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業務委託のトラブル事例|勧告と指導の公表資料にみる原因と対策
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論
- 公表された勧告20件のうち17件は、発注時に取引条件を書面などで示していなかったことを含んでいました。
- 厚生労働省の指導の事例では、ハラスメント対策の体制、契約解除の予告、募集の表示の不備が挙がっています。
- 原因は書面化の抜け、社員向けの仕組みの流用、例外の取り違えの3つの型に分けて予防策を立てられます。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
外部のエンジニアに業務委託で開発に加わってもらっているものの、発注は口頭やチャットで済ませ、支払いは社内の締めに合わせている。この運用のままで問題にならないか気になり、行政が公表したトラブルの事例を確かめたい担当者もいるはずです。
本記事は、フリーランスに仕事を頼む企業の担当者に向けて、公正取引委員会と厚生労働省が公表したフリーランス・事業者間取引適正化等法(以下、フリーランス法)の勧告と指導の事例だけを素材に、発注側がつまずく原因の型と予防策を整理します。報道や個別の紛争は扱わず、行政の公表資料にある事実の範囲で書きます。
業務委託のトラブル事例とは
ここでいうトラブル事例は、個人で働くフリーランスに業務委託をした企業が法律に沿った対応をしておらず、行政から是正を求められたものを指します。2024年11月の施行後に公表された資料は、次の3種類です。
- 公正取引委員会の勧告:取引条件の明示や報酬の支払いの違反について、社名と違反の内容を公表したもの
- 公正取引委員会の運用状況:勧告と指導の件数、業種、違反の種類を年度ごとにまとめたもの
- 厚生労働省の指導の事例:都道府県労働局がハラスメント対策や契約解除の予告などで助言した事例。社名は伏せられている
令和7年度の運用状況では、公正取引委員会が勧告か指導をした件数は1,552件で、そのうち勧告は10件、指導は1,542件でした。*1 業種別では情報通信業が575件(37.0%)で最も多く、IT関連の発注も無関係ではありません。*1 違反の種類は次の3つで全体の9割を超えます。
| 違反の種類 | 件数 | 種類別の合計に占める割合 |
|---|---|---|
| 期日における報酬の支払義務違反 | 1,135件 | 41.6% |
| 取引条件の明示義務違反 | 1,126件 | 41.3% |
| 買いたたき | 250件 | 9.2% |
社名が公表される勧告は一部で、件数の大半は社名の出ない指導です。勧告の事例は、指導で済んだ多くの事例と同じ種類の違反が、規模を大きくして表に出たものとして読むと参考になります。
取引で多い勧告の事例
公正取引委員会の勧告一覧には、令和7年度に10件、令和8年度は9月2日時点で10件が載っています。*2*3 出版、放送、音楽教室、家電の配送や設置工事など業種はさまざまですが、違反の中身は似ています。20件のうち17件が取引条件の明示義務違反を、16件が期日における報酬支払義務違反を含んでいました。*2*3

| 事例の型 | 公表された内容(要約) | 社内で見直したい運用の例 |
|---|---|---|
| 条件を示さずに発注 | 業務を頼んだ際に、給付の内容、報酬の額、支払期日などを書面や電磁的方法で直ちに示さなかった | 口頭やチャットの依頼だけで作業を始めてもらう |
| 支払期日を決めていない | 支払期日を定めず、給付を受け取った日や役務の提供を受けた日までに報酬を払わなかった | 社内の支払いの締めに合わせれば足りると考える |
| 60日を超える支払期日 | 毎月末日締めの翌々月10日払いなどとし、役務の提供から60日を超える期日にしていた | 取引先全体の支払サイトをそのまま当てはめる |
| 請求書の遅れを理由に遅払い | 請求書の提出の遅れや自社の事務処理の遅れを理由に、定めた期日までに払わなかった | 請求書が届くまで支払いの手続きを止める |
| 報酬からの差し引き | 振込手数料や「事務手数料」などの名目で、報酬の額から差し引いた | 手数料は受け取る側の負担という慣行のまま |
| 無償の作業 | 入会前の体験レッスンを無償で行わせていた | 見積もり前の試作や下調べを無償で頼む |
支払期日を決めずに発注すると、法律上は給付を受け取った日が支払期日とみなされます。*5 期日を決めないまま翌月払いにすると、その時点で遅れた扱いになるということです。
振込手数料の扱いも変わりました。2026年1月1日以降の1か月以上の業務委託では、合意の有無にかかわらず、振込手数料を報酬から差し引くと報酬の減額にあたると整理されています。*3
就業環境で多い指導の事例
厚生労働省は、都道府県労働局での施行状況として、ハラスメント対策の体制整備義務の違反に関する指導が最も多く、契約の中途解除等の予告・理由開示義務や、募集情報の的確表示義務の違反に関する指導も見られるとしています。*4 公表された事例のうち、ITの仕事に関わるものと、社員向けの仕組みとの違いが分かるものは次のとおりです。*4
- ソフトウェアの開発・運用を委託していた事業者が、契約を解除する際に30日前までに予告せず、解除理由の説明も口頭だけだった
- システムのプログラミング業務を再委託していた事業者が、元の委託の解除を受けて基本契約も解除したが、予告の要らない例外に当たらない基本契約について30日前までに予告していなかった
- IT開発のテスト作業などの募集を載せた事業者の募集情報が、フリーランスの募集か労働者の募集か分からない内容だった
- 経理業務を委託していた事業者が、従業員向けのハラスメントの規定と相談窓口は整えていたが、業務委託向けは整えていなかった
どれも、労働局が是正を助言した事例です。契約解除の予告や解除理由の説明は書面やメールなどで行い、ハラスメントの規定と相談窓口は業務委託で働く人にも届く形で整えるよう求められています。
事例に共通する原因の型
公表された事例を並べると、発注側のつまずきは3つの型に分けて見ることができます。どの型も、特別な事情というより、日々の発注や契約の手続きの中で起きています。
- 書面化の抜け:発注の条件、解除の予告、解除理由の説明を口頭や慣行で済ませ、書面や電磁的方法で残していない
