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採用管理システム(ATS)の開発を外注する進め方
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)として業務システムの開発・保守を受託
この記事のポイント
- 採用管理システム(ATS)は、母集団形成から応募者管理・選考フロー・内定管理までを一元化し、採用プロセスに軸足を置く仕組みです。
- 入社後の目標管理を担う人事評価・タレントマネジメントや勤怠管理とは対象範囲が異なり、境界は「入社」に置かれます。
- 外注では求人媒体との連携、候補者の個人情報保護、通知・日程調整の使い勝手が確認の勘所になります。
目次
採用管理システム(ATS)とは——母集団形成から内定管理までを束ねる仕組み
採用管理システム(ATS。Applicant Tracking Systemの略。応募者の情報と選考の進行状況を一元的に追跡・管理する仕組み)とは、求人の掲載から応募の受付、書類選考、面接、内定、入社までの一連の採用プロセスを一つの基盤で扱うシステムを指します。従来は求人媒体・表計算ソフト・メール・電話に分散していた情報を束ね、候補者ごとの選考ステータスを可視化する点に特徴があります。
採用の難易度は年々高まっています。リクルート就職みらい研究所の『就職白書2024』では、2024年卒で「採用予定数を100」とした場合の最終的な内定人数は80.7で、2023年卒の89.2から低下したと報告されました*2。母集団の確保が難しくなるほど、候補者一人ひとりの選考状況を取りこぼさず追う仕組みの価値は増していきます。
ATSが扱う中心は、まだ自社の従業員ではない「候補者」です。誰がどの求人に応募し、いまどの選考段階にいるのか。次に誰が何をすべきか。こうした進行状況を関係者で共有できると、対応の遅れによる離脱を抑えやすくなります。次章では、入社後を担う他システムとの違いを整理しましょう。
人事評価・タレントマネジメントや勤怠との違い——境界は「入社」にある
人事領域のシステムは対象範囲で役割が分かれます。採用管理システム(ATS)が扱うのは入社前の候補者、人事評価・タレントマネジメントシステムが扱うのは入社後の従業員、勤怠管理システムが扱うのは日々の労働時間です。三者の境界を意識せずに要件を混ぜると、開発範囲がぼやけてしまいがちです。
人事評価・タレントマネジメントは、目標管理や評価、スキルの可視化、配置・育成といった「入社後に人材を活かす」データを扱います。勤怠管理は出退勤や休暇の記録という「日々の運用を動かす」データが中心です。これらに対してATSは、母集団形成から内定までの「採るまで」の情報に軸足を置いています。
連携の要は入社のタイミングにあります。ATSに蓄積した内定者の氏名・連絡先・入社日といった情報を、入社時に人事データベースや勤怠・給与システムへ引き継ぐと、二重入力を減らせます。逆に言えば、ATS単体で人事評価まで賄おうとする設計は範囲が広がりすぎるため避けたほうが無難でしょう。連携ポイントを「入社」に定め、データの受け渡し仕様を先に決めておくことが実務的です。
ATSの主要機能——求人媒体連携・応募者管理・選考フロー・日程調整・内定管理
採用管理システム(ATS)の機能は、採用プロセスの流れに沿って整理すると把握しやすくなります。要件定義では、次の機能群のうちどこを重視するかを見極めることが起点になります。
| 機能群 | 担う役割 | 要件定義での主な論点 |
|---|---|---|
| 求人媒体連携・採用サイト | 求人媒体やエントリーフォームからの応募をATSへ取り込む | 連携する媒体の種類とデータ取込方式 |
| 応募者管理 | 候補者情報の一元化と、同一人物の重複応募の名寄せ | 重複判定のルールと個人情報の保管範囲 |
| 選考ステータス・フロー | 書類選考から面接までの進行段階を可視化する | 新卒・中途で異なる選考段階の設計 |
| 面接日程調整・通知 | 候補者・面接官・会議室の予定をすり合わせる | 自動通知の文面と連絡手段(メール/SMS等) |
| 評価・スコアリング | 面接官の評価を記録し、合否判断の材料にする | 評価項目の統一と面接官ごとのばらつき抑制 |
| 内定管理・採用KPI | 内定通知・承諾フォローと、歩留まりや母集団の集計 | 段階ごとの歩留まり指標の定義 |
とりわけ差が出やすいのが選考フローと日程調整です。選考段階は企業ごとに固有の呼称や分岐を持つため、実際の運用に合わせてステータスを柔軟に設計できるかが使い勝手を左右します。日程調整は、候補者・面接官・会議室という三者の都合を合わせる作業で、担当者の手間が集中しやすい領域でもあります。
採用KPIの集計も見逃せません。応募から書類通過、面接、内定、承諾へと進むなかで、どの段階で候補者が離脱したのかを歩留まりとして把握できると、母集団形成の打ち手を検討しやすくなります。候補者体験(CX。応募から選考を通じて候補者が受け取る印象や利便性)の観点では、返信の速さや通知のわかりやすさが辞退率にも関わってきます。
