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外部人材活用のPoC(概念検証)を本番化するときの課題と体制
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 文章を作る生成AIの導入時の課題で、試験導入中・導入準備中の企業の37.8%が社内体制の未整備を挙げ、導入済みの28.3%を上回ります。
- 文章を作る生成AIを使う企業の51.9%は効果測定をしていないので、PoCの前に何を測るかを決めておきます。
- 本番化の判断と運用の責任者は社内に残し、引き継ぎで渡すものはPoCを始める時点で決めます。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
試作では期待どおりに動いたのに、本番で使う話になると、誰が運用を担当するのかが決まらない。PoCを手伝ってくれた外部の専門人材の契約が終わり、中身を説明できる人が社内に残っていない——。外部人材活用で新しい技術を試した現場では、こうした食い違いが起こりがちです。PoC(概念検証)とは、新しい技術や仕組みが目的に合うかを、小さく作って確かめる取り組みです。本番化は、その結果をもとに業務で使い続けるシステムとして作り直し、運用を始めることを指します。
PoCを外部の専門人材と進めるやり方は、社内に経験者がいない技術を短い期間で試せる点で、使いどころのある方法です。ただし万能ではなく、試す段階と本番で使う段階とでは、企業が挙げる課題の中身が変わります。本記事では、開発の現場を預かるマネージャーに向けて、試験の段階と本番の段階で変わる課題、効果の測り方、本番化の体制、引き継ぎで渡すもの、そして外部に頼むときに確認したい点を整理します。
目次
外部人材活用で進めるPoCの本番化とは
PoCで確かめることは、大きく2つに分かれます。1つは、その技術で目的の処理を実現できるかどうか。もう1つは、使う人が本当にそれを必要としているかどうかです。デジタル庁のDS-110(行政のシステムを作って管理する手順の解説書)は、AIのように使い道の広い技術で新しくシステムを作る場合について、先に「最小限の情報システム」を調達し、PoCで「当該技術の実現可能性の検証と潜在的な利用者のニーズの把握を実施」すると書いています。*2
同じ文書は、試行版を先に作って評価しながら、段階的にシステム全体を作る進め方も示しています。効果を測るのに必要な最低限の機能から作って結果を確かめ続け、その結果を踏まえて「サービス・業務企画や要件定義を見直し、本格的な情報システムの開発を行う」という順序です。*2 PoCで作ったものをそのまま本番に使うのではなく、確かめた結果をもとに要件を決め直してから作り直す、という考え方になります。
DS-110は、この手順の対象となるシステムの例に、PoCを行うために作った情報システムも挙げています。*2 試しに作ったシステムでも、管理の対象から外さない扱いです。外部人材活用でPoCを進めるなら、この順序のどこまでを外部の専門人材に頼み、どこからを社内で引き取るのかを、本番化の前に決めておく必要があります。
試験の段階と本番の段階で変わる課題
段階によって課題がどう変わるかは、JUAS(一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会)の「企業IT動向調査2026」で見ることができます。東証上場企業とそれに準じる企業の計4,500社を対象に、2025年9月から10月に行った調査で、回収数は957社です。*1 この中に、言語系生成AI(文章を作る生成AI)を導入するときの課題を、導入の段階ごとに聞いた設問があります。
答えたのは、導入の状況が「未検討」以外の709社です。内訳は、導入済みが322社、試験導入中・導入準備中が185社、検討中が187社、検討後見送りが15社でした。*1 ここでは、本番で使っている「導入済み」と、PoCにあたる段階を含む「試験導入中・導入準備中」を比べます。
図に並べた9つの課題のうち8つは、導入済みの企業のほうが高い割合で挙げています。差が大きいのは「権利侵害」(AIの回答を使った結果、他者の権利を侵すおそれ)で、導入済み56.8%に対し試験導入中・導入準備中40.0%です。「ハルシネーション、信頼性」(AIがもっともらしい誤りを答えること)は75.2%と62.7%、「機密情報の流出」は75.5%と64.9%でした。*1
反対に、試験導入中・導入準備中のほうが高いのは「社内体制の未整備」だけで、37.8%と導入済みの28.3%を9.5ポイント上回ります。*1 試験の段階では体制の不足が目立ち、本番で使う段階では情報の扱いや回答の正しさ、権利の問題を挙げる企業が多くなっています。
これは同じ企業の変化を追った数字ではなく、段階の違う企業どうしを比べたものです。それでも、試験の段階で挙がりにくい課題が本番の段階で多く挙がっているなら、本番化の前にこれらを洗い出しておくほうが、移行してから慌てずに済みます。
なぜ効果の測り方を先に決めるのか
本番化するかどうかを決めるには、PoCで何が良くなったのかを示す材料が要ります。ところが同じ調査で、言語系生成AIを導入済みか試験導入中・導入準備中の507社に導入時の効果測定を聞くと、いちばん多いのは「効果測定は行っていない」の51.9%でした。*1 24年度の59.8%からは下がったものの、なお半数を超えています。
