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ステートフルとステートレスの違い|設計の基礎
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム開発・検証を受託
Webシステムやアプリケーションの設計を検討していると、「このAPIはステートレスに作る」「ログイン状態をどう保持するか」といった言葉が頻繁に登場します。ステートフルとステートレスは、サーバが利用者の状態(セッションや処理の途中経過)を保持するかどうかという、設計の根っこに関わる考え方の違いです。どちらを選ぶかによって、スケールアウトのしやすさや障害への強さ、実装の複雑さが大きく変わってきます。
本記事では、ステートフルとステートレスという二つの設計方針の違いを、仕組み・スケーラビリティと障害耐性・状態の置き場所・使い分けの判断軸という観点から整理します。特定のミドルウェアや製品には深入りせず、発注担当者・PM・設計者が押さえておきたい「考え方の違い」に焦点を当てて解説します。
この記事のポイント
- ステートフルはサーバが利用者ごとの状態を保持する設計、ステートレスは各リクエストを独立したものとして扱い状態を持たない設計という、正反対の考え方です。
- ステートレスはどのサーバでもリクエストを処理できるためスケールアウトや障害時の切り替えと相性がよく、ステートフルは特定サーバへの固定(セッションアフィニティ)が必要になりやすい傾向があります。
- HTTPやREST APIの多くは基本的にステートレスに設計され、リアルタイム通信や対話的な処理の一部ではステートフルな仕組みが選ばれるなど、用途に応じた使い分けが求められます。
目次
ステートフルとは(状態を保持する仕組み)
ステートフル(stateful)とは、サーバ側が利用者ごとの状態、つまり過去のやり取りや処理の途中経過を保持し続ける設計を指します。利用者が最初にログインした際の情報や、複数の画面をまたいで入力してきた内容などを、サーバが「覚えている」状態です。
身近な例:ログインセッション
会員制サイトへのログイン機能はステートフルな仕組みの代表例です。利用者がIDとパスワードでログインすると、サーバはそのログイン状態をセッションという形で保持し、以降のリクエストでは「すでにログイン済みの利用者」として扱います。利用者側は毎回IDとパスワードを送り直す必要がなく、快適に利用を続けられるわけです。
状態を持つことの意味
ステートフルな設計では、あるリクエストへの応答が、それ以前のリクエストで蓄積された状態に依存します。同じ利用者からの二回目のリクエストであっても、一回目のリクエストの結果によって挙動が変わり得る点が特徴です。この「文脈を踏まえた処理」が可能になる一方で、その文脈(状態)をどこかに保持し続ける負担も発生します。
ステートレスとは(状態を保持しない仕組み)
ステートレス(stateless)は、ステートフルとは逆に、サーバ側が利用者ごとの状態を保持しない設計です。各リクエストは完全に独立したものとして扱われ、そのリクエスト自体に含まれる情報だけで処理が完結します。
身近な例:多くのREST API
一般的なREST APIの設計では、リクエストのたびに必要な情報(認証トークンや対象のIDなど)をすべて含めて送信し、サーバ側はそのリクエスト単体を見て処理を行います。前回のリクエストで何が起きたかをサーバが覚えている必要はなく、どのサーバがリクエストを受けても同じ結果が返る設計が基本になります。
状態を持たないことの意味
ステートレスな設計では、リクエストとリクエストの間に依存関係がありません。裏を返せば、ログイン状態のように本来必要な情報も、毎回のリクエストに含めるか、外部の仕組みで補う必要があるということです。この「状態をどう外に出すか」という工夫が、ステートレス設計を実現するうえでの要点になります。
両者の違い:対比表とフロー図
ステートフルとステートレスは、どちらも同じ「Webシステムでリクエストを処理する」という目的を持ちながら、状態の扱い方という前提がまったく異なります。主な観点を次の表に整理します。
| 観点 | ステートフル | ステートレス |
|---|---|---|
| 基本の考え方 | 状態を保持し続ける「記憶型」 | 状態を保持しない「都度完結型」 |
| 状態の保持場所 | サーバ(メモリなど)が保持 | リクエスト自体や外部ストア・クライアントが保持 |
| リクエスト間の関係 | 前のリクエストの結果に後続が依存する | 各リクエストが完全に独立している |
| 処理するサーバ | 状態を持つ特定サーバに固定されやすい | どのサーバが処理しても同じ結果になりやすい |
| スケールアウトのしやすさ | 状態の共有・引き継ぎの設計が必要 | サーバを増減させやすい |
| 障害時の影響 | 状態を保持していたサーバの障害で影響が出やすい | 別サーバへの切り替えが比較的容易 |
