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メッセージキューとは|仕組みと非同期連携
「システム連携の設計で『メッセージキューを挟みます』という説明を受けたが、なぜ直接つなげずに、わざわざ間に何かを置くのか腑に落ちない」——IT事業部でシステム間連携やインフラ構成の提案を確認する立場にいると、こうした疑問を抱くことがあるのではないでしょうか。メッセージキューは、複数のシステムやプログラムを非同期につなぐための、よく使われる仕組みです。画面に現れるものではなく、システムの裏側で動くため、発注者やPMにとってはイメージしづらい領域になりがちでしょう。しかし、その役割を大まかにでも理解しておくと、なぜその構成が選ばれたのか、どんな利点と注意点があるのかを判断しやすくなります。本記事では、特定の製品の設定手順ではなく、メッセージキューとはそもそも何を指すのか、なぜ使われるのか、同期的なAPI連携やWebhookと何が違うのかを、発注・運用の視点から順に整理します。専門用語をすべて覚える必要はありませんが、「送る側と受け取る側の間に、なぜ緩衝材を置くのか」という勘所をつかんでおくと、ベンダーとの会話の解像度が変わってくるはずです。
メッセージキューとは何か
メッセージキューとは、あるシステムから別のシステムへデータ(メッセージ)を受け渡す際に、送る側と受け取る側の間に置く「一時的な預かり場所」の仕組みです。送信側はメッセージをキューに預けるだけで、相手がいま処理できる状態かどうかを気にせず次の作業に移れます。受信側は、自分が処理できるタイミングでキューからメッセージを取り出して処理します。両者が直接つながらず、キューを介してやり取りする点が大きな特徴です。
身近なたとえで言えば、宅配ボックスに近いものと考えると分かりやすいでしょう。配達員は受取人が在宅かどうかを気にせず、荷物を宅配ボックスに預けて次の配達へ向かえます。受取人は都合のよいときに荷物を取り出せるのです。もし宅配ボックスがなければ、配達員は受取人が在宅になるまで待つか、何度も再配達に来る必要があり、双方の都合が合わないと荷物は届きません。メッセージキューは、この宅配ボックスのように、送り手と受け手の「時間のズレ」を吸収する役割を担っています。
この「間に預かり場所を挟む」という発想が、システム連携にさまざまな利点をもたらします。次の図は、送信側がキューにメッセージを預け、受信側が自分のペースで取り出して処理する流れを、単純化して示したものです。
この記事のポイント
- メッセージキューとは、送信側と受信側の間に「一時的な預かり場所」を置き、両者を非同期につなぐ仕組みです。
- 疎結合・負荷の平準化・処理の信頼性という3つの利点があり、アクセス急増や一部停止に強い連携を組みやすくなります。
- 運用では、重複配信への備え(冪等性)、順序、処理できなかったメッセージの退避、監視といった観点を押さえておく必要があります。
なぜメッセージキューを使うのか
送る側と受け取る側を直接つなげば済むように思えても、間にキューを挟むことで得られる利点があります。代表的なものは次の3つです。
一つ目は疎結合です。送信側は受信側の状態や処理速度を気にせず、メッセージを預けるだけで済みます。受信側の仕様が変わっても、送信側に影響が及びにくくなり、システムどうしの結びつきをゆるやかに保てるのです。片方を停止してメンテナンスする間も、もう片方は動き続けられるといった柔軟さも生まれます。
二つ目は負荷の平準化(バッファリング)です。短時間にアクセスや処理依頼が集中しても、いったんキューが受け止めてくれるため、受信側は自分の処理能力に見合ったペースで少しずつ捌けます。直接つないでいると、急増した依頼をさばききれずに受信側が過負荷で倒れることもありますが、キューが緩衝材となって、こうした事態を避けやすくなります。セール時の注文処理のように、波のある業務と相性のよい仕組みです。
三つ目は処理の信頼性です。受信側が一時的に停止していても、メッセージはキューに残るため、復旧後に取り出して処理を再開できます。処理に失敗したメッセージを後でやり直す仕組みも組み込みやすく、「送ったはずのデータが消えてしまう」という事態を防ぎやすくなるのです。重要なデータのやり取りで、取りこぼしを抑えたい場面で力を発揮します。
たとえば、通販サイトで注文が入った瞬間に、在庫の引き当て・確認メールの送信・配送手配・ポイント付与といった複数の後続処理を走らせる場面を考えてみましょう。これらを注文の受付処理の中で同期的に一気に片づけようとすると、どれか一つが遅れただけで画面全体の応答が遅くなり、アクセスが集中する時間帯には処理が詰まりやすくなります。注文をいったんキューに預け、後続処理を受信側が順に片づける形にすれば、利用者を待たせずに受付を返しつつ、裏側の処理は落ち着いたペースで進められるのです。メッセージキューの利点は、こうした具体的な場面で実感しやすくなります。
