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2026.09.28 採用支援コラム

金融業のエンジニア採用と業界経験|任せる仕事から決める要件




監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論

  • 業界経験は、金融の業務の知識と、権限の管理や変更の手続きといった作業の決まりへの慣れに分けて書き出します。
  • 金融庁は、金融業務とITスキルを兼ね備えた人材は中途採用で充足できなくなっていると指摘しています。
  • 業界経験を必須にするかは任せる仕事ごとに決め、問わない職では入社後に業務を教える人と時間を決めます。

※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。

金融機関のシステム部門でエンジニアを募集したら、応募は来たものの金融業の経験がある人はほとんどいなかった。反対に、業界経験のある人を採ったら、使ってほしい技術の経験が足りなかった——。金融業のエンジニア採用では、こうした食い違いが起こりがちです。ここでいう業界経験とは、預金・融資・決済といった金融の業務や、その業務を動かすシステムに携わった経験のことです。

業界経験のある人を採れば、入社後に業務を覚える時間は短くなります。ただし、業界経験を条件にするやり方は万能ではなく、金融の業務とITの両方に通じた人は多くの金融機関が探しており、条件に入れるほど候補者は限られます。本記事では、金融業でエンジニアを社員として採用する担当者に向けて、業界経験が問われる理由、両方を求めたときの採りにくさ、統計で見る金融業の転職者の採用、そして業界経験を要件にするかどうかの決め方を整理します。

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金融業で問われる業界経験とは

業界経験は、2つに分けると整理しやすくなります。一つは業務の知識です。預金の入出金、融資の審査、振込や口座振替といった決済が、どんな手順で進み、どの書類やデータを使うかを知っていることを指します。システムの要件を業務部門と話し合う場面では、この知識があると、業務部門の説明をその場で理解しやすくなります。

もう一つは、金融機関の作業の決まりに沿って働いた経験です。金融庁の2022年のレポートは、地域銀行への聞き取りで挙がった課題として、銀行以外の業種から中途採用した人には、銀行の厳しいシステム管理に慣れることと、業務の知識を身につけることが必要だという声を紹介しています。*3 本番環境(利用者が実際に使うシステム)に入る権限の管理や、変更の手続きのように、金融機関には作業の決まりが多くあります。その決まりに慣れているかどうかも、業界経験の一部です。

どちらの経験も、エンジニアとしての技術の経験とは別のものです。Javaで業務システムを作った経験や、クラウド上でサーバーやネットワークを構築した経験は、金融業以外の会社でも積めます。業界経験を要件にするかどうかを考えるときは、まずこの2つを技術の経験と分けて書き出しておくと、何を求めているのかがはっきりします。

なぜ業界経験が問われるのか

金融庁は、2023年6月に改訂した「金融機関のITガバナンスに関する対話のための論点・プラクティスの整理」(以下、論点整理)で、DX(デジタル技術による業務やサービスの変革)の推進には「金融業務とIT・デジタルの知識を習得した様々な職種の専門人材が必要」だと述べています。*1 業務の知識と技術の知識の両方を持つ人を求める考え方は、監督する側の文書にも表れています。

採用した後の負担も理由になります。先の2022年のレポートは、同じ課題の中で、銀行出身の社員との違いを調整するきめ細かい育成が重要だという声も紹介しています。メガバンクについては、中途採用した人の定着には銀行業務の習得が要になると考え、銀行業務の研修の中身を増やした例が挙げられています。*3 業界経験のない人を採れば、業務を教える時間と手間は会社が引き受けることになります。

銀行が自ら、業務に詳しい人の配置を点検している例もあります。同じレポートには、預金・融資のような重要な業務と、勘定系システム(預金や融資の記録を扱う中心のシステム)のような重要なシステムごとに、詳しい担当者がいるかを確認している例が載っています。*3 採用の段階で業界経験を求めるかどうかは、こうした業務やシステムに詳しい人が自社にどれだけいるかとも関係します。

両方を求めると採りにくい理由

業務とITの両方を求めるほど、候補者は限られます。論点整理は、デジタル人材、特に「金融業務とITスキルを兼ね備えた人材は獲得競争が激化していることから、中途採用で充足できなくなっている」と書いています。そのうえで、必要なスキルを具体的に定義し、IT人材を計画的に育成していくことが重要だとしています。*1

中途採用そのものは、多くの金融機関が行っています。金融庁の2026年7月のレポートによると、FISC(金融情報システムセンター)の2025年のアンケートで、IT専門職としての中途採用を実施している地域銀行は85.4%でした。一方で、過去3年間のIT人材の中途採用は1銀行あたり平均5.4名です。*2 採用を続けていても、1年あたりに直せば2名に届きません。

同じレポートには、要件の置き方を変えた例も載っています。ある地域銀行は、提示できる年収では求める経験や能力を持つ人を採るのが難しいため、「一定程度要件を緩和しつつ広く採用し、育成していく方針」をとっています。セキュリティ人材の中途採用では、応募者が十分な実務経験を持つ専門人材とは言い難いとして、募集要領を見直しながら採用を続けている例もあります。*2 どの条件を必須にし、どれを入社後に育てるかを分けて考えるやり方です。

