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プリペイド携帯の本人確認、豪州の9通りと番号の即時消去
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 方法は9通りに限定されている:自由な方式は選べません*1。
- 2025年12月にデジタルID追加:認定機関経由での確認です*2。
- 番号と身分証は残せない:確認の直後に破棄します*1。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
本人確認というと、身分証の画像を保管する運用を思い浮かべがちです。豪州のプリペイド携帯の制度は、そこを逆向きに設計しています。確認はするが、確認に使ったものは残さない、という組み立てです。
根拠は電気通信(サービス提供者―プリペイド携帯搬送サービスの本人確認)決定2017で、電気通信法1997の第99条第1項に基づいてACMAが作りました*1。さらに改正決定2025(第1号)が2025年12月16日に施行し、承認された方法に政府認定デジタルIDサービスが加わりました*2。
この記事では、承認された9つの方法、追加された第9項の条件、そして記録の制限の3つを条文から読みます。
目次
開通の前提として、方法が列挙されている
まず全体像です*1*2。
この決定の目的は第2.1条に書かれています*1。法執行機関が顧客を識別できるようにすること、その目的の達成に合理的に必要な最小限の情報だけを取得・記録・保持することで個人のプライバシーを守ること、そして事業者に本人確認の方法の選択肢を与えることの3つです*1。二番目に「最小限」が明記されている点が、後述する記録の制限につながります*1。
手続きの入口は第2.3条です*1。プリペイド携帯搬送サービスを供給する搬送サービス提供者は、第4部の規則に従うか、承認された遵守計画に従うかしていなければ、サービスを開通させてはなりません*1。第3部の免除に当たる場合などは例外です*1。
そして第4.5条が、顧客がサービス開始者である場合について、別表1のB欄に定める承認された本人確認の方法を使って本人確認を行うことを求めます*1。方法は列挙型で、事業者が独自の方式を選ぶ余地は原則としてありません*1。
ここでいう「開通」も定義されています*1。第1.5条は、利用者と搬送サービス提供者との間の通信と緊急通報サービスへの呼に加えて、それ以外の通信に使えるようにすることを開通と定めました*1。緊急通報だけは、本人確認の前でも使える建て付けです*1。
9通りの中身は、確認の材料で分かれている
別表1の方法を整理します*1*2。
| 項 | 方法 | 成立の条件(要旨) |
|---|---|---|
| 1 | 政府のオンライン照合サービス | 証明書番号、発行した州・準州または連邦の別、必要な日付等を提供し、照合サービスで検証する |
| 2 | 既存のポストペイド口座 | 同一事業者の後払い契約の情報を示し、名義人であることを(有効なパスワード等で)示す |
| 3 | 許可リストのメールサービス | 末尾が「.edu.au」または「.gov.au」のアドレスへ送った案内に従い、有効であることを確認する |
| 4 | 即時の金融取引 | 既存の指定金融口座に取引を行い、取引コードで有効性の確認を受ける。利用者に金銭的な不利益を与えない方法で行う |
| 5 | 時間差の金融取引 | 口座振替で取引を行い、1回線だけ仮開通し、その旨を伝える。2営業日以内に拒否・返金がないことで有効性を確認する |
| 6 | 既存の適格プリペイド口座(口座振替なし) | 名義人であることを示し、この方法で開通した回線が5以上にならないことを事業者が確認する |
| 7 | 既存の適格プリペイド口座(口座振替あり) | 名義人であることを示す。回線数の条件は置かれていない |
| 8 | 身分証の目視確認 | 5回線未満ならカテゴリーA書類1点または種類の異なるカテゴリーB書類2点。5回線以上になるなら種類の異なるA書類2点、またはA書類1点とB書類2点 |
| 9 | 政府認定デジタルIDサービス | 認定機関等がデジタルID法2024に沿って検証する。詳細は次章 |
第5項の時間差の金融取引には、失敗したときの後始末まで書かれています*1。2営業日以内に口座の有効性を確認できなかった場合、事業者は本人確認ができなかったものとみなされ、その2営業日の期間の経過後1暦日以内に仮開通した回線を停止しなければなりません*1。
第8項の目視確認では、有効期限のある書類は期限切れでないことを事業者が確かめます*1。外国の軍のIDカードをカテゴリーA書類として示す場合は、入退管理のある防衛施設内で提示することとされました*1。運用の場所まで指定した規定です*1。