| 効果測定の項目 | 25年度(n=507) | 24年度(n=396) |
|---|---|---|
| 削減できた労働時間の測定 | 39.4% | 32.8% |
| 削減できた要員の測定 | 8.1% | 4.5% |
| 金額的な効果の測定(売上金額の向上額等) | 6.5% | 6.8% |
| その他定性的な効果 | 6.7% | 5.8% |
| 効果測定は行っていない | 51.9% | 59.8% |
測っている項目で多いのは「削減できた労働時間の測定」の39.4%で、「金額的な効果の測定(売上金額の向上額等)」は6.5%にとどまります。*1
PoCを始める前に何を測るかを決めておくと、本番化の判断がしやすくなります。たとえば、問い合わせ1件あたりの回答作成にかかる時間を、PoCの前と後で比べる。AIの回答に誤りが何件あったかを数える。こうした項目を外部の専門人材と最初に合意しておけば、PoCが終わったときに、始める前と同じ項目で結果を比べられます。
本番化の体制をどう決めるのか
試験の段階で社内体制の未整備を挙げる企業が多いことは、本番化の体制を早めに決めておく理由になります。PoCは少人数でも進められますが、本番で使うには、使い方のルールを決める人、利用者からの問い合わせを受ける人、障害が起きたときに対応を判断する人が要ります。
社内に残しておきたいのは、本番化するかどうかの判断、運用の責任者、利用のルールの3つです。外部の専門人材に任せやすいのは、本番用の作り直し、性能やセキュリティの試験、運用手順書の作成といった、作業の中身と期間を決めて頼める仕事です。判断まで社外に委ねると、PoCに関わった人が抜けたとき、なぜその形にしたのかを社内で説明できなくなります。
進め方の参考になるのが、同じ調査の自由記述です。DX(デジタル技術による事業の変革)の効果を高めるために実施した重要な施策を尋ねたところ、「テクノロジー活用・自動化」に分類された回答(64社)の具体例に、「新テクノロジーのPoCから実業務への段階適用」が挙がっています。*1 報告書は、新たなテクノロジーを適用する場合には「PoC(実証)から段階的に適用範囲を広げるアプローチで効果を実現させている」とまとめています。*1
一度に全社で使い始めるのではなく、まず1つの部署で本番の運用を始め、問い合わせの件数や誤りの件数を見てから、使う部署を増やしていく。こうした段階を置けば、運用の担当者やルールも、段階ごとに整えていけます。
引き継ぎで渡すもの
PoCを担当した外部の専門人材が、本番化まで続けて関わるかどうかは契約しだいです。契約が終われば、検証の経緯を知る人に話を聞けなくなります。引き継ぎで渡してもらうものは、PoCを始める時点で決めておくのが確実です。渡してもらいたいのは、次の5つです。
- 検証の条件と結果(何を、どのデータで、どの期間試し、どうだったか)
- 使ったデータの出どころと、扱いの決まり
- プログラム、設定、構成の置き場所と、使っていたアカウントの一覧
- 残った課題と、試したが採らなかったやり方
- 本番で想定している運用の手順
このうち運用の手順は、PoCの段階では要らなかったので、まだ無いことがあります。その場合は、本番化を担当する人に、最初の成果物として作ってもらいます。採らなかったやり方の記録が無いと、本番化の途中で同じ案を試し直すことになります。
PoCで生まれた発明の権利の決め方は「外部人材活用のPoC(概念検証)の発明、権利を書面で決める」で、離任のときの引き継ぎは「業務委託エンジニアの離任で引き継ぎが漏れる理由と防ぎ方」で扱っています。
つまずきやすい点
一つ目は、PoCで作ったものを、そのまま本番に使ってしまうことです。PoCは確かめるための最小限の作りなので、利用者の数や障害への備えまでは考えていないことがあります。DS-110の順序のとおり、結果を踏まえて要件を決め直してから作り直すほうが、本番化の後の手戻りを減らせます。
二つ目は、PoCの担当者が抜けてから引き継ぎを考えることです。検証の条件や、試したが採らなかったやり方は、担当者しか知らない場合があります。契約の終わりが近づいてから聞き出そうとしても、資料にまとめる時間が足りません。
三つ目は、先の調査の数字を、あらゆるPoCに当てはめることです。ここで見た課題と効果測定の数字は、言語系生成AIについて聞いたものです。*1 ほかの技術のPoCでは、この数字をそのまま根拠にせず、自社の案件で挙がる課題を洗い出してから本番化の計画に入ります。
外部に委託するときに確認しておきたい点
PoCから本番化までを外部人材活用で進めるなら、候補者を探す前に、頼む作業と期間を書き出しておきます。「PoCの結果をもとにした本番用の作り直しを3か月」「本番の運用を始めた部署での問い合わせ対応の手順づくりを1か月」——このくらいまで書けていれば、求める経験も決まります。
候補者には、PoCだけでなく本番化まで担当した経験があるかを聞いておくと、作り直しの進め方を具体的に話してもらえます。あわせて、引き継ぎで渡す5つのものを成果物に入れられるかを、契約の前に確かめておきます。
