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定期昇給とベースアップの違い|昇給欄に書けること
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 定昇とベアは定義が違う:賃金表を動かすかどうかで分かれます*1。
- 定昇制度ありは81.2%:ベアを行った企業は57.8%です*1。
- 昇給は書面明示の対象外:明示事項ではあるが書面からは除かれます*3。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
求人票の「昇給」欄に何を書くか。毎年上がると書いてよいのか、金額まで示すべきか、社内で決まっていない会社は少なくありません。
そもそも定期昇給とベースアップは別のものです。厚生労働省は、ベースアップを賃金表の改定により賃金水準を引き上げること、定期昇給をあらかじめ労働協約、就業規則等で定められた制度に従って行われる昇給のことと定義しています*1。
実態も分かれています。令和7(2025)年の調査では、定期昇給制度がある企業は81.2%、ベースアップを行った・行う企業は57.8%でした*1。
本記事では、2つの用語の違い、直近の実施状況、労働組合の有無や企業規模による差、そして就業規則と求人票への落とし方を整理します。
目次
「昇給」は法令にも出てくる言葉
まず、昇給がどこで求められているのかからです。
1つ目が就業規則です。労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と届出を求め、第2号に賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項を挙げています*2。
これは定めがある場合だけ書けばよい項目ではありません*2。第89条の第1号から第3号までは、いわゆる絶対的必要記載事項にあたります*2。
2つ目が労働条件の明示です。労働基準法施行規則第5条第1項第3号にも、賃金の決定・計算・支払の方法などと並んで昇給に関する事項が入っています*3。
ただし、書面で渡す範囲からは外れています。第5条第3項は、書面明示の対象を第1項第1号から第4号までの事項としつつ(昇給に関する事項を除く。)と書いています*3。
つまり、昇給は明示しなければならない労働条件でありながら、書面に載せることまでは求められていない、という構造です*3。口頭で伝えても明示にはなります*3。
とはいえ、後から食い違えば争いになります*3。同項は使用者は、法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならないとも定めています*3。
募集の段階で示す内容については労働条件明示のルールと記録管理で扱いました。書き方が緩い項目ほど、社内の合意を先に作っておく必要があります。
定期昇給とベースアップは別物
2つの言葉は並べて使われますが、動かしているものが違います。
厚生労働省の調査では、賃金の改定をすべて若しくは一部の常用労働者を対象とした定期昇給(定昇)、ベースアップ(ベア)、諸手当の改定等と定義し、ベースダウンや賃金カットによる減額も含めています*1。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| ベースアップ(ベア) | 賃金表の改定により賃金水準を引き上げること |
| ベースダウン | 賃金表の改定により賃金水準を引き下げること |
| 定期昇給(定昇) | あらかじめ労働協約、就業規則等で定められた制度に従って行われる昇給で、一定の時期に毎年増額すること |
| 諸手当の改定 | 各種手当の改定(割増手当や慶弔手当等の特別手当を除く) |
| 賃金カット | 賃金表等を変えずに、一定期間につき一時的に賃金を減額すること |
厚生労働省「令和7(2025)年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」の用語の定義より作成*1。
鍵は「賃金表」です。調査は学歴、年齢、勤続年数、職務、職能などにより賃金がどのように定まっているかを表にしたものと注記しています*1。
ベアは、この表そのものを書き換える行為です*1。表が上がるので、同じ等級・同じ号にいる人の額が一斉に上がります*1。
定昇は、表の上を人が移動する行為です*1。表は変わらないまま、勤続や評価に応じて次の号や等級に進みます*1。
定昇の中身は1種類ではありません。調査は年齢、勤続年数による自動昇給のほかに、能力、業績評価に基づく昇給があり、毎年時期を定めて査定を行っている場合も含むとしています*1。
賃金カットも定義に含まれています*1。ただし役員報酬のカットや、育児等による短時間勤務の結果による減額は含まないとされています*1。
この整理を社内で共有しておくと、求人票の書き方が変わります。「昇給あり」と書いたときに何を指しているのかが、応募者にも人事にも同じ意味で伝わるためです*1。
