LASSIC Media らしくメディア
有価証券管理システムの選び方|時価評価と約定・受渡管理
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)として業務システムの開発・運用を受託
この記事のポイント
- 有価証券管理システムは、保有する株式や債券の残高・保有目的区分を管理し、期末の時価評価・評価損益・減損の計算、約定と受渡・利金配当の記録、会計・開示への連携までを一つの基盤で扱う仕組みです。銘柄選定や売買判断を行う投資助言の道具ではなく、あくまで保有分を管理する業務システムという位置づけになります。
- 保有目的による区分や時価評価・減損の考え方は、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」やその実務指針に定めがあり、時価の算定方法は企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」が公開されています。売買の認識時点についても、約定日基準を原則とする扱いが示されています。
- 資金繰りを扱う資金管理(TMS)やグループ決算を担う連結会計とは目的が異なります。外注時は、対象とする証券種別と区分、時価データの取得方法、評価・減損の計算ロジック、会計・開示との連携範囲を先に整理しておくと要件がぶれにくくなります。
目次
保有銘柄が増えると、Excelでの残高把握と期末の評価替えが重くなる
保有する株式や債券、投資信託の銘柄数が増えていくと、「いま何をどれだけ保有し、期末にいくらで評価するのか」を正確に押さえる作業が次第に重くなります。担当者が証券会社の取引報告書や残高報告書を見ながらExcelに銘柄・数量・取得原価を転記し、期末には市場価格を一件ずつ調べて評価額へ置き換える。こうした運用は、銘柄が数十を超えたあたりから急に負荷が跳ね上がりがちです。
負荷が高くなる理由は、単なる件数の多さだけではありません。有価証券は、保有目的によって会計上の扱いが分かれ、期末には市場価格に基づく評価替えや、価値が大きく下がった銘柄の減損の判定が必要になるからです。売買があれば約定日と受渡日の管理も生じ、債券の利金や株式の配当の入金も追わなければなりません。属人的なExcel運用のままだと、区分の取り違えや評価替えの転記ミスがそのまま決算数値の誤りにつながりかねず、担当者の不在が月次・期末の締めを止めるリスクにもなります。
本稿では、こうした保有有価証券の管理業務を一つの基盤にまとめる「有価証券管理システム」を整理します。なお本稿はシステムの機能や外注の観点をまとめたもので、銘柄の選定や売買のタイミングといった投資判断を助言する趣旨ではない点は、あらかじめお断りしておきたいところです。会計上の扱いについては、企業会計基準委員会(ASBJ)や日本公認会計士協会が公開する一次情報で確認できる範囲に沿って解説していきましょう。
有価証券管理システムとは、保有証券の区分・評価・約定を一元管理する仕組み
有価証券管理システムとは、企業が保有する株式・債券・投資信託などの有価証券について、残高と保有目的区分の管理、期末の時価評価と評価損益・減損の計算、売買の約定・受渡や利金・配当の記録、そして会計・開示への連携までを一元的に扱う業務システムを指します。個別の銘柄情報を台帳として持ち、決算に必要な評価額や損益を導き出すところまでを支える点が中核になるでしょう。
その土台になるのが、保有目的による区分の考え方です。企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」では、有価証券を保有目的に応じて、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式、その他有価証券の4つに区分するものとされています*1。この区分ごとに、貸借対照表に載せる評価の方法が変わってきます*1。
- 売買目的有価証券:時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益として処理します*1。
- 満期保有目的の債券:時価があっても原則として時価評価はせず、取得原価または償却原価法に基づく価額とします*1。
- 子会社株式及び関連会社株式:取得原価をもって貸借対照表価額とします*1。
- その他有価証券:時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は洗い替え方式に基づき純資産の部に計上する扱いが基本です*1。