新卒と中途で変わる要件——リファラル・ダイレクトリクルーティングとエージェント連携
採用管理システム(ATS)の要件は、新卒採用と中途採用で大きく変わります。両者を一つのフローに無理やり収めようとすると、かえって使いにくくなる場合があるため、違いを踏まえた設計が欠かせません。
新卒採用——母集団の大きさと年次一括のスケジュール
新卒採用は、母集団が大きく、説明会やエントリー、複数回の面接が年次スケジュールに沿って一斉に進む点に特徴があります。同時期に大量の応募を捌くため、一括のステータス更新やまとめて送る通知の機能が重宝されます。前述の『就職白書2024』では、企業調査(有効回答1,488社、調査期間2023年12月1日〜2024年1月10日)で「内定辞退が予定より多かった」との回答が43.4%に上りました*2。内定から入社までのフォローを取りこぼさない仕組みが、辞退の抑制に寄与します。
中途採用——エージェント連携とダイレクトリクルーティング
中途採用では、人材紹介エージェント経由の応募や、企業から候補者へ直接アプローチするダイレクトリクルーティング、社員が知人を紹介するリファラル採用など、流入経路が多様です。エージェントとのやり取りを記録し、経路ごとに歩留まりを比較できると、どの手段が効果的かを判断しやすくなります。リファラル採用では紹介者と候補者のひも付け、ダイレクトリクルーティングではスカウト送信の履歴管理が要件に加わります。
これらの流入経路を扱う際、外部の人材紹介事業者や求人媒体が関わる場面が増えます。募集情報等の提供に関しては職業安定法の枠組みがあり、2022年10月の改正で募集情報等提供事業の範囲が拡大し、特定募集情報等提供事業に届出制が設けられました*1。連携先の事業者がどのような規律の下にあるかを把握しておくと、データ連携の設計判断がしやすくなります。
パッケージ(ATS SaaS)かスクラッチか——判断軸を整理する
採用管理システム(ATS)を用意する手段は、大きくパッケージ(ATS SaaS)の導入とスクラッチ開発に分かれます。多くの企業ではまずパッケージが候補になりますが、既存システムとの連携要件や自社固有の選考プロセスが強い場合は、スクラッチや大幅なカスタマイズが視野に入ります。
| 観点 | パッケージ(ATS SaaS) | スクラッチ開発 |
|---|---|---|
| 立ち上げの速さ | 初期設定中心で比較的早い | 要件定義から始めるため時間を要する |
| 独自フローへの適合 | 製品の機能範囲に合わせる | 自社の選考フローに合わせて設計できる |
| 既存システム連携 | 用意されたAPIの範囲で連携 | 連携仕様を自由に定義しやすい |
| 費用の形 | 月額・従量などの利用料が中心 | 初期開発費と保守費が中心 |
判断の軸は、選考プロセスの独自性と連携要件の強さに置くとよいでしょう。汎用的な選考フローで足りるなら、パッケージの初期設定で早期に運用へ乗せる選択が現実的です。一方、既存の人事データベースや基幹システムとの密な連携が前提であったり、他社にない選考フローを核にしたい場合は、スクラッチや大幅なカスタマイズを検討する余地が生まれます。パッケージを基盤にしつつ連携部分だけを個別開発する、といった組み合わせも一つの解です。
外注時に確認する3点——媒体API連携・候補者の個人情報保護・通知/日程調整の使い勝手
採用管理システム(ATS)の開発を外部に委託する場合、確認すべき点は多岐にわたりますが、とくに次の3点は選考プロセスの成否に直結します。委託先を選ぶ際は、これらへの対応方針を具体的に説明できるかどうかを見ておきたいところです。
1. 求人媒体・エージェントとのAPI連携
求人媒体やエージェントごとに、連携の可否やデータ形式は異なります。API連携が使えるのか、CSVなどのファイル取込にとどまるのか。連携先が仕様を変更した際に誰が追随するのか。こうした運用面まで含めて、対応範囲を契約前にすり合わせておくと齟齬を防ぎやすくなります。連携する媒体の一覧を早い段階で確定させておくことが、後戻りの抑制につながります。
2. 候補者の個人情報保護
ATSは候補者の氏名・連絡先・職歴・評価といった個人情報を大量に扱います。個人情報保護法に基づき、個人情報取扱事業者には利用目的の特定、安全管理措置、第三者提供の制限といった義務が課されています*3。加えて採用選考の局面では、応募者本人の適性・能力とは関係のない事項——本籍・家族・思想信条など——を収集しないよう配慮すべきだと厚生労働省が示しています*4。委託先とはアクセス権限の設計、保管期間、不要になったデータの削除方針を確認しておくことが望まれます。
3. 通知・日程調整の使い勝手
