「eIDAS2.0」にもとづく仕組みで、2026年末までに、各加盟国が国民や居住者に向けてウォレットを提供することになっています。スマートフォンのなかに、本人確認情報や、資格・免許・年齢といった各種の証明を持ち歩き、必要なときに、必要な項目だけを相手に示せる——そんな未来が、EUで形になりつつあるのです。

海外の話に見えますが、EU向けにサービスを出している、あるいは今後を見据える日本企業にとっては、じわりと関わってくるテーマです。将来的に、一定の分野の事業者には、このウォレットを受け付けることが求められる見込みだからです。本記事では、EU向けサービスに関わる情報システム部門・事業部門の担当者に向けて、EUデジタルIDウォレットとは何か、どんな登場人物で成り立つのか、従来の本人確認や認証とどう違うのか、そして受託・委託開発で押さえておきたい点を整理します。なお本記事は一般的な情報の整理であり、法的な助言ではありません。適用や具体は公式情報や専門家にご確認ください。

スマートフォンでデジタルIDを提示するイメージ

EUデジタルIDウォレットとは——eIDAS2.0で生まれる公式アプリ

EUデジタルIDウォレットとは、EUが定めた枠組みのもとで各加盟国が提供する、公式のデジタル身分証アプリです。土台になっているのは、2024年に成立した規則(規則2024/1183、いわゆるeIDAS2.0)で、2024年5月に発効しました。この規則は、加盟国に対して、2026年末までにウォレットを利用できるようにすることを求めています。提供のしかたには幅があり、国が自ら配る形のほか、外部に委ねる形や、民間が作ったウォレットを国が認める形も認められているのです。

ねらいは、EUのなかで、本人確認や各種の証明を、国境をまたいでも同じように使えるようにすることにあります。これまで国ごと・サービスごとにばらばらだった手続きを、ひとつのウォレットに束ねていく構想だといえるでしょう。全体像を、まずは図で押さえておきます。

EUデジタルIDウォレットの登場人物・発行者とウォレットと依拠当事者・選択的開示・日本企業が押さえる3点を示す図

この記事のポイント

  • EUデジタルIDウォレットは、eIDAS2.0にもとづき各加盟国が2026年末までに提供する、公式のデジタル身分証アプリです。
  • 利用者が本人確認情報や属性を保管し、必要な項目だけを選んで示す「選択的開示」がかなめになります。
  • 一定の分野の事業者には、将来ウォレットの受け入れが求められる見込みで、EU向けサービスを持つ日本企業にも関わります。

登場人物と仕組み——発行・保管・提示

ウォレットの仕組みは、三者の関係で捉えると分かりやすくなります。ひとつ目は「発行する側」です。氏名や生年月日といった本人確認情報(PIDと呼ばれます)を出す公的機関などと、資格・免許・年齢などの証明(電子的な属性の証明)を出す発行者がいます。ふたつ目が、利用者の手元にある「ウォレット」そのもの。発行された情報を、スマートフォンのなかにまとめて保管しておく入れ物です。

そして三つ目が「受け取る側」で、依拠当事者(リライング・パーティー)と呼ばれます。たとえば銀行や、医療、通信、大きめのオンラインサービスなどが、利用者から示された情報を受け取り、手続きに用いる立場です。ここでかなめになるのが「選択的開示」という考え方になります。相手が求める項目だけを、利用者が選んで示せるという仕組みで、たとえば「成人かどうか」を確かめたいだけの場面で、生年月日そのものを渡さずに済むわけです。渡す情報を絞れるため、個人データの守りにもつながる設計だといえます。

なぜ日本企業にも関係するのか

EUの制度なのに、なぜ日本の企業が気にかけるのか。理由は、受け取る側の事業者にも義務が及ぶ見込みだからです。報道や解説によれば、規則は将来的に、銀行・医療・通信・大きめのオンラインサービスといった一定の分野の事業者に対し、認証の手段としてウォレットの受け入れを求める方向とされています。その適用は分野や加盟国によって差があり、多くは2027年ごろから段階的に及ぶ見込みだと説明されています。

