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試用期間とは何を見る期間か、設計と運用
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 期間の長さに法律上の定めはない:厚生労働省のモデル就業規則は、試用期間の長さに関する定めは労基法上ないと明記しています*1。
- 法が決めているのは手続きの側:入社後14日を超えて雇用した後の解雇には、原則30日以上前の予告か解雇予告手当が要ります*1。
- 判断の軸は「作業能率」と「勤務態度」:モデル就業規則が解雇事由として挙げるこの2語を、自社の言葉に翻訳するのが設計です*1。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
試用期間を3か月にしている会社は多いはずです。ではなぜ3か月なのか、その3か月で何を見て、何をもって本採用と判断するのか。ここを説明できる会社は、実はそれほど多くありません。
理由のひとつは、法律が中身を決めていないからです。厚生労働省のモデル就業規則は、試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ありませんと明記しています*1。長さも、評価項目も、伝え方も、会社が決めるものとして空白のまま残されています。
一方で、法が決めている部分もあります。それは主に手続きの側です。入社から14日という区切り、採用時の労働条件の明示、勤続年数の通算。この線引きを知らないまま「とりあえず3か月」と置くと、いざ判断の場面で使えない期間になります。
本記事では、モデル就業規則(令和7年12月版)を軸に、試用期間の設計を採用実務の順序で整理します。なお本採用に至らない場合の可否は個別の事情に強く依存するため、規程の文面や個別の判断は社会保険労務士等への確認を経てください。ここでは制度の枠組みと、事前に決めておく項目までを扱います。
目次
「何か月」に法律上の正解はない
まず前提を確認します。試用期間そのものについて、労働基準法に条文はありません。
モデル就業規則の第6条は、労働者として新たに採用した者については、採用した日から__か月間を試用期間とするという形で、期間を空欄にした規程例を示しています*1。会社が埋める前提の空欄です。
解説では、その空欄の埋め方について2点が示されています。ひとつは前提として、試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ありませんという点です*1。もうひとつは歯止めで、労働者の地位を不安定にすることから、あまりに長い期間を試用期間とすることは好ましくありませんとされています*1。
つまり上限の数字は示されず、方向だけが示されています。短くする理由は「判断に足りる材料が集まるか」、長くしない理由は「相手の地位が不安定なままになるから」です。この2つの間で決める、という構造になっています。
実務では、任せる仕事が1周する期間を目安に置くと説明がつきやすくなります。開発であればひとつの案件やスプリントの区切り、運用であれば月次の締めを1回か2回経験する期間です。「業界の相場が3か月だから3か月」では、判断の材料がその期間に集まる保証がありません。
なお第6条第2項には、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、又は設けないことがあるという規程例も置かれています*1。経験者の採用で試用期間を置かない選択も、規程に書いてあれば取れるということです。
14日という区切りだけは、法が決めている
設計の自由度が高い一方で、手続きには明確な区切りがあります。入社から14日です。
モデル就業規則の解説はこう述べています。試用期間中の解雇については、最初の14日間以内であれば即時に解雇することができますが、試用期間中の者も14日を超えて雇用した後に解雇する場合には、原則として30日以上前に予告をしなければなりません*1。そして予告をしない場合には、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うことが必要となります(労基法第20条、第21条)とされています*1。
規程例の側にも同じ線が引かれています。第6条第3項は試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第53条第2項に定める手続によって行うという形です*1。第53条第2項が、30日前の予告と解雇予告手当の条項にあたります*1。
