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EU重要原材料法|調達データの可視化
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 法律の位置づけ:重要原材料法は重要原材料の供給が途絶えるリスクへの包括的な対応として置かれた枠組みです*1。
- 2030年の目安:域内の採掘10%以上、加工40%以上、リサイクル25%以上、単一の第三国からは65%以下という目安が示されています*1。
- システムの宿題:「どの材料が、どの国から、どれだけ来ているか」を出せるか。購買データを材料の単位で集計できる形にすることです。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
半導体、電池、モーター、通信機器。これらを支える材料の多くが、特定の国に偏って産出・加工されています。その偏りが、供給の途絶というリスクとして意識されるようになりました。
EUの重要原材料法は、この状況への包括的な対応として置かれた枠組みです*1。2030年に向けて、域内での採掘は年間消費量の10%以上、加工は40%以上、リサイクルは25%以上、そして単一の第三国からの供給は年間消費量の65%以下——という目安が示されています*1。
本記事では、対象となる材料を使う製造業の情報システム部門と、その改修を受託する立場に向けて、企業側に何が求められるのか、購買や生産のデータをどう整えるべきかを整理します。適用の判断には法務の確認が要るため、実際の対応は最新の公式資料と確かめながら進めてください。
目次
枠組みの骨格——目標と、企業への要求
この法律には二つの層があります。EU全体としての目標と、企業に対する要求です。順に見ていきます*1。
域内の生産についての目安です。戦略的な原材料について、2030年に向けて域内での採掘が年間消費量の10%以上、加工が40%以上、リサイクルが25%以上という水準が示されています。あわせて、単一の第三国からの供給は年間消費量の65%以下という目安も置かれています*1。
この数字は、企業に直接課される義務ではなくEU全体としての目標です。ただし、こうした方向へ政策が動くということは、調達の環境が変わっていくという意味を持ちます。
戦略的プロジェクトの仕組みです。選ばれたプロジェクトについては、許認可の期限が短縮されます。採掘のプロジェクトは27か月、加工とリサイクルのプロジェクトは15か月という期限が示されています*1。域内での供給を増やすための後押しです。
企業への要求です。戦略的な技術を生産する大企業に対して、供給の途絶に備える義務が置かれています*1。あわせて、重要原材料の供給網を監視し、ストレステストを行う枠組みが用意されます*1。
そしてリサイクルの要件です。永久磁石については、リサイクルのしやすさと再生材の含有率についての要件が設けられるとされています*1。モーターや発電機を作る企業には直接の影響がある部分です。
日本企業から見ると、関わり方は三通りに分かれます。第一に、EU域内で戦略的な技術を生産している立場。第二に、EU向けの製品へ部品や材料を供給している立場。第三に、EUの調達環境の変化を受ける立場——自社が使っている材料の入手性や価格が変わるという意味です。
ストレステストに答えるには、データが要る
企業への要求のなかで、システムに直接効いてくるのが供給網の監視とストレステストです*1。この要求に答えるには、何が必要になるのか。
ストレステストとは、要するに「もしこの供給が止まったら、何が作れなくなるか」を答えることです。答えるためには、次の連鎖を辿れる必要があります。
| 辿る対象 | 問われること | よくある現状 |
|---|---|---|
| 製品と部品 | どの製品が、どの部品を使っているか | 部品表として持てている。ここは比較的整っている |
| 部品と材料 | その部品が、どの材料を含んでいるか | 持っていないことが多い。仕入先の型番までで止まる |
| 材料と産地 | その材料が、どの国から来ているか | ほぼ持っていない。仕入先も答えられない場合がある |
| 量の把握 | それぞれどれだけ使っているか | 購買金額では持てているが、材料の重量では持てていない |
| 代替の有無 | 止まったとき、他で置き換えられるか | 担当者の頭の中にあり、データになっていない |
この表からわかるのは、詰まる箇所が「部品と材料」「材料と産地」の二段だという点です。部品表は多くの企業が持っていますが、その部品が何からできているかは、仕入先の情報に依存します。
ここを埋めるには、取引先へ問い合わせる作業が要ります。ただし、相手も自分の仕入先に問い合わせる必要があるため、連鎖の奥へ行くほど回答に時間がかかり、精度も落ちます。