回線数の条件が第6項と第8項にだけ現れる点も特徴です*1。同一人物が多数の回線を持つ経路に、追加の確認を挟む設計になっています*1。
第9項のデジタルIDは、4つの条件で成立する
改正決定2025(第1号)は、2025年12月11日に制定され、登録の翌日である2025年12月16日に施行しました*2。改正の中身は、定義の追加と、別表1の第8項の後への第9項の挿入です*2。
追加された定義は、認定機関、認定ID交換事業者、認定サービス、個人のデジタルID、デジタルID法(=デジタルID法2024)、デジタルIDサービス(=認定機関が提供する認定サービス)、ID事業者です*2。いずれもデジタルID法2024の第9条の意味によるとされました*2。注記は、デジタルIDの例として州または準州の法に基づいて発行されたデジタル運転免許証を挙げています*2。
第9項の本体は簡潔です*2。搬送サービス提供者は、デジタルIDサービスを使ってサービス開始者の本人確認を行うことができます*2。ただし、次の4つがそろって初めて確認したものとみなされます*2。
第一に、サービス開始者が、認定機関、または認定機関と本人確認の取決めを持つID事業者(認定ID交換事業者を含む)のいずれかが確認を行うこと、または確認を仲介することに同意していること*2。第二に、その主体が確認または仲介を行うために必要な情報をすべて提供していること*2。第三に、提供された情報がデジタルID法に沿って検証されること*2。第四に、方法の名称が「政府認定デジタルIDサービス」として記録されることです*2。
注記が実務上の含意を明示しています*2。認定ID事業者ではないID事業者が、認定機関を使ってサービス開始者の本人確認を行うことがある。第9項は、確認がデジタルID法に沿って行われる限り、そうしたID事業者を通じた仲介に事業者が依拠することを可能にする、というものです*2。認定を受けていない仲介者を排除せず、最終的な検証が認定の枠内で行われるかどうかで線を引きました*2。豪州のデジタルID制度の全体像は、デジタルID認定規則の側から見ると分かりやすくなります。
確認はするが、残してはならない
この制度で最も特徴的なのが第6.4条です*1。搬送サービス提供者は、この決定が課す要件に関連して、政府発行書類の証明書番号とカテゴリーA書類またはカテゴリーB書類を記録し保持してはなりません*1。第4項は、記録・保持が禁じられる情報を含む文書の複写や複製も禁じています*1。
例外は2つです*1。1つは、法によって記録・保持が要求または許容されている場合*1。注記は、電気通信(傍受およびアクセス)法1979の第5-1A部により、一定の情報を所定の期間保持し、暗号化と不正な干渉・不正アクセスからの保護によって機密性を確保する義務があることに触れています*1。
もう1つは、証明書番号に限った条件つきの例外です*1。許容目的のために記録し、その目的に合理的に必要な時間だけ記録し、サービス開始者の本人確認を行った直後に番号を破棄し、他の法で禁じられていないという4つがそろう場合です*1。許容目的とは、第4.5条に沿って本人確認を行う目的、およびそれに付随・付帯する目的とされました*1。
条文の例示が分かりやすい場面を示しています*1。顧客が政府のオンライン照合サービスでの本人確認に失敗した場合、事業者は、その顧客の政府発行書類の証明書番号を、確認を助けるために用いることができるというものです*1。再試行の支援のために一時的に持つことは許すが、終わったら消す、という整理です*1。
一方で、残すべき記録もあります*1。第6.1条は、供給する各回線についてこの決定への遵守を容易に確認できる程度の記録を、回線が開通している間ずっと保持することを求めます*1。第6.2条は、クレジットカードまたはデビットカードで購入された回線について、回線番号とカードを紐づける記録を求めました*1。第6.3条は、遵守のために設けている体制の書面による記述を保持することを求めます*1。
整理すると、本人を特定するための素材は残さず、確認したという事実と紐づけは残すという切り分けです*1。同じ発想は、医療の分野で証跡の種別ごとに保存期間を分けたMy Health Records規則2026にも通じます。
自社の方式を使いたい場合の道もある
第2.3条第1項は、第4部の規則に従うか、承認された遵守計画に従うかの選択を認めています*1。後者の手続きが第5部です*1。
事業者は単独でCSP計画の承認を、事業者の集団は共同計画の承認をACMAに申請できます*1。申請は書面で行い、計画が適用される事業者、対象とするプリペイド携帯搬送サービス、対象とする販売・流通の経路の種類、顧客の情報を取得する方法の案、顧客の本人確認を行う方法の案を記述します*1。
ACMAが承認を判断する際の考慮事項は2つです*1。その計画が法執行機関の情報上の必要を満たすかどうかについての通信アクセス調整官の書面による見解と、計画が第2.1条の目的を満たすかどうかです*1。決定に対しては、ACMAによる内部の再考の手続きを経たうえで行政不服審判所の審査を受けられることが注記されています*1。
