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リモート採用の社内合意が進まない理由と、反対への答え方
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- リモート採用の社内合意では、任せる作業を書き出し、出社が要る作業と分けて示します。
- テレワークを導入しない企業の79.0%が「テレワークに適した仕事がないから」を理由に挙げています。
- 情報漏えいの心配には、テレワーク向けのルールがあるかを情報システム部門に確かめ、なければ経営層に方針を求めます。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
リモートで採用できれば候補者を探せる地域は広がるのに、経営会議では「うちにはテレワークに向く仕事がない」と言われて話が進まない。人事からは評価や勤怠の管理を、情報システム部門からは情報漏えいを心配する声が上がる——。開発部門がリモート採用を提案すると、こうした食い違いが起こりがちです。総務省の2025年の調査でも、テレワークを導入しておらず導入の予定もない企業の79.0%が「テレワークに適した仕事がないから」を理由に挙げています。*2 リモート採用の社内合意とは、採用する人がテレワークで働くことについて、経営層・人事・情報システム部門・同じチームの社員と、任せる仕事と守るルールを採用の前にそろえておくことです。
社内合意を取りにいくときは、反対の理由の見当がついていると準備がしやすくなります。テレワークを導入しない企業が挙げる理由は上位のいくつかに集中しており、どの部署に何を確かめればよいかを先に考えられるためです。ただし、調査の結果をそのまま当てはめることはできません。調査が聞いているのは会社としてテレワークを導入しない理由で、1人をリモートで採用する提案への反対理由ではないからです。本記事では、開発の現場を回すマネージャーに向けて、反対の声が出る理由、理由ごとに確かめる相手、任せる作業の書き出し方、情報漏えいと労務管理への備え、そして外部に委託するときに確認したい点を整理します。
目次
リモート採用の社内合意とは
社内合意の相手は、提案の中身によって変わります。採用する人の働き方を決めるのは経営層と人事です。使う端末や社内システムへのつなぎ方を決めるのは情報システム部門で、日々の仕事の進め方で影響を受けるのは同じチームの社員です。リモート採用を提案すると、この4者それぞれに関わる事柄をまとめて持ち込むことになります。
最初に決めておきたいのは、どの働き方で採用するかです。まったく出社しない働き方と、週に何日か出社する働き方とでは、社内で確かめる事柄が変わります。出社しない形なら、端末の受け渡しや入社の手続きまで自宅から進められるかを確かめる必要があります。週に何日か出社する形なら、出社する日に何をするかを決めておきます。
経営層の関わりが要る理由は、厚生労働省のテレワークガイドラインにも書かれています。職場の雰囲気などでテレワークが難しい場合もあるため、「企業のトップや経営層がテレワークの必要性を十分に理解し、方針を示すなど企業全体として取り組む必要がある」としています。*3 開発部門だけで話を進めず、早めに経営層の考えを聞いておくと、その後の人事や情報システム部門との話し合いも進めやすくなります。
なぜ反対の声が出るのか
総務省の「令和7年通信利用動向調査」は、常用雇用者(継続して雇っている従業員)が100人以上の企業に、2025年8月末時点のテレワークの導入状況を尋ねています(有効回答2,489社)。そのうち、導入しておらず具体的な導入予定もない企業1,033社に、導入しない理由を13の選択肢から選んでもらいました(複数回答)。*1
最も多いのは「テレワークに適した仕事がないから」の79.0%で、「業務の進行が難しいから」の33.7%が続きます。この2つは、仕事の中身と進め方への心配です。3番目以降は「情報漏えいが心配だから」16.8%、「社内のコミュニケーションに支障があるから」16.3%、「顧客など外部への対応に支障があるから」14.0%の順で、社員の評価や人事制度、給与計算を挙げた企業はどれも1割に届きません。*2