ここで実務上の意味を取り違えないことが大切です。14日以内なら判断してよい、という話ではありません。予告の手続きが変わるという話です。入社14日で何かを見極められる仕事はほとんどありませんから、実際には「30日前の予告が要る側」で運用することになります。
この点は、期間の長さの決め方にも跳ね返ります。仮に試用期間を3か月に置いた場合、本採用としない判断は少なくとも満了の30日前には固まっている必要があります。実質的に判断できる期間は、置いた長さより1か月短いということです。面談の予定を組む段階から、この1か月を計算に入れておきます。
見るのは「作業能率」と「勤務態度」
では何を見るのか。ここにも手がかりがあります。
モデル就業規則の第53条は解雇事由を列挙していますが、その第1項⑤に試用期間における作業能率又は勤務態度が著しく不良で、労働者として不適格であると認められたときという項目が置かれています*1。試用期間に固有の事由として挙げられているのは、この2語です。
裏を返せば、設計の作業とは「作業能率」と「勤務態度」を自社の言葉に翻訳することにほかなりません。抽象語のまま運用すると、判断が担当者の印象に寄ります。
翻訳の例を挙げます。作業能率であれば、担当する規模の課題を独力で完了できるか、見積もりと実績の乖離が縮まっているか、レビューでの指摘が同じ種類で繰り返されていないか。勤務態度であれば、詰まったときに相談が出てくるか、合意した進め方が守られているか、記録が後から追える形で残っているか。いずれも「観察できる事実」の形に落とすのがポイントです。
評価の物差しを事前に置くという考え方は、選考段階の設計と共通します。何を測るかを先に決めてから手段を選ぶ順序についてはコーディングテスト導入の進め方と評価基準で扱いました。試用期間は、その物差しを入社後に持ち越す期間だと考えると設計しやすくなります。
注意点をひとつ。ここで挙げたのは何を観察するかの整理であって、どの水準に達しなければ本採用としないかという判断そのものではありません。後者は個別の事情に左右され、法的な評価も伴います。規程の文面と個別の判断は、社会保険労務士等に確認したうえで運用してください。
試用期間中も、労働条件の明示は同じ枠組み
手続きの側でもうひとつ落としやすいのが、労働条件の明示です。
モデル就業規則の第7条は、会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとするという規程例を置いています*1。解説では、原則として書面の交付により明示する必要がある項目が列挙されています*1。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| (1) | 労働契約の期間に関する事項 |
| (2) | 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は更新回数の上限を含む) |
| (3) | 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(変更の範囲を含む) |
| (4) | 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制の就業時転換に関する事項 |
| (5) | 賃金の決定、計算及び支払の方法、締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 |
| (6) | 退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
| (7) | 無期転換の申込みに関する事項(無期転換後の労働条件を含む) |
(5)に昇給が含まれる点は、書面の交付までは求められない扱いとされています*1。表の項目は、そのまま労働条件通知書の欄と対応します。項目の書き方そのものはエンジニア求人票の書き方と必須14項目で扱いました。
試用期間との関係で見落としやすいのは(6)です。退職に関する事項には解雇の事由が含まれます*1。試用期間中の扱いを就業規則に書いているなら、その内容が明示される項目に含まれるということです。規程と通知書が食い違っていないかは、受け入れの前に一度そろえて確認しておく価値があります。
もうひとつ、時期の話があります。解説は採用内定により労働契約が成立していると解される場合がありますが、この場合には、採用内定に際して、内定者に労働条件を書面で明示する必要がありますと述べています*1。入社日ではなく内定の時点で明示が要る場合がある、ということです。求人の段階での表示の正確さについては求人情報の的確な表示、企業に課される義務もあわせて確認してください。
勤続年数は通算される
試用期間を「本採用の前の別枠」と捉えていると、ずれる論点があります。勤続年数です。
