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労働安全衛生管理システム開発の外注の進め方
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム開発・保守を受託
この記事のポイント
- 労働安全衛生管理システムは、ヒヤリハット・労働災害の報告から是正処置、リスクアセスメント、法令帳票までを現場起点で一元管理し、労災防止と法令順守を支える仕組みです。
- 健康管理・設備保全・品質管理・勤怠の各システムとは目的が異なり、切り分けと連携の設計が外注時の要点になります。
- 労働者死傷病報告の電子申請義務化(令和7年1月施行)や化学物質の自律的管理など、法改正への追随力が外注先選定の分かれ目です。
目次
労働安全衛生管理システムとは——労災防止と法令順守を現場から支える仕組み
労働安全衛生管理システムとは、職場のヒヤリハットや労働災害の報告、是正処置、危険性・有害性の調査(リスクアセスメント)、教育・資格の記録、法令に基づく帳票の作成までを一元的に扱う業務システムを指します。目的は明快で、労働災害を未然に防ぎ、労働安全衛生法が求める記録と報告をもれなく残すことにあります。
製造・建設・物流の現場では、報告書や点検表が紙やExcelに散在しがちです。ヒヤリハットの用紙が箱に溜まったまま集計されず、せっかくの気づきが再発防止につながらない——こうした課題は珍しくありません。システム化の狙いは、現場からの報告を一次データとして取り込み、リスク評価や是正処置、行政への報告まで途切れさせない点にあります。
厚生労働省が公表した令和6年の労働災害発生状況(確定値、令和7年5月30日公表)によると、休業4日以上の死傷者数は13万5,718人で、4年連続の増加でした*1。死亡者数は746人と過去最少になったものの、依然として多くの労働者が被災しています*1。現場の危険を可視化し、対策の履歴を残す基盤の重要性は増しています。
健康管理・設備保全・品質管理・勤怠システムとの違いと連携
労働安全衛生管理システムは、隣接するシステムとしばしば混同されます。まず整理したいのが、目的とデータの持ち主の違いです。ここを曖昧にしたまま要件を固めると、機能が重複したり、逆に抜け落ちたりします。
健康管理・ストレスチェックシステムは、健康診断結果や産業保健の情報を扱い、産業医や保健スタッフが主な利用者です。一方、労働安全衛生管理システムの軸足は、現場の危険源とその是正、労働災害の防止にあります。両者は取り扱う情報の性質が異なるものの、産業医の面談や職場巡視の所見などでは連携が生きてきます。健康情報は要配慮個人情報にあたるため、連携時のアクセス範囲は慎重に切り分けたいところです。
設備保全管理システム(CMMS)は設備の故障・点検を管理し、品質管理システム(QMS)は不適合や検査記録を扱います。労働安全衛生の観点は「人の被災を防ぐ」ことにあり、対象は設備や製品ではなく作業と人です。ただし設備点検の記録や不適合情報は、危険源の特定に役立つ場面が少なくありません。勤怠管理システムとは、作業者の就業実態や長時間労働の把握という接点があります。
下表に、それぞれの主目的と連携ポイントを整理しました。
| システム | 主な目的 | 労働安全衛生管理システムとの連携 |
|---|---|---|
| 健康管理・ストレスチェック | 健診結果・産業保健情報の管理 | 産業医面談・職場巡視の所見を共有(要配慮個人情報のため範囲を限定) |
| 設備保全管理(CMMS) | 設備の点検・保全業務の管理 | 設備の不具合情報を危険源の特定に活用 |
| 品質管理(QMS) | 不適合・検査記録の管理 | 不適合の是正フローと是正処置の運用を統一 |
| 勤怠管理 | 就業時間・休暇の管理 | 長時間労働者の把握・面接指導の勧奨に活用 |
| 労働安全衛生管理 | 労災防止・法令帳票・現場報告 | 上記の情報を危険源管理と行政報告に集約 |
システムが担う主な機能——報告・是正・リスクアセスメント・教育・化学物質管理
ヒヤリハット・労働災害の報告と是正処置
中核になるのが、現場からの報告を受け付ける機能です。ヒヤリハットや事故の第一報をスマートフォンから写真つきで登録できると、報告のハードルが下がります。登録された事案は担当者に自動で回り、原因分析と是正処置、対策の完了確認までをワークフローで追跡します。是正の期限管理や、類似事案の再発チェックまで担えると運用が回りやすいでしょう。
危険性・有害性の調査(リスクアセスメント)
リスクアセスメントとは、危険性または有害性を特定し、労働災害の発生確率と重篤度の組み合わせでリスクの大きさを見積もり、低減措置の優先度を決めて実施する一連のプロセスです*2。労働安全衛生法第28条の2は、事業者に対してこの調査と必要な措置を努力義務として求めています*2。システムでは、作業ごとの危険源を台帳化し、評価点数や対策の履歴を残せる設計が実務的です。
作業員・資格・教育の管理
