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2026.08.20 らしくコラム

CBAM対応とは|排出量データの集め方



監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論

  • CBAM:EUが輸入品に対して、製造時の排出量に応じた負担を求める仕組みで、対象品目から順に適用されます。
  • 輸出側に生じる作業:製品ごとの排出量を算定し、根拠とともに輸入者へ渡すこと。数値の精度が費用に直結します。
  • システムの要:工程の実績を製品単位へ割り当てる配賦の規則と、算定の根拠を後から示せる記録の保持です。

※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。

EU向けに鉄鋼やアルミ、セメントなどを輸出している企業から、「製品の排出量を出してほしい」と求められる場面が増えました。背景にあるのがCBAM——炭素国境調整措置と呼ばれる仕組みです。輸入品に対して、その製造時の排出量に応じた負担を求める制度で、EUの気候政策の一部として整えられました*1。

本記事では、EU向けに対象品目を出している製造業、あるいはその報告の仕組みを受託する立場の担当者に向けて、求められるデータ、社内での集め方、配賦の考え方、そしてシステムで用意する仕組みを整理します。対象品目や手続きは段階的に具体化されるため、実際の対応は公式資料で確かめながら進めてください。

製造工程の排出量データを集計し報告する仕組みを検討するイメージ

CBAMとは——輸入品の排出量に応じた負担

CBAMは、EU域内の事業者が域外から特定の品目を輸入する際に、その製品の製造にともなう排出量に応じた負担を求める仕組みです*1。域内の事業者が排出への負担を負っているのに、域外からの輸入品がその負担を免れると公平性を欠く——この考えから設けられました。

CBAM対応で集めるデータの流れ(工程の実績、原単位の算定、輸入者への提供、記録の保持)と、移行の期間と本格適用の段階の違いを示した図

制度は段階を踏んで動いています。まず報告を中心とする移行の期間があり、その後に本格的な適用へ移る形です。移行の期間は「数値を出せるようにする準備期間」と捉えるとよいでしょう。本格適用に入ると、報告した数値が費用に直結するため、精度と根拠の説明が問われるようになります。

ここで押さえておきたいのは、制度上の義務を負うのはEU側の輸入者だという点です。日本の輸出者に直接の報告義務が課されるわけではありません。ただし輸入者は、排出量の数値を輸出者から受け取らなければ報告できません。したがって実務上は「求められて出す」立場になり、出せない場合には既定値が使われて負担が重くなる、という圧力がかかります。

対象品目は、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力、水素などから始まっています。自社の製品が該当するか、部材として組み込まれる形で関わるのかを、まず確かめるところからになります。

求められるデータと、社内での集め方

輸入者から求められるのは、製品に埋め込まれた排出量の数値と、その算定根拠です。中身を分解すると、次の情報が必要になります。

表1:排出量の算定に必要な情報と、社内の在りか
情報 中身 社内での在りか
生産量 対象製品の生産数量(期間ごと) 生産管理システム、日報
エネルギー使用量 燃料、電力、蒸気などの使用量 計量器の記録、請求書、設備の台帳
原材料 投入した材料と、その由来 購買・在庫のシステム
前工程の排出量 供給元から受け取る排出量の情報 取引先とのやりとり(多くは未整備)
算定の根拠 用いた係数、計算の方法、対象期間 担当者の手元資料になりがち

集めること自体はできても、つなぎ目でつまずく企業が多いところです。とくに難しいのが、設備ごとの実績を製品単位へ割り当てる作業です。一つの炉で複数の製品を作っている、電力が工場全体で一括計量されている——こうした場合、どの規則で配分するのかを決めなければ数値が出せません。

配賦の規則は、生産量や稼働時間、投入量などを基準に決めます。重要なのは、規則を文書として固定し、期間をまたいで同じ方法を使うことです。期ごとに方法が変わると、数値の比較ができず、説明もつきません。ここは会計の考え方に近い部分でしょう。

システムで用意する仕組み

報告のたびに担当者が表計算で集計する形は、初回なら成立します。ただ、期を重ねるうちに破綻しがちです。仕組みとして持つべきものを挙げます。

  • 実績の取り込み:計量器や設備の記録、購買データを定期的に集める経路
  • 配賦の規則を設定として持つ:規則を画面から確認・変更でき、変更の履歴が残る
  • 係数の管理:用いる排出係数の版と適用期間を管理し、遡って再計算できる
  • 出力の様式:輸入者へ渡す様式に合わせて出力し、様式の変更に追随できる
  • 根拠の保管:計算の入力値と結果、用いた規則と係数を、期間ごとに保持する

とくに三番目の係数管理は見落とされがちです。係数が更新されたとき、過去の期間を再計算する必要が生じることがあります。係数を計算式に直書きしていると、この対応ができません。マスタとして持ち、期間で切り替えられる設計にしておきます。

また、排出量の算定は他の制度でも求められます。取引先からの要請、投資家向けの開示、社内の削減目標。同じ実績データを使い回せる作りにしておけば、投資が重複しません。この考え方はESG・GHG算定システムの開発で扱っている内容と重なります。

製品ごとの情報を外部へ示す流れは、EUで整備が進む製品情報の仕組みとも接続します。デジタル製品パスポートで扱ったように、識別子から情報へ辿れる形を将来求められる可能性があるため、製品単位でデータを持つ設計にしておくと後が楽になります。

供給元からのデータ収集という難所

自社の工程だけで完結する製品は少なく、前工程の排出量を供給元から受け取る必要が出てきます。ここがいちばんの難所です。理由は三つあります。

第一に、相手に体制がないことです。中小の供給元では、排出量を算定した経験がない場合も珍しくありません。様式を渡すだけでは埋まらないため、算定の考え方を共有する支援が要ります。

