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2026.08.21 らしくコラム

CSRDとは|開示データ基盤の作り方



監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論

  • 指令の位置づけ:サステナビリティ報告に関する指令(2022/2464/EU)で、対象企業はESRSに従って報告することとされています*1。
  • 時期は動いている:第1陣は2024年度から適用されたいっぽう、第2・3陣は延期され、対象を大企業に絞る提案も出ています*1。
  • 備えの勘どころ:対象から外れても、取引先から数字を求められる状況は変わりません。集める・束ねる・示すの三層を先に整えることです。

※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。

サステナビリティに関する情報の開示は、任意の取り組みから制度の枠組みへ移りつつあります。その中心にあるのが、EUのサステナビリティ報告に関する指令(Directive 2022/2464/EU)——CSRDです。対象となる企業は、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に従って報告することとされています*1。

ただし、この枠組みは動いています。最初の対象企業は2024年度から新しいルールを適用し、2025年に報告を公表しました。いっぽう、2025年度や2026年度から報告を始める予定だった企業については、適用を後ろへずらす指令によって延期されました*1。さらに2025年2月26日の立法提案では、従業員1,000人を超える規模の企業に限って適用する案が示されています*1。

本記事では、報告に関わる企業の情報システム部門と、その基盤づくりを受託する立場に向けて、動く制度にどう向き合うか、どのようなデータ基盤が必要になるかを整理します。適用の判断には法務と会計の確認が要るため、実際の対応は最新の公式資料と確かめながら進めてください。

資料と数値を並べて報告を検討する担当者のイメージ

制度が動いている——それでも備えが要る理由

まず状況を整理します。公表されている内容は次のとおりです*1。

CSRDの適用状況を三つに整理した図(第1陣は2024年度から適用し2025年に報告を公表、第2・3陣は適用が延期、2025年2月26日の提案では従業員1,000人超の企業に限る案)と、データ基盤として要る三つの層(集める・束ねる・示す)を示した図

最初の対象企業は2024年度から新しいルールを適用し、2025年に報告を公表しました。次に続く予定だった企業群については、適用を後ろへずらす指令によって延期されています。そして2025年2月26日の立法提案では、従業員1,000人を超える企業に限って適用する案が示されています*1。

この状況を見て「様子見でよい」と判断する企業もあるでしょう。実際、制度の細部が固まる前に作り込むのは無駄が出ます。ただ、備えを何もしないという判断は別の問題を招きます。理由を三つ挙げます。

第一に、取引先からの要求は制度の対象範囲とは別に来ます。報告する側の企業は、供給網からデータを集める必要があります。自社が報告の義務を負っていなくても、取引先の報告のために数字を求められる立場になり得ます。

第二に、集めるという作業自体に時間がかかります。拠点や子会社、取引先から項目を揃えて受け取れる状態にするには、依頼のひな形を作り、回答の形式を揃え、検査の仕組みを用意する必要があります。制度が固まってから始めては間に合いません。

第三に、いま出している数字の質が問われる可能性があります。自主的に公表している統合報告書やウェブサイトの数値について、根拠を示せるか。制度の対象でなくても、開示した数字の説明は求められます。

したがって、進め方としては「基盤は作る、報告の様式は待つ」という切り分けが現実的になります。

データ基盤として要る三つの層

開示のためのデータ基盤は、三つの層に分けて考えると整理しやすくなります。

表1:三つの層と、それぞれの難所
やること 実務での難所
集める 拠点・子会社・取引先から項目を揃えて受け取る 回答の形式が揃わない。入口で検査しないと後で破綻する
束ねる 単位と定義を揃えて集計する 連結の範囲と報告の範囲が一致しないことがある
示す 数字と、その根拠を辿れる形で出す 集計結果だけ残していて、元データへ戻れない

集める層です。ここで要になるのは、入口での検査です。表計算のファイルで回収して人が目で見る運用は、拠点が増えると回りません。必須項目の欠落、単位の誤り、桁の異常——これらを受け取った時点で弾く仕組みを作ります。

回答する側の負担への配慮も要ります。海外の拠点や小規模な取引先に、複雑な様式を求めても埋まりません。項目を絞り、選択肢で答えられる形にする。段階的に精度を上げる進め方が現実的です。

束ねる層です。ここでつまずくのが、範囲の定義です。会計上の連結の範囲と、報告で求められる範囲が一致しないことがあります。持分法の適用会社、共同支配の事業、取得や売却があった年度——扱いを決めておかないと、数字が揺れます。

この論点は、財務の連結と同じ性格を持ちます。連結会計の仕組みで扱うような、範囲の管理と期間の締めの考え方が土台になります。既存の連結の仕組みがあるなら、その範囲情報を流用できるかを確かめます。

