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エンジニア採用の母集団形成、先に決める9つのこと
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 動かせるのは勤務地の条件:技術要件を緩めずに母集団を広げられる変数は限られます。勤務地・勤務形態はその1つです。
- リモート可はすでに約半数:テレワークを導入している企業の割合は令和7年で50.1%です*1。加点ではなく前提に近づいています。
- 書く前に決める項目がある:導入目的から連絡方法まで9項目を、あらかじめ労使で話し合ってルールを定めておくこととされています*2。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
応募が集まらない。スカウトの返信率が上がらない。この状態で最初に手が伸びるのは媒体の追加ですが、媒体を増やしても母集団の性質は変わりません。母集団の広さを決めているのは、条件のほうです。
とはいえ技術要件を緩めれば、採ったあとに困ります。そこで実務的に動かせる変数として残るのが勤務地・勤務形態です。ここは要件の質を落とさずに対象範囲を変えられる、数少ない場所でしょう。
本記事では、テレワークの普及状況を総務省の調査で確認したうえで*1、「リモート可」を条件に加える前に決めておくべき項目を厚生労働省のガイドラインから整理します*2。要件そのものの作り方はエンジニア求人票の書き方と必須14項目、採用全体の詰まりどころはDX人材の採用、募集の前に決めておくことで扱っています。
目次
母集団が集まらないとき、動かせる条件は限られている
採用条件のうち、募集を出したあとに現実的に変えられるものを並べてみましょう。年収レンジは社内の等級と紐づいているため簡単には動きません。必須スキルを下げると、採用後の期待とずれます。役割を広げると、候補者側から見た像がぼやけます。
残るのが勤務地・勤務形態です。ここを変えると、要件の中身を一切触らずに対象となる人の範囲が変わります。通勤圏内という制約は、技術力とは無関係な絞り込みだからです。
逆に言えば、出社を前提にした募集は、意図せず「通勤できる人」という条件で候補者を絞っています。都市圏なら候補者数そのものは多いものの、同じ人材を大量の企業が取り合う市場です。地方に本社がある企業では、母集団の絶対数が小さいという壁に先に当たります。この構造は地方企業のエンジニア採用難で整理しています。
ただし「リモート可」と書き足すだけでは、母集団は動きません。理由は2つあります。1つは、すでに多くの企業が導入済みで差別化になりにくいこと。もう1つは、運用のルールが決まっていない募集は、候補者から見て条件の実態が読めないことです。順に見ていきます。
もう1点、順序の注意があります。勤務地の条件を動かすのは、要件が固まったあとです。要件が曖昧なまま対象範囲だけを広げると、応募は増えても判断できない候補者が増えるだけになります。母集団の設計は、要件定義の次に来る工程だと考えてください。
テレワーク導入企業は約半数——加点から前提へ
総務省の通信利用動向調査は、統計法に基づく一般統計調査として平成2年から毎年実施されているものです*1。令和7年調査は令和8年5月29日に公表され、企業調査は公務を除く産業に属する常用雇用者規模100人以上の企業6,040社を対象に、令和7年8月末時点で行われています*1。
テレワークを導入している企業の割合は令和7年で50.1%、前年より増加しました*1。経年で見ると、令和元年20.2%、令和2年47.5%、令和3年51.9%、令和4年51.7%、令和5年49.9%、令和6年47.3%という推移です*1。
読み取り方を2つ挙げます。第一に、令和2年以降は5割前後で横ばいだという点。感染症対応で一気に上がったあと、増え続けているわけでも急減しているわけでもありません。この水準が定着したと見るのが自然でしょう。
第二に、半数が導入済みという状況では「リモート可」は加点になりにくいという点。候補者側から見れば、選択肢の多くにリモートの余地があります。むしろ出社を固定した募集のほうが、条件面で目立つ側に回りつつあると考えたほうが実態に近いでしょう。
もう1つ、採用の観点で見逃せない結果があります。導入目的について、「勤務者のワークライフバランスの向上」「障害者、高齢者、介護・育児中の社員などへの対応」「人材の雇用確保・流出の防止」等において、前年からの増加が大きくなっているとされています*1。企業側もテレワークを人材確保の手段として位置づけ始めているということです。
厚生労働省のガイドラインも、使用者にとってのメリットとして、育児や介護等を理由とした労働者の離職の防止や、遠隔地の優秀な人材の確保、オフィスコストの削減等を挙げています*2。母集団形成の文脈でテレワークを考えるのは、行政資料の整理とも整合する見方です。