期限も定められています*1。ACMAは、通信アクセス調整官の見解を受け取った時点と、追加情報を求めた場合はその情報を受け取った時点のいずれか遅い方から1か月以内に、承認するかどうかを決めなければなりません*1。その期間内に決定しなかった場合は、承認しなかったものとみなされます*1。
この経路は、列挙型の規制に柔軟性を持たせる仕組みとして参考になります*1。方法を自由化する代わりに、方法の設計を事前に審査して承認する形です*1。販売チャネルごとに実現できる確認手段が違う業態では、現実的な落としどころになります*1。
日本のIT部門が持ち帰れる論点
この制度は豪州のもので、日本の事業者に直接の義務を課すものではありません*1*2。ただし、本人確認を実装する立場では参考にできる点があります*1。
第一に、確認の方法に名前を付けて記録することです*1。別表1の各項は、いずれも最後に「方法の名称を〇〇として記録すること」を条件に置いています*1。どの経路で確認したかが後から分かる状態を、条件として組み込んでいるわけです*1。実装では、確認結果に「方式コード」を欠かさず持たせ、集計や監査で経路別に見られるようにしておくと同じ効果が得られます*1。
第二に、照合と保存を分けて考えることです*1。第6.4条は、確認のために番号を使うことは認めつつ、確認が終わった後に持ち続けることを禁じました*1。実装では、照合用の値を一時領域に置き、確認の完了を契機に削除するジョブを、業務処理と同じトランザクションの流れに組み込む形になります*1。画像をそのまま長期保管する設計は、必要性を問い直す価値があります*1。
第三に、失敗時の後始末を先に決めることです*1。第5項の時間差の金融取引は、2営業日で確認できなければ1暦日以内に停止する、と期限つきで書かれています*1。仮開通のような状態を作る設計では、解除の条件と期限を仕様に書いておかないと、宙に浮いた状態が残ります*1。
第四に、外部の認定制度に寄せる場合の依存関係です*1。第9項は、検証がデジタルID法に沿って行われることを条件にしました*2。外部の認定基盤に確認を委ねる設計では、認定の有無、取決めの有無、そして認定が失われた場合の切り替え先を、契約と実装の両方で決めておく必要があります*2。近い論点はデジタルIDの救済枠組みの側にも現れます*2。
まとめ:豪州のプリペイド携帯の本人確認で押さえる3つの視点
豪州では、電気通信法1997の第99条第1項に基づく本人確認決定2017が2017年4月8日から施行され、プリペイド携帯搬送サービスの開通前に行う本人確認の方法を別表1で列挙しています。2025年12月11日に制定された改正決定2025(第1号)が2025年12月16日に施行し、別表1の第8項の後に第9項として政府認定デジタルIDサービスが追加されました。押さえたい視点は三つあります。第一に、方法が列挙型であること。承認された方法は、政府のオンライン照合サービス、既存のポストペイド口座、末尾が.edu.auまたは.gov.auの許可リストのメールサービス、即時の金融取引、時間差の金融取引、既存の適格プリペイド口座(口座振替なし)、既存の適格プリペイド口座(口座振替あり)、身分証の目視確認、政府認定デジタルIDサービスの9つです。時間差の金融取引では1回線だけ仮開通でき、2営業日以内に口座の有効性を確認できなければ本人確認ができなかったものとみなされ、その期間の経過後1暦日以内に停止します。目視確認では、開通後に5回線以上となるかどうかで求める書類の点数が変わります。第二に、第9項の条件。認定機関、または認定機関と取決めを持つID事業者(認定ID交換事業者を含む)が確認または仲介することへの本人の同意、必要な情報の提供、デジタルID法2024に沿った検証、そして方法の名称を「政府認定デジタルIDサービス」として記録することの4つがそろって初めて、確認したものとみなされます。注記は、認定を受けていないID事業者を通じた仲介にも依拠できることを示しました。第三に、記録の制限。第6.4条は、政府発行書類の証明書番号と、カテゴリーAまたはカテゴリーBの書類を記録し保持することを禁じ、これらを含む文書の複写・複製も禁じています。例外は、法が要求または許容する場合と、許容目的のために必要な時間だけ記録し、本人確認の直後に番号を破棄する場合です。一方で、遵守を容易に確認できる記録を回線が開通している間保持すること、カード購入の場合に回線番号とカードを紐づける記録を残すこと、遵守の体制を書面で保持することは求められます。
よくある質問
事業者が独自の本人確認の方法を使うことはできますか。