令和7年は9割超が引き上げた
直近の実態を見ます。数値は厚生労働省の調査によるものです。
調査の対象は、常用労働者100人以上を雇用する会社組織の民営企業から産業・企業規模別に抽出したものです*1。調査対象企業数は3,643社、有効回答企業数は1,847社、有効回答率は50.7%でした*1。
令和7(2025)年中の賃金の改定の実施状況を見ると、「1人平均賃金を引き上げた・引き上げる」企業の割合は91.5%(前年91.2%)です*1。
ほかの区分は小さくとどまっています。「1人平均賃金を引き下げた・引き下げる」は1.1%、「1人平均賃金は変わらなかった・変わらない」は1.0%、「賃金の改定を実施しない」は2.4%、「未定」は3.9%でした*1。
金額も出ています。「1人平均賃金の改定額」は13,601円(前年11,961円)、「1人平均賃金の改定率」は4.4%(同4.1%)です*1。
ここでいう1人平均賃金には定義があります。所定内賃金(諸手当等を含むが、時間外・休日手当や深夜手当等の割増手当、慶弔手当等の特別手当を含まない)の1か月1人当たりの平均額です*1。
推移についても記載があります。改定額・改定率ともに平成23(2011)年調査以降は増加傾向で推移し、令和2(2020)年・3(2021)年調査で減少した後、令和4(2022)年調査以降は増加しています*1。
ただし、この数値は定昇とベアを合わせた結果です*1。求人票に「昇給4.4%」と書けるという意味ではありません*1。
初任給の水準そのものについては初任給の公的な数字は2つある、定義の違いで扱いました。使う統計によって母集団が違う点は共通です。
定昇制度があるのは81.2%
次に、定期昇給の側を見ます。
令和7(2025)年の調査では「定昇制度あり」の割合は81.2%、「定昇制度なし」の割合は17.7%でした*1。約5社に1社は制度そのものを持っていない計算になります*1。
制度の中身も聞かれています。複数回答で「自動昇給」の割合が27.5%、「その他(業績評価など)」が72.4%です*1。
年齢や勤続で自動的に上がる形は少数派で、査定を伴う形が多数派ということになります*1。「毎年上がる」と言い切れる会社ばかりではありません*1。
実施状況も分かれます。定期昇給制度のある企業のうち「定昇を行った・行う」企業の割合は76.8%、「定昇を行わなかった・行わない」は2.6%、「定昇を延期した」が0.1%でした*1。
制度がある企業に限った内訳では、定昇を行った企業は94.6%にあたります*1。制度があれば実施される場合がほとんど、という読み方になります*1。
企業規模でも差が出ています。定昇制度ありの割合は、1,000〜4,999人で92.0%、5,000人以上で88.7%、300〜999人で85.4%、100〜299人で78.7%でした*1。
規模が小さいほど制度を持たない企業が増える形です*1。100〜299人では2割が「定昇制度なし」にあたります*1。
制度を持たない場合でも、賃金の改定自体は行われ得ます*1。改定の手段が諸手当の改定やベアに寄る、という違いになります*1。
ベアを行った企業は57.8%
ベースアップの側はどうか。こちらは定期昇給制度がある企業を母数にした集計です*1。
「ベアを行った・行う」企業の割合は57.8%、「ベアを行わなかった・行わない」は15.1%でした*1。
もう1つ、見落とされやすい区分があります。「定昇とベア等の区別あり」が73.0%、「定昇とベア等の区別なし」が25.5%です*1。
4社に1社は、そもそも2つを分けて管理していないことになります*1。賃金表を持たない、あるいは改定のときに一括で見直す形が想定されます*1。
区別ありの企業に限った内訳では、ベアを行った企業は79.2%、行わなかった企業は20.7%です*1。分けて管理している会社では、ベアの実施が多数派です*1。
企業規模別のベア実施率も差があります。5,000人以上で85.2%、1,000〜4,999人で79.1%、300〜999人で63.3%、100〜299人で53.3%でした*1。
定昇制度の有無ほどではありませんが、規模による開きは残っています*1。100〜299人では約半数という水準です*1。
ベースダウンを行った企業の割合は0.0%で、ほとんど確認されていません*1。引き下げは例外的な動きにとどまっています*1。
賃金水準そのものの設計はなぜ家族手当は残業代の計算に入らないのかでも扱いました。ベアと手当の改定は、どちらも賃金の改定に含まれます*1。
労働組合の有無で開きが大きい
この調査は労働組合の有無でも集計しています。差はここがもっとも大きく出ています。
賃金を引き上げた企業の割合は、労働組合ありで95.5%、労働組合なしで90.4%でした*1。差は5ポイント程度です*1。
金額では開きが広がります。1人平均賃金の改定額は労働組合ありで15,229円、労働組合なしで11,980円、改定率はそれぞれ4.8%と4.0%です*1。