企業の規模で分けると、従業者300人以上の企業(224社)では情報漏えいを挙げた割合が20.2%で、100〜299人の企業(809社)の15.7%より高くなっています。*2 従業者の多い会社では情報漏えいを心配する割合が高いので、情報システム部門との話し合いを早めに始めておくとよいでしょう。
反対の理由と確かめる相手
13の理由は、どの部署に確かめればよいかで分けることができます。次の表は、調査の選択肢を、主に確かめる相手と、提案の前に用意しておきたい材料で並べ直したものです。
| 調査の選択肢 | 主に確かめる相手 | 用意する材料 |
|---|---|---|
| テレワークに適した仕事がない/業務の進行が難しい | 経営層、開発チームのリーダー | 任せる作業の一覧と、そのうち出社が要る作業 |
| 情報漏えいが心配 | 情報システム部門 | 使う端末、社内システムへのつなぎ方、扱う情報の種類 |
| 社内のコミュニケーションに支障がある/周囲の社員にしわ寄せがある | 同じチームの社員 | 連絡に使う手段と時間帯、出社している社員が引き受ける作業 |
| 顧客など外部への対応に支障がある | 営業や顧客窓口の担当者 | 顧客との打ち合わせや訪問が要る作業 |
| 社員の評価が難しい/人事制度導入に手間がかかる/給与計算が難しい | 人事 | 評価の基準、勤怠の記録方法、就業規則の該当する条文 |
| 費用がかかりすぎる/文書の電子化が進んでいない | 経営層、総務 | 端末と通信費の負担、紙で回している手続き |
| 導入するメリットがよく分からない/労働組合や社員から要望がない | 経営層 | リモートにすると応募を見込める候補者の例と、テレワークの効果を尋ねた調査の結果 |
提案の前に、表の左の列の理由を関係する人に見せ、当てはまるものを選んでもらうと、反対の中身を早めに知ることができます。一覧にない理由が出てくることもあるので、「ほかに気になる点はないか」も一緒に聞いておきます。聞き取った理由ごとに、表の右の列の材料をそろえてから、提案の場に臨みます。
任せる作業をどう書き出すか
「テレワークに向く仕事がない」という反対には、職種ではなく作業の単位で答えます。同じエンジニアの仕事でも、設計書の作成やプログラムの作成、コードレビュー(ほかの人が書いたプログラムの確認)は、社内のシステムにつなげれば自宅でも進められます。一方で、社内にしかない機器を使う検証や、顧客先での打ち合わせには出社が要ります。任せる作業を1つずつ書き出し、出社が要るものに印を付けておくと、話し合いの材料になります。
厚生労働省のガイドラインも、テレワークが難しいと考えられる職種であっても個別の業務によっては実施できる場合があるとし、今の仕事のやり方のままで対象の業務を決めず、仕事の中身を見直すことが役に立つ場合があるとしています。作業の一覧は、職種の名前ではなく、実際に手を動かす作業の名前で書くのがおすすめです。
開発の仕事でテレワークが広く行われていることも、経営層に示せる材料です。国土交通省の「令和7年度テレワーク人口実態調査」(2025年10〜11月のWEB調査、有効サンプル40,000人)では、会社などに雇われて働く人のうちテレワークをしたことがある人の割合が、情報通信業で74.1%と業種の中で最も高くなっています。*5 総務省の調査でも、テレワークを導入している企業1,371社に、導入の目的に照らして効果があったかを尋ねたところ、「非常に効果があった」「ある程度効果があった」が合わせて82.8%でした。情報通信業に限ると、同じ2つを合わせて91.3%です。*2
情報漏えいと労務管理への備え
情報漏えいの心配に答えるには、総務省の「テレワークセキュリティガイドライン(第5版)」が使えます。ガイドラインは、テレワークのセキュリティを「経営者」「システム・セキュリティ管理者」「テレワーク勤務者」の3つの立場に分けています。経営者は「基本方針を提示」、管理者は「方針の具体化(ルール作成や対策実施)」、勤務者は「ルールの理解・遵守」を担う、という整理です。*4
リモート採用の提案に当てはめると、まず情報システム部門に、テレワーク向けのルールがすでにあるかを確かめます。ルールがあれば、採用する人に渡す端末と使うソフトウェアが、そのルールで使うことが認められているかを確認します。ガイドラインは管理者の役割として、テレワークで使う端末やソフトウェア・サービスの一覧を作って管理することを挙げています。ルールがなければ、方針を示すのは経営者の役割なので、経営層に判断を求めることになります。ガイドラインは経営者に、セキュリティ対策の予算や人員の確保も求めています。