システムは、この区分を銘柄ごとに保持したうえで、基準日の時価を取り込み、区分に応じた評価額と評価損益を機械的に計算します。区分の判定そのものは会計・財務の判断を伴うため、システムはあくまで判断結果を正しく反映し、計算と記録を担う役回りだと捉えておくと整理しやすいはずです。次章では、名前の似た資金管理(TMS)や連結会計との違いを見ていきます。
資金管理(TMS)・連結会計との違い——扱う対象と目的が異なる
有価証券管理システムは、資金管理システム(TMS)や連結会計システムと扱うデータが一部重なるため、混同されることがあります。もっとも、それぞれの目的は明確に異なります。
資金管理システム(TMS。Treasury Management System)は、グループ各社・各口座の資金ポジションを集約し、資金繰り予測や銀行接続、グループ資金集中(CMS)を担う仕組みです。中心にあるのは「現金がいつ、いくら動くか」という収支の時間軸になります。一方の有価証券管理は、保有している株式や債券という「資産そのもの」の残高・区分・評価を追う点に主眼があり、扱う対象が根本から違うわけです。
連結会計システムは、親会社と子会社の財務諸表を合算し、内部取引の消去などを経てグループ全体の連結財務諸表を作成する仕組みで、グループ決算が主目的になります。有価証券管理は、その連結会計へ渡す前段の「保有有価証券に関する評価・損益・注記の元データ」を整える工程を担う、と位置づけると分かりやすいでしょう。連結の枠組みそのものを扱うわけではありません。
| 観点 | 有価証券管理システム | 資金管理(TMS) | 連結会計システム |
|---|---|---|---|
| 主な対象 | 保有する株式・債券・投資信託などの有価証券 | 預金口座の残高と資金の入出金 | 親会社・子会社の財務諸表 |
| 主な目的 | 残高・区分の管理と時価評価・評価損益・減損の計算 | 資金ポジションの把握と資金繰り予測 | グループ連結財務諸表の作成 |
| 軸となる考え方 | 保有目的区分ごとの評価と会計処理*1 | 現金がいつ増減するかという収支の時間軸 | 内部取引の消去を含む合算 |
| 主な利用者 | 財務・経理の有価証券担当 | 財務・資金担当 | 連結決算の担当 |
これらは対立するものではなく、連携させて使うのが現実的です。有価証券管理システムが算定した評価額・評価損益・減損の結果を会計システムへ引き渡し、それが連結会計の入力になる、という流れが典型でしょう。役割を切り分けたうえで、どこまでを一つのシステムで担い、どこから他システムに委ねるかを整理しておくと、要件がはっきりします。
有価証券管理システムの機能要素——残高区分・時価評価・約定受渡・会計連携
有価証券管理システムを検討するには、中核となる機能の中身を押さえておく必要があります。ここでは、残高・区分の管理、時価評価と評価損益・減損、約定・受渡と利金・配当、会計・開示との連携という四つの柱に沿って、それぞれの勘所を整理していきましょう。
残高・区分の管理
出発点になるのが、保有する銘柄ごとの残高台帳です。銘柄名や証券コード、数量、取得日、取得原価といった基本情報に加え、前述の4区分(売買目的・満期保有目的・子会社関連会社・その他有価証券)のいずれに該当するかを保持します*1。同一銘柄を複数回にわたって取得した場合の取得原価の把握(移動平均法や総平均法など)も、この台帳が担う領域です。区分は会計処理を左右するため、区分の変更履歴を追える設計にしておくと、監査対応の際に説明がしやすくなります。
時価評価と評価損益・減損の計算
期末や月次の基準日には、市場価格などの時価を取り込み、区分に応じた評価を行います。時価の算定方法については、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」が2019年7月4日に公表されており、時価の算定に用いるインプットをレベル1からレベル3に分類して、優先順位に沿って用いる考え方が示されています*3。システムは、この時価に基づいて評価差額を計算し、区分ごとに損益計算書へ計上するのか純資産の部に計上するのかを振り分けます*1。