本番化の後に運用を担う人を社内で採用するのか、外部の専門人材に引き続き頼むのかも、この段階で決めておきたい点です。どちらにする場合も、運用の責任者を先に決めておくと、誰が何を担うかがはっきりします。生成AIの導入で社内と専門家がそれぞれ何を担うかは「外部人材活用で進める生成AIの導入、社内と専門家の役割の違い」にまとめています。
まとめ:PoCの本番化で確かめておきたい3つの点
外部人材活用でPoCを本番化するうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、試験の段階と本番の段階とでは挙がる課題が違い、試験の段階では社内体制の不足が目立つこと。第二に、効果測定をしていない企業が半数を超えるので、PoCを始める前に何を測るかを決めておくこと。第三に、本番化の判断と運用の責任者は社内に残し、引き継ぎで渡すものをPoCの時点で決めておくことです。この3点を踏まえておけば、「試作では動いたのに、運用を引き受ける人が決まらないまま止まってしまった」という事態を避けやすくなります。本番用の作り直しを誰に頼むかに迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
PoCと本番化は、同じ外部人材に続けて頼むべきですか
決まった答えはありませんが、続けて頼むと検証の経緯を知る人が残るので、作り直しを始めやすくなります。一方で、運用まで同じ人に任せきりにすると、社内で説明できる人が増えません。作り直しの作業を頼む相手と、運用の責任者は分けて決めておくのがおすすめです。
PoCの結果、本番化しないと決めたときは何を残しますか
検証の条件と結果、本番化を見送った理由を記録として残します。次に同じ技術を試すとき、どこから始めればよいかが分かるためです。PoCのために作ったシステムやアカウントも、使わないなら止めたうえで、その記録を残しておきます。
本番化するかどうかは、誰が判断しますか
使う部署の責任者と、システムを管理する部門の責任者が判断する形にしておくと進めやすくなります。外部の専門人材は、PoCの結果や作り直しにかかる作業の見積もりなど、判断の材料を出す側です。判断を社内に残しておけば、本番化の後に方針を変えるときも社内で決められます。
試験導入のまま、なかなか本番化に進まないときはどうすればよいですか
何を確かめられたら本番化するのかという条件と、判断する日付を決め直します。条件が決まっていないと、試験を続ける理由も止める理由も示せないためです。条件を満たせない場合に見送ることも、選択肢として先に決めておきます。
PoCの本番化で人を探すとき
本番用の作り直しや運用手順書の作成など、頼みたい作業と期間が書けていれば、そのままご相談いただけます。社内で担うか外部に委託するか、まだ決めきれていない段階でも構いません。
Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。本番化の後に運用を担う人と、本番用の作り直しに加わる人を、分けてお探しいただけます。
Remoguは、リモート前提で全国から即戦力のITプロ人材を調達するサービスです。リラシクは、扱う求人がすべてリモートワークのITエンジニア専門転職エージェントです。どちらもLASSICが運営しています。
出典
- *1 参考:JUAS「企業IT動向調査2026」(PDF)(https://juas.or.jp/cms/media/2026/04/JUAS_IT2026.pdf)。出典:JUAS「企業IT動向調査2026」(2025年度調査)。一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会発行。アンケート調査は2025年9月5日から10月24日、調査対象は東証上場企業とそれに準じる企業の計4,500社、25年度の回収数957社。図表3-2-4(DXの効果を高める施策。自由記述の分類)と本文、図表8-3-13(「言語系生成AI」導入時の効果測定)、図表8-3-15・8-3-16(「言語系生成AI」導入時の課題、導入状況別)と本文を参照。表と図は資料に示された数値をもとに筆者が作成した(2026年9月確認)
- *2 参考:デジタル庁「DS-110 デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン解説書(第3編第1章 ITマネジメントの全体像)」(PDF)(https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e2a06143-ed29-4f1d-9c31-0f06fca67afc/50952dae/20260715_resources_standard_guidelines_guideline_03.pdf)。出典:2026年6月12日版。第1章1.の注(1)(対象となる情報システムの例)、2.の例2(実証実験で新規サービスを構築する場合)の特徴及び留意点[1][2]、3.のテーラリングの例(サービス・業務改革に伴う手続・手順)を参照(2026年9月確認)
- *3 参考:JUAS「企業IT動向調査」(調査報告書の一覧)(https://juas.or.jp/library/research_rpt/it_trend/)。調査が毎年実施され報告書が公開されていることの確認として(2026年9月確認)