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入社後に放ったらかし|エンジニア中途採用の試用期間に決めること
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 転職者がいる事業所の82.6%が転職者に教育訓練を行っており、実施した事業所の79.8%が計画的なOJTを挙げています。
- エンジニア中途採用では、入社前に受け入れ担当と最初に任せる仕事を決め、開発の環境と権限は入社日にそろえます。
- 入社後の試用期間は面談の時期を先に決め、本採用の前に見る点を最初の1か月のうちに本人と共有しておきます。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
経験のあるエンジニアを中途採用で迎えたものの、入社後の試用期間に現場が何をすればよいのかが決まっていない。席とパソコンを用意したら、あとは本人の力量に任せてしまう——。試用期間は、会社が適性を確かめる期間であると同時に、新しく入った人が職場の進め方を覚える期間でもあります。
本記事では、試用期間の法的な扱いではなく、その間に現場が行う受け入れの実務を扱います。厚生労働省の転職者実態調査と、労働政策研究・研修機構の転職者調査をもとに、受け入れ担当、最初に任せる仕事、入社日の環境と権限、面談の時期、本採用の前に見る点の共有という5つの決めごとを整理します。
目次
試用期間に現場が担うこと
試用期間の長さや、本採用を見送る場合の扱いは、就業規則と労働契約で決まる事柄です。制度の決め方は試用期間とは何を見る期間か、設計と運用で扱っています。一方で、新しく入った人がどんな仕事をし、誰に何を聞き、どこでつまずいているのかを日々見ているのは現場です。人事が手続きを、現場が日々の受け入れを担うと考えると、役割を分けやすくなります。
エンジニア中途採用では、経験者だから細かい説明は要らないと考えて、受け入れを本人任せにしがちです。けれども、使う言語や道具が前の職場と同じでも、ソースコードの置き場所、レビューの進め方、本番環境に触れるときの手順、困ったときの相談先は会社ごとに違います。労働政策研究・研修機構の報告書も、中途採用者は即戦力として期待されるがゆえに、「放置しておいても大丈夫であるという考えは捨てるべき」だと述べています。*3
本記事で扱うのは、現場が決めておく次の5つです。1つ目は受け入れ担当、2つ目は最初に任せる仕事、3つ目は入社日までにそろえる環境と権限、4つ目は面談の時期、5つ目は本採用の前に見る点を本人と共有することです。まず調査の数字を確かめ、そのあとで順に説明します。
転職者への教育訓練は82.6%
厚生労働省の「令和7年転職者実態調査」は、5人以上の常用労働者を雇う事業所とそこで働く転職者を対象に、2025年10月1日現在の状況を調べたものです。事業所調査の有効回答は9,154事業所でした。*2 転職者がいる事業所のうち、転職者に教育訓練を実施した事業所は82.6%です。2020年の同じ調査では74.5%だったので、5年で8.1ポイント高くなりました。 情報通信業に限ると実施した事業所は80.8%で、実施しなかった事業所も15.9%あります。*1
実施した事業所に教育訓練の種類を複数回答で聞くと、「計画的なOJT(日常の業務に就きながら行われる、計画的な教育訓練)」が79.8%で最も多くなっています。続いて「OFF-JT(通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練)」が64.5%、「入職時のガイダンス」が53.9%、「職務遂行に必要な能力・知識を付与する教育訓練」が35.7%でした。*1 情報通信業では、計画的なOJTが84.7%、OFF-JTが70.2%、入職時のガイダンスが62.3%、職務遂行に必要な能力・知識を付与する教育訓練が33.5%です。*1
情報通信業では計画的なOJTの割合が総数より高く、転職者の教育は日々の仕事を通して行うのが中心だと読み取れます。計画的なOJTは、仕事を任せきりにすることではありません。何をどの順で覚えてもらうかを決めたうえで、仕事に就いてもらうことです。試用期間の受け入れでも、この「計画的な」の部分を現場が用意できるかどうかが分かれ目になります。
事業所の規模で見ると、規模が大きいほど教育訓練を実施した割合が高く、1,000人以上では97.5%、5〜29人では79.8%でした。*1 人事の担当者が少ない小さな会社ほど、受け入れの段取りを現場で意識して決めておく必要があります。
入社前に受け入れ担当を決める
受け入れ担当の役割を考える手がかりになるのが、労働政策研究・研修機構の「ミドルエイジ層の転職と能力開発・キャリア形成」(労働政策研究報告書No.215)です。30歳以上55歳未満で、従業員50人以上の企業・組織にフルタイムで勤める人への調査のうち、3年以内に転職した4,205人の回答を分析しています。*3 内定から入社直後にかけて会社の人々が何をしてくれたかを聞き、その内容を3つのまとまりに分けました。*3
