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エンジニア中途採用の内定辞退、民法は誰に予告を求めるか
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 解約の申入れは会社からも働く人からもできる:第627条第1項は「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」と定めています。*1
- 申入れの時期の追加ルールは会社側だけ:第627条の第2項と第3項が縛っているのは、使用者(法律上の言い方で、人を雇う側の会社のこと)からの解約の申入れです。*1
- 条文に「内定」という語は無い:民法が定めているのは雇用の成立とやめ方までで、採用の過程は扱っていません。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
最終面談まで進んだ人から、着任の2週間前に辞退の連絡が来た。あるいは、条件を詰めている間に他社が先に条件を出して、そちらに決まった——。エンジニア中途採用では、内定辞退そのものを止める方法が見つからず、また一から候補者を探し直す現場が少なくありません。まず押さえておきたいのが、雇用の終わり方について民法が何を定めているかです。*1
条文を読むと、雇用をやめる申入れについて、使用者の側にだけ追加の制限が置かれていることがわかります。ただし、民法の条文だけですべてが決まるわけではありません。民法の条文に「内定」という語は出てきませんし、自社のケースにどう当てはまるかは、条文を読むだけでは決められません。本記事では、開発の現場を預かるマネージャに向けて、民法が定めている雇用の終わり方、使用者と労働者で違うところ、なぜ民法には辞退を引き止める規定が無いのか、どう備えるのか、つまずきやすい点、そして外部に頼むときに確認しておきたい点を整理します。
目次
民法が定めている雇用の終わり方
民法(明治二十九年法律第八十九号)は、第623条で雇用を定義しています。*1 「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」。*1 働くことと報酬をお互いに約束した時点で、雇用の契約が成立する、という書き方です。
そのうえで、やめ方を第626条から第628条までが定めています。*1 期間を定めた雇用と、定めなかった雇用で、条文が分かれています。
| 条・項 | 誰の申入れか | 定めている内容 |
|---|---|---|
| 第623条 | — | 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる |
| 第626条第1項 | 各当事者 | 雇用の期間が五年を超え、又はその終期が不確定であるときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる |
| 第626条第2項 | 使用者と労働者 | 前項の規定により契約の解除をしようとする者は、それが使用者であるときは三箇月前、労働者であるときは二週間前に、その予告をしなければならない |
| 第627条第1項 | 各当事者 | 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する |
| 第627条第2項 | 使用者 | 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない |
| 第627条第3項 | 使用者 | 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない |
| 第628条 | 各当事者 | 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う |
エンジニア中途採用で交わす雇用契約の多くは、期間を定めない形です。その場合に当たるのが第627条第1項で、「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」とあります。*1 「各当事者」なので、使用者の側も、働く側も、どちらも申し入れられます。
使用者からの申入れと労働者からの申入れの違い
第627条は3つの項に分かれていますが、第2項と第3項が縛っているのは、使用者からの申入れだけです。*1 条文にも「使用者からの解約の申入れは」と書かれています。*1
第2項は、期間によって報酬を定めた場合、使用者からの解約の申入れは次期以後についてすることができ、その申入れは当期の前半にしなければならない、としています。*1 かみ砕くと、こういうことです。月給や週給のように、報酬を期間で区切って決めている場合、会社の側からやめてほしいと申し入れられるのは、次の給与計算期間の分からです。そしてその申入れは、いま進行中の期間の前半までに行う必要があります。第3項は、六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合、その申入れは三箇月前にしなければならない、としています。*1
一方で、労働者の側からの申入れに上乗せの条件を付けた項は、第627条のなかにありません。第1項の「二週間を経過することによって終了する」が、そのまま当てはまります。*1
期間を定めた雇用でも、使用者と労働者で予告の期間が別々に定められています。第626条第2項は、五年を経過した後の解除を予告する期間について、使用者であるときは三箇月前、労働者であるときは二週間前と、別々の長さを定めています。*1
なぜ民法には辞退を引き止める規定が無いのか
ここまで見てきた第623条から第628条までのどこにも、辞退や退職を思いとどまらせる規定はありません。第628条が例外らしく見えますが、これは「やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」という条文で、引き止める規定ではなく、逆に、すぐ契約を終わらせてよい場合を定めたものです。*1
第628条の後半には、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは相手方に対して損害賠償の責任を負う、とあります。*1 ただしこれは期間を定めた場合の規定で、損害賠償が認められる場面かどうかは、今回参照した条文を読むだけでは決められません。
ここから先は、民法の条文にそう書いてあるわけではなく、条文の並びから筆者が読み取った内容です。民法は、雇用をやめる側を引き止める仕組みを置かず、使用者の側が申し入れるときの手続を細かくしています。エンジニア中途採用の内定辞退を、条文の力で止めることは想定されていません。
どう備えるのか