労務管理も、企業がテレワークの普及に必要と考えている項目です。同じ総務省の調査で、テレワークの普及のために企業内で必要な取組を尋ねたところ、「労務管理の適正化」(勤務時間などの管理を正しく行うこと)が55.1%で最も多く、情報通信業では72.5%でした(複数回答)。*2 厚生労働省のガイドラインは、テレワークを制度として導入するときは、対象業務や費用負担、労働時間の管理の方法などについて、会社と働く人があらかじめ十分に話し合い、ルールを定めておくことが重要だとしています。人事と話すときは、勤怠の記録の仕方、連絡がつく時間帯、評価の基準の3つを先に決めておくと、話がまとまりやすくなります。
つまずきやすい点
一つ目は、1人の採用の提案が、全社のテレワーク導入の議論に広がってしまうことです。全社の制度を決める話になると、関わる部署が増え、採用したい時期までに結論が出にくくなります。提案は、採用する1つのポジションと、そのポジションが担う作業に絞って出すと、話がまとまりやすくなります。
二つ目は、候補者に働き方の条件を示してから、情報システム部門に相談することです。端末の貸し出しや社内システムへのつなぎ方が決まっていないと、入社した日に仕事を始められません。求人を出す前に、端末と接続の方法を決めておきます。求人に働き方の条件を載せる前に決めておくことは「エンジニア採用の母集団形成、先に決める9つのこと」で扱っています。
三つ目は、同じチームの社員への説明を後回しにすることです。調査でも「周囲の社員にしわ寄せがあるから」を挙げた企業が8.4%ありました。*2 厚生労働省のガイドラインも、オフィスに出勤する労働者だけに業務が偏らないよう留意する必要があるとしています。電話の取り次ぎや来客の対応のように、出社している社員が引き受けることになる作業を書き出し、誰が担当するかを先に決めておきます。
外部に委託するときに確認しておきたい点
社内合意がまとまるまで採用を待てない場合は、開発の作業を業務委託で外部の専門人材に任せる方法もあります。この場合も、情報漏えいへの備えは欠かせません。テレワークセキュリティガイドラインは経営者の役割として、委託先や関連会社を含めたサプライチェーン(取引でつながる会社の連なり)全体で対策が行われるよう、取引のときなどに委託先の対策の状況を確かめることを挙げています。
委託先に確かめたいのは、作業に使う端末を誰が用意してどう管理しているか、社内のシステムにどうつなぐか、情報漏えいなどの事故が起きたときにどこへ連絡するか、の3つです。委託先の作業者がどこで作業するかも、契約の前に聞いておきます。自社の社員としてリモートで採用するときに情報システム部門と決めた内容を、そのまま委託先への質問に使うこともできます。
まとめ:リモート採用で確かめておきたい3つの点
リモート採用の社内合意を取るうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、任せる作業を1つずつ書き出し、出社が要る作業と分けておくこと。第二に、情報漏えいや評価など、反対の理由ごとに、経営層・人事・情報システム部門・同じチームの社員のうち誰と話すかを決めておくこと。第三に、端末と社内システムへのつなぎ方、勤怠と評価の決まりを、求人を出す前に決めておくことです。この3点を踏まえておけば、「内定を出した後で、テレワークはまだ認められないと言われた」という事態を避けやすくなります。社内の調整と採用を同時に進めることに迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
テレワークの制度がない会社でも、リモート採用はできますか
制度がなくても、会社や上司が認めてテレワークで働いている人はいます。国土交通省の調査は、そうした場合も「テレワーク制度等が導入されている」側に含めて数えています。*5 ただし、就業場所などの労働条件は採用の前に示す必要があるので、人事と一緒に確かめます。書き方は「リモート採用の勤務条件、就業場所に自宅はどう書く?」で扱っています。
完全リモートと一部出社のどちらで提案すればよいですか