「リモート可」と書く前に決めておく9項目
ここが本題です。厚生労働省のガイドラインは、テレワークを円滑かつ適切に、制度として導入し実施するに当たって、あらかじめ労使で十分に話し合い、ルールを定めておくことが重要な事項を列挙しています*2。
| 決めておく事項 | 決まっていないと起きること |
|---|---|
| 導入目的 | 出社回帰の議論が出たときに判断の軸がなく、条件が揺れる |
| 対象業務 | 配属先によってリモートの可否が変わり、募集条件と実態がずれる |
| 対象となり得る労働者の範囲 | 入社直後は対象外だった等の齟齬が、入社後に判明する |
| 実施場所 | 自宅のみか、サテライトオフィスも可かが伝わらない |
| テレワーク可能日(希望、当番制、頻度等) | 「リモート可」の解像度が低く、候補者が週何日かを判断できない |
| 申請等の手続 | 運用が上司の裁量に依存し、部署ごとに差が出る |
| 費用負担 | 通信費・光熱費の扱いを面接で答えられない |
| 労働時間管理の方法や中抜け時間の取扱い | 育児・介護と両立したい層が応募を判断できない |
| 通常又は緊急時の連絡方法 | 入社後の立ち上がりで認識違いが起きる |
この9項目は、労務管理の要件として並んでいるだけでなく、そのまま求人票で答えるべき質問のリストになっています。候補者が「リモート可」を見て次に知りたがるのは、まさにこの範囲だからです。
特に重要なのが5つ目の「テレワーク可能日」でしょう。ガイドラインは労働者の希望、当番制、頻度等という例示を置いています*2。求人票の「リモート可」が週5なのか週1なのかで、応募するかどうかの判断は大きく変わります。ここを書かない募集は、結局面接まで進んでから条件がずれる形になりがちです。
就業場所の記載については、募集時に明示すべき労働条件としても整理されています。雇入れ直後の就業場所と、その変更の範囲を示すことが求められる点は求人票の書き方で扱いました。9項目を決める作業と、明示事項を書く作業は同じ材料を使います。
3つの形態を区別する——「リモート」の中身は1つではない
ガイドラインは、テレワークの形態を3つに分けて説明しています*2。用語をそろえておくと、社内の議論も求人票の記載も精度が上がります。
| 形態 | ガイドラインの説明 |
|---|---|
| 在宅勤務 | 通勤時間を短縮でき、仕事と生活の両立に資する働き方 |
| サテライトオフィス勤務 | 自宅の近くや通勤途中の場所等に設けられたオフィス(シェアオフィス、コワーキングスペースを含む)での勤務。通勤時間を短縮しつつ、在宅勤務やモバイル勤務以上に作業環境の整った場所で就労できる |
| モバイル勤務 | 働く場所を自由に選択でき、外勤における移動時間を利用できる等、働く場所を柔軟にすることで業務の効率化を図れる |
なお、普段のオフィスとは異なる場所で余暇を楽しみつつ仕事を行う、いわゆる「ワーケーション」についても、情報通信技術を利用して仕事を行う場合には、モバイル勤務またはサテライトオフィス勤務の一形態として分類できるとされています*2。
採用の実務では、この区別が条件の書き方に直結します。「在宅勤務のみ可」と「サテライトオフィスの利用も可」は、候補者の生活設計から見るとかなり違う条件です。自宅に業務用の環境を作れない事情がある人にとって、後者は応募できるかどうかの分かれ目になります。
さらに、機密情報を扱う開発では作業環境の要件が絡みます。この場合も、候補者の住宅の間取りや同居家族といった生活環境の把握に踏み込むのではなく、職務遂行に必要な条件として確認する形にとどめるのが原則です。選考で扱う範囲の考え方は技術面接で人事が見極める5つの質問で整理しています。
費用負担と評価の設計が、応募の判断を変える
9項目のうち、候補者から質問が来やすいのが費用負担です。ここを面接で答えられないと、条件面の信頼が下がります。
ガイドラインは、労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には、就業規則に規定しなければならないこととされている点を挙げています(労働基準法第89条第5号)*2。そして在宅勤務に伴い、労働者個人が契約した電話回線等を用いて業務を行わせる場合、通話料やインターネット利用料などの通信費が増加する場合や、労働者の自宅の電気料金等が増加する場合について、実際の費用のうち業務に要した実費の金額を在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえて合理的・客観的に計算し、支給することも考えられると述べています*2。