危険を伴う作業には、資格や特別教育の修了が前提となるものがあります。誰がどの資格を持ち、いつ更新期限を迎えるのかを一元管理できると、無資格作業のリスクを抑えられるでしょう。労働安全衛生法は、雇入れ時や作業内容の変更時などに必要な教育を定めており、その受講記録を紐づけて残せると法令順守の説明もしやすくなります。
SDS・化学物質管理と巡視・点検
化学物質を扱う現場では、SDS(化学品の危険有害性を記載した文書)の管理や、化学物質のリスクアセスメントが欠かせません。取り扱う物質、保管場所、ばく露防止の措置を台帳化しておくと、行政の確認や社内監査にも対応しやすくなります。あわせて、職場巡視や設備点検のチェックリストをデジタル化すれば、指摘事項と是正の履歴が途切れずに残るでしょう。
法令に基づく帳票と衛生委員会の運営支援
労働安全衛生法は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に、衛生管理者や産業医の選任、衛生委員会の設置を義務づけています*5。一定の業種では安全管理者の選任も必要です*5。システムに議事録や点検記録を集約しておくと、委員会での報告資料や行政向けの帳票を効率よく整えられます。
法改正への追随が要になる領域——死傷病報告の電子化と化学物質の自律的管理
労働安全衛生の分野は、法令の見直しが続いています。システムを長く使うなら、改正に追随できる設計と保守体制が要です。近年の代表的な動きを2つ取り上げます。
1つ目が、労働者死傷病報告の電子申請義務化です。厚生労働省によると、令和7年(2025年)1月1日から報告事項が改正され、電子申請が原則として義務づけられました*3。パソコン端末を持たないなどの事情で電子申請が困難な場合には、当分の間、書面による報告も認められています*3。定期健康診断結果報告や管理者・産業医の選任報告など、複数の報告も電子申請の対象に加わりました*3。システムから所定の様式でデータを出力し、電子申請へつなげられると、事務負担を抑えられます。
2つ目が、化学物質管理の見直しです。厚生労働省は、国が個別に規制する従来型から、事業者が情報に基づいて自ら措置を選ぶ「自律的な管理」を基軸とする仕組みへ転換しました*4。令和6年4月1日以降、リスクアセスメント対象物を製造・取扱い・譲渡提供する事業場には、化学物質管理者の選任が義務づけられています*4。ラベル表示やSDS交付、化学物質のリスクアセスメントの実施が管理者の職務に含まれます*4。対象物質は段階的に拡大しており、システム側でも物質台帳を更新しやすい構造が求められます。
これらは一例にすぎません。法改正のたびに帳票の様式や必須項目が変わるため、変更を柔軟に反映できるかどうかが、システムの寿命を左右します。パッケージであれば提供元の更新方針、スクラッチであれば保守契約の範囲を、事前に確認しておきたいところです。
パッケージ(労働安全衛生SaaS)とスクラッチ開発の判断軸
労働安全衛生管理システムの導入には、大きく2つの道があります。既製の労働安全衛生向けSaaSやパッケージを使う方法と、自社の業務に合わせてスクラッチで開発する方法です。どちらが適するかは、現場の運用と要件の固有性で決まります。
パッケージの強みは、導入までが速く、法改正への対応を提供元が担う点にあります。ヒヤリハット報告やリスクアセスメント、教育管理といった一般的な機能がそろっており、初期費用も抑えやすいでしょう。反面、自社独自の作業手順や、既存の人事・健康管理システムとの細かな連携には、標準機能だけでは届かない場面があります。
スクラッチ開発は、現場の帳票や承認フローをそのまま作り込める柔軟さが魅力です。建設業の元請(プライムベンダー)が協力会社をまたいで安全管理を統括する、といった固有の運用にも対応できる点が強みです。ただし開発期間と費用がかさみ、法改正への追随も自社側の保守として抱える必要があります。近年は、パッケージを土台にしつつ、連携部分だけを個別開発する折衷型も選ばれています。
判断の目安を挙げると、標準機能で業務の8割が回るならパッケージ、現場固有の運用や複雑な連携が中心ならスクラッチや折衷型が向きます。まずは自社の業務要件を棚卸しし、譲れない要件と標準に寄せられる要件を仕分けることが出発点です。
外注で進める場合の確認点——現場モバイル報告・法改正追随・既存連携
開発を外部に委託する場合、発注者側で押さえておきたい確認点があります。仕様書だけでは埋もれがちな、現場運用に直結する観点を中心に整理します。
第一に、現場からのモバイル報告の使い勝手です。手袋をしたまま、あるいは屋外の明るい場所でも入力しやすいか、通信環境が悪い現場でオフライン登録に対応できるか。報告のしやすさが、そのまま報告件数と労災防止の効果を左右します。試作段階で現場の担当者に触ってもらい、入力の負担を確かめることをおすすめします。
第二に、法改正への追随体制です。前述の死傷病報告の電子化や化学物質管理の見直しのように、制度は継続的に変わります*3*4。改正時に帳票様式や項目をどう更新するのか、その費用と期間が保守契約に含まれるのかを、契約前に明確にしておきましょう。委託先が労働安全衛生の法令に明るいかどうかも見極めたいポイントです。