定昇制度の有無でも差があります。労働組合ありでは「定昇制度あり」が92.3%、労働組合なしでは77.9%でした*1。
もっとも開くのがベアです。「ベアを行った・行う」の割合は、労働組合ありで82.1%、労働組合なしで49.4%でした*1。30ポイント以上の差になります*1。
この調査が民間企業(労働組合のない企業を含む)を対象にしている点は押さえておく価値があります*1。組合のある企業だけを見た数値ではありません*1。
採用の場面では、比較される相手が同じ属性とは限りません*1。組合のある大企業の数値を自社の目標に据えると、実現しにくい設計になります*1。
自社に近い区分で読むほうが役に立ちます*1。企業規模、産業、労働組合の有無の3つで見ると、置かれている状況が近い数値を選べます*1。
統計の母集団を確かめる作法は特別休暇制度がある企業は60.3%|種類別と規模別の差でも触れました。同じ「企業割合」でも、調査によって対象が違います。
求人票と就業規則に落とす3点
ここまでを、書き方の判断に落とします。確認するのは3点です。
1点目:自社の昇給が定昇なのかベアなのかを確かめる——賃金表を持っているか、持っているならそれを改定しているかで分かれます*1。区別していない会社が25.5%ある以上、まず社内の実態から確認することになります*1。
2点目:就業規則に昇給に関する事項が書かれているかを見る——労働基準法第89条第2号の絶対的必要記載事項です*2。時期、対象、決め方のいずれかが抜けていないかを点検します*2。
3点目:求人票の書き方を実態と揃える——昇給は書面明示の対象からは外れますが、明示した労働条件を事実と異なるものにしてはならないという定めがあります*3。
自動昇給が27.5%にとどまり、業績評価によるものが72.4%という数字を踏まえると、「毎年上がる」と言い切る書き方は多くの会社の実態と合いません*1。
実施時期や査定の有無を添えるほうが、後の説明が楽になります*1*3。応募者にとっても、入社後の見通しが立てやすい情報です*1。
処遇の設計から相談したい方へ
どの役割にどんな条件を用意するか。任せたい職責と必要な稼働の形から、担当が一緒に整理できます。
最後に、賃金制度の見直しに時間がかかると判断したときの分岐を1つだけ挙げておきます。賃金表の整備や就業規則の改定には手順が必要で、その間も欠員は埋まりません。
その期間の実務を業務委託で受け持たせ、制度が整ってから採用に進むという順番も現実的な選択肢です。枠を立てる前の検討として有効でしょう。
まとめ:定期昇給とベースアップの要点
第一に、定義です。厚生労働省は、ベースアップを賃金表の改定により賃金水準を引き上げること、定期昇給をあらかじめ労働協約、就業規則等で定められた制度に従って行われる昇給で一定の時期に毎年増額することと定義しています。賃金表とは、学歴、年齢、勤続年数、職務、職能などにより賃金がどのように定まっているかを表にしたものです。定期昇給には年齢や勤続年数による自動昇給のほか、能力や業績評価に基づく昇給も含まれます。賃金の改定にはこのほか諸手当の改定、ベースダウン、賃金カットが含まれます。第二に、実態です。令和7(2025)年賃金引上げ等の実態に関する調査によれば、1人平均賃金を引き上げた・引き上げる企業の割合は91.5%、1人平均賃金の改定額は13,601円、改定率は4.4%でした。定昇制度ありは81.2%、定昇制度なしは17.7%で、制度の内容は複数回答で自動昇給が27.5%、その他(業績評価など)が72.4%です。定期昇給制度のある企業でベアを行った・行う企業は57.8%、定昇とベア等の区別なしは25.5%でした。労働組合ありではベアを行った企業が82.1%、労働組合なしでは49.4%と開きがあります。なお本調査は、常用労働者100人以上を雇用する会社組織の民営企業を対象に抽出したもので、調査対象3,643社、有効回答1,847社、有効回答率50.7%です。第三に、書き方です。労働基準法第89条第2号は昇給に関する事項を就業規則の記載事項としています。労働基準法施行規則第5条第1項第3号も昇給に関する事項を明示すべき労働条件としていますが、同条第3項は書面で明示すべき事項からこれを除いています。明示した労働条件を事実と異なるものとしてはならないという定めもあるため、実態と揃えた書き方が求められます。
よくある質問
定期昇給とベースアップは何が違いますか。
動かしているものが違います。厚生労働省の定義では、ベースアップは賃金表の改定により賃金水準を引き上げることを指し、賃金表そのものを書き換える行為です。定期昇給は、あらかじめ労働協約や就業規則等で定められた制度に従って行われる昇給で、一定の時期に毎年増額することをいい、賃金表は変わらないまま人が表の上を移動する形になります。定期昇給には年齢や勤続年数による自動昇給のほか、能力や業績評価に基づく昇給も含まれます。