備え方は、辞退を思いとどまらせるための条件の上積みや説得ではありません。候補者に入社するかどうかを決めてもらうまでの期間を短くするところから始まります。任せる作業と期間が決まっていないと、会社から候補者に給与や業務内容を提示するのが、そのぶん遅れます。
次に、提示する条件を書面にします。「受注管理システムの改修を6か月」「月次のリリース作業を担当」——このくらいまで書ければ、候補者が社内や家族と検討でき、他社から示された条件と見比べられます。口頭のやり取りだけだと、他社の書面と並べたときに見劣りします。
そのうえで、同じ作業を任せられる相手を複数にしておきます。候補者を1人しか確保していないと、内定辞退がそのまま計画の遅れになります。正社員のエンジニア中途採用だけでなく、外部の人に任せる案も同時に用意しておけば、社員の採用が決まらなくても、開発の日程は止まりません。
つまずきやすい難所
一つめは、条文が内定そのものを扱っていると考えることです。民法の条文に「内定」という語は出てきません。出てくるのは雇用の成立とやめ方までで、採用の過程にどう当てはまるかは、条文を読むだけでは決められません。
二つめは、二週間という数字を絶対の期限として扱うことです。第627条第1項は解約の申入れの日から二週間の経過で終了すると定めていますが、*1 これは期間を定めなかった雇用についての規定です。期間を定めた雇用には、第627条ではなく第626条と第628条が当てはまります。*1
三つめは、第628条の損害賠償を引き止めの材料として持ち出すことです。条文は期間を定めた場合に、やむを得ない事由が一方の過失で生じたときの責任を書いています。*1 どの場面が当てはまるかは、条文を読むだけでは決められません。
外注時に確認しておきたい点
エンジニア中途採用の内定辞退で計画が止まりそうなら、任せる作業と期間を書き出して、外部の要員にも同時に声をかけてください。「受注管理システムの改修を6か月」といった粒度で構いません。外部の要員(自社で雇わず、作業ごとに契約して働いてもらう人。フリーランスや請負の会社を含みます)に頼む場合、任せる作業と期間がはっきりしているほど、引き受けてくれる人を早く見つけられます。
同じ作業を任せる相手を2つ以上そろえておくと、片方が決まらなかったときに日程を守れます。採用と外部委託は、どちらかを選ぶものというより、同じ作業を進める2つの手段として同時に検討できます。
誰にどこまで任せるかの判断は社内に残してください。任せる作業の範囲と期間を社内で決めていないと、辞退が出るたびに、そこから決め直すことになります。正社員のエンジニア中途採用と外部の要員のどちらを選ぶかも、この判断が社内にあるかで変わります。
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まとめ:内定辞退への備えで確かめる3つのこと
エンジニア中途採用の内定辞退は、条文の側から止める仕組みが用意されていません。確かめておきたいことは3つに整理できます。第一に、民法第627条第1項が「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」と定めており、申入れから二週間の経過で雇用が終了するとしていること。*1 第二に、第2項と第3項が条件を付けているのは使用者からの申入れだけで、労働者の側に上乗せの項が無いこと。*1 第三に、民法の条文に「内定」という語は出てこず、採用の過程にどう当てはまるかは、条文を読むだけでは決められないことです。条文で辞退そのものは止められないとわかれば、引き止める材料を探す時間を、条件を早く書面で出すことに回せます。この3点を踏まえておけば、「条件を詰めている間に他社が先に条件を出して、そちらに決まった」という事態を避けやすくなります。任せる作業と期間を書いて条件を早く書面にするところまでは社内でできます。その先、候補者を1人に絞らずに進めたいなら、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
民法は内定辞退について何か定めていますか
民法の条文に「内定」という語は出てきません。定めているのは雇用の成立と、やめるときの申入れや予告までです。*1 確認日は2026年9月18日です。
期間を定めない雇用はいつ終わりますか
第627条第1項が「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」と定めています。*1 確認日は2026年9月18日です。
使用者と労働者で条件は違いますか
違います。第627条第2項と第3項は「使用者からの解約の申入れ」に条件を付けており、*1 第626条第2項は予告の期間を使用者は三箇月前、労働者は二週間前としています。*1 確認日は2026年9月18日です。
辞退した相手に損害賠償を求められますか
今回参照した条文を読むだけでは決められません。第628条は期間を定めた場合について、やむを得ない事由が当事者の一方の過失で生じたときの責任を定めていますが、*1 個別の事案の判断は条文だけでは決まりません。確認日は2026年9月18日です。
条文はどこで読めますか
e-Gov法令検索で民法(明治二十九年法律第八十九号)の全文が公開されています。*1 この記事もそこから条文を写しました。確認日は2026年9月18日です。
作業と期間が書けたら相談
「受注管理システムの改修を6か月」といった形で作業と期間が書けていれば、そのままご相談いただけます。採用と並行して声をかけておきたい段階でも構いません。
Remoguとリラシクなら、採用が決まるまでの間を担う要員も、そのまま続けて担当する要員も、作業と期間を決めたうえでお探しいただけます。
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出典
- *1 参考:民法(明治二十九年法律第八十九号)|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)。出典:民法(明治二十九年法律第八十九号)。e-Gov法令検索が公開している全文から、第623条(雇用)、第626条(期間の定めのある雇用の解除)、第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)、第628条(やむを得ない事由による雇用の解除)を参照した。条文はe-Gov法令APIの全文XMLから写している(2026年9月確認)
- *2 参考:e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/)。法令の現行条文が国の運営で公開されていることの確認として(2026年9月確認)
- *3 参考:デジタル庁「e-Gov法令検索について」(https://laws.e-gov.go.jp/help/)。掲載範囲と更新の考え方の確認として(2026年9月確認)