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業務委託エンジニアの予兆、経産省の兆候リストを使う3つの前提
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 資料は漏えいの兆候を扱っている:経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」第6章6-1は「情報漏えいにつながり得る兆候」を挙げています。*1 辞めるかどうかを判定するために選ばれた項目ではない、というのがこの記事の読み方です。
- 辞める前の出来事も項目に入っている:退職者等の欄には「退職前の社内トラブルの存在」が入っています。*1 ただしこの欄の主語は元従業員で、辞めたあとに遡って見る置き方だ、というのがこの記事の読み方です。
- 兆候の前後に条件が置かれている:資料は「日頃から自社の通常の業務や取引の実態を把握しておくことが重要です。」とし、兆候の次に疑いを確認する段階を置いています。*1
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
業務委託エンジニアが抜けそうな予兆を先に掴めないか。この記事でいう離任は、契約の途中で、あるいは更新されずに、その人が現場から離れることです。この決め方はこの記事のものです。
辞めた人を後から数える統計はありますが、いま契約している一人ひとりについて辞める前に兆候を測った公的な調査は、探した範囲では見当たりませんでした。この記事は予兆の見つけ方を示せません。
代わりに扱うのは、兆候というものを公的な資料がどう扱っているかです。使うのは経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」の第6章6-1「漏えいの兆候の把握及び疑いの確認方法」です。*1 平成28年(2016年)2月に出て、令和6年(2024年)2月が最終改訂です。*1 秘密情報とは、企業が秘密として管理している営業上・技術上の情報です。扱うのは漏えいの兆候なので、そのまま離任の判定には使えません。理由と、それでも残るものを順に見ます。引用中の全角の英字は半角に直しました。
目次
働いている間の欄は、漏えいの動機で選ばれている
兆候の例は主体ごとに分かれ、「具体的には、①従業員等、②退職者等、③取引先、④外部者ごとに記載をしています」とあります。*1 まず①の5つです。なぜ離任の判定に使えないのかを見るために載せます。
| 兆候 | 資料の記述 |
|---|---|
| アクセス回数の増加 | (業務上の必要性の有無に関わらず)秘密情報を保管しているサーバや記録媒体へのアクセス回数の大幅な増加 |
| 必要のないアクセス | 業務上必要性のないアクセス行為。例として、担当業務外の情報が保存されたサーバやフォルダへの不必要なアクセス/不必要な秘密情報の大量ダウンロード/私物の記録媒体等の不必要な持込みや使用 |
| 長い残業や休日出勤 | 業務量に比べて異様に長い残業時間や不必要な休日出勤(残業中・休日中に情報漏えいの準備等を行う従業者が多いことから兆候となり得る) |
| 休暇取得の拒否 | 業務量としては余裕がある中での休暇取得の拒否(休暇中のPCチェック等による発覚を恐れるため兆候となり得る) |
| 不審な言動 | 経済的、社会的に極めて不審な言動 |
左の列の短い名前はこの記事が付けたもので、資料にはありません。5つのうち2つには、なぜ兆候になるのかの理由が括弧書きで添えられています。「残業中・休日中に情報漏えいの準備等を行う従業者が多いことから」と「休暇中のPCチェック等による発覚を恐れるため」です。*1 どちらも持ち出しの準備か、見つかることを避ける動きです。
理由が書かれていない3つのうち、アクセス回数の増加と必要のないアクセスは、情報を手元に集める動きです。残る「不審な言動」には「給与に不満を持っているにも関わらず急激な浪費をし始めた」「頻繁に特定の競合他社と接触している」が例に挙がります。*1 金銭と競合他社という、漏えいの動機に寄った例です。この読み方はこの記事のもので、資料はこれらを離任と結びつけていません。
退職者等の欄は、辞めたあとに遡って見るもの
4つの欄のうち、名前が辞めることを指すのは②退職者等です。資料が挙げているのは次の4つです。*1
「退職前の社内トラブルの存在」、「在職時の他社との関係」(例として「競合他社から転職の勧誘を受けていた」)、「同僚内の会話やOB会等で話題になっている、元従業員の不審な言動」、「退職者の転職先企業が製造・販売を開始した商品の品質や機能が、特に転職後、自社商品と同水準となった」の4つです。*1
