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2026.09.19 採用支援コラム

業務委託エンジニアの離任と漏えいの予兆|早めに気づくポイント

監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

誰も座っていないオフィスの白い机と黒い椅子の並びを写した写真。人も読める文字も写っていない

この記事の結論

  • 経済産業省のハンドブックが挙げるのは情報漏えいの兆候で、離任を判定するための項目ではありません。
  • 同ハンドブックは、兆候を見つけるために日頃から自社の通常の業務や取引の実態を把握しておくよう求めています。
  • 業務委託では、委託先の人についてどの記録が取れ、どの記録が取れないかを契約の前に決めておくと進めやすくなります。

※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。

契約している業務委託エンジニアが、ある日急に現場を離れることにならないか。離れる前に、何か気づけるサインはないのか——。社外の技術者に開発を頼む現場では、こうした心配が起こりがちです。業務委託エンジニアの離任とは、契約の途中で、あるいは契約が更新されずに、その人が現場から離れることを指します。

離任の予兆を考えるときに手がかりになるのが、経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」です。第6章は情報漏えいの兆候の見つけ方を扱っています。ただしこの資料も万能ではなく、そこに並ぶのはあくまで漏えいの兆候です。本記事では、業務委託エンジニアに開発を頼む発注側の担当者に向けて、資料が挙げる兆候の中身、離任の判定にそのまま使えない理由、ハンドブックが示す兆候の扱い方、そして契約の前に決めておきたい点を整理します。

業務委託エンジニアの離任の予兆とは

離任の予兆とは、その人が現場を離れる前に表れる変化のことです。辞めた人を後から数える統計はありますが、いま契約している一人ひとりについて、辞める前の兆候を測った公的な調査は、探した範囲では見当たりませんでした。公的な予兆の一覧は無いということです。

近い資料として使えるのが、経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」です。秘密情報とは、企業が秘密として管理している営業上・技術上の情報を指します。このハンドブックの第6章6-1「漏えいの兆候の把握及び疑いの確認方法」は、情報漏えいにつながり得る兆候を、漏えいを起こし得る相手ごとに挙げています。資料には「具体的には、①従業員等、②退職者等、③取引先、④外部者ごとに記載をしています」とあります。*1

4つのうち、在職中の個人の行動を扱う欄は①従業員等だけです。②退職者等は辞めたあとの元従業員、③取引先は会社どうしの取引、④外部者は社外からの行為を扱っています。

従業員等の欄に並ぶ5つの兆候

①従業員等の欄に挙がっている兆候は、次の5つです。資料が添えている例は、表の「資料の記述」の列にまとめました。

経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」6-1(1)①が挙げる従業員等の兆候(兆候の列の名前は本記事で付けたもの)
兆候 資料の記述
アクセス回数の増加 (業務上の必要性の有無に関わらず)秘密情報を保管しているサーバや記録媒体へのアクセス回数の大幅な増加
必要のないアクセス 業務上必要性のないアクセス行為。例として、担当業務外の情報が保存されたサーバやフォルダへの不必要なアクセス/不必要な秘密情報の大量ダウンロード/私物の記録媒体等の不必要な持込みや使用
長い残業や休日出勤 業務量に比べて異様に長い残業時間や不必要な休日出勤(残業中・休日中に情報漏えいの準備等を行う従業者が多いことから兆候となり得る)
休暇取得の拒否 業務量としては余裕がある中での休暇取得の拒否(休暇中のPCチェック等による発覚を恐れるため兆候となり得る)
不審な言動 経済的、社会的に極めて不審な言動

5つのうち2つには、なぜ兆候になるのかが括弧書きで添えられています。長い残業や休日出勤には「残業中・休日中に情報漏えいの準備等を行う従業者が多いことから」、休暇取得の拒否には「休暇中のPCチェック等による発覚を恐れるため」とあります。*1 どちらも、情報を持ち出す準備か、持ち出しが見つかるのを避けるための動きです。

理由が書かれていない残りの3つも、漏えいに結びつく動きです。アクセス回数の増加と必要のないアクセスは、情報を手元に集める動きに当たります。不審な言動には「給与に不満を持っているにも関わらず急激な浪費をし始めた」「頻繁に特定の競合他社と接触している」が例に挙がっています。*1 どちらも、お金や競合他社にかかわる、漏えいの動機になり得る例です。