同期API・Webhookとの違い
システム連携の方式には、同期的なAPI呼び出しやWebhookもあります。メッセージキューとの違いを、受け渡しの向きとタイミングの観点から整理したものが次の表です。それぞれ得意な場面が異なります。
| 方式 | 特徴と向く場面 |
|---|---|
| 同期API呼び出し | 呼び出した側が相手の応答を待ってから次へ進みます。すぐに結果が欲しい処理に向く一方、相手が遅い・停止していると自分も止まります。 |
| Webhook | イベント発生時に、情報を持つ側が相手へ通知を送ります。「起きたら教える」用途に向きますが、受信側が止まっていると取りこぼす可能性があります。 |
| メッセージキュー | 間に預かり場所を置き、非同期に受け渡します。相手の都合に依存せず、負荷の吸収や再処理に強い一方、即座の応答には向きません。 |
大まかに言えば、すぐに結果を返す必要がある処理は同期API、変化をその都度知らせたい連携はWebhook、相手の都合に左右されず取りこぼしなく届けたい・負荷を吸収したい処理はメッセージキュー、という使い分けになります。実際のシステムでは、これらを組み合わせて使うことも珍しくありません。どれか一つが万能というわけではなく、処理の性質に応じて選ぶという視点を持っておくとよいでしょう。
基本の登場人物と流れ
メッセージキューの仕組みは、大きく3つの登場人物で説明できます。メッセージを送る「送信側(プロデューサ)」、メッセージを一時的に預かる「キュー」、メッセージを取り出して処理する「受信側(コンシューマ)」です。基本的な流れは次のようになります。
- 送信側が、処理してほしい内容をメッセージとしてキューに預ける。
- キューが、そのメッセージを受信側に取り出されるまで保持する。
- 受信側が、自分の処理できるタイミングでメッセージを取り出す。
- 受信側が処理を終えたら、「処理済み」であることをキューに伝え、そのメッセージはキューから取り除かれる。
この「処理済みを伝える」という手順が、信頼性を支える鍵になります。受信側が処理の途中で停止してしまった場合、処理済みの合図が返らないため、そのメッセージはキューに残ったままになります。これにより、復旧後に改めて取り出して処理をやり直せるわけです。裏を返すと、同じメッセージが二度処理される場面も起こり得るため、その備えが運用上の論点になります。この点は次の章で触れます。
導入・運用で意識したい観点
メッセージキューは仕組み自体はシンプルですが、実運用で安定させるにはいくつか押さえておきたい観点があります。発注や設計方針の会話で出てくる代表的なものを挙げておきます。
第一に重複への備え(冪等性)です。前章のとおり、同じメッセージが複数回処理される場面は起こり得ます。受け取るたびに同じ処理を繰り返すと、たとえば同じ注文を二重に登録してしまうといった不具合につながりかねないのです。同じメッセージを何度処理しても結果が変わらないよう、受信側を設計しておく配慮が求められます。第二に順序です。預けた順にメッセージが処理されるとは限らない仕組みもあるため、順序が重要な業務では、順序を保つ設定や工夫が要るかどうかを確認しておく必要があります。
第三に処理できなかったメッセージの退避です。何度やり直しても処理に失敗するメッセージが、キューに残り続けて後続を滞らせることがあります。これを避けるため、一定回数失敗したメッセージを別の場所(デッドレターキューと呼ばれます)へ退避させ、後から原因を調べられるようにする仕組みが用意されていることが多いものです。第四に監視です。キューにメッセージがたまり続けていないか、処理の遅れが生じていないかを把握できるようにしておくと、受信側の不調やアクセス急増の予兆に早く気づけます。たまり具合を示す指標を監視の対象に含めておくと、運用の見通しが立てやすくなるでしょう。
方式を決める際は、いま挙げた観点をどこまで作り込むかも費用に響いてきます。順序保証や重複対策、退避や監視を手厚くするほど、設計・実装・運用の手間は増えるものです。求める信頼性の水準と、かけられるコストのバランスを、要件の段階で関係者とすり合わせておくと、過不足のない構成に落ち着きやすくなります。