そのままでは使えませんが、承認を得る道があります。第2.3条第1項は、第4部の規則に従うか、承認された遵守計画に従うかのいずれかを求めています。第5部により、搬送サービス提供者は単独でCSP計画の、事業者の集団は共同計画の承認をACMAに申請できます。申請では、対象となるサービス、販売・流通の経路の種類、顧客の情報を取得する方法の案、本人確認を行う方法の案を記述します。ACMAは、通信アクセス調整官の書面による見解と、第2.1条の目的を満たすかどうかを考慮して判断し、一定の起算点から1か月以内に決定しなければなりません。期間内に決定しない場合は承認しなかったものとみなされます。
身分証の画像を保存してはいけないのですか。
第6.4条第1項は、この決定が課す要件に関連して、政府発行書類の証明書番号と、カテゴリーA書類またはカテゴリーB書類を記録し保持してはならないとしています。第4項は、記録・保持が禁じられる情報を含む文書の複写や複製も禁じました。例外は、法によって記録・保持が要求または許容されている場合と、証明書番号について、許容目的のために必要な時間だけ記録し、本人確認の直後に破棄し、他の法で禁じられていない場合です。注記は、電気通信(傍受およびアクセス)法1979の第5-1A部に基づく保持義務があることにも触れています。
デジタルIDでの確認は、認定を受けた事業者としか行えませんか。
仲介を挟むことができます。第9項第2項(a)は、認定機関か、認定機関と本人確認の取決めを持つID事業者(認定ID交換事業者を含む)のいずれかが、確認を行うことまたは確認を仲介することへの本人の同意を求めています。注記は、認定ID事業者ではないID事業者が認定機関を使って本人確認を行うことがあり、確認がデジタルID法に沿って行われる限り、搬送サービス提供者はそうした事業者に依拠して確認を仲介させることができると説明しています。最終的な検証がデジタルID法の枠内で行われることが要点です。
仮開通した回線は、いつまでに止める必要がありますか。
別表1の第5項に期限が書かれています。時間差の金融取引では、事業者は1回線だけ仮開通でき、その時点で仮の開通であることを本人へ伝えます。取引から2営業日以内に、取引が拒否も返金もされていないことをもって口座の有効性を確認します。2営業日以内に確認できなかった場合、事業者は本人確認ができなかったものとみなされ、その2営業日の期間が経過した後1暦日以内に、仮開通した回線を停止しなければなりません。
出典
- *1 参考:オーストラリア連邦法令登録簿「Telecommunications (Service Provider — Identity Checks for Prepaid Mobile Carriage Services) Determination 2017」(F2017L00399・2025年12月16日時点の編集版)(https://www.legislation.gov.au/F2017L00399/latest/text)。本記事の一次情報。第1.3条の根拠(電気通信法1997 第99条第1項)、第1.5条の定義(開通、入退管理のある防衛施設、口座振替、認定機関ほか)、第2.1条の目的(法執行機関の識別、最小限の情報、方法の選択肢)、第2.3条の開通前の要件、第4.5条(別表1のB欄の方法による確認)、第5.2条から第5.8条(CSP計画・共同計画の申請、承認の考慮事項、1か月の決定期限とみなし不承認)、第6.1条から第6.4条(遵守を確認できる記録の開通中の保持、カードとの紐づけ、体制の書面、証明書関連の記録・複写の禁止と2つの例外)、ならびに別表1の第1項から第9項の各方法と条件(第5項の2営業日・1暦日、第6項と第8項の5回線、第8項のカテゴリーA・B書類の点数と外国軍IDカードの提示場所)を確認した。確認日は2026年9月10日。(2026年9月確認)
- *2 参考:オーストラリア連邦法令登録簿「Telecommunications (Service Provider — Identity Checks for Prepaid Mobile Carriage Services) Amendment Determination 2025 (No. 1)」(F2025L01545・2025年12月11日制定/2025年12月15日登録)(https://www.legislation.gov.au/F2025L01545/asmade/text)。第9項の追加の一次情報として。第2条の施行(登録の翌日)、第3条の根拠、別表1の項目1(第1.5条への定義の挿入。認定機関、認定ID交換事業者、認定サービス、個人のデジタルID、デジタルID法2024、デジタルIDサービス、ID事業者、およびデジタル運転免許証の例示)、ならびに項目2(別表1の第8項の後への第9項「政府認定デジタルIDサービス」の挿入。同意、必要な情報の提供、デジタルID法に沿った検証、名称の記録という4条件と、認定を受けていないID事業者を通じた仲介に関する注記)を確認した。確認日は2026年9月10日。(2026年9月確認)