つまり、EUの利用者に向けてサービスを出している日本企業であれば、いずれ「ウォレットで示された情報を受け取り、確かめる」側の実装が視野に入ってくるわけです。とりわけ、オンラインでの本人確認をEU圏で行っているサービスは、早めに動向を押さえておきたいところでしょう。具体的な対象や時期は、判断を伴う部分が多いため、公式情報や専門家にあたるのが堅実な進め方になります。

従来の本人確認・認証との違い

「デジタルの身分証」と聞くと、すでにある本人確認や認証の仕組みと、何が違うのかが気になるところです。守備範囲を並べると、使い分けの見通しが立ちます。まず、eKYC(オンライン本人確認)との違いです。eKYCは、書類の撮影や顔の照合などで、主に登録の場面で本人を確かめる手立てでした。ウォレットは、いったん発行された証明を利用者が持ち歩き、必要な場面で選んで示す点が異なります。相手が書類を毎回あずかる形から、利用者が手元から示す形へ、重心が移るイメージです。

次に、社内外の認証基盤(IDaaS)との違いにも触れておきましょう。IDaaSやSSOは、複数のサービスへのログインを束ねる、いわば認証の土台です。これに対しウォレットが受け持つのは、本人確認情報や属性そのものを持ち運び、示すこと。ログインを束ねる話と、身元や属性を証明する話は、層が異なります。さらに、パスキー(FIDO)との違いも押さえておくとよいでしょう。パスキーはパスワードなしでログインする認証方式で、便利ですが、身元や属性の証明そのものを運ぶものではありません。下の表に、それぞれの受け持ちを整理しました。

手段 主に受け持つこと 位置づけ
EUデジタルIDウォレット 本人確認情報・属性を保管し、選んで示す EU公式の枠組み
eKYC 書類・顔などで本人を確かめる 主に登録時の確認
IDaaS・SSO 複数サービスのログインを束ねる 認証の土台
パスキー(FIDO) パスワードなしでログインする 認証方式のひとつ

このように、それぞれは置き換え合うというより、受け持つ層が違うと捉えるのが実態に近いといえます。ウォレットが広まっても、これらが不要になるわけではなく、組み合わせて用いられていくものでしょう。

受託・委託開発で押さえる実務ポイント

EUデジタルIDウォレットに関わる開発を外部と進める場合は、いくつかの点を早めにすり合わせておくと見通しが立ちます。出発点になるのは、「自社がEUの利用者とどう接しているか」の整理です。EU圏で本人確認やログインをどう行っているのか、受け入れが求められうる分野に当たるのか。ここがはっきりすると、そもそも対応が視野に入るのか、入るならいつごろかの見当がつきます。

そのうえで詰めたいのが、「受け取る側」としての実装です。ウォレットから示された情報を、どう受け取り、どう確かめ、どこまで手元に残すのか。選択的開示を活かすなら、必要な項目だけを求める設計が土台になります。あわせて、技術仕様が策定の途中である点も押さえておきたいところです。EUは、アーキテクチャ・リファレンス・フレームワーク(ARF)と呼ばれる技術文書や、細部を定める実施規則(CIR)を通じて、仕様を段階的に固めています。動く土台の上に載せる開発になるため、標準の更新を追いながら、小さく試して育てていける相手だと、任せたあとも落ち着いて進めやすくなるものです。

今の段階と、これから

EUデジタルIDウォレットは、いままさに立ち上がっていく途中にあります。EUでは、実際の使い勝手を確かめるための大規模な実証(ラージスケール・パイロット)が各国で進められ、そこで得た知見が仕様に反映されてきたのです。加盟国は2026年末までにウォレットを提供する方向で準備を進めており、受け取る側の義務は、その後、分野ごとに段階的に及んでいく見込みだと説明されています。

