LASSIC Media らしくメディア
システムの属人化を解消する5つの手順|保守の引き継ぎと文書化
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論
- システムの属人化は、仕様や運用の知識が特定の担当者にだけあり、その人がいないと保守が進まない状態です。
- 解消は担当者しか知らない作業の洗い出しから始め、文書化と手を動かす引き継ぎを組み合わせます。
- 外部と保守を分担するときは、文書を社内で持ち、変更のたびに直す決まりを先に決めておきます。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
この処理を直せるのは、あの人だけ。障害が起きると、いつも同じ担当者に電話がかかる——。長く動いている社内のシステムでは、こうした偏りが起こりがちです。システムの属人化とは、仕様や運用の知識が特定の担当者の頭の中にだけあり、その人がいないと保守や障害対応が進まない状態を指します。
担当者が異動や退職をする前であれば、文書化と引き継ぎで手を打てます。ただし万能ではなく、手順書を作っただけでは、数年後に元の状態へ戻ることもあります。本記事では、情報システムの担当者やIT投資を判断する方に向けて、属人化が起きる理由、解消のやり方の違い、5つの手順、そして外部と保守を分担するときに確認したい点を整理します。
システムの属人化とは
経済産業省が2025年5月にまとめたレガシーシステムモダン化委員会の総括レポートは、運用や改良が難しくなったシステムの要因の一つに「システムのブラックボックス化」を挙げ、その中身を次の3つで説明しています。*1 属人化は、このうち2つ目にあたります。

- 仕様や設計のドキュメントが整っておらず、移行や作り直しのときに支障が出る
- 運用や保守が、特定の人に頼った状態(属人的な状態)になっている
- 障害が起きたときに、原因をすぐに特定できない
属人化は、だれかの怠慢というより、長く使うシステムで自然に進むものです。IPA(情報処理推進機構)のガイドは、メンバーの異動や退職は避けられないため、業務知識の断片化(知識の一部が失われて途切れた状態)はどのシステムでも起きる事象だとしています。*2 設計書が直されないまま保守が続くと、断片化はさらに深くなります。同じガイドには、設計書があることを前提に作り直しを始めたところ、5割以上の設計書が実際のシステムと食い違い、詳しい人もいなかったという事例も載っています。*2
文書化・引き継ぎ・分担の違い
属人化の解消には、大きく3つのやり方があります。どれか1つで足りることは少なく、組み合わせて使うのが普通です。それぞれの違いを表にまとめます。
| やり方 | 得意なこと | 弱いところ | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 社内で後任を育てる | 業務の事情まで含めて、知識が社内に残る | 育つまで時間がかかる。後任も1人だと同じことが起きる | 長く社内で持ち続けたいシステム |
| 文書化を進める | 人が代わっても読み返せる | 更新が止まると、すぐに実物とずれる | 仕様が落ち着いていて、変更が少ないシステム |
| 外部と保守を分担する | 複数の技術者で知識を持てる。担当者の休みや退職に左右されにくい | 線引きと文書の持ち主を決めないと、外部の中で属人化が起きる | 社内に後任を置けない、担当が1人しかいないシステム |
経済産業省のレポートは、ブラックボックス化した仕様を復元してドキュメント化することで「属人性を排除し、担当者が代わってもナレッジを継承させる」ことができるとしています。*1 文書化を芯に据え、その文書をだれが読み、だれが直し続けるかを、社内の後任か外部との分担で決める。この組み合わせが、属人化の解消の基本形です。
属人化を解消する5つの手順
手順の芯は、担当者しか知らないことを、担当者がいるうちに文書と別の人へ移すことです。次の5つの段階で進めると、引き継ぎの漏れを減らせます。
- ステップ1:担当者しか知らない作業を洗い出す(どのシステムの、どの作業を、だれが知っているか)
- ステップ2:止まると困るものから順番を決める(障害対応、月末や年度末の処理、ほかのシステムとの連携など)
- ステップ3:担当者と一緒に文書にする(新しく書き起こすより、今ある資料を直すところから)
- ステップ4:後任や外部の技術者が手を動かして引き継ぐ(担当者は横で見て確かめる)
- ステップ5:変更のたびに文書を直す決まりを作る
ステップ1では、人と資料の両方を見ます。IPAのガイドは、詳しい人(有識者)を「スキルの深さ」と「習熟している範囲」の2つの面でとらえ、資料は設計書が最新になっているかでブラックボックス化の度合いを見るとしています。*2 担当者が1人しかいない作業や、資料が無いか古い作業に印を付けていくと、ステップ2の順番がほぼ決まります。
ステップ3で文書にする対象は、業務の流れ、機能の仕様、ほかのシステムとのつなぎ方、データの構造、運用の手順などです。*2 資料だけで分からない部分は、担当者への聞き取りで補います。ステップ4では、後任が実際に作業をして担当者が横で確かめる形にすると、文書に書かれていなかった手順が見つかります。