前の2つは辞める前の出来事なので、予兆に使えそうです。ただし置き方が違います。欄の冒頭に「特に、中核的な業務に携わっていた者など、キーパーソンといえる元従業員についてはその退職前後を通じた動き(転職先企業の業務内容を含む)の把握が重要となります。」とあり、*1 主語は元従業員です。辞めたあとに漏えいを疑って遡るときの項目で、事前に判定する並びではない、というのがこの記事の読み方です。
③取引先は5項目で、「取引先からの突然の取引の打切り」「通常の取引に比べて異様に詳細な情報照会」など会社どうしの取引の動きです。*1 ④外部者は6項目で、社員証の流出事件、盗聴器の発見、ウィルス対策ソフトによる警報など、社外からの行為や自社で起きた事件です。*1 どちらにも一人の働き方を見る項目はありません。項目数は資料の箇条書きの行頭を数えました。
辞める前の一人を見る欄は①だけで、そこに並ぶのは前の節のとおり漏えいのために選ばれた項目でした。②は元従業員、③は会社、④は社外です。離任を判定するために作られた欄は4つの中にありません。この確認はこの記事で行いました。委託先の人が4つの区分のどこに入るかは、別の記事「業務委託エンジニアの離任とは|経産省の対策区分は4つ」で整理しています。
兆候の扱い方について資料が書いていること
使えるのは項目ではなく、兆候の扱い方についての記述です。6-1から3つ拾いました。この3つはこの記事で拾ったもので、資料が3つだと数えているわけではありません。
1つめは、平常が分かっていることです。資料は「以下のような兆候を適切に発見するためには、日頃から自社の通常の業務や取引の実態を把握しておくことが重要です。」とし、「どのような状態が「異様」と言えるのかを意識しておかないと、従業員の残業が情報漏えいにつながり得る兆候に当たるのかどうかの判断が難しいでしょう。」としています。*1
2つめは、兆候の段階では決めないことです。資料は兆候の把握の次に「漏えいの疑いの確認」を置き、「その兆候を放っておくことなく、情報漏えいが発生した疑いが高いものとして初動対応を開始する必要がないかを確認する必要があります。」としています。*1 初動対応とは、資料が6-2以降で挙げる社内調査、被害の検証、対策チームの設置などです。*1
3つめは、見るなら目的を先に伝えることです。モニタリングは、ログやメールの送受信履歴などを継続して見ることです。資料はモニタリングシステムについて「従業員保護のための適切な設定ができるものを選定し、組織体制を構築することが必要です。」とし、「その目的が従業員の保護であることを就業規則等に明記して従業員に周知徹底するとともに、従業員の理解を得た上で、適切な運用を行うことが望まれます。」としています。*1 伝えるのは、目的が保護だということです。
つまずきやすい難所
発注する側が引っかかる点が2つあります。
1つめは、条件1の「自社の」という限定です。資料が平常を知る方法として挙げるのは「自社の従業員の勤務状況等について、タイムカードによる業務時間の把握や、部署内での報告、定期的な面談による業務量の確認等を通じて」です。*1 どれも自社の従業員に対する仕組みで、委託先の人にそのまま当てはまりません。なお委託先の人の勤務時間や休暇を発注側が管理してよいかは契約の性質の話なので、この記事では扱いません。自社の従業員について人事データから離職リスクを推定する話は、別の記事「離職予測AI入門」で扱っています。
2つめは、残るものが記録に寄ることです。資料はテレワークについて、物理的な視認性の確保が困難なことから、ログを記録し、保護された状態で保存するようにするとしています。*1 ログは、いつ誰が何に触れたかを機械が残す記録です。挙がっているのは秘密情報へのアクセス履歴、利用者の操作履歴、VPN装置へのアクセス履歴などです。*1 残業や休日出勤のような見え方はしにくく、残るのはログだ、というのがこの記事の見方です。
契約の前に決めておきたい点
3つ挙げます。1つめと2つめは難所に、3つめは条件の3つめに対応します。この記事のもので、資料が条項を示すわけではありません。
1つめは、平常としてどの記録が取れないのかを先に決めることです。勤怠の管理や面談を委託先の人に行わないのであれば、平常と比べる形の項目は判定に使えません。取れないと分かっているものを当てにしないでおけば、何かあったときに無い記録を探さずに済みます。
2つめは、取れる記録の範囲と保存期間を決めることです。資料は「兆候のあった直近の時点だけではなく、ある程度過去に遡って、事実や状況の確認を行う必要がある場合があるという点に留意してください。」としています。*1 遡れる長さは、契約で決めたログの保存期間より長くはなりません。