あわせて、在宅勤務に係る費用負担等に関する源泉所得税の課税関係については、国税庁が作成した「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」(令和3年1月15日)を参照されたいとされています*2。実務の設計では、この資料と社内規程を突き合わせる作業が入ります。
もう1つ、母集団の質を左右するのが人事評価です。ガイドラインは、テレワークが非対面の働き方であるため個々の労働者の業務遂行状況や成果を生み出す過程で発揮される能力を把握しづらい側面があるとの指摘に触れたうえで、人事評価は企業がその手法を工夫して適切に実施することが基本だとしています*2。そして例として、上司は部下に求める内容や水準等をあらかじめ具体的に示しておくこと、評価対象期間中には必要に応じて達成状況について労使共通の認識を持つための機会を柔軟に設けることが望ましいと述べています*2。
ここは採用要件の話と完全に地続きです。求める内容と水準を具体的に示せる組織であれば、それは求人票にも書けます。逆に求人票に書けない組織は、入社後の評価でも同じ問題を抱えることになります。
候補者の側から見ると、この点は入社の判断に直結します。リモートで働くとき、成果がどう見られるのかが分からない状態は不安の材料になります。面接で「評価はどのように行いますか」と質問された場合に、求める内容と水準、そして達成状況を確認する場をどう設けているかを説明できると、条件面の説得力が変わってきます。逆に「上司の裁量です」としか答えられない募集は、リモート可という条件そのものの信頼度を下げてしまうでしょう。
対象者の選定についても留意点があります。短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律、および労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律に基づき、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間であらゆる待遇について不合理な待遇差を設けてはならないこととされており、テレワークの対象者を選定するに当たってもこの点に留意することとされています*2。
出社が必要な業務でも、範囲を分ければ母集団は動く
最後に、「自社の業務はリモートに向かない」という結論について触れておきます。
ガイドラインは、その性格上テレワークを実施することが難しい業種・職種があると考えられるとしたうえで、一般にテレワークを実施することが難しいと考えられる業種・職種であっても個別の業務によっては実施できる場合があると述べています*2。そして、必ずしもそれまでの業務の在り方を前提に対象業務を選定するのではなく、仕事内容の本質的な見直しを行うことが有用な場合があるとしています*2。
さらに踏み込んで、テレワークに向かないと安易に結論づけるのではなく、管理職側の意識を変えることや業務遂行の方法の見直しを検討することが望ましいとも書かれています*2。あわせて、オフィスに出勤する労働者のみに業務が偏らないよう留意することが必要とされています*2。
採用の実務に落とすと、次のような設計になります。
- 職務を工程で分解し、出社が要る工程だけを特定する。「開発は在宅可、月1回の設計レビューは出社」のように分けると、条件として書けます。
- 頻度を数字で示す。「原則リモート、出社は月2回程度」と書けば、遠方の候補者が応募の可否を判断できます。
- 将来の変更可能性を、就業場所の変更の範囲として整理する。入社後に条件が変わる形は早期離職の理由になりやすいため、先に整合を取っておきます。
出社回帰の議論をどう扱うかについては出社回帰とリモート活用の両立、リモート前提のチーム運営についてはリモート開発チームの作り方で扱っています。運用が決まっていない条件は、書いても母集団を動かしません。9項目を先に決める作業が、結局いちばんの近道になるでしょう。
なお、勤務条件や費用負担の設計が労働関係法令や社内規程に触れる部分については、社会保険労務士等への確認を経て進めてください。
まとめ:母集団形成で押さえる3つの視点
第一に、募集を出したあとに動かせる条件は限られているという点です。年収レンジは社内の等級と紐づき、必須スキルを下げれば採用後の期待とずれ、役割を広げれば候補者から見た像がぼやけます。残るのが勤務地・勤務形態で、ここは要件の中身を触らずに対象範囲を変えられます。第二に、「リモート可」はすでに加点になりにくいという点です。総務省の令和7年通信利用動向調査では、テレワークを導入している企業の割合は50.1%で、令和2年以降は5割前後で推移しています。導入目的については「勤務者のワークライフバランスの向上」「障害者、高齢者、介護・育児中の社員などへの対応」「人材の雇用確保・流出の防止」等で前年からの増加が大きく、企業側も人材確保の手段として位置づけ始めています。厚生労働省のガイドラインも、使用者のメリットとして遠隔地の優秀な人材の確保を挙げています。第三に、書く前に決めるべき項目があるという点です。導入目的、対象業務、対象となり得る労働者の範囲、実施場所、テレワーク可能日、申請等の手続、費用負担、労働時間管理の方法や中抜け時間の取扱い、通常又は緊急時の連絡方法の9つを、あらかじめ労使で十分に話し合ってルールを定めておくこととされています。この9項目は、候補者が「リモート可」を見て次に知りたがる範囲とほぼ一致します。運用が決まっていない条件を書き足しても母集団は動かないため、決める作業を先に置くのが近道です。