裏を返せば、いまはまだ、細部が動いている段階でもあります。技術仕様や適用の範囲は、実施規則や各国の運用を通じて、これから具体化していく部分が残っているのです。だからこそ、確定した情報として身構えるより、動向を定点で追いながら、自社に関わりそうな範囲を少しずつ見極めていく構えが向いています。判断に迷う部分は、公式情報の確認とあわせて、外部の知見を頼るのも堅実な選び方だといえるでしょう。

まとめ:EUデジタルIDウォレットで押さえる3つの視点

EUデジタルIDウォレットは、本人確認や各種の証明を、利用者の手元にまとめて持ち運ぶ、EU公式の仕組みです。押さえておきたい視点は三つに整理できます。第一に、eIDAS2.0(規則2024/1183)にもとづき、各加盟国が2026年末までに提供する公式のデジタル身分証アプリであること。第二に、利用者が情報を保管し、必要な項目だけを選んで示す「選択的開示」がかなめで、個人データの守りにもつながること。第三に、一定の分野の事業者には将来ウォレットの受け入れが求められる見込みで、EU向けサービスを持つ日本企業にも、受け取る側の実装として関わってくること。まずは、自社がEUの利用者とどう接しているのかを見定めるところから始めるとよいでしょう。細部は動いている段階のため、公式情報を追いながら、外部の知見とあわせて進めるのが堅実です。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)として、海外向けサービスの開発・運用を、本人確認や認証まわりまで含めて一貫して受託しています。自社がEUの利用者とどう接しているのかの整理から、受け取る側としての実装の検討、ARFや実施規則といった標準への追従まで、EUデジタルIDウォレットをふまえたご提案ができるのが強みです。どこから手を付けるべきか、現状把握の段階からご相談いただけます。

よくある質問

EUデジタルIDウォレットは、いつから使えますか。

土台となるeIDAS2.0(規則2024/1183)は2024年に発効し、各加盟国は2026年末までにウォレットを利用できるようにする方向で準備を進めています。受け取る側の事業者の義務は、その後、分野ごとに段階的に及んでいく見込みだと説明されています。時期や範囲は動いている部分があるため、最新の公式情報をご確認ください。

日本の企業にも関係しますか。

EU向けにサービスを出している企業には関わってくる見込みです。将来的に、銀行・医療・通信・大きめのオンラインサービスといった一定の分野では、認証の手段としてウォレットの受け入れが求められる方向とされています。EU圏で本人確認やログインを行うサービスは、受け取る側の実装が視野に入るため、早めに動向を押さえておくとよいでしょう。

「選択的開示」とは何ですか。

相手が求める項目だけを、利用者が選んで示せる仕組みです。たとえば「成人かどうか」を確かめたい場面で、生年月日そのものを渡さずに、条件を満たすかどうかだけを示す、といった使い方が考えられます。渡す情報を絞れるため、個人データの守りにもつながる設計だといえます。

eKYCやパスキーとは、どちらを使えばよいのですか。

受け持つ層が違うため、目的で使い分けます。eKYCは主に登録時の本人確認、パスキーはパスワードなしのログイン、IDaaSはログインを束ねる土台です。ウォレットは本人確認情報や属性そのものを持ち運び、示す役割を受け持ちます。置き換え合うというより、組み合わせて用いられていくものだと捉えるとよいでしょう。

まず何から着手すればよいですか。

自社がEUの利用者とどう接しているのかの整理から始めるとよいでしょう。EU圏での本人確認やログインの状況、受け入れが求められうる分野に当たるかを見極めると、対応が視野に入るのか、入るならいつごろかの見当がつきます。技術仕様は策定の途中のため、公式情報の確認と専門家への相談を組み合わせて進めるのが堅実です。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑

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  1. *1 参考:European Commission「European Digital Identity(EUDI Wallet)」(https://ec.europa.eu/digital-building-blocks/sites/spaces/EUDIGITALIDENTITYWALLET/overview)。制度と枠組みの一般的な参考として。
  2. *2 参考:EUDI Wallet「Architecture and Reference Framework(ARF)」(https://eu-digital-identity-wallet.github.io/eudi-doc-architecture-and-reference-framework/)。技術仕様の参照先として。


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