候補者への通知の速さや文面のわかりやすさ、面接日程の調整のしやすさは、候補者体験を左右し、辞退率にも影響します。自動通知の文面をどこまで柔軟に設定できるか、候補者側の操作は簡単か。デモや検証環境で実際の操作感を確かめてから採否を決めると、運用開始後の齟齬を減らせます。
ここまでの3点を踏まえると、内製と外注の分かれ目も見えてきます。汎用機能のみで、対象となる媒体連携が少なければ、パッケージ導入を自社主導で進める選択肢もあるでしょう。一方、複数媒体との連携や既存システムとのデータ連携、独自フローの実装が絡む場合は、要件定義から運用までを一貫して担える体制の有無が委託先選定の軸になります。現状の採用フローと連携要件を棚卸ししたうえで、内製・外注の切り分けを検討することが実務的でしょう。
まとめ:採用管理システム(ATS)開発の外注で押さえる判断軸
本稿では採用管理システム(ATS)の役割と外注の進め方を、公的機関の情報と実在の調査をもとに整理してきました。要点は次の3つに集約できるでしょう。第一に、ATSは母集団形成から応募者管理・選考フロー・内定管理までの採用プロセスを束ねる仕組みであり、入社後を担う人事評価・タレントマネジメントや勤怠管理とは対象範囲が分かれ、境界は「入社」に置かれます。第二に、新卒と中途で要件は大きく変わり、リファラルやダイレクトリクルーティング、エージェント連携をどこまで扱うかが設計の分岐点です。第三に、外注では求人媒体との連携、候補者の個人情報保護、通知・日程調整の使い勝手が確認の勘所となり、選考プロセスの独自性の強さがパッケージとスクラッチの判断軸になります。
よくある質問
採用管理システム(ATS)と人事評価・タレントマネジメントシステムは何が違いますか。
対象範囲が異なります。ATSは入社前の候補者を扱い、母集団形成から選考・内定までの採用プロセスを管理します。人事評価・タレントマネジメントは入社後の従業員を対象に、目標管理や評価、配置・育成を担う仕組みです。両者は入社のタイミングでデータを引き継ぐ形で連携させると、二重入力を減らせます。
パッケージ(ATS SaaS)ではなくスクラッチ開発を選ぶべきなのはどのような場合ですか。
選考プロセスの独自性が強い場合や、既存の人事データベース・基幹システムとの密な連携が前提となる場合です。汎用的な選考フローで足りるならパッケージの初期設定で早期に運用へ移せますが、他社にない独自フローを核にしたいときはスクラッチや大幅なカスタマイズが選択肢になります。パッケージを基盤に連携部分だけを個別開発する折衷案もあります。
候補者の個人情報の取り扱いで、開発時に気をつける点は何ですか。
個人情報保護法では、個人情報取扱事業者に利用目的の特定・安全管理措置・第三者提供の制限などの義務が課されています*3。加えて採用選考では、応募者本人の適性・能力と関係のない事項を収集しないよう厚生労働省が配慮を求めています*4。アクセス権限の設計、保管期間、不要になったデータの削除方針を委託先と確認しておくことが大切です。
求人媒体やエージェントとの連携はどこまでAPIで実現できますか。
連携の可否やデータ形式は媒体・エージェントごとに異なります。API連携が使える場合もあれば、CSVなどのファイル取込にとどまることもあるでしょう。連携する媒体を早い段階で確定させ、仕様変更時に誰が追随するかまで含めて、契約前に対応範囲を委託先とすり合わせておくと後戻りを防げます。
新卒採用と中途採用でシステム要件はどう変わりますか。
新卒採用は母集団が大きく年次スケジュールで一斉に進むため、一括のステータス更新やまとめて送る通知が重宝されます。中途採用はエージェント経由・ダイレクトリクルーティング・リファラルなど流入経路が多様で、経路ごとの歩留まり比較やスカウト履歴の管理が要件に加わる点が特徴です。両者を無理に一つのフローへ収めず、違いを踏まえて設計することが望まれます。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:厚生労働省「募集情報等提供事業について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/boshuujouhouteikyou.html)
- *2 出典:株式会社リクルート 就職みらい研究所「『就職白書2024』 2024年卒の就職・採用活動の振り返りと、2025年卒の採用見通しを調査」(2024年2月20日)(https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2024/0220_14034.html)
- *3 出典:個人情報保護委員会「個人情報保護法等」(https://www.ppc.go.jp/personalinfo/)
- *4 出典:厚生労働省「採用選考時に配慮すべき事項」(公正な採用選考特設サイト)(https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/consider.html)