3つめは、見ることを先に伝える形を決めることです。資料は、目的が従業員の保護であることの周知と理解を求めています。*1 自社の従業員には就業規則という置き場がありますが、委託先の人にはどの文書で伝えるのかを契約の段階で決めます。
まとめ:見る欄はあるが、離任用には作られていない
冒頭の問いは、業務委託エンジニアの予兆を先に掴めないか、でした。読み取れることは3つです。第一に、辞める前に兆候を測った公的な調査は、探した範囲では見当たりませんでした。第二に、近い資料である経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」は兆候を4つの欄に分けています。*1 辞める前の一人を見る欄は①従業員等だけで、そこに並ぶのは漏えいのために選ばれた項目です。②は元従業員、③は会社どうしの取引、④は社外からの行為です。*1 離任を判定するために作られた欄はありません。この確認はこの記事で行いました。第三に、資料は兆候の扱い方として、日頃から自社の通常の業務や取引の実態を把握しておくこと、兆候の次に疑いを確認する段階を置くこと、モニタリングの目的が従業員の保護であることを周知することを書いています。*1 以上から、業務委託の場面で先に決まるのは予兆の一覧ではなく、平常としてどの記録が取れてどの記録が取れないかです。この整理はこの記事のものです。
よくある質問
業務委託エンジニアの離任を予測できる公的資料はありますか
探した範囲では見当たりませんでした。辞めた人を後から数える統計はありますが、いま契約している一人ひとりについて辞める前に兆候を測ったものではありません。この記事では、情報漏えいの兆候を扱う経済産業省の資料を参考にしました。
退職者等の欄は離任の予兆に使えませんか
資料は「退職前の社内トラブルの存在」などを挙げていますが、*1 この欄の主語は元従業員です。キーパーソンといえる元従業員について退職の前後を通じた動きの把握が重要だとされており、*1 辞めたあとに遡って見る置き方だ、というのがこの記事の読み方です。
常駐していない相手はどの欄で読むのですか
③取引先として資料が挙げているのは「取引先からの突然の取引の打切り」などで、*1 会社どうしの取引の動きです。一人の技術者の働き方を見る項目ではない、というのがこの記事の読み方です。
平常はどうやって知るのですか
資料は「自社の従業員の勤務状況等について、タイムカードによる業務時間の把握や、部署内での報告、定期的な面談による業務量の確認等を通じて」と例を挙げています。*1 「自社の」と限定されており、委託先の人にそのまま当てはまるものではない、というのがこの記事の見方です。
監視してよいのですか
資料はモニタリングシステムについて「従業員保護のための適切な設定ができるものを選定し、組織体制を構築することが必要です。」とし、目的が従業員の保護であることを就業規則等に明記して周知徹底し、理解を得た上で運用することが望まれる、としています。*1
委託先との記録の決め方から相談したいときは
どの記録が取れてどの記録が取れないのかが整理できていない段階でもご相談ください。
Remoguとリラシクなら、必要な期間と範囲を決めたうえで、担当できる方をお探しいただけます。
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出典
- *1 参考:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」(PDF・平成28年2月、最終改訂 令和6年2月)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf)。出典:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」(平成28年2月公表、最終改訂 令和6年2月)。第6章6-1「漏えいの兆候の把握及び疑いの確認方法」の記述(兆候の把握から疑いの確認を経て初動対応に至る流れ、漏えいの主体を①従業員等・②退職者等・③取引先・④外部者に分けて兆候の具体例を挙げていること、①従業員等・②退職者等・③取引先・④外部者それぞれの兆候の具体例、退職者等についてキーパーソンの退職前後を通じた動きの把握が重要であること、兆候を発見するには日頃から自社の通常の業務や取引の実態を把握しておくことが重要であること、勤務状況の把握や部署内での報告や定期的な面談という例、テレワーク時のログの記録と保存、モニタリング導入時の従業員保護と目的の周知、確認が過去に遡る場合があること)、および第6章6-2以降の初動対応の内訳の一次情報として(2026年9月確認)