中途採用の多い銀行ほど、IT人材の中長期計画を立てている割合は高くなっています。過去3年の中途採用が7名以上の23の銀行では91.3%で、0〜3名の59の銀行の54.2%を上回ります。*2 レポート自身も事情は金融機関ごとに違うとしていますが、必要な人材像を先に決めておくことは、採用要件を決めるうえでも役に立ちます。

統計で見る金融業の転職者の採用

金融業全体では、転職者をどう評価し、どう育てているのでしょうか。厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」は、2020年10月1日時点で、転職者を受け入れた事業所に、処遇(賃金や役職)を決めるときに考慮した要素を尋ねています(複数回答)。金融業・保険業で「これまでの経験・能力・知識」を挙げた事業所は57.8%で、全産業の74.7%、情報通信業の81.0%より低い値でした。*4

転職者の処遇を決めるときに「これまでの経験・能力・知識」を考慮した事業所の割合を、16の産業と全産業で並べた横棒グラフ。高い順に宿泊業,飲食サービス業89.8%、学術研究,専門・技術サービス業83.2%、情報通信業81.0%。全産業は74.7%。金融業,保険業は57.8%で、これより低いのは電気・ガス・熱供給・水道業54.8%と複合サービス事業49.7%。出典は厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」事業所調査 表6。

金融業・保険業の値は、16の産業の中で低いほうから3番目です。代わりに「学歴」は22.6%と、全産業の11.0%の2倍を超えています。*4 金融業の事業所は、前の職場での経験だけで処遇を決めているわけではないことが分かります。

入社後の教育訓練は、他の産業より手厚くなっています。転職者に教育訓練を実施した金融業・保険業の事業所は85.8%でした。実施した事業所のうち、職場を離れて行う研修(OFF-JT)を行ったのは85.4%、「職務遂行に必要な能力・知識を付与する教育訓練」を行ったのは56.9%で、どちらも16の産業でいちばん高い値です。*4 なお、この調査は職種を分けていないため、エンジニアだけの値ではありません。業界経験を問わない職を設けるなら、自社のこうした研修の仕組みをエンジニアにも使えるかを確かめておくと進めやすくなります。

業界経験を要件にするかの決め方

金融業のエンジニア採用で業界経験を必須にするか、あれば歓迎にするか、問わないかは、任せる仕事から決めます。一律にどれかに決めるのではなく、募集する職ごとに、仕事を始めた日から業務の知識が要るかどうかを見ます。次の表は、この考え方で作った例です。

任せる仕事ごとの業界経験の扱いの例
任せる仕事 業界経験の扱い 先に確かめたい経験
業務部門と新しい機能の要件を決める(融資の申込を受け付ける画面の追加など) 必須、または歓迎として重く見る 融資や預金の業務の流れを説明できること、要件を文書にまとめた経験
勘定系システムにつながる既存システムの改修と保守 歓迎。同じ種類のシステムに携わった経験があれば重く見る 既存のプログラムを読んで直した経験、決まった変更手続きに沿って本番に反映した経験
クラウドの基盤やネットワークの設計と構築 問わない 設計と構築の経験、権限の管理や操作記録の設計の経験
セキュリティの監視と脆弱性(システムの弱点)への対応 問わない。金融分野の決まりは入社後に学ぶ 監視と対応の実務経験
データ分析の仕組み作り 問わない データ基盤の構築、分析に使うデータの整備の経験

必須にする仕事では、業界経験の中身まで書きます。「金融業界の経験3年以上」ではなく、「預金または融資の業務を扱うシステムで、業務部門と要件を決めた経験」のように、どの業務の、どの作業の経験かまで書くと、応募する側が自分の経験と比べられます。業務の知識が要る要件定義や設計の担当者を他社がどう育てているかは、「要件定義や設計を担う人の育て方」で扱っています。

問わない仕事では、入社後に業務をどう教えるかを先に決めておきます。2022年のレポートには、新人や中途採用の銀行員が支店の業務を実地で学ぶ研修を用意している地域銀行の例も載っています。*3 誰が、いつまでに、どの業務を教えるかを決めておけば、面接でも応募者に説明できます。

つまずきやすい点

一つ目は、業界経験と技術の経験を1つの条件にまとめてしまうことです。「金融系システムの開発経験」とだけ書くと、業務の知識を求めているのか、金融機関の作業の決まりに慣れていることを求めているのか、特定の技術を求めているのかが分かりません。応募者も面接官も、それぞれ違う意味に受け取ってしまいます。

二つ目は、業界経験がある人の技術を確かめずに採ることです。業務の話が通じると面接の印象は良くなりますが、任せる作業に使う技術の経験は別に確かめる必要があります。面接の質問は、業界経験と技術の経験のそれぞれについて用意しておきます。