定期昇給制度がある企業はどれくらいですか。
令和7(2025)年賃金引上げ等の実態に関する調査によれば、定昇制度ありは81.2%、定昇制度なしは17.7%でした。企業規模別では1,000〜4,999人で92.0%、5,000人以上で88.7%、300〜999人で85.4%、100〜299人で78.7%です。なお本調査は常用労働者100人以上を雇用する会社組織の民営企業を対象としており、調査対象3,643社、有効回答1,847社、有効回答率50.7%です。
ベースアップを実施した企業の割合は。
同調査では、定期昇給制度がある企業のうちベアを行った・行う企業の割合は57.8%、行わなかった・行わないは15.1%でした。定昇とベア等の区別ありが73.0%、区別なしが25.5%で、区別ありの企業に限るとベアを行った企業は79.2%です。労働組合の有無で差が大きく、労働組合ありでは82.1%、労働組合なしでは49.4%となっています。
求人票の昇給欄は書面で示す必要がありますか。
昇給に関する事項は、労働基準法施行規則第5条第1項第3号により明示すべき労働条件に含まれますが、同条第3項は書面で明示すべき事項からこれを除いています。したがって書面への記載までは求められていません。ただし同条には、明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならないという定めがあるため、伝えた内容と運用が食い違わないようにする必要があります。
就業規則に昇給のことを書かなくてもよいですか。
書く必要があります。労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と届出を求めており、第2号に賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項を挙げています。第1号から第3号までは定めの有無にかかわらず記載が必要な事項にあたります。
出典
- *1 参考:厚生労働省「令和7(2025)年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」(令和7年10月14日)(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/jittai/25/dl/10.pdf)。調査の目的と対象(常用労働者100人以上を雇用する会社組織の民営企業から産業・企業規模別に抽出)、調査対象3,643社・有効回答1,847社・有効回答率50.7%、主な用語の定義(1人平均賃金、賃金の改定、ベースアップ、ベースダウン、定期昇給、諸手当の改定、賃金カット、賃金表)、賃金の改定の実施状況(引き上げた91.5%・引き下げた1.1%・変わらない1.0%・実施しない2.4%・未定3.9%、労働組合あり95.5%/なし90.4%)、1人平均賃金の改定額13,601円と改定率4.4%および労働組合別の数値、改定額・改定率の年次推移、定昇制度あり81.2%/なし17.7%と企業規模別・労働組合別の数値、定期昇給制度の内容(自動昇給27.5%、その他72.4%)、定昇の実施状況(行った76.8%、制度あり企業内では94.6%)、ベア等の実施状況(行った57.8%、行わない15.1%、区別あり73.0%、区別なし25.5%、区別あり企業内79.2%、企業規模別・労働組合別の数値、ベースダウン0.0%)の一次情報として(2026年8月確認)
- *2 参考:e-Gov法令検索「労働基準法」(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)。第89条(常時10人以上の労働者を使用する使用者の就業規則作成・届出義務と記載事項、第2号の賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項)の一次情報として(2026年8月確認)
- *3 参考:e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)。第5条第1項第3号(明示しなければならない労働条件に賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項が含まれること)、同条第2項(明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない旨)、同条第3項(書面で明示すべき事項が第1項第1号から第4号までの事項とされ、昇給に関する事項が除かれること)の一次情報として(2026年8月確認)
- *4 参考:厚生労働省「賃金引上げ等の実態に関する調査」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/12-23.html)。本調査が毎年実施され結果が公表されていること、年次別の結果の所在の一次情報として(2026年8月確認)