あわせて重要になるのが、減損の判定です。金融商品会計基準では、時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価を貸借対照表価額とし、評価差額を当期の損失として処理するものとされています*1。この「著しい下落」について、日本公認会計士協会の実務指針では、時価が取得原価に比べておおむね50%程度以上下落した場合を一つの目安とし、合理的な反証がない限り減損処理を行う扱いが示されています*2。システムに評価と減損の判定ロジックを組み込むと、期末ごとの手作業を減らしやすくなるでしょう。ただし回復可能性の判断には見積りが伴うため、最終的な判断は担当者に委ねる設計が現実的です。
約定・受渡と利金・配当の管理
売買が発生した場合は、約定と受渡を分けて記録する必要があります。金融商品会計基準の実務指針では、有価証券の売買契約について、原則として約定日に買手は有価証券の発生を認識し、売手は消滅を認識する「約定日基準」が示されています*2。約定日から受渡日までの時価変動などを反映する修正受渡日基準も認められており、いずれの方法を採るかで記録のタイミングが変わります*2。株式では約定日から起算して数営業日後に受渡が行われるため、約定日と受渡日をひも付けて管理できることが求められます*2。加えて、債券の利金(利息)や株式の配当の入金予定と実績の記録も、有価証券管理システムが扱う領域です。
会計・開示との連携
算定した評価額・評価損益・減損は、最終的に会計システムへ仕訳として引き渡します。有価証券の保有状況や時価は、財務諸表の注記としても開示の対象になるため、注記に必要な集計を出力できると実務の負担を抑えられるでしょう。会計システムやERP(統合基幹業務システム)との連携方式、出力する仕訳や注記データの様式を早い段階で定めておくと、二重入力や転記ミスを避けやすくなります。連携の設計は、次章で触れる外注時の確認点とも密接に関わってきます。
有価証券管理システムの開発を外注する際に確認したいこと
有価証券管理システムは、会計基準に沿った評価・減損の計算ロジックと、時価データの取得、会計・開示との連携が品質を大きく左右します。開発を外注する際は、次の点を委託先とすり合わせておくと、後戻りを抑えやすくなります。
対象とする証券種別と保有目的区分を明確にする
まず、株式・国内債券・外国債券・投資信託など、どの証券種別を対象にするかを洗い出しておくことが出発点になります。取り扱う区分が4区分すべてに及ぶのか、その他有価証券が中心なのかによって、必要な評価ロジックの範囲は変わってきます*1。外貨建ての有価証券を含む場合は、為替換算の扱いも論点に加わります。対象があいまいなままだと、特定の証券種別への対応が見積りから抜け落ちがちです。保有実態を棚卸しし、優先度を委託先と共有しておきましょう。
時価データの取得方法を設計する
時価評価の精度は、基準日の時価をどう取得するかに左右されます。市場価格を外部のデータ提供元から取り込むのか、証券会社からの報告データを利用するのか、取得の経路と頻度を早めに決めておくことが重要です。時価の算定方法は企業会計基準第30号が公開しているため、レベル分けの考え方を踏まえて、市場価格のない銘柄をどう扱うかまで委託先と確認しておくと、後工程の手戻りを減らせます*3。
評価・減損の計算ロジックを会計基準に沿って固める
評価損益の計上先(損益か純資産か)や減損の判定は、保有目的区分ごとに扱いが分かれます*1。その他有価証券の評価差額の処理方法(全部純資産直入法か部分純資産直入法か)や、減損の判定基準をどこまでシステムで自動化し、どこから人の判断を挟むのかを、要件段階で明確にしておく必要があります*1*2。会計基準や実務指針の解釈は自社の会計方針とも関わるため、経理・監査法人との認識合わせを前提に、委託先と仕様を詰めることが大切です。
会計・開示連携と保守体制を見据える
算定結果を会計システムへ渡す仕訳連携や、注記に用いる集計の出力様式は、既存システムの改修範囲にも関わります。連携方式やデータ様式を早めに固めておくと、二重入力を抑えられるでしょう。あわせて、会計基準や開示制度が改正された際に計算ロジックや様式をどう更新するか、改定時の保守体制まで含めて確認しておくと、運用開始後の負担を見通せます。稼働後の内製移管を見据えるなら、ドキュメントの整備状況も確かめておきたいところです。
まとめ:有価証券管理システムの選び方で押さえる要点