| 実装の複雑さ | 状態の保持・整合性の管理が必要 | 状態を外部化する仕組みの設計が必要 |
対比表からわかるとおり、ステートフルとステートレスはどちらか一方が常に優れているという関係ではなく、状態をどこで・誰が持つかというトレードオフの違いです。次の図で、同じ利用者からの複数リクエストを、複数台のサーバで処理する場合の流れの違いを確認しておきましょう。
スケーラビリティと障害耐性の観点
ステートフルとステートレスの違いが最も実務に効いてくるのが、スケーラビリティと障害耐性の観点です。
スケールアウトのしやすさ
アクセスの増加に応じてサーバの台数を増やす「スケールアウト」を考えたとき、ステートレスな設計は大きな強みを持ちます。どのサーバも状態を持たないため、ロードバランサーは空いているサーバへ自由にリクエストを振り分けられ、サーバを増やすだけで処理能力を引き上げやすくなるのです。一方、ステートフルな設計では、特定の利用者のリクエストを、その状態を保持しているサーバへ届け続ける必要があり(いわゆるセッションアフィニティ)、単純にサーバを増やすだけでは負荷分散の効果が限定的になりがちです。
障害耐性への影響
障害耐性の面でも違いが表れます。ステートレスな構成では、あるサーバが停止しても、状態を持たない別のサーバへリクエストを振り分け直すだけで処理を継続できます。ステートフルな構成では、状態を保持していたサーバが停止すると、その状態自体が失われる恐れがあり、利用者はログインし直しや入力のやり直しを迫られる場合があるでしょう。状態をサーバの外へ出す設計によって、この弱点を補うアプローチが広く採られています。
負荷分散設計との関係
ロードバランサーの設定においても、ステートフルな構成では特定の利用者を同じサーバへ振り分け続ける仕組みが必要になり、設定や監視の手間が増える傾向にあります。ステートレスな構成であればこうした固定の仕組みが不要になり、負荷分散の設計自体をシンプルに保ちやすい点も実務上のメリットです。
状態をどこに置くか(セッションストア・トークン)
ステートレスの利点を活かしつつ、ログイン状態のような「本来必要な情報」を扱うためには、状態をサーバの外へ出す考え方が使われます。代表的な手法を整理しましょう。
セッションストアへの外部化
一つは、状態そのものはサーバの外にある共有のデータストアに保存し、各サーバはリクエストのたびにそのストアを参照する方法です。この方式であれば、リクエストを受けたサーバがどれであっても同じ状態を参照でき、特定サーバへ処理を固定する必要がなくなります。アプリケーションサーバ自体は状態を持たない構成を保ちながら、必要な情報だけを共有の場所から取り出す考え方です。
トークンによる状態の運搬
もう一つは、状態そのものをリクエストに含めて運んでしまう方法です。認証情報などを含んだトークンをクライアント側で保持し、リクエストのたびにそのトークンを送信することで、サーバ側は送られてきたトークンの中身を検証するだけで処理を完結できます。この方式では、サーバ側もストア側も利用者ごとの状態を保持し続ける必要がなく、より純粋なステートレス構成に近づけられるのが特徴です。
どちらを選ぶかの視点
セッションストアへの外部化は、状態の即時失効やサーバ側からの強制ログアウトといった制御がしやすい半面、共有ストアへの参照という依存が新たに生まれます。トークンによる運搬は、サーバ側の依存を減らせる半面、発行済みのトークンをすぐに無効化する仕組みを別途用意する必要が出てきます。どちらの手法にも一長一短があり、システムの要件に応じた選択が求められるでしょう。
使い分けの判断軸(ユースケース別)
ステートフルとステートレスのどちらに寄せるべきかは、次のような判断軸を確認すると整理しやすくなります。
- 処理の独立性――一つひとつのリクエストが単独で完結できる性質か、それとも前後の文脈が欠かせない処理か
- スケールアウトの必要性――アクセス増加に応じてサーバの台数を柔軟に増減させたいか
- 障害時に許容できる影響範囲――一部のサーバが停止した際に、利用者への影響をどこまで抑えたいか
- 状態の生存期間――ログインセッションのように長く保持したい状態か、一連の対話の間だけ必要な状態か
- 実装・運用の負荷――状態の外部化にかかる設計コストを許容できるか
ステートレスが向く場面
一般的なWeb APIやREST形式のインターフェースは、基本的にステートレスで設計されることが多い領域です。参照系のAPIや、外部システムとの連携インターフェースのように、リクエストごとに独立して処理が完結する場面では、ステートレスの持つスケールアウトのしやすさが生きてきます。
ステートフルが向く場面
リアルタイムに双方向でやり取りを続けるチャットや、複数ステップにまたがる対話的な処理、前の操作結果が次の挙動に影響を与える処理では、状態を保持し続けるステートフルな設計が選ばれやすくなります。こうした処理を無理にステートレス化しようとすると、毎回のリクエストに大量の文脈情報を含める必要が生じ、かえって複雑になる場合もあるでしょう。