ステップ5を落とすと、属人化は少しずつ元に戻ります。IPAのガイドは、障害対応でプログラムを直したのに文書を直さなかった、という食い違いの起き方を挙げています。*2 プログラムや設定を変えたら、同じ作業の中で文書も直す。この決まりを、引き継ぎが終わる前に決めておきます。
外部に頼むときに確認しておきたい点
社内に後任を置けない場合は、外部の技術者と保守を分担すれば、知識を複数の人で持てます。ただし頼み方を誤ると、今度は外部の特定の担当者に知識が偏ります。分担を始める前に、次の点を確かめておきます。

- 分担の線引き:社内に残す判断(仕様を決める、優先順位を付ける)と、外部に任せる作業(調査、修正、定常の運用)をどこで分けるか
- 文書の持ち主と置き場所:作った文書を社内の場所に置き、社内でも読める・直せる状態にするか
- 引き継ぎ期間の時間:今の担当者が並走する時間を、通常の業務とは別に確保できるか
- 外部側の体制:外部の中でも複数の技術者が知識を持つ体制か。担当が代わるときの引き継ぎ方が決まっているか
- 見直しの場:文書が実物と合っているかを、定期的に確かめる場を設けるか
障害対応の手順や、Runbook(運用手順書)の作り方そのものは運用設計とRunbook整備を外注で進める方法で扱っています。保守を任せる会社の比べ方はシステム保守会社の選び方にまとめています。
まとめ:属人化の解消で確かめておきたい3つの点
システムの属人化を解消するうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、担当者しか知らない作業と、資料が無いか古い作業を洗い出し、止まると困るものから順番を付けること。第二に、文書化と並行して、後任や外部の技術者が実際に手を動かす引き継ぎを行うこと。第三に、変更のたびに文書を直す決まりと、文書を社内で持ち続ける体制を決めることです。この3点を踏まえておけば、「手順書は作ったのに、結局あの人に聞かないと直せない」という事態を避けやすくなります。保守の分担や引き継ぎの進め方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
担当者がすでに退職している場合はどうすればよいですか
今ある資料とプログラムから、仕様を起こし直すところから始めます。IPAのガイドは、資料だけで分からない部分を、業務に詳しい人や実際に運用している人、利用者への聞き取りで補うとしています。*2 退職した担当者に連絡が取れる場合でも、聞き取りの結果は文書に残しておきます。
引き継ぎにはどのくらいの期間がかかりますか
一律には決まりません。洗い出した作業の数と、年に1回しか起きない処理(年度末の処理など)があるかで変わります。年に1回の処理は、実際に起きる時期に合わせて並走するか、手順を文書に残して次の回に後任が試す形にすると、漏れを減らせます。
サーバーの設定作業の属人化にも同じ手順が使えますか
使えます。手作業で行っている設定は、Ansibleのような構成管理の道具(サーバーの設定を自動で行う仕組み)で、あるべき状態を書いて残す方法もあります。公式ドキュメントは、playbookと呼ぶ手順を人が読める形で書き、文書のように読めると説明しています。*3 ただし、書いた内容を直し続ける決まりが要る点は、ほかの文書と同じです。
システムの属人化解消と保守分担のご相談
担当者しか分からないシステムの棚卸しから、文書化、引き継ぎ、保守の分担まで、元請(プライムベンダー)としてご提案します。
2006年の創業以来、一次請けのシステムインテグレーターとして、企業のシステム開発と保守・運用を受託してきました。
出典
- *1 参考:経済産業省「DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」(2025年5月28日)(https://www.ipa.go.jp/disc/committee/begoj90000002xuk-att/legacy-system-modernization-committee-20250528-report.pdf)。出典:レガシーシステムの定義のうち「③システムのブラックボックス化」の3項目、および「システムの可視化と内製化」の記述を参照(IPAのレガシーシステムモダン化委員会のページで公開)(2026年10月確認)
- *2 参考:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「システム再構築を成功に導くユーザガイド 第2版」(2018年)(https://www.ipa.go.jp/archive/publish/secbooks20180223.html)。出典:1.1節の業務知識の断片化とトラブル事例1、2.2節の現行システムの調査観点(有識者の2つの側面、ドキュメントの例、聞き取りによる補完)を参照(2026年10月確認)
- *3 参考:Ansible Community Documentation「Introduction to Ansible」(https://docs.ansible.com/ansible/latest/getting_started/introduction.html)。出典:playbookで望ましい状態を記述すること、人が読める形で文書のように読めることの記述を参照(2026年10月確認)