よくある質問
応募が集まらないとき、最初に何を変えるべきですか。
媒体を増やす前に、条件のうち動かせるものを確認してください。年収レンジは社内の等級と紐づき、必須スキルを下げると採用後の期待とずれます。実務的に動かせるのは勤務地・勤務形態で、ここは技術要件の中身を触らずに対象となる人の範囲を変えられます。ただし「リモート可」と書き足すだけでは動きません。運用のルールが決まっていない条件は、候補者から見て実態が読めないためです。
テレワークを導入している企業はどのくらいありますか。
総務省の令和7年通信利用動向調査では、テレワークを導入している企業の割合は50.1%で、前年より増加しています。経年では令和元年20.2%、令和2年47.5%、令和3年51.9%、令和4年51.7%、令和5年49.9%、令和6年47.3%という推移です。企業調査は公務を除く産業に属する常用雇用者規模100人以上の企業を対象とし、調査時点は令和7年8月末です。約半数が導入済みという水準では、リモート可は加点よりも前提に近い位置づけになります。
「リモート可」と書く前に決めることは何ですか。
厚生労働省のガイドラインでは、導入目的、対象業務、対象となり得る労働者の範囲、実施場所、テレワーク可能日(労働者の希望、当番制、頻度等)、申請等の手続、費用負担、労働時間管理の方法や中抜け時間の取扱い、通常又は緊急時の連絡方法について、あらかじめ労使で十分に話し合い、ルールを定めておくことが重要とされています。この9項目は、候補者が知りたがる範囲とほぼ一致するため、求人票で答えるべき質問のリストとしても使えます。
在宅勤務の通信費や光熱費はどう扱えばよいですか。
厚生労働省のガイドラインでは、労働者に作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には就業規則に規定しなければならないこととされている点(労働基準法第89条第5号)が挙げられています。通信費や電気料金が増加する場合について、実際の費用のうち業務に要した実費の金額を在宅勤務の実態を踏まえて合理的・客観的に計算し、支給することも考えられるとされています。源泉所得税の課税関係については、国税庁の「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」(令和3年1月15日)を参照するよう案内されています。
自社の業務はリモートに向かないのですが、母集団は広げられますか。
ガイドラインでは、一般にテレワークを実施することが難しいと考えられる業種・職種であっても個別の業務によっては実施できる場合があるとされ、テレワークに向かないと安易に結論づけるのではなく、管理職側の意識を変えることや業務遂行の方法の見直しを検討することが望ましいと述べられています。実務としては、職務を工程で分解して出社が必要な工程だけを特定し、「原則リモート、出社は月2回程度」のように頻度を数字で示すと、遠方の候補者が応募の可否を判断できるようになります。
出典
- *1 参考:総務省「令和7年通信利用動向調査 ポイント」(令和8年5月29日公表)(https://www.soumu.go.jp/main_content/001074767.pdf)。テレワークを導入している企業の割合と経年推移、導入目的で前年から増加が大きい項目、調査概要(対象・調査時点)の一次情報として(2026年8月確認)
- *2 参考:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf)。テレワークの形態の区分、制度化に当たってあらかじめ定めておく事項、対象業務・対象者の選定、費用負担と就業規則、人事評価の考え方の一次情報として(2026年8月確認)
- *3 参考:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」掲載ページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html)。ガイドライン本文および関連資料の掲載元として(2026年8月確認)