第二に、営業秘密との緊張です。排出量の内訳は、原材料の配合や工程の効率を推測させる情報でもあります。どの粒度で渡すのかについて、供給元が慎重になるのは自然なことです。合計値のみを渡す、第三者を介するなど、扱い方の工夫が要ります。

第三に、更新の頻度です。一度もらえば終わりではなく、期ごとに更新が必要です。個別のメールでやりとりしていると、期を重ねるほど回らなくなります。窓口を一本化し、様式を固定するところから始めるのが現実的でしょう。

この難所は、委託先・サプライチェーンの管理と同じ構造をしています。相手の体制に差があるなかで、共通の様式と窓口を作り、段階的に自動化していく。地道ですが、これ以外の近道はありません。

受託・委託開発で押さえる実務ポイント

この領域の案件を受ける場合、次の点を初期に固めておくと後が読めます。

第一に、対象範囲の確定です。どの製品、どの工場、どの期間を対象にするのか。全社を一度に対象にすると終わらないため、EU向けの主力製品と、その製造拠点から始めます。

第二に、配賦規則の合意です。技術的な実装より前に、業務側と規則を決める作業が必要です。この合意がないままシステムを作ると、数値が出た後に「その配分はおかしい」と議論が戻ります。

第三に、再計算に耐える設計です。係数の更新、規則の見直し、誤りの発見。いずれの場合も遡って計算し直す必要が生じます。入力値を保持し、いつでも再計算できる作りにしておきます。

第四に、出力様式の分離です。制度の様式は変わります。内部のデータ構造と出力の形を分け、様式だけを差し替えられるようにしておけば、変更のたびに作り直す必要がありません。

体制面では、業務側の担当者と一緒に進められるかが分かれ目になります。数値の意味を理解しないまま実装すると、使われない仕組みになりがちです。逆に、業務側が配賦や係数の考え方を持っていれば、システム側は素直に作れます。生産管理の仕組みと接続する部分も多いため、現場の運用を踏まえた設計を心がけたいところです。

まとめ:CBAM対応で押さえる3つの視点

CBAMは、EUが輸入品に対して製造時の排出量に応じた負担を求める仕組みで、対象品目から順に適用が進んでいます。押さえたい視点は三つです。第一に、制度上の義務を負うのはEU側の輸入者ですが、数値を出せない場合には既定値が使われて負担が重くなるため、輸出側には実質的に算定と提供の作業が生じること。第二に、算定の要は工程の実績を製品単位へ割り当てる配賦の規則であり、規則を文書として固定し期間をまたいで同じ方法を使うことが数値の説明力を左右すること。第三に、システムでは実績の取り込み、配賦規則と係数の管理、出力様式の分離、根拠の保管を備え、再計算に耐える設計にしておくことです。まずは対象製品と拠点を絞り、業務側と配賦の規則を決めるところから始めてみてください。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)として、製造業の業務システムやデータ基盤の開発・運用を受託しています。実績データの取り込み、配賦規則と係数を設定として持つ設計、再計算に耐える構造、出力様式の分離まで、制度が動く前提での実装をご提案できるのが強みです。対象範囲の整理からご相談いただけます。

よくある質問

日本の輸出者に報告の義務があるのですか。

制度上の義務を負うのはEU側の輸入者です。ただし輸入者は排出量の数値を輸出者から受け取らなければ報告できないため、実務上は求められて提供する立場になります。数値を出せない場合には既定値が用いられ、結果として負担が重くなることがあるため、算定できる状態を整えておく意味があります。

自社製品が対象かどう確かめればよいですか。

対象品目は制度のなかで示されており、鉄鋼やアルミニウム、セメント、肥料などから始まっています。自社の輸出品目と照らし合わせるのが第一歩です。あわせて、部材として組み込まれる形で関わる可能性も確認しておくと、取引先からの依頼に備えられます。

算定でいちばん難しいのはどこですか。

設備ごとの実績を製品単位へ割り当てる配賦です。一つの設備で複数製品を作っている、電力が工場一括で計量されている、という状況では、どの基準で配分するかを決めなければ数値が出ません。規則を文書として固定し、期間をまたいで同じ方法を使うことが重要になります。

表計算での集計では足りませんか。

初回は成立しますが、期を重ねると破綻しがちです。係数の更新で遡った再計算が必要になったとき、入力値と規則が残っていなければ対応できません。実績の取り込み、規則と係数の管理、根拠の保管を仕組みとして持つほうが、長い目では負担が軽くなります。

供給元から排出量をもらえない場合はどうすればよいですか。

算定の考え方を共有する支援から始めるのが現実的です。相手に経験がないことも多く、様式を渡すだけでは埋まりません。営業秘密への配慮から詳細を出しにくい場合は、合計値のみを受け取る形や第三者を介す形も検討します。窓口を一本化し、様式を固定するところから着手します。

排出量データの収集・報告の仕組みづくりはLASSICへ

元請(プライムベンダー)として、実績の取り込みから配賦規則・係数の管理、再計算に耐える設計、出力様式の分離までご提案します。まずはお気軽にご相談ください。

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出典

  1. *1 参考:European Commission「Carbon Border Adjustment Mechanism」(https://taxation-customs.ec.europa.eu/carbon-border-adjustment-mechanism_en)。制度の目的・対象品目・段階的な適用と報告の枠組みの参考として(2026年8月確認)
  2. *2 参考:日本貿易振興機構(ジェトロ)「EU|欧州(国・地域別に見る)」(https://www.jetro.go.jp/world/europe/eu/)。EUの通商・環境関連制度に関する日本語での情報整理の参考として(2026年8月確認)




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