示す層です。報告した数字について、後から「これはどこから来た数字か」と問われます。集計結果だけを保存していると答えられません。元データ、変換の過程、集計のロジック——この連鎖を辿れる形で残す必要があります。

ここはデータの棚卸しと管理で扱うような、どのデータがどこから来たかを記録する仕組みが効いてきます。後から足すのが難しい部分なので、最初から入れておきたいところです。

第三者に確かめてもらえる状態にする

開示した情報について、第三者が確認するという流れが制度の中に組み込まれつつあります。この点を踏まえると、データ基盤の設計に一つ条件が加わります。「他人が確かめられる形になっているか」です。

財務の数字は、長い年月をかけてこの条件を満たす形に整えられてきました。伝票があり、承認があり、記録が残り、後から追える。サステナビリティの数字は、この整備がまだ進んでいない領域です。

確かめられる状態にするために必要なことを挙げます。

第一に、入力の記録です。誰が、いつ、どの値を入れたのか。上書きで消えてしまう作りだと、後から追えません。

第二に、承認の経路です。拠点が入れた値を、誰が確認したのか。承認の記録がないと、数字の責任の所在が曖昧になります。申請・承認ワークフローの開発で扱うような、状態と記録を持つ設計がそのまま当てはまります。

第三に、計算の再現性です。同じ元データから同じ結果が出るか。表計算の中で人が手を加えていると、再現できません。計算のロジックを仕組みとして持つ必要があります。

第四に、変更の履歴です。過年度の数字を修正した場合、いつ何をどう直したのか。訂正の記録が残っていなければ、比較の説明ができません。

これらは、実は制度対応のためだけの話ではありません。社内で数字を信じて意思決定に使うための条件でもあります。制度をきっかけに整えておくと、別の場面でも役に立ちます。

排出量以外のデータ——集めにくいものが多い

開示の話題では排出量が注目されがちですが、求められる情報はそれだけではありません。そして、排出量以外のデータのほうが集めにくいことが多くなります。

人に関するデータです。従業員の構成、労働時間、研修の実施、離職の状況。人事のシステムから取れそうに見えて、実際には集計の定義が揃っていないことが多い部分です。国ごとに雇用の形態が違い、数え方も違います。

供給網に関するデータです。取引先の所在、労働の状況、環境への影響。自社の記録には存在せず、取引先へ問い合わせる必要があります。回答率と精度が課題になります。

方針や体制に関する記述です。数字ではなく文章で示す部分です。システムで管理する対象には見えませんが、どの文書のどの版を根拠にしたかを記録しておく必要があります。

資源の利用に関するデータです。水、廃棄物、材料の使用量。工場ごとに計測の方法が違い、単位も違うことがあります。排出量の算定で扱うような仕組みを持っている企業では、そこに項目を足す形で進められる場合があります。

これらを一度にすべて集めようとすると、現場が疲れて回らなくなります。優先順位を付ける必要があります。判断の材料は二つ——取引先や投資家から実際に問われている項目はどれか、そして自社で取りやすい項目はどれか。この二つが重なるところから始めます。

動く制度への向き合い方

制度が動いている状況で、投資の判断をどうするか。実務的な考え方を整理します。

作るべきもの——器と経路です。データを集める仕組み、定義を管理する台帳、根拠を辿れる記録。これらは報告の様式が変わっても使えます。むしろ様式が固まってから作るのでは間に合いません。

待つべきもの——出力の様式です。どの項目を、どの形式で、どの粒度で出すのか。ここは制度の細部で決まります。作り込むと手戻りになります。出力は差し替えられる形にしておき、中身が決まってから作ります。

判断を分けるべきもの——対象範囲です。自社が制度の対象になるかどうかは、法務と会計の判断です。開発側が推測で決める話ではありません。対象が絞られる方向の提案が出ている状況では、なおさら確認が要ります。

投資の規模としては、まず「集める」層に絞るのが堅実でしょう。拠点や取引先から項目を揃えて受け取れる状態を作る。ここができていれば、報告の様式が決まったときに集計と出力を足せます。逆に、集める仕組みがないまま出力を作っても、入れる数字がありません。

中期の計画に位置づけておくことも有効です。IT計画とロードマップで扱うような枠組みのなかで、制度の動きに応じて範囲を調整できる形にしておくと、単年度の予算に振り回されずに進められます。

受託・委託で進めるときの要点

この種の基盤づくりを外部と進める場合の要点を挙げます。

第一に、対象範囲の判断を待つ工程として置くことです。自社が制度の対象になるか、どの拠点まで含めるか。法務と会計の判断を前提とする部分を、工程として明示しておきます。