実務としては、全部を同じ精度で埋めようとせず、影響の大きいところから埋めるのが現実的です。売上の大きい製品、供給が途絶えたときに代替が難しい部品。ここから順に辿ります。調達管理の仕組みで扱うような購買データの整備が土台になります。
購買データを「材料の単位」で見られるようにする
多くの企業の購買データは、取引先と品番の単位で持たれています。これを材料の単位で集計できるようにするのが、この対応の核心です。
第一に、材料のマスタを作ることです。対象となる材料の一覧を持ち、それぞれに識別子を与えます。名称の表記が揺れると集計できないため、正式な名称と別名を対応づける表も必要になります。
第二に、部品と材料を結ぶことです。一つの部品が複数の材料を含み、その配合が数量として持てる形。部品表の一段下に、材料の層を作るイメージです。
第三に、産地の情報を持つことです。材料ごと、あるいはロットごとに、どの国から来たのか。ここは取引先からの情報に依存するため、いつの時点の情報か、誰の申告かを添えて持つ必要があります。
第四に、集計の経路を作ることです。製品の生産数量から部品の使用量を出し、部品の配合から材料の使用量を出し、産地ごとに合計する。この計算を回せる仕組みが要ります。
ここまで揃えば、「どの材料が、どの国から、どれだけ来ているか」を出せる状態になります。そして、その数字が出れば依存度の高い箇所が見え、備えの議論ができるようになります。
見せ方も設計に含めます。数字だけを並べても判断に使えません。どの材料の依存度が高いのか、どの製品が影響を受けるのか——この見方で示せる形が要ります。データの可視化で扱うような、判断に使える形での表示を設計します。
なお、この構造は他の要求にも使えます。輸出管理の該非判定、含有物質の管理、そして排出量の算定。いずれも「部品の下に材料の層がある」という構造を前提にします。輸出入の管理で扱うような枠組みと合わせて設計すると、一度の投資で複数の要求に応えられます。
リサイクルの要件——磁石という具体例
永久磁石について、リサイクルのしやすさと再生材の含有率に関する要件が設けられるとされています*1。これは製品の設計と、データの両方に関わる話です。
設計への影響です。磁石を取り外しやすい構造にする、接着ではなく機構で固定する、材質を分離できるようにする。設計の判断が要る領域です。
データへの影響です。使っている磁石の再生材の含有率を、部品ごとに持つ必要が出てきます。これは包装の再生材と同じ構造の問題で、取引先から情報を集める仕組みが要ります。
表示や情報提供への影響です。要件の詳細によっては、製品に付随する情報として示す必要が出る可能性があります。製品ごとに情報を紐づけて出せる仕組みを持っておくと、要求が固まったときに対応しやすくなります。
この論点は、製品の情報をまとめて示す枠組みとも重なります。デジタル製品パスポートで扱うような、製品に紐づく情報を持って外へ示す仕組みは、こうした要件の受け皿になります。別々に作るより、一つの仕組みとして設計するほうが効率的です。
モーターや発電機、スピーカー、センサーなど、磁石を使う製品は幅広くあります。自社の製品のどこに磁石が入っているかを、部品表から洗い出す作業が最初の一歩になります。
備えとしての判断——データが出たあとの話
データが整えば、次は判断です。システムの役目は判断を支えることなので、どう使われるかを想定して設計しておく価値があります。
代替の検討です。依存度の高い材料について、他の産地から調達できるか、別の材料に置き換えられるか。この検討には、材料の仕様と用途の情報が要ります。
在庫の水準です。供給が止まったときに何か月耐えられるか。この計算には、在庫量と消費のペースが要ります。需要の予測で扱うような仕組みがあれば、消費のペースを見立てる材料になります。
設計の見直しです。使用量そのものを減らす、あるいは使わない設計に変える。長期の判断になりますが、依存度が高い材料については検討の対象になります。
供給網の把握の深さです。直接の仕入先だけでなく、その先まで見るのか。深く見れば把握は増えますが、労力も増えます。どこまで見るかは、材料の重要度で決めることになります。
これらの判断は、事業と調達の領域です。システムの側は、判断に必要な数字を出せる状態を作ることに集中します。逆に言えば、どの数字が必要かを事業側と決めないまま作ると、使われない仕組みになります。
事業継続の枠組みを持っている企業では、そこに材料の観点を足す形が素直です。事業継続の備えで扱うような、途絶を想定した検討の枠組みに、材料の依存度という切り口を加えます。
受託・委託で進めるときの要点
この種の改修を外部と進める場合の要点を挙げます。
第一に、既存データの調査を独立した工程にすることです。部品表がどこまで整っているか、購買データと部品表が結べるか。この調査で改修の範囲が決まります。
第二に、材料マスタの設計を最初の成果物にすることです。対象材料の一覧と識別子、名称の対応表。ここが決まれば、後の集計は組み立てられます。逆に画面から作り始めると、集計に必要な項目が足りなくなります。
