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AI活用の着手点|担当ごとの業務の把握から始める方法
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- IPAの調査で、AIを踏まえた人材の育成・確保の項目のうち着手が1割を超えたのは、既存業務の把握の19.0%だけでした。
- AIの効果を実感している企業でも、AIで進め方が変わる業務の把握に着手したのは22.4%にとどまります。
- 人を追加するか、ツールや自動化で置き換えるかを決める前に、担当者ごとの業務の一覧を作ります。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
担当者が辞めたあと、その人の仕事を誰に引き継げばよいか分からない。AIで置き換えられる作業もあるはずなのに、担当者が何をしていたかの一覧がなく、どれがそうなのかを決められない——。社内の体制を見直す場面では、こうしたことが起こりがちです。AIで変わる業務の把握とは、いまある業務のうち、AIで効率化・自動化できる作業と、AIによって中身が変わる作業を書き出して確かめることを指します。
業務の一覧があれば、人を追加すべき作業と、ツールや自動化に任せられる作業を分けて考えられます。ただし一覧づくりは万能ではなく、一覧を作っただけで人手が足りない状態が解消するわけではありません。本記事では、エンジニアや現場のスタッフの体制を考える方に向けて、企業がどこまで着手しているか、AIの効果を実感している企業との違い、業務の一覧の作り方、そして外部に頼むときに確認したい点を整理します。
目次
AIで変わる業務の把握とは
IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2026」は、AIの影響を踏まえた人材の育成や確保について、企業がどこまで取り組んでいるかを尋ねています。*1 この設問の項目のうち、業務の把握にかかわるものが2つあります。「効率化・自動化が見込まれる既存業務の把握」と「内容が変わる業務の把握」です。これに「人材に必要なスキルの把握」を加えた3つが、本記事で扱う項目です。
1つ目の既存業務の把握は、いまある作業のうち、AIや自動化の仕組みで手間を減らせるものを見つけることです。たとえば、決まった書式で毎月作る報告書や、問い合わせの一次振り分けのように、手順が決まっている作業がこれに当たります。2つ目の内容が変わる業務の把握は、作業そのものは残るものの、AIを使うことで進め方が変わる仕事を見つけることです。
3つ目のスキルの把握は、業務が変わったあとに、担当する人に何ができる必要があるかを確かめることです。3つは順につながっていて、いまの業務が分からなければ、何が変わるかも、どんな力が要るかも決められません。だからこそ、最初の一歩は担当者ごとの業務を書き出すことになります。
企業はどこまで着手しているのか
「DX動向2026」は2026年7月30日に公開された資料です。*1 日本の企業を対象に、2026年4月17日から6月12日にかけて調査し、調査対象10,000社のうち1,799社から有効な回答を得ています。*3 同じ資料によれば、AIを導入している企業と試験的に利用している企業は、合わせて58.0%でした。*2
では、人材の面の対応はどこまで進んでいるのでしょうか。AIの影響を踏まえた人材の育成や確保の項目(図表4-13)では、ほとんどの項目で「検討の予定はない」と答えた企業が3割以上を占めていました。資料は、「検討中だが未着手」を含めると、多くの企業がまだ着手していない状況にあるとしています。*2
項目別に見ると、目立つのは1つだけです。「効率化・自動化が見込まれる既存業務の把握」は「着手している」が19.0%で、資料も相対的に高いとしています。ほかの項目は、「着手している」が1割に満たない状態でした。*2
辞めた人の仕事を、人を追加して引き継ぐ作業と、ツールや自動化に任せる作業に分けようとしても、その材料になる業務の一覧を作り始めている企業は多くありません。
効果を実感している企業との違い
資料は、同じ項目への着手の状況を、AIを導入した効果の高低で分けても集計しています(図表4-14)。効果が高いと実感している企業は、そうでない企業と比べて、すべての項目で「着手している」「検討を開始」の回答率が高いとされています。*2
資料が数値を挙げているのは、差が大きい3つの項目です。「着手している」の回答率は、既存業務の把握が効果の高い側で37.6%、低い側で23.8%でした。内容が変わる業務の把握は22.4%と10.6%、人材に必要なスキルの把握は21.5%と12.0%です。*2 示された値から計算すると、差は13.8ポイント、11.8ポイント、9.5ポイントです。効果を実感している企業ほど、業務の把握に着手している割合が高い傾向がうかがえます。
一方で、水準にも目を向けておきたいところです。効果の高い側でも、内容が変わる業務の把握は22.4%、人材に必要なスキルの把握は21.5%で、2割前後にとどまります。*2 AIの活用がうまくいっている企業でも、8割近くはまだ着手していません。
「効果:低」は効果がなかった企業か
この集計を読むときに間違えやすいのが、効果の高低の分け方です。資料は、「期待以上の効果があった」と「期待どおりの効果であった」を合わせて「AI導入効果:高」、「一定の効果はあった」と「期待した効果はまだ得られていない」を合わせて「AI導入効果:低」としています。*2
つまり効果の低い側にも、一定の効果はあったと答えた企業が含まれます。「効果が出ていない企業は23.8%しか着手していない」という受け止め方は正しくありません。
資料は、AIによる効果が高いと実感している企業ほど、業務の変化や必要なスキルの把握といった先を見据えた人材の育成や確保に取り組んでいる、と述べています。*2 ただし、着手したから効果が出たのか、効果が出たから着手できたのかは、この集計からは分かりません。業務の一覧を作れば効果が出る、と言い切れる結果ではない点は押さえておきます。
業務の一覧はどう作るのか
ここからは、調査の結果を自社の手順に置き換えます。進め方は4つの手順に分けると整理しやすくなります。手順1は、担当者ごとの業務を一覧に書き出すことです。「経理担当」「インフラ担当」といった役割の名前ではなく、「月末に売上の集計表を作る」「サーバーの利用状況を毎朝確かめる」のように、実際にしている作業の名前で並べます。
