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2026.08.21 らしくコラム

CSDDDとは|取引先評価の仕組み



監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論

  • 指令の位置づけ:企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(2024/1760)で、その後の改正指令により内容と時期が見直されています*1。
  • 対象は絞られた:EU企業は従業員5,000人以上かつ売上高15億ユーロ以上、非EU企業はEU域内売上高15億ユーロ以上とされています*1。
  • 実務の勘どころ:対象でなくても、取引先として評価される側になります。答えられる状態を作っておくことが備えになります。

※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。

自社の取引先が、労働や環境の面で問題を抱えていないか。この問いに答えることを企業に求める枠組みが、EUで整えられています。企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(Directive 2024/1760)です*1。

この指令は2024年7月25日に発効しましたが、その後の改正指令——(EU)2025/794および(EU)2026/470——によって内容と時期が見直されています*1。現在の枠組みでは、加盟国は2028年7月26日までに国内法を整え、2029年7月26日から適用することとされ、報告に関する義務は2030年1月1日以後に開始する会計年度から適用されます*1。

対象となる規模も絞られました。EU企業は従業員5,000人以上かつ連結の売上高15億ユーロ以上、非EU企業はEU域内の連結売上高15億ユーロ以上とされています*1。本記事では、この枠組みに関わる企業の情報システム部門と、その仕組みづくりを受託する立場に向けて、何を作ることになるのかを整理します。適用の判断には法務の確認が要るため、実際の対応は最新の公式資料と確かめながら進めてください。

取引先との打ち合わせで資料を確認する担当者のイメージ

対象は絞られた——それでも関わる理由

まず状況を整理します。対象となる企業の規模は、当初の案から大きく引き上げられました*1。

CSDDDの対象となる企業のしきい値(EU企業は従業員5,000人以上かつ売上高15億ユーロ以上、非EU企業はEU域内売上高15億ユーロ以上)と時間軸、そして求められる四つの手続(悪影響の特定、防止や軽減などの措置、苦情の受付、監視と公表)とシステムで受ける場所を整理した図

EU企業については従業員5,000人以上かつ連結の売上高15億ユーロ以上、非EU企業についてはEU域内の連結売上高15億ユーロ以上というしきい値が示されています*1。日本企業でこの水準に当たるのは、EUで大きな事業を持つ限られた数の企業でしょう。

時間軸も後ろへずれました。加盟国が国内法を整えるのは2028年7月26日まで、適用は2029年7月26日から。報告に関する義務は2030年1月1日以後に開始する会計年度からとされています*1。数年先の話です。

それでも多くの企業が関わることになります。理由は単純で、対象となる企業は自社の取引先を評価しなければならないからです。評価される側に、日本の企業が入ります。

この構図は、他の制度でも繰り返されているものです。サステナビリティ報告の枠組みでも、報告する企業が供給網からデータを集めるため、対象外の企業に要求が流れてきます。原産地の証明を求める規則も同じ構造です。

つまり、備えの内容は立場によって変わります。対象企業なら「評価する仕組み」を作ることになり、供給側なら「評価に答えられる状態」を作ることになります。どちらの立場かを先に定めるのが出発点です。

求められる手続と、システムで受ける場所

指令が企業に求めている手続は、いくつかの段階に整理されています*1。それぞれをシステムのどこで受けるのかを対応づけてみます。

表1:手続と、対応するシステムの部品
手続 内容 システムで受ける場所
悪影響の特定 実際に生じている、また生じ得る悪影響を洗い出す 取引先の台帳と、評価の結果を持つ記録
措置の実施 防止、軽減、終結、最小化のための適切な手を打つ 是正の計画と進捗を追える仕組み
苦情・通報の受付 苦情や通報を受け付ける手続を設ける 受付、調査、回答を記録する台帳
監視 取り組みの状況を継続して見る 期日の管理と、状態の一覧
公表 取り組みを対外的に伝える 集計と、根拠を辿れる記録

この一覧を見ると、必要なものが「調査票を配って集める仕組み」だけではないことがわかります。評価した結果に対して手を打ち、その進捗を追い、苦情を受け、状況を公表する——一連の手続として回る仕組みが求められます。

いちばん見落とされやすいのが、苦情・通報の受付です。取引先の労働者や地域の住民から声が届く経路を用意し、受け取った内容を調査して回答する。この流れを記録として残せる仕組みが要ります。

構造としては、社内の申請と承認の仕組みに近いものです。申請・承認ワークフローの開発で扱うような、状態遷移と期限、記録の設計がそのまま当てはまります。ゼロから考えるより、既存の枠組みを流用できるかを先に確かめるのが得です。