なぜ離任の判定に使えないのか

資料は、①の兆候を、人が現場を離れることと結びつけてはいません。そのため、①に当てはまる動きがあるかどうかを見ても、離任の判定には使えません。

では、②退職者等の欄はどうでしょうか。資料が挙げるのは、「退職前の社内トラブルの存在」、「在職時の他社との関係」(例として「競合他社から転職の勧誘を受けていた」)、「同僚内の会話やOB会等で話題になっている、元従業員の不審な言動」、「退職者の転職先企業が製造・販売を開始した商品の品質や機能が、特に転職後、自社商品と同水準となった」の4つです。*1

最初の2つは在職中の出来事なので、予兆に使えそうに見えます。しかし欄の冒頭には「特に、中核的な業務に携わっていた者など、キーパーソンといえる元従業員についてはその退職前後を通じた動き(転職先企業の業務内容を含む)の把握が重要となります。」とあり、見る相手は元従業員です。*1 辞めたあとに漏えいを疑い、過去にさかのぼって確かめるときの項目で、辞める前に判定するための並びではないと読めます。

③取引先の5項目は、「取引先からの突然の取引の打切り」「通常の取引に比べて異様に詳細な情報照会」など、会社どうしの取引の動きです。*1 ④外部者の6項目も社外からの行為や自社で起きた事件で、どちらにも在職中の個人の行動を扱う項目はありません。4つの欄のどれも、離任を判定するために作られてはいないことになります。委託先の人が4つの区分のどこに入るかは「業務委託エンジニアの離任とは|経産省の対策区分は4つ」で整理しています。

ハンドブックが示す兆候の扱い方

項目はそのまま使えなくても、兆候をどう扱うかについての記述は、業務委託の場面でも参考になります。6-1から3つを取り上げます。

兆候の把握、疑いの確認、初動対応の3段階を並べた図。兆候の把握ではアクセス回数の増加や異様に長い残業時間などを挙げるが断定はせず、次に初動対応を開始する必要がないかを確かめる段階があり、その先に社内調査や被害の検証がある。

1つめは、ふだんの状態を知っておくことです。資料は「以下のような兆候を適切に発見するためには、日頃から自社の通常の業務や取引の実態を把握しておくことが重要です。」とし、「どのような状態が「異様」と言えるのかを意識しておかないと、従業員の残業が情報漏えいにつながり得る兆候に当たるのかどうかの判断が難しいでしょう。」と続けています。*1 何が異様かは、ふだんと比べて初めて分かります。

2つめは、兆候の段階では決めつけないことです。資料は兆候の把握の次に「漏えいの疑いの確認」という段階を置き、「その兆候を放っておくことなく、情報漏えいが発生した疑いが高いものとして初動対応を開始する必要がないかを確認する必要があります。」としています。*1 兆候が見えたらすぐに処分や調査に進むのではなく、まず確かめる段階をはさむ順番です。

3つめは、見るなら目的を先に伝えることです。モニタリングとは、ログやメールの送受信履歴などを続けて見ることを指します。資料はモニタリングシステムについて「従業員保護のための適切な設定ができるものを選定し、組織体制を構築することが必要です。」とし、「その目的が従業員の保護であることを就業規則等に明記して従業員に周知徹底するとともに、従業員の理解を得た上で、適切な運用を行うことが望まれます。」としています。*1

つまずきやすい点

一つ目は、ふだんの状態を知る方法が自社の従業員を前提にしている点です。資料がその方法として挙げるのは、「自社の従業員の勤務状況等について、タイムカードによる業務時間の把握や、部署内での報告、定期的な面談による業務量の確認等を通じて」というものです。*1 どれも自社の従業員に向けた仕組みで、委託先の人にそのまま当てはめることはできません。委託先の人の勤務時間や休暇を発注側が管理してよいかは契約の性質にかかわるため、本記事では扱いません。自社の従業員について人事データから離職のしやすさを推定する方法は「離職予測AI入門」で扱っています。