三つ目は、採用してから業務の習得を本人任せにすることです。2022年のレポートでは、中途採用した人の定着のために、1on1ミーティング(上司と1対1で定期的に話す場)で本人の希望と実際の仕事の違いを話し合う取り組みも挙げられています。*3 業界経験のない人を採るなら、業務を教える人と時間を配属の前に決めておきます。

まとめ:業界経験で確かめておきたい3つの点

金融業のエンジニア採用で業界経験を要件にするかどうかを決めるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、業界経験を業務の知識と金融機関の作業の決まりへの慣れに分け、技術の経験とは別に書き出すこと。第二に、任せる仕事ごとに、業界経験を必須にするか、歓迎にするか、問わないかを決めること。第三に、業界経験を問わない職では、入社後に誰がどの業務を教えるかを配属の前に決めておくことです。この3点を踏まえておけば、「業界経験を条件にしたら応募がほとんど来なかった」「業界経験で採ったのに任せたい技術が足りなかった」という事態を避けやすくなります。採用が決まるまでの開発をどう進めるかに迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。

LASSICに相談するメリット

業界経験を要件から外すかどうかを決めても、採用が決まるまでには時間がかかります。技術の経験があればすぐに始められる作業は、業務委託で開発に加わる専門人材に任せる方法もあります。

Remoguは、株式会社LASSICが運営するフリーランス・業務委託のITプロ人材サービスです。リモート前提で全国から登録が集まっており、登録は約20,000名規模、その約8割が開発系です。人材が必要になった時点から4時間以内に候補者を提案し、最短1週間で実際の業務開始まで進みます(条件によっては実現できない場合があります)。

よくある質問

金融機関では、IT専門職の新卒採用も行われていますか

行われています。金融庁の2026年7月のレポートでは、IT専門職としての新卒採用を実施している地域銀行は2025年に52.1%で、2023年の44.9%から増えました。ただし、中途採用の85.4%よりは低い値です。*2

中途採用した人の給与は、どのように決めればよいですか

決まったやり方はありません。金融庁の2022年のレポートでは、メガバンクの中途採用で、採用後に一定期間がたってから専門性を評価して給与体系を変える例や、高い専門性を持つ応募者には採用時点から別の処遇条件を用意する例が挙げられています。*3 業界経験の有無で分けるかどうかも、任せる仕事に合わせて決めます。

証券会社や保険会社でも、同じ考え方で決められますか

任せる仕事から業界経験の扱いを決める手順は同じです。ただし、業務の中身と作業の決まりは業態ごとに違うので、「業界経験」として書く中身は、証券なら売買の注文とその成立、保険なら契約を引き受けるかどうかの審査や保険金の支払いのように、自社の業務に合わせて書き分けます。

業界経験を問わない職の面接では、何を確かめればよいですか

任せる作業に使う技術の経験に加えて、決まった手順に沿って作業した経験も確かめます。たとえば、変更の申請と承認を経てから本番環境に反映した経験や、作業の記録を残して他の人の確認を受けた経験を、具体的な案件で説明してもらいます。

金融業のエンジニア採用を相談したいとき

任せる仕事の整理と、業界経験を求めるかどうかの判断からご相談いただけます。

Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。

Remoguは、リモート前提で全国から即戦力のITプロ人材を調達するサービスです。リラシクは、扱う求人がすべてリモートワークのITエンジニア専門転職エージェントです。どちらもLASSICが運営しています。

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出典

  1. *1 参考:金融庁「金融機関のITガバナンスに関する対話のための論点・プラクティスの整理 第2版」(2023年6月)(https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230630/02.pdf)。出典:金融庁「金融機関のITガバナンスに関する対話のための論点・プラクティスの整理 第2版」(2023年6月、ディスカッション・ペーパー)。IT組織とIT人材に関する記述(金融業務とIT・デジタルの知識を習得した専門人材、金融業務とITスキルを兼ね備えた人材の中途採用)を参照(2026年9月確認)
  2. *2 参考:金融庁「金融分野におけるITレジリエンスに関する分析レポート」(2026年7月)(https://www.fsa.go.jp/news/r8/sonota/20260730/01.pdf)。出典:金融庁「金融分野におけるITレジリエンスに関する分析レポート」(2026年7月)。第3編第3節 IT人材の図表9(IT人材の確保・育成に関するアンケート結果、FISCアンケート)、図表11(IT人材の課題への取組み)、図表12(過去3年の中途採用者数)を参照(2026年9月確認)
  3. *3 参考:金融庁「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」(2022年6月)(https://www.fsa.go.jp/news/r3/20220630/it02.pdf)。出典:金融庁「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」(2022年6月)。論点2「IT人材の確保・育成」の図表7(地域銀行の課題認識)、地域銀行の研修制度の取組事例、メガバンクの調査結果を参照(2026年9月確認)
  4. *4 参考:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/6-18c-r02.html)。出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」。調査の概要(2020年10月1日現在)と、事業所調査 表6(転職者の処遇決定の際に考慮した要素。複数回答)・表8(転職者に対する教育訓練の実施の有無、実施した教育訓練の種類)を参照(2026年9月確認)




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