任せる作業の一覧をもとに決めます。出社が要る作業が特定の日に集まっているなら、その日だけ出社する形にできます。出社する曜日を決めておくと、同じチームの社員も打ち合わせの予定を立てやすくなります。
情報システム部門には、どの資料を見てもらえばよいですか
総務省の「テレワークセキュリティガイドライン(第5版)」(2021年5月)が基本になります。総務省は、中小企業の担当者向けに「中小企業等担当者向けテレワークセキュリティの手引き(チェックリスト)」(第3版、2022年5月)も公開しています。*4 専任の担当者がいない会社では、チェックリストから始めると進めやすくなります。
テレワークの費用を本人に負担してもらうときは、何が必要ですか
就業規則に定める必要があります。厚生労働省のガイドラインは、労働者に情報通信機器や作業用品などを負担させる定めをする場合は、その事項を就業規則に規定しなければならないとしています(労働基準法第89条第5号)。*3 負担の限度額や請求の方法も、あらかじめ決めておきます。
リモート採用の進め方を相談したいとき
任せる作業の整理や、社内で決めておく働き方の条件からご相談いただけます。
Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。
Remoguは、リモート前提で全国から即戦力のITプロ人材を調達するサービスです。リラシクは、扱う求人がすべてリモートワークのITエンジニア専門転職エージェントです。どちらもLASSICが運営しています。
出典
- *1 参考:総務省「令和7年通信利用動向調査報告書(企業編)」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/pdf/HR202500_002.pdf)。出典:総務省「令和7年通信利用動向調査報告書(企業編)」。調査の概要(常用雇用者100人以上の企業、抽出6,040企業、令和7年8月末、有効回答2,489)、第4章6 テレワークを導入しない理由(図表4-8)を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:総務省「令和7年通信利用動向調査」企業編 統計表(e-Stat)(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&lid=000001483815)。出典:総務省「令和7年通信利用動向調査」企業編の統計表(政府統計の総合窓口 e-Stat)。問4(2)③ テレワークの効果、問4(3) テレワークを導入しない理由、問4(4) テレワーク普及のために必要な要素(全体・産業分類別・従業者数別)を参照。割合は比重調整後、社数は比重調整前の集計企業数(2026年9月確認)
- *3 参考:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf)。出典:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」。3(1) 導入に際しての留意点、3(2) テレワークの対象業務、3(4) 導入に当たっての望ましい取組、4(2) テレワークに要する費用負担の取扱いを参照(2026年9月確認)
- *4 参考:総務省「テレワークにおけるセキュリティ確保」(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/telework/)。出典:総務省「テレワークセキュリティガイドライン(第5版)」(令和3年5月)第3章2 組織の立場に応じた重要な役割(経営者・システム・セキュリティ管理者・テレワーク勤務者)と、同ページ掲載の「中小企業等担当者向けテレワークセキュリティの手引き(チェックリスト)(第3版)」(令和4年5月)を参照(2026年9月確認)
- *5 参考:国土交通省「令和7年度テレワーク人口実態調査 -調査結果-」(https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001989216.pdf)。出典:国土交通省「令和7年度テレワーク人口実態調査 -調査結果-」(令和8年3月)。調査の概要(WEB調査、2025年10月24日〜11月4日、有効サンプル40,000人)、1-(2) 用語の定義(制度等ありテレワーカー)、2-2 業種別テレワーカーの割合を参照(2026年9月確認)