1つ目は「職場の上司が面倒を見てくれた」「先輩が面倒を見てくれた」「同僚・後輩が面倒を見てくれた」という人間関係づくりの施策です。2つ目は、公式のオリエンテーションや研修、職場の受け入れ担当者によるサポート、職場マネジャーとの事前面談、入職一定期間後のフォロー面談などの公式的なサポート。3つ目は、同期採用者同士の交流会や先輩中途採用者の紹介といった、中途採用者に特化した施策です。*3
分析では、3つのまとまりのどれもが、組織や仕事への理解、組織への愛着、定着したいという意欲と正の関係を示しました。定着したいという意欲との関係は、人間関係づくりと公式的なサポートの2つで強く、中途採用者に特化した施策では弱いという結果です。*3 特別な制度を作るより、上司や先輩が日々面倒を見ることと、受け入れ担当や面談といった基本の形を先に整えたい、と読めます。
受け入れ担当には、同じチームで日々の質問に答えられる人を1人決めます。上司が兼ねてもかまいませんが、上司には評価をする立場もあります。気軽に聞ける相手として先輩を別に置くと、本人は小さな疑問も口にしやすくなります。担当になった人の仕事の量は、受け入れの期間だけ少し減らしておき、その分をチームの計画に織り込んでおきます。
最初に任せる仕事を選ぶ
最初に任せる仕事は、入社前に1つか2つ決めておきます。選ぶときの目安は3つあります。小さく区切れること、既存のソースコードとレビューの流れに一通り触れられること、うまくいかなくても本番の利用者に影響しないことです。たとえば、原因の分かっている小さな不具合の修正、テストコードの追加、古くなった手順書の更新などが当てはまります。
経験者だからといって、いきなり設計の判断が要る大きな機能を任せると、技術の力とは別のところでつまずきます。社内の決まりを知らないまま設計を進め、レビューで大きな手戻りが出ると、本人も周りも力量を見誤りやすくなるためです。最初の仕事は、力を測るためではなく、社内の進め方を一通り体験してもらうためのものと位置づけます。
2つ目以降の仕事は、最初の仕事の様子を見て決めます。その際、入社前に「試用期間が終わるころに担当していてほしい範囲」を決めておき、そこへ向けて仕事の大きさを段階的に上げていきます。行き先が決まっていれば、仕事の割り振りが場当たりになりません。
環境と権限は入社日にそろえる
入社した日にパソコンが届いていない、ソースコードの保管場所に入れない、チャットの必要なチャンネルに招かれていない——。こうした待ち時間は、新しく入った人にとって居心地の悪いものです。
入社日までに用意するものは、パソコンと開発に使う道具、各種のアカウントと権限、読んでおいてほしい資料の3つに分けて一覧にします。権限は最初の仕事に要る範囲から付け始め、本番環境に関わる権限は、手順を説明してから付けるようにします。資料は、システムの全体像、開発の流れ、レビューの決まり、困ったときの相談先が分かるものに絞ります。
先の調査では、教育訓練を実施した事業所の53.9%が入職時のガイダンスを行っていました。*1 ガイダンスは、人事が行う会社全体の説明と、現場が行う開発の進め方の説明に分けて考えると、抜けが出にくくなります。現場の説明は、受け入れ担当が画面を見せながら話せる分量にまとめ、入社日か翌日に行います。
面談の時期を先に決める
面談は、問題が起きてから開くのではなく、入社前に日程を決めておきます。目安は、入社した週の終わり、1か月後、試用期間の中ほど、終わりの少し前です。労働政策研究・研修機構の調査でも、職場マネジャーとの事前面談と入職一定期間後のフォロー面談は、公式的なサポートの一つに数えられています。*3
入社した週の面談では、環境や権限に足りないものはないか、質問しにくいことはないかを聞きます。1か月後の面談では、最初の仕事を一緒に振り返り、前の職場との進め方の違いで戸惑っている点を聞き出します。前の職場で当たり前だったやり方をそのまま持ち込んでよいのか、迷っている人は少なくありません。違いを言葉にして伝えるのは、受け入れる側の仕事です。
面談で聞いたことと会社側から伝えたことは、短く記録に残します。誰が何をいつまでにするかも書いておけば、次の面談で確かめられます。
本採用の前に見る点を共有する
試用期間の終わりに本採用をどう判断するかの手続きは、就業規則などで決まっています。現場がすることは、判断の材料を用意することと、何を見ているのかを早いうちに本人と共有することの2つです。
見る点は、入社前に決めた「試用期間が終わるころに担当していてほしい範囲」に沿って書き出します。たとえば、担当範囲の不具合を自分で調べて直せるか、レビューの指摘を次の作業に生かしているか、分からないことを抱え込まずに相談できているか、といった形です。