取引先台帳という土台

評価する立場に立つ場合、すべての土台になるのが取引先の台帳です。ここが整っていないと、何も始まりません。

第一に、名寄せです。同じ会社が複数のコードで登録されている、部署ごとに別の台帳を持っている——この状態では、評価の対象を数えることすらできません。まず一つの会社を一つのものとして扱える状態を作ります。

第二に、階層です。親会社と子会社、本社と工場。評価の単位はどこか。企業として評価するのか、拠点として評価するのか。この判断で台帳の作りが変わります。

第三に、所在です。どの国のどこにあるのか。国の単位で持つのか、住所まで持つのか。リスクの評価は地域の状況と結びつくため、国名だけでは足りない場面が出てきます。

第四に、取引の関係です。何を、どれだけ、いつから買っているのか。取引の規模が評価の優先順位を決めます。金額の小さい取引先まで同じ精度で見るのは現実的ではありません。

第五に、連鎖の深さです。直接の取引先だけでなく、その先まで見るのか。深く見ようとすれば、直接の取引先に情報提供を求めることになります。どこまで見るかは、リスクの高さで決めることになります。

台帳の整備は地味な作業ですが、これがないと後の工程がすべて空回りします。供給網の管理で扱うような、取引先の情報を一元的に持つ枠組みが土台になります。

すでに与信の管理で取引先の情報を持っている企業では、その台帳を拡張できる可能性があります。与信リスクの管理で使っている取引先情報に、所在や労働環境に関する項目を足す形です。別に作るより、更新の手間が一度で済みます。

評価に答える側の備え

多くの日本企業が置かれるのは、評価される側の立場です。この場合の備えを整理します。

聞かれることを予測しておくことです。労働時間、雇用の形態、労働衛生の取り組み、環境への影響、自社の取引先の状況。項目は評価する側によって違いますが、大まかな範囲は共通します。

答えを一度作れば使い回せる形にすることです。取引先ごとに違う様式の調査票が届きます。そのたびに一から集めていては回りません。自社の情報を項目として持ち、様式に合わせて出せる形にしておくと負担が下がります。

根拠を添えられるようにすることです。数字だけでなく、その根拠となる記録や証明を求められることがあります。どの文書のどの版が根拠なのかを、情報と紐づけて持っておきます。

自社の取引先についても答えられるようにすることです。連鎖の奥まで問われる場合、自社が自分の仕入先へ問い合わせる立場になります。つまり、評価される側であっても、評価する仕組みの一部が必要になるということです。

回答の履歴を残すことです。どの取引先に、いつ、何と答えたか。同じ質問に別の答えを返してしまうと、信頼を損ねます。過去の回答を参照できる状態にしておきます。

この備えは、実は営業上の強みにもなります。取引先から評価を求められたときに、整った形で答えられる企業は選ばれやすくなります。負担としてだけでなく、差別化の材料として捉える見方もできます。

時間軸の読み方——数年先だが、備えは前倒しになる

適用が2029年7月26日から、報告義務が2030年1月1日以後に開始する会計年度からということは、対象企業の準備は2027年から2028年にかけて本格化すると考えられます*1。

そして評価される側に要求が来るのは、その準備の過程です。つまり、対象企業が仕組みを作り始める時期に、取引先への調査が始まります。数年先の適用ですが、要求が届くのはそれより前になります。

この時間差を踏まえた進め方を挙げます。

いま進められること。取引先台帳の名寄せと整備、自社の情報を項目として持つ準備、回答の履歴を残す仕組み。これらは制度の細部が固まる前でも着手できます。

待ってよいこと。公表の様式、評価の細かい基準。これらは国内法や実務の慣行で定まる部分があるため、先取りして作り込むと手戻りになります。

並行して確かめること。自社が対象になるかどうかの判断。しきい値が引き上げられた結果、対象から外れる企業も出ています。法務との確認を経てから範囲を決めます。

なお、この指令は改正が重ねられている領域です。今後さらに内容が変わる可能性を織り込んでおく必要があります。特定の様式や項目を前提に作り込むより、項目を設定として持てる形にしておくほうが堅実です。

受託・委託で進めるときの要点

この種の仕組みづくりを外部と進める場合の要点を挙げます。

第一に、立場を先に定めることです。評価する側か、評価される側か。両方か。作るものがまったく違います。ここが曖昧なまま進めると、どちらにも足りない仕組みになります。