手順2は、書き出した作業を、自動化できるものと人が担うものに分けることです。手順が決まっていて、途中で判断が入らない作業から先に印をつけていきます。手順3は、人が担う作業を、判断が要る作業と、決まった手順で進める作業に分けることです。何を優先するかを決める仕事と、量をこなす仕事を別々に扱えるようにします。
手順4は、決まった手順で進める作業を、期間を決めて外部に委託することです。作業量の見積もりがしやすいものから任せると、委託先とのやり取りも進めやすくなります。任せる作業を手順書の形にしておく進め方は、「運用設計とRunbook整備を外注で進める方法」で整理しています。
手順1を最初に置くのは、調査で着手が最も進んでいたのが既存業務の把握だったこととも合っています。いまある業務を書き出さないまま、先の手順には進めません。
つまずきやすい点
一つ目は、自動化の道具を先に選んでしまうことです。道具が決まっても、どの作業に使うかが決まっていなければ、導入したあとに使いどころが見つかりません。業務の一覧を作ってから、その作業に合う道具を選ぶ順番にします。
二つ目は、業務の中身を担当者の頭の中にだけ置いておくことです。担当者が辞めてから書き出そうとしても、細かい作業ほど抜け落ちます。担当者がいるうちに、作業の名前と、どのくらいの頻度でしているか、どのくらい時間がかかっているかを書いてもらっておくと、引き継ぎのときに使えます。
三つ目は、判断まで外部に委託してしまうことです。何を自動化して何を社内に残すか、どの作業を優先するかといった判断を委託先に任せると、社内に判断できる人が残らず、委託先が替わったときに何を任せていたのか分からなくなります。判断が要る作業は社内に残し、決まった手順で進める作業を委託するという分け方を守ります。AIを扱う人に求める要件の置き方は、「AI人材の採用で不足しているのは専門家ではない」で扱っています。
外部に委託するときに確認しておきたい点
決まった手順で進める作業を委託するときは、作業の名前と期間、終わったと判断する条件を書き出してから相談します。「毎月の売上集計表の作成を、来月から3か月」のように書けていれば、委託先は必要な人数と経験を見積もりやすくなります。作業の中身が曖昧なままだと、委託先が出す人の経験が作業と合わないことがあります。
フリーランスを含む業務委託は、作業と期間を決めて任せる形に向いています。一方で、社内の体制そのものを見直したいときは、社員の採用とあわせて考える必要があります。採用の進め方は、「DX人材の採用、募集の前に決めておくこと」で扱っています。
まとめ:業務の把握で確かめておきたい3つの点
AIで変わる業務の把握に着手するうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、担当者ごとの業務を、役割の名前ではなく実際にしている作業の名前で書き出すこと。第二に、書き出した作業を、自動化できる作業、判断が要る作業、決まった手順で進める作業に分けること。第三に、判断が要る作業は社内に残し、決まった手順で進める作業を期間を決めて委託することです。この3点を踏まえておけば、「担当者が辞めたあと、何を引き継げばよいのか分からない」という事態を避けやすくなります。業務の切り分け方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
IPAの「DX動向2026」は、どのような企業に尋ねた調査ですか
企業データベースから、業種や従業員規模ごとに抽出する社数を決めたうえで、ランダムに選んだ日本の企業です。*3 回答者として想定しているのは、自社のDXの推進状況を把握している部署の責任者と、DXを推進する人材の状況を把握している部署の責任者です。調査項目は60問で、そのうち7問が回答者の属性を尋ねるものでした。*3
業務の一覧は、どのくらい細かく書けばよいですか
1つの作業を、ほかの人が読んで同じように進められる程度に書くのが目安です。作業の名前に加えて、頻度とかかる時間を書いておくと、自動化するか委託するかを決めるときの見積もりに使えます。
業務の一覧は、誰が作るのがよいですか
作業の中身は、実際に担当している人に書いてもらうのが確実です。そのうえで、自動化するか、社内に残すか、委託するかの判断は、部署の責任者が一覧を見て決めます。
AI関連の人材は、どのくらい足りていないのですか
同じ資料の別の図表では、多くの種類の人材で「不足している」が過半数を占めるとされています。*2 挙げられているのは、AIに理解がある経営・マネジメント層や、AIツールを活用して自社の事業に活かせる従業員などです。
業務の切り分けと体制を相談したいとき
業務の一覧をどう分けるか、人が担う作業の切り出し方からご相談いただけます。
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出典
- *1 参考:IPA「DX動向2026」広がるAI導入、DXは変われるか(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2026.html)。出典:IPAの公開ページ。公開日(2026年7月30日)と収録章の構成を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:IPA「DX動向2026」(本文)(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/rcu1hd0000017uk8-att/dx-trend-2026.pdf)。出典:AIの導入状況、図表4-13・図表4-14についての記述と数値、AI導入効果の高低の集計区分、AI関連人材の充足状況の記述を参照(2026年9月確認)
- *3 参考:IPA「DX動向2026」(データ集)(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/rcu1hd0000017uk8-att/dx-trend-data-collection-2026.pdf)。出典:調査概要(調査対象・調査期間・調査項目数・調査対象数・有効回答数・抽出方法・想定回答者)を参照。2026年7月30日第1版(2026年9月確認)
- *4 参考:IPA「ウェブサイトのご利用について」(https://www.ipa.go.jp/siteinfo.html)。出典:資料の引用・転載の条件として参照(2026年9月確認)