第三に、必要な数字を事業側と合意することです。どの単位で、どの切り口で見たいのか。ここを決めずに作ると、出せる数字と使いたい数字が噛み合いません。
第四に、取引先への問い合わせの担い手を決めることです。材料や産地の情報を集める作業は、調達部門の領域です。開発側は受け取る仕組みを作る役割に集中します。
第五に、他の要求と合わせて設計することです。輸出管理、含有物質、排出量、製品情報の提示。同じ「部品の下に材料の層を持つ」構造を必要とする要求が複数あります。まとめて設計すれば、投資が一度で済みます。
体制としては、調達と設計の業務を理解している要員が入れるかが分かれ目になります。データ構造だけを設計する体制では、部品の配合や代替の可否という実務の勘所に届きません。業務側と設計側が同じ場で話せる形を作れるかを、委託先を選ぶ観点に入れておくとよいでしょう。
まとめ:EU重要原材料法への備えで押さえる3つの視点
EUの重要原材料法は、重要原材料の供給が途絶えるリスクへの包括的な対応として置かれた枠組みで、2030年に向けて域内の採掘が年間消費量の10%以上、加工が40%以上、リサイクルが25%以上、単一の第三国からの供給が65%以下という目安を示し、戦略的プロジェクトの許認可期限(採掘27か月、加工・リサイクル15か月)や、戦略的技術を生産する大企業へのリスクへの備えの義務、供給網の監視とストレステストの枠組み、永久磁石のリサイクルに関する要件を置いています。押さえたい視点は三つです。第一に、ストレステストに答えるには「製品→部品→材料→産地」という連鎖を辿る必要があり、多くの企業は「部品と材料」「材料と産地」の二段で詰まること。第二に、購買データを取引先と品番の単位から材料の単位で集計できる形へ変えることが対応の核心であり、材料マスタ、部品と材料の結び、産地の情報、集計の経路という四つを順に整えることになること。第三に、輸出管理や含有物質、排出量、製品情報の提示といった他の要求も同じ「部品の下に材料の層を持つ」構造を必要とするため、まとめて設計すれば投資が一度で済むことです。まずは部品表と購買データが結べるかの調査から着手するのが堅実でしょう。
よくある質問
日本企業にも関係しますか。
関わり方は三通りに分かれます。EU域内で戦略的な技術を生産している立場、EU向け製品へ部品や材料を供給している立場、そしてEUの調達環境の変化を受ける立場です。三つめは義務ではありませんが、材料の入手性や価格が変わるという形で影響が及びます。まずは自社がどこに当たるかを確かめてください。
いちばん大きな障壁はどこですか。
「部品と材料」「材料と産地」の二段です。部品表は多くの企業が持っていますが、その部品が何からできているか、その材料がどの国から来たかは、仕入先の情報に依存します。連鎖の奥へ行くほど回答に時間がかかり精度も落ちるため、影響の大きい製品と部品から順に埋める進め方が現実的です。
どこから着手すべきですか。
部品表と購買データが結べるかの調査です。そのうえで対象材料の一覧と識別子を持つマスタを作り、部品と材料を結ぶ層を用意します。ここが整えば、製品の生産数量から材料の使用量と産地別の合計を出す集計は組み立てられます。
永久磁石の要件は何に影響しますか。
設計とデータの両方です。設計では取り外しやすい構造や材質を分離できる作りが問われ、データでは使っている磁石の再生材の含有率を部品ごとに持つ必要が出てきます。まずは自社の製品のどこに磁石が入っているかを部品表から洗い出す作業が第一歩になります。
他の制度対応と一緒に進められますか。
進められます。輸出管理の該非判定、含有物質の管理、排出量の算定、製品情報の提示——いずれも「部品の下に材料の層を持つ」という構造を前提にします。別々に作ると同じ情報を重複して集めることになるため、まとめて設計するほうが投資も運用も軽くなります。
調達データの可視化・構造設計はLASSICへ
元請(プライムベンダー)として、材料マスタの設計から部品表との接続、産地情報の受付、材料単位での集計と可視化までご提案します。まずはお気軽にご相談ください。
出典
- *1 参考:European Commission「Critical Raw Materials Act」(https://single-market-economy.ec.europa.eu/sectors/raw-materials/areas-specific-interest/critical-raw-materials/critical-raw-materials-act_en)。2030年に向けた採掘・加工・リサイクルの水準と単一第三国依存の上限、戦略的プロジェクトの許認可期限、大企業へのリスクへの備えの義務、供給網の監視とストレステスト、永久磁石のリサイクル要件の一次情報として(2026年8月確認)