導入形態としては、クラウド事業者が提供するマネージドサービス(AWSのSQS、Google CloudのPub/Sub、AzureのService Busなど)を使う形と、RabbitMQやApache Kafkaといったソフトウェアを自前で構築・運用する形があります。マネージド型は運用の負担を抑えやすく、まず試す段階に向くでしょう。大規模な流量や細かな制御が必要な場合に自前構築を選ぶこともありますが、その分だけ運用の知見が求められます。どちらが適するかは、扱う流量や求める制御の細かさ、社内の運用体制によって変わるため、提案の背景にある前提をベンダーに確認しておくと納得感が高まるはずです。なお本記事は特定製品の設定手順ではなく、メッセージキューという仕組みの考え方と、選定・運用で押さえたい観点に焦点を当てているものです。個別製品の詳細を詰める段階では、公式ドキュメントや実績のあるベンダーへの確認が別途必要になります。
まとめ
- メッセージキューとは、送信側と受信側の間に「一時的な預かり場所」を置き、両者を非同期につなぐ仕組みで、宅配ボックスのように時間のズレを吸収します。
- 疎結合・負荷の平準化・処理の信頼性という3つの利点があり、アクセス急増や一部停止に強い連携を組みやすくなります。
- すぐ結果が欲しいなら同期API、変化を知らせたいならWebhook、相手の都合に左右されず届けたいならメッセージキュー、と使い分けます。
- 送信側・キュー・受信側の3者で動き、「処理済みを伝える」手順が信頼性を支える一方、重複処理への備えが必要になります。
- 運用では、冪等性・順序・処理失敗メッセージの退避・監視といった観点を押さえておくと安定します。
- 本記事は特定製品の設定手順ではなく、メッセージキューという仕組みの考え方と選定・運用の観点の整理を狙いとしています。
よくある質問
メッセージキューとWebhookは、どう使い分ければよいですか。
Webhookは「変化が起きたことをその都度、相手に知らせたい」場面に向き、メッセージキューは「相手の都合に左右されず、取りこぼしなく届けたい・負荷を吸収したい」場面に向きます。Webhookは受信側が止まっていると取りこぼす可能性がありますが、メッセージキューは処理されるまでメッセージを保持するため、再処理に強い点が違いです。実際には、通知の受け取りはWebhook、その後の重い処理はキューへ、というように組み合わせて使われることも少なくありません。
同じメッセージが二重に処理されることはありますか。
起こり得ます。受信側が処理の途中で停止したり、処理済みの合図がうまく返らなかったりすると、同じメッセージが再び取り出されることがあるのです。そのため、同じメッセージを何度処理しても結果が変わらないように受信側を設計する「冪等性」の配慮が求められます。メッセージに含まれる一意のIDを記録しておき、処理済みのものはスキップする、といった作り込みが代表的な対応です。重複は起こり得る前提で設計しておくと、二重処理のような不具合を避けやすくなります。
メッセージの処理される順序は保証されますか。
仕組みや設定によって異なります。預けた順に処理されるとは限らないものもあれば、順序を保つ設定を備えたものもあるのです。順序が重要な業務では、その要件を満たせるかを設計段階で確認しておく必要があります。ただし、厳密な順序保証を求めると性能や拡張性に制約が生じる場合もあるため、本当に全体の順序が必要なのか、一部の範囲で保てれば足りるのかを整理してから選ぶと、過剰な作り込みを避けやすくなります。
小規模なシステムでもメッセージキューは必要ですか。
必須ではありません。すぐに結果が必要で、処理量も安定している連携であれば、同期的なAPI呼び出しで十分なことも多くあります。メッセージキューが力を発揮するのは、アクセスに波がある、相手の停止に備えたい、重い処理を後回しにしたい、といった場面です。規模が小さくても将来こうした要件が見込まれるなら、早めに検討する価値はありますが、必要性が薄い段階で導入すると運用の手間だけが増えることもあるため、要件に照らして判断するとよいでしょう。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
LASSICでは、国内ニアショア開発体制を活かし、メッセージキューを含む非同期処理・システム連携基盤の設計から、構築、重複や順序への対応、監視・運用保守までを一貫して支援する体制です。アクセス集中への備えや、既存システムの連携方式の見直し、処理の取りこぼしを防ぐ設計についてもご相談いただけます。要件定義の段階から実装、テスト、リリース後の運用・保守まで、工程を分けずに任せられる点も強みでしょう。連携方式の選び方に迷う段階からでも、ご相談ください。
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