二つ目は、発注側が比べられるものが主にログになることです。資料はテレワークについて、働く様子が目で見えにくいことから、ログを記録し、保護された状態で保存するよう求めています。ログとは、いつ誰が何を操作したかを機械が残す記録です。挙がっているのは、秘密情報へのアクセス履歴、利用者の操作履歴、VPN(社外から社内につなぐ仕組み)の装置へのアクセス履歴などです。*1 長い残業や休日出勤のように、働きぶりから目で見て分かるものは多くありません。

外部に委託するときに確認しておきたい点

ここまでを踏まえて、委託の契約を結ぶ前に決めておきたい点を3つ挙げます。資料が契約の条項を示しているわけではないので、発注側で決めておく事項として整理します。

1つめは、ふだんの状態を知るための記録のうち、どれが取れないのかを先に決めることです。勤怠の管理や定期的な面談を委託先の人に行わないのであれば、ふだんと比べる形の兆候は判定に使えません。取れないと分かっている記録を当てにしないでおけば、何かあったときに、はじめから無い記録を探さずに済みます。

2つめは、取れる記録の種類と保存期間を決めることです。資料は「兆候のあった直近の時点だけではなく、ある程度過去に遡って、事実や状況の確認を行う必要がある場合があるという点に留意してください。」としています。*1 さかのぼって確かめられる長さは、契約で決めたログの保存期間より長くはなりません。

3つめは、記録を見ることをどの文書で伝えるかを決めることです。資料は、モニタリングの目的が従業員の保護であることを周知し、理解を得るよう求めていました。自社の従業員には就業規則がありますが、委託先の人にはどの文書で伝えるのかを、契約の段階で決めておくと進めやすくなります。

まとめ:離任の予兆で確かめておきたい3つの点

業務委託エンジニアの離任の予兆を考えるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、経済産業省のハンドブックが挙げる兆候は情報漏えいのためのもので、離任の判定にはそのまま使えないこと。第二に、兆候を見つけるにはふだんの状態を知っておき、兆候が見えても決めつけずに、疑いを確かめる段階をはさむこと。第三に、委託先の人についてどの記録が取れてどの記録が取れないのか、記録を見ることをどの文書で伝えるのかを、契約の前に決めておくことです。この3点を踏まえておけば、「何かあってから記録を探したら、はじめから残っていなかった」という事態を避けやすくなります。記録の決め方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。

LASSICに相談するメリット

委託先の人について何を記録し、何を記録しないのかを決めるところから一緒に整理できます。契約の形がまだ決まっていない段階でもご相談いただけます。

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よくある質問

秘密情報の保護ハンドブックは、いつの資料ですか

平成28年(2016年)2月に公表され、最終改訂は令和6年(2024年)2月です。*1 本記事では、その第6章のうち、兆候を扱う6-1と、初動対応を扱う6-2以降の記述を参照しました。

外部者の欄には、どんな兆候が挙がっていますか

④外部者の欄には6項目が挙がっており、社員証の流出事件、盗聴器の発見、ウィルス対策ソフトによる警報などが例です。*1 社外からの行為や自社で起きた事件が中心で、在職中の個人の行動を扱う項目ではありません。

疑いを確かめたあとの初動対応とは、何をするのですか

資料が6-2以降で挙げるのは、社内調査、被害の検証、対策チームの設置などです。*1 兆候を見つけた段階ではなく、疑いを確かめて初動対応が必要だと判断したあとに進む手順として置かれています。

委託先との記録の決め方から相談したいときは

どの記録が取れてどの記録が取れないのかが整理できていない段階でもご相談ください。

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出典

  1. *1 参考:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」(PDF・平成28年2月、最終改訂 令和6年2月)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf)。出典:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」(平成28年2月公表、最終改訂 令和6年2月)。第6章6-1「漏えいの兆候の把握及び疑いの確認方法」の記述(兆候の把握から疑いの確認を経て初動対応に至る流れ、①従業員等・②退職者等・③取引先・④外部者それぞれの兆候の具体例、退職者等についてキーパーソンの退職前後を通じた動きの把握が重要であること、日頃から自社の通常の業務や取引の実態を把握しておくこと、勤務状況の把握や部署内での報告や定期的な面談という例、テレワーク時のログの記録と保存、モニタリング導入時の従業員保護と目的の周知、確認が過去に遡る場合があること)、および第6章6-2以降の初動対応の内訳を参照(2026年9月確認)




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