本稿では、有価証券管理システムの役割と機能要素を、金融商品会計基準など一次情報に沿って整理しました。要点は3つに集約できます。第一に、有価証券管理システムは、保有する株式・債券などの残高・保有目的区分を管理し、時価評価・評価損益・減損の計算、約定・受渡・利金配当の記録、会計・開示への連携までを一つの基盤で扱う仕組みです。保有目的による4区分と区分ごとの評価は、企業会計基準第10号に定めがあります*1。第二に、資金繰りを扱う資金管理(TMS)やグループ決算を担う連結会計とは、扱う対象と目的が異なります。第三に、外注時は対象とする証券種別と区分、時価データの取得方法、会計基準に沿った評価・減損の計算ロジック、会計・開示との連携範囲が確認の軸になります*1*2*3。自社の保有実態を棚卸ししたうえで、どこまでを一つのシステムで扱い、どこから人の判断や他システムに委ねるかを見極めることが、選び方の出発点になるといえるでしょう。
よくある質問
有価証券管理システムと資金管理システム(TMS)はどう違いますか。
資金管理システム(TMS)は、預金口座の資金ポジションを集約し、資金繰り予測や銀行接続を担う仕組みで、現金がいつ増減するかという収支の時間軸を軸にします。これに対し有価証券管理システムは、保有する株式や債券という資産そのものの残高・保有目的区分を管理し、時価評価や評価損益・減損を計算する仕組みです。扱う対象と目的が異なるため、両者は切り分けて要件を定めるのが実務的です。
有価証券は会計上どのように区分されますか。
企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」では、保有目的に応じて、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式、その他有価証券の4つに区分するものとされています*1。区分ごとに貸借対照表価額の評価方法が異なり、売買目的は時価評価で評価差額を当期の損益に、その他有価証券は時価評価で評価差額を純資産の部に計上するのが基本です*1。
減損の判定はシステムで自動化できますか。
金融商品会計基準では、時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、評価差額を当期の損失として処理するものとされています*1。実務指針では取得原価に比べおおむね50%程度以上の下落を一つの目安とする扱いが示されています*2。下落率の判定は自動化しやすい一方、回復可能性の判断には見積りが伴うため、最終判断は担当者が行う設計が現実的です。
有価証券の売買はいつ認識するのですか。
金融商品会計基準の実務指針では、有価証券の売買契約について、原則として約定日に買手が発生を、売手が消滅を認識する「約定日基準」が示されています*2。約定日から受渡日までの時価変動などを反映する修正受渡日基準も認められています*2。システムでは、約定日と受渡日をひも付けて管理し、採用する基準に沿って記録できることが求められます。
有価証券管理システムの開発を外注する場合、何を確認すればよいですか。
対象とする証券種別と保有目的区分、時価データの取得方法、会計基準に沿った評価・減損の計算ロジック、会計システムやERPとの連携範囲が、まず確認したい項目です*1*3。評価・減損の解釈は自社の会計方針や監査法人との認識合わせを前提とするため、どこまでを自動化し、どこから人の判断を挟むかを要件段階で明確にしておくことが大切です。制度改定への追随と保守体制、内製移管のしやすさもすり合わせておきましょう。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準」(https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/rev_f_instr2.pdf )
- *2 出典:日本公認会計士協会「会計制度委員会報告第14号 金融商品会計に関する実務指針」(https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/files/2-11-14-2-20150416.pdf )
- *3 出典:企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準第30号『時価の算定に関する会計基準』等の公表」(https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/accounting_standards/y2019/2019-0704.html )
- *4 出典:日本公認会計士協会「金融商品会計に関するQ&A」(https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/files/2-11-0-2-20150416.pdf )