第三に、既存システムとの連携範囲です。人事システムから従業員・組織のマスタを取り込めるか、健康管理システムとの連携で要配慮個人情報のアクセス制御を適切に設計できるか。連携の設計を後回しにすると、二重入力や情報の不整合が生じやすくなります。
委託範囲の広さは、外注先を選ぶうえでの分かれ目になります。要件定義から現場での試行、法改正時の保守までを一貫して依頼できるかどうかを、早い段階で確認しておくとよいでしょう。現状の業務要件を棚卸しし、内製で担う範囲と外注する範囲を切り分けることが、失敗の少ない進め方です。
まとめ:労働安全衛生管理システム開発の外注で押さえる3つの判断軸
本稿では、労働安全衛生管理システムの役割と外注の進め方を、厚生労働省の一次情報をもとに整理しました。要点は3つに集約できます。第一に、このシステムの軸足は労災防止と法令順守にあり、現場からの報告のしやすさが成果を左右します*1。第二に、健康管理・設備保全・品質管理・勤怠の各システムとは目的が分かれるため、切り分けと連携の設計が欠かせません。第三に、死傷病報告の電子化や化学物質の自律的管理といった法改正への追随力が、パッケージとスクラッチの選択と外注先選定を左右します*3*4。自社の業務要件を棚卸ししたうえで、内製と外注の切り分けを検討することが実務的な第一歩になるでしょう。
よくある質問
労働安全衛生管理システムと健康管理システムは何が違いますか。
健康管理システムは健診結果や産業保健の情報を扱い、産業医や保健スタッフが主な利用者です。一方、労働安全衛生管理システムは現場の危険源や労働災害の防止に軸足があります。両者は目的が異なりますが、産業医の職場巡視の所見などでは連携が生きるでしょう。健康情報は要配慮個人情報にあたるため、連携時はアクセス範囲を限定して設計することが望まれます。
まず既製のパッケージから検討すべきでしょうか。
標準機能でヒヤリハット報告やリスクアセスメント、教育管理などの業務がおおむね回るなら、導入が速く法改正対応を提供元が担うパッケージが有力です。反面、現場固有の帳票や既存システムとの細かな連携が中心なら、スクラッチや折衷型が向きます。まず業務要件を棚卸しし、標準に寄せられる要件と譲れない要件を仕分けることをおすすめします。
法改正が続く分野ですが、システムはどう追随させればよいですか。
労働者死傷病報告は令和7年1月1日から電子申請が原則義務化され、化学物質は令和6年4月から自律的な管理を基軸とする仕組みへ移行しています。帳票様式や必須項目の変更に柔軟に対応できる設計と、改正時の更新を含む保守契約が重要です。委託先が労働安全衛生の法令に明るいかどうかも確認しておきましょう。
現場での報告を根づかせるには何が大切ですか。
報告の入力負担を下げることが第一です。スマートフォンから写真つきで数タップで登録できる、通信環境の悪い現場でもオフラインで入力できるといった配慮が報告件数を左右します。試作段階で現場の担当者に実際に触ってもらい、手袋をしたままの操作性などを確かめると、定着しやすくなります。
開発を外注する際、契約前に確認すべき点は何ですか。
現場モバイル報告の使い勝手、法改正への追随体制、既存システムとの連携範囲の3点をまず確認します。特に法改正時の帳票更新が保守契約に含まれるか、人事・健康管理システムとの連携でアクセス制御を適切に設計できるかは重要です。要件定義から現場の試行、保守までを一貫して委託できるかも見極めるとよいでしょう。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況を公表」(令和7年5月30日公表)(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58198.html)
- *2 出典:厚生労働省 職場のあんぜんサイト「リスクアセスメント」(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo01_1.html)
- *3 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されました(令和7年1月1日施行)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/denshishinsei_00002.html)
- *4 出典:厚生労働省「化学物質対策に関するQ&A(ラベル・SDS関係)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11237.html)
- *5 出典:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく管理者・産業医の選任義務(事業場規模別)」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/saigai/anzen/anzen00/5.html)