第二に、取引先台帳の現状調査を独立した工程にすることです。名寄せの状態、階層の持ち方、所在情報の粒度。この調査で必要な作業の範囲が決まります。

第三に、既存台帳の拡張を検討することです。与信や購買で持っている取引先情報に項目を足せるか。別に作ると更新が二重になります。既存システムの構造を確かめてから判断します。

第四に、項目を設定として持てる形にすることです。評価の項目や調査票の様式は変わります。画面や帳票に固定で書くのではなく、定義として管理できる作りにしておきます。

第五に、苦情・通報の受付を範囲に含めるかを決めることです。評価する立場では必要になりますが、仕組みとしては別のものです。今回の範囲に含めるか、後に回すかを最初に決めます。

第六に、多言語への対応を要件に含めることです。海外の取引先や、その労働者からの通報を受けるなら、日本語だけでは足りません。どの言語まで対応するかを決めておきます。

体制としては、調達と法務の実務を理解している要員が入れるかが分かれ目になります。データ構造だけを設計する体制では、評価の単位や連鎖の深さという判断の勘所に届きません。業務側と設計側が同じ場で話せる形を作れるかを、委託先を選ぶ観点に入れておくとよいでしょう。

まとめ:CSDDDへの備えで押さえる3つの視点

企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(2024/1760)は2024年7月25日に発効し、その後の改正指令によって内容と時期が見直され、現在は加盟国の国内法化が2028年7月26日まで、適用が2029年7月26日から、報告に関する義務が2030年1月1日以後に開始する会計年度からとされています。対象はEU企業が従業員5,000人以上かつ連結売上高15億ユーロ以上、非EU企業がEU域内の連結売上高15億ユーロ以上です。押さえたい視点は三つです。第一に、対象は超大手に絞られたいっぽう、対象企業が自社の取引先を評価するため、多くの企業が評価される側として関わることになり、立場によって作るものが変わること。第二に、求められる手続は悪影響の特定、防止や軽減などの措置、苦情・通報の受付、監視、公表という一連の流れであり、評価する立場ではすべての土台となる取引先台帳の名寄せと整備が最初の作業になること。第三に、適用は数年先でも対象企業の準備段階で取引先への調査が始まるため、要求が届くのはそれより早く、台帳の整備と自社情報の項目化はいま進められることです。まずは自社の立場を定め、台帳の現状調査から着手するのが堅実でしょう。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)として、調達・取引先管理に関わる業務システムの開発と改修を受託しています。取引先台帳の名寄せと階層設計、評価と是正の記録、苦情受付の台帳、項目を設定として管理できる作り、既存台帳の拡張まで、立場に応じた形をご提案できるのが強みです。

よくある質問

自社は対象になりませんが、備えは要りますか。

要ります。対象となる企業は自社の取引先を評価しなければならないため、供給側として評価される立場になります。適用は2029年7月26日からですが、対象企業の準備段階で取引先への調査が始まるため、要求が届くのはそれより早くなると考えられます。

評価する立場で、いちばん先にやることは何ですか。

取引先台帳の名寄せと整備です。同じ会社が複数のコードで登録されている、部署ごとに別の台帳を持っているという状態では、評価の対象を数えることすらできません。あわせて評価の単位(企業か拠点か)と、所在情報をどの粒度で持つかを決めます。

評価される側の備えとして何を用意すべきですか。

自社の情報を項目として持ち、届いた様式に合わせて出せる形にしておくことです。取引先ごとに違う調査票が来るため、そのたびに一から集めていては回りません。あわせて根拠となる文書の版を紐づけ、どの取引先にいつ何と答えたかの履歴を残せる状態にしておきます。

苦情・通報の受付まで作る必要がありますか。

評価する立場では、苦情や通報を受け付ける手続を設けることが求められる要素に含まれます。取引先の労働者や地域の住民から声が届く経路を用意し、受け取った内容を調査して回答する流れを記録できる仕組みが要ります。海外が関わるなら、対応する言語も決めておく必要があります。

制度がまた変わる可能性はありますか。

この指令は改正が重ねられている領域です。実際、対象となる規模のしきい値も時間軸も見直されました。したがって、特定の様式や項目を前提に作り込むより、評価の項目や調査票の様式を設定として管理できる形にしておくほうが堅実です。

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出典

  1. *1 参考:European Commission「Corporate sustainability due diligence」(https://commission.europa.eu/business-economy-euro/doing-business-eu/sustainability-due-diligence-responsible-business/corporate-sustainability-due-diligence_en)。指令の番号(2024/1760)と改正指令、発効日、国内法化と適用の期限、報告義務の開始時期、対象企業の規模のしきい値、求められる手続の一次情報として(2026年8月確認)




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