第二に、既存データの棚卸しを独立した工程にすることです。いまどの数字が、どこに、どの定義で存在するか。この調査で必要な作業の範囲が決まります。

第三に、定義の管理を成果物に含めることです。項目の定義、集計のロジック、範囲の扱い。これらを文書として残し、システムと紐づけておかないと、担当者が変わったときに数字が揺れます。

第四に、出力を差し替えられる形にすることです。様式が変わる前提で設計します。集計の結果を中間的な形で持ち、そこから各様式へ変換する構造にしておくと、変更に強くなります。

第五に、現場の負担を要件に含めることです。拠点や取引先が入力する画面の使いやすさは、データが集まるかどうかを左右します。機能の一覧だけを見て設計すると、埋まらない仕組みになります。

体制としては、会計と業務の両方を理解している要員が入れるかが分かれ目になります。データ構造だけを設計する体制では、連結の範囲や期間の締めという実務の勘所に届きません。業務側と設計側が同じ場で話せる形を作れるかを、委託先を選ぶ観点に入れておくとよいでしょう。

まとめ:CSRDへの備えで押さえる3つの視点

サステナビリティ報告に関する指令(2022/2464/EU)は、対象企業が欧州サステナビリティ報告基準に従って報告することを定める枠組みで、最初の対象企業は2024年度から適用して2025年に報告を公表したいっぽう、続く企業群は適用が延期され、2025年2月26日の立法提案では従業員1,000人を超える企業に限る案が示されています。押さえたい視点は三つです。第一に、制度が動いていても備えが要る理由は、取引先からの数字の要求が制度の対象範囲とは別に来ること、集める作業自体に時間がかかること、そしていま自主的に出している数字の根拠を問われる可能性があることです。第二に、データ基盤は「集める・束ねる・示す」の三層に分けて考えると整理しやすく、集める層では入口での検査、束ねる層では範囲の定義、示す層では元データへ戻れる記録が難所になること。第三に、投資の判断としては器と経路を作り、出力の様式は待つという切り分けが現実的であり、まず「集める」層に絞るのが堅実であることです。既存データの棚卸しと、拠点・取引先から項目を揃えて受け取る仕組みづくりから着手するのが確実でしょう。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)として、経営情報や業務データを扱うシステムの開発と改修を受託しています。拠点・取引先からのデータ収集と入口での検査、範囲と定義の管理、根拠を辿れる記録、様式を差し替えられる出力の設計まで、動く制度に耐える基盤をご提案できるのが強みです。

よくある質問

対象が絞られる方向なら、様子見でよいのではないですか。

報告の様式を作り込むのは待つべきですが、備えを何もしないのは別の問題を招きます。報告する側の企業は供給網からデータを集める必要があるため、自社が対象でなくても取引先から数字を求められる立場になり得ます。また集める仕組みを作る作業自体に時間がかかるため、制度が固まってから始めては間に合いません。

いま作るべきものと、待つべきものは何ですか。

作るべきものは、データを集める仕組み、定義を管理する台帳、根拠を辿れる記録です。これらは報告の様式が変わっても使えます。待つべきものは出力の様式で、どの項目をどの形式で出すかは制度の細部で決まるため、作り込むと手戻りになります。出力は差し替えられる形にしておきます。

いちばん詰まりやすいのはどこですか。

集める層では回答の形式が揃わないこと、束ねる層では会計上の連結の範囲と報告で求められる範囲が一致しないこと、示す層では集計結果だけを残していて元データへ戻れないことです。とくに三つめは後から足すのが難しいため、最初から記録を残す設計にしておきたいところです。

排出量以外にどんなデータが要りますか。

従業員の構成や労働時間、研修や離職といった人に関するデータ、取引先の所在や労働・環境の状況といった供給網のデータ、方針や体制の記述、そして水や廃棄物、材料の使用量などです。排出量より集めにくいものが多く、国ごとに数え方が違う点も難所になります。

どこから優先して集めるべきですか。

取引先や投資家から実際に問われている項目と、自社で取りやすい項目——この二つが重なるところからです。すべてを一度に集めようとすると現場が回らなくなります。項目を絞り、選択肢で答えられる形にして、段階的に精度を上げる進め方が現実的です。

開示データ基盤の設計・構築はLASSICへ

元請(プライムベンダー)として、収集の仕組みと入口の検査、範囲と定義の管理、根拠を辿れる記録、差し替えられる出力までご提案します。まずはお気軽にご相談ください。

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出典

  1. *1 参考:European Commission「Corporate sustainability reporting」(https://finance.ec.europa.eu/capital-markets-union-and-financial-markets/company-reporting-and-auditing/company-reporting/corporate-sustainability-reporting_en)。指令の番号(2022/2464/EU)、最初の対象企業の適用年度、適用を後ろへずらす指令による延期、2025年2月26日の立法提案の内容、ESRSに従って報告する枠組みの一次情報として(2026年8月確認)




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