書き出した点は、1か月後の面談で本人に伝えます。終わり間際になって初めて期待とのずれを伝えても、本人には直す時間がありません。ずれが見つかったら、まず仕事の渡し方や説明に足りないところがなかったかを受け入れる側で見直し、そのうえで本人と次の1か月の目標を決めます。本採用を見送るかどうかのような判断に関わる場合は、現場だけで決めず、人事や社会保険労務士などの専門家に確かめてください。
外部に委託するときに確認しておきたい点
中途採用で入った人が戦力になるまでの間、開発の一部を業務委託の専門人材に任せる場合もあります。その場合は、任せる作業と期間、受け入れ担当との役割の分け方、渡すアカウントと権限の範囲を、契約の前に書き出しておきます。新しく入った社員と業務委託の人が同じチームで働くなら、相談の窓口と作業の記録の残し方をそろえておくと、受け入れ担当の負担が1人に偏りにくくなります。
まとめ:試用期間の受け入れで決める5つのこと
エンジニア中途採用で、入社後の試用期間に現場が決めておきたいことは5つに整理できます。第一に、同じチームで日々の質問に答えられる受け入れ担当を入社前に決めること。第二に、社内の進め方を一通り体験できる小さな仕事を最初に任せること。第三に、開発の環境と権限、読んでおいてほしい資料を入社日までにそろえること。第四に、面談の時期を先に決め、聞いたことと伝えたことを記録に残すこと。第五に、本採用の前に見る点を書き出し、最初の1か月のうちに本人と共有することです。この5つを決めておけば、「経験者だから大丈夫だと思って任せていたら、試用期間の終わりに期待とのずれが分かった」という事態を避けやすくなります。受け入れの体制を整えても人手が足りない場合は、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
受け入れ担当は上司とは別の人がよいですか
上司が兼ねてもかまいませんが、上司には評価をする立場もあるので、日々の小さな疑問を聞く相手として先輩を別に置くと、本人が質問しやすくなります。労働政策研究・研修機構の調査では、上司や先輩が面倒を見ることと、受け入れ担当者によるサポートや面談などの公式的なサポートのどちらも、定着したいという意欲と正の関係がありました。*3
経験の長いエンジニアにも入職時のガイダンスは要りますか
要ります。技術の経験が長くても、ソースコードの置き場所、レビューの決まり、本番環境に触れる手順、相談先は会社ごとに違うためです。厚生労働省の調査では、転職者に教育訓練を実施した事業所の53.9%が入職時のガイダンスを行っていました。*1 現場の説明は、開発の進め方に絞って短くまとめます。
試用期間の途中で期待とのずれが分かったらどうしますか
まず、仕事の渡し方や説明に足りないところがなかったかを受け入れる側で見直し、本人と次の1か月の目標を決めます。そのうえで面談の記録を残しておきます。本採用を見送るかどうかのような判断に関わる場合は、現場だけで決めず、就業規則を確かめたうえで人事や社会保険労務士などの専門家に相談してください。
受け入れの段取りが決まったら相談
最初に任せる仕事と、試用期間が終わるころに担当してほしい範囲が決まっていれば、そのままご相談いただけます。受け入れ担当を置く余裕がないといった段階でも構いません。
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出典
- *1 参考:厚生労働省「令和7年転職者実態調査の概況」事業所調査 3 転職者に対する教育訓練の実施状況(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/6-18c-r07-1-03.pdf)。出典:表6「産業・事業所規模、転職者に対する教育訓練の実施の有無、実施した教育訓練の種類別事業所割合」の総数・情報通信業・事業所規模別と、令和2(2020)年調査の総数を参照(確認日2026年10月8日)(2026年10月確認)
- *2 参考:厚生労働省「令和7年転職者実態調査の概況」調査の概要(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/6-18c-r07-gaiyo.pdf)。出典:調査の範囲及び対象、調査の対象期間及び実施期間、有効回答数(事業所調査9,154事業所)を参照(確認日2026年10月8日)(2026年10月確認)
- *3 参考:労働政策研究・研修機構「ミドルエイジ層の転職と能力開発・キャリア形成」労働政策研究報告書No.215(2022年)(https://www.jil.go.jp/institute/reports/2022/documents/0215.pdf)。出典:第3章(転職者のオンボーディング施策と組織再適応)の第3-3-1表・第3-3-4表〜第3-3-6表、第4章の分析対象(調査対象と転職経験者4,205人)、付属の調査票Q33を参照(確認日2026年10月8日)(2026年10月確認)