- 社員向けの仕組みの流用:支払いの締め日、ハラスメントの相談窓口、募集の書き方が社員向けのままになっている
- 例外の取り違え:予告の要らない例外や手数料の扱いを、契約ごとに確かめていない
3つの型は重なることもあります。たとえば発注書を作っていない会社では、支払期日も手数料の扱いも決まらないまま取引が続きやすくなります。まず書面化から手を付けると、残りの2つも見直しやすくなります。
予防策と外部に頼める範囲
原因の型ごとに、社内で決めておくことと、外部に頼める範囲は次のとおりです。
| 原因の型 | 社内でやること | 外部に頼める範囲 |
|---|---|---|
| 書面化の抜け | 発注書のひな形に給付の内容・報酬の額・支払期日を入れ、作業の前に送る | ひな形と契約書の点検を弁護士などの専門家に頼む |
| 社員向けの仕組みの流用 | 業務委託の支払期日を別に決め、ハラスメントの相談窓口を業務委託で働く人にも知らせる | 窓口の規定づくりや社内研修を専門家に頼む |
| 例外の取り違え | 契約ごとの満了日を一覧にし、解除や不更新の予告を30日前までに書面やメールで出せるようにする | 人材の手配と契約の手続きを仲介の会社に任せ、義務を誰が負うかを契約で確かめる |
外部人材の仲介や紹介の会社を通すと、自社が直接フリーランスと契約しない形になることもあります。その場合でも、誰が条件の明示や支払期日の義務を負うかは契約の形で変わるため、個々の契約は専門家に確かめてください。

外部人材に頼むときは、次の5つを先に書き出しておくと、条件の明示の抜けを防げ、そのまま相談の準備にもなります。
- 範囲:任せる作業と受け取るものを発注書に書ける形にする
- 期間:契約期間、更新の区切り、終えるときの予告の時期
- 体制:社内の窓口と、ハラスメントの相談先を誰にするか
- 費用の決まり方:報酬の額、支払期日、手数料の扱い
- 引き継ぎ:契約が終わるときに受け取る資料と作業の記録
外部人材が途中で抜けたときの備えは早期離任に備えて契約で決めておくこと、法律の全体はフリーランス新法とはで扱っています。
まとめ:トラブル事例で確かめたい3つの点
行政が公表した業務委託のトラブル事例から、発注側が確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、勧告の多くが含む取引条件の明示を、発注書のひな形で作業の前に済ませること。第二に、支払いの締め日やハラスメントの相談窓口を社員向けのまま流用せず、業務委託用に決めること。第三に、解除の予告や手数料の扱いを、例外に当たるかどうか契約ごとに確かめることです。この3点を押さえておけば、「付き合いの長い相手だから口頭で十分だと思っていた」という事態を避けやすくなります。契約の形や体制づくりに迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの方法です。
よくある質問
勧告と指導はどう違いますか
勧告はフリーランス法の第8条に基づく措置で、公正取引委員会は勧告した事業者の社名と違反の内容を一覧で公表しています。指導は第22条に基づく措置で、令和7年度は1,542件ありましたが、一覧には社名が載っていません。*1
従業員の少ない会社でも対象になりますか
取引条件の明示は、フリーランスに業務委託をする事業者が広く対象です。支払期日の決まり、ハラスメント対策、解除の予告などは、従業員を使っている発注側が対象になります。*5 自社が当てはまるかは専門家に確かめてください。
違反を指摘されたら、差し引いた報酬はどうなりますか
勧告の事例では、差し引いた額をフリーランスに支払ったことも公表されています。令和7年度は、発注側からフリーランスへ総額1734万円の原状回復が行われました。*1
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出典
- *1 参考:公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況及びフリーランスに係る取引の適正化に向けた取組」(2026年6月10日公表)(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/jun/260610_FL.html)。出典:公正取引委員会。措置件数・勧告件数・指導件数、業種別内訳、違反行為の類型別件数、原状回復の状況を参照(確認日2026年10月21日)(2026年10月確認)
- *2 参考:公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法勧告一覧(令和7年度)」(https://www.jftc.go.jp/FL/FLkankoku/R7FYkankoku.html)。出典:公正取引委員会。令和8年3月31日現在の勧告10件の概要と違反法条を参照(確認日2026年10月21日)(2026年10月確認)
- *3 参考:公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法勧告一覧(令和8年度)」(https://www.jftc.go.jp/FL/FLkankoku/R8FYkankoku.html)。出典:公正取引委員会。令和8年9月2日現在の勧告10件の概要、違反法条、振込手数料の扱いに関する注記を参照(確認日2026年10月21日)(2026年10月確認)
- *4 参考:厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法に基づく就業環境整備のポイント」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/bunya/freelance_00006.html)。出典:厚生労働省。都道府県労働局における法施行状況と、指導等の事例(ハラスメント対策、中途解除等の予告・理由開示、募集情報の的確表示)を参照(確認日2026年10月21日)(2026年10月確認)
- *5 参考:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(e-Gov法令検索)(https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000025)。出典:e-Gov法令検索。第2条(定義)、第3条(明示)、第4条(報酬の支払期日等)を参照(確認日2026年10月21日)(2026年10月確認)