組み合わせというアプローチ
一つのシステムであっても、すべての機能を同じ方針で統一する必要はありません。外部公開するAPIはステートレスに設計しつつ、内部のリアルタイム処理の一部にはステートフルな仕組みを採用するというように、機能の性質ごとに使い分けて組み合わせる設計は、実務でも珍しくないアプローチです。
設計・発注時の確認点
ステートフル・ステートレスのどちらを採用するかを発注する際は、次のような点をあらかじめ確認しておくと、後の手戻りを抑えやすくなります。
- 対象の機能ごとに、状態を保持する必要があるかどうかが整理されているか
- ステートレスに設計する箇所で、セッションストアかトークンか、状態の外部化方針が明確になっているか
- ステートフルに設計する箇所で、セッションアフィニティやスケールアウト時の制約が説明されているか
- サーバ障害を想定した際に、利用者への影響がどこまで抑えられる設計かが確認されているか
- 負荷試験の段階で、サーバ台数を増減させた際の挙動が検証計画に含まれているか
状態の持ち方は、システムの土台となる設計方針であり、実装が進んだ後に途中で切り替えるとなると、認証まわりやAPI仕様まで見直しが及びやすい部分です。発注段階でこうした確認点を共有しておくことが、期待とのズレを防ぐことにつながるでしょう。
まとめ:状態の持ち方は設計の前提から見直す
本記事では、ステートフルとステートレスという二つの設計方針の違いについて、仕組み・スケーラビリティと障害耐性・状態の置き場所・使い分けの観点から整理しました。ステートフルはサーバが利用者ごとの状態を保持し続ける設計、ステートレスは各リクエストを独立したものとして扱い状態を持たない設計であり、状態への向き合い方が正反対です。
設計にあたっては、処理の独立性・スケールアウトの必要性・障害時に許容できる影響範囲・状態の生存期間・実装や運用の負荷といった判断軸を確認し、機能の性質に応じてステートフルとステートレスを使い分ける、あるいは同じシステムの中で組み合わせることが、無理のない設計につながるでしょう。
よくある質問
ステートレスの方が優れているのですか。
一概にそうとは言えません。ステートレスはスケールアウトや障害時の切り替えがしやすい大きな特徴を持ちますが、状態を外部化する設計コストが発生します。リアルタイムに文脈を踏まえた処理が必要な場面では、ステートフルな設計の方が実装がシンプルに収まることもあり、どちらか一方が常に優れるという関係ではないと捉えるのが適切です。
セッションはどう扱えばよいですか。
代表的には、セッション情報を共有のセッションストアに保持し、各サーバがリクエストのたびにそのストアを参照する方法と、認証情報を含んだトークンをクライアント側に持たせてリクエストごとに送信してもらう方法があります。前者は状態の即時失効がしやすく、後者はサーバ側の依存を減らせるという特徴があり、要件に応じた選択が求められます。
ステートレスなAPIでもログイン機能は実現できますか。
実現できます。サーバ自体はログイン状態を保持せず、認証済みであることを示すトークンを毎回のリクエストに含めてもらい、サーバ側はそのトークンを検証するだけで処理を完結させる設計が一般的です。この形であれば、サーバはステートレスなままログイン機能を提供できます。
マイクロサービスとステートレスの関係を教えてください。
複数のサービスに分割して構成するマイクロサービスでは、各サービスをステートレスに保つことが多い傾向にあります。サービスごとに状態を持たなければ、サービスの再起動やスケールアウトを柔軟に行いやすくなるためです。状態が必要な場合は、専用のデータストアへ外部化して各サービスから参照する構成がよく採られます。
既存のステートフルなシステムをステートレスに作り直す必要はありますか。
必ずしもその必要はありません。すでに安定稼働しているステートフルな仕組みを、無理にステートレス化するとかえって複雑になる場合もあります。アクセス増加への対応や障害耐性の強化が課題になっている箇所から優先的に見直すなど、段階的な検討が現実的でしょう。
HTTPは元々ステートレスなプロトコルなのですか。
HTTPというプロトコル自体は、一つのリクエストと一つのレスポンスが独立して完結する、ステートレスな性質を持つものとして設計されています。ログイン状態のような「状態」を扱いたい場合は、Cookieやトークンなどの仕組みを組み合わせて、アプリケーション側で状態を補う形が一般的です。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:MDN Web Docs「HTTP の概要」におけるHTTPの性質に関する解説(https://developer.mozilla.org/ja/docs/Web/HTTP/Overview)