モデル就業規則の第6条第4項は、試用期間は、勤続年数に通算すると定めています*1。試用期間が明けてから勤続年数を数え始める、という設計ではありません。
この点は年次有給休暇に直結します。厚生労働省のリーフレットは、年次有給休暇の発生要件を雇入れの日から6か月継続勤務と全労働日の8割以上出勤の2つとしています*2。そして「継続勤務」とは事業場における在籍期間を意味し、勤務の実態に即して実質的に判断されますと説明しています*2。
実務に直すと、4月1日入社で試用期間3か月の場合でも、年次有給休暇の起算は4月1日です。10月1日には付与が発生します。試用期間中は有給が無い、という運用にはならないということです。付与日数は継続勤務年数に応じて定められており、通常の労働者では6か月経過時点で10日とされています*2。
週の所定労働日数が4日以下かつ週の所定労働時間が30時間未満の場合は、日数が別に定められています*2。時短の枠で受け入れる場合の設計は時短勤務での採用、フルタイム前提との違いで扱いました。
退職金や昇給の起算をどこに置くかも、同じ考え方で規程に書いてあるかどうかの問題になります。試用期間を別枠だと考えていると、規程と運用がずれたまま気づかない箇所です。
入社手続で、同時に整えておくもの
試用期間の設計を見直すなら、その手前の入社手続もあわせて点検しておくと二度手間になりません。モデル就業規則には、採用の周辺についても規程例と解説が置かれています。
ひとつは提出書類の扱いです。第5条は採用された者が一定期間内に提出する書類を列挙していますが、解説はこう注意しています。会社は、労働者の年齢、現住所を確認するに当たり、労働者から戸籍謄本(抄本)や住民票の写しを提出させることは適切ではありません。住民票記載事項の証明書により処理することが適切です*1。さらに提出させる書類については、その提出目的を労働者に説明し、明らかにしてくださいとも述べています*1。慣習で続いている書類が残っていないか、この機会に見ておく箇所です。
もうひとつは採用の入口です。第4条の解説は、会社は、労働者の採用に当たり、男女かかわりなく均等な機会を与えなければなりませんとし、あわせて合理的な理由がない場合に、労働者の採用において身長・体重・体力を要件とすること、転居を伴う転勤に応じることを要件とすること等は、間接差別として禁止されていますと述べています*1。転勤の可否を要件に置く運用は、無自覚に残りやすい項目です。
そして出口側にも、試用期間に関わる条項があります。第52条の解説は、労働者から使用期間、業務の種類、その事業での地位、賃金又は退職事由(解雇の場合は、その理由を含む。)について証明書を求められた場合、使用者は求められた事項について証明書を交付する義務がありますとしています*1。求められた場合には応じる前提で、記録が残る運用にしておく必要があるということです。
これらは試用期間そのものの話ではありませんが、同じ「入社の周辺」に属する手続きです。規程を開くのは年に何度もありませんから、開いたときにまとめて見ておくほうが実務としては早く済みます。
着手の順序——評価項目を1枚に落とす
順序を置きます。規程の全面改定から始める必要はありません。
- ① 何を見るかを1枚に書く。「作業能率」「勤務態度」を、観察できる事実の形に翻訳します
- ② その材料が集まる期間を逆算する。任せる仕事が1周する長さを目安にします
- ③ 30日を引く。判断が固まっている必要のある時期を、満了日から逆算して面談を置きます
- ④ 規程と通知書をそろえる。期間、通算、解雇の事由の記載が一致しているかを見ます
- ⑤ 本人に先に渡す。入社時に①を共有します。見る項目を隠す理由はありません
- ⑥ 専門家に確認する。規程の文面と個別の判断は、社会保険労務士等に見てもらってから運用に入ります
①を最初に置く理由は、これが無いと②以降が決められないからです。何を見るかが決まっていないのに期間だけ決めるから、「3か月」に根拠が無くなります。
⑤について補足します。評価項目を先に渡すのは、相手への配慮であると同時に、こちらの設計の検算にもなります。渡せない項目は、たいてい観察できる事実になっていません。「積極性」や「協調性」だけが並んだ紙は、本人にも渡せませんし、判断の場面でも使えません。
入社直後に情報が届かず立ち上がりが遅れる問題は、試用期間の判断そのものを濁らせます。会社側の受け入れ不足を本人の能率と読み違えないために、立ち上がりの設計は別途必要です。なぜ中途エンジニアは早期に離職するのかで扱った論点と、あわせて見てください。
なお、常時必要な職責かどうかがまだ定まらないうちに雇用の枠を作ると、試用期間の設計も曖昧になります。当座の必要と常時の必要を切り分けたい段階では、期間を区切って外部の力を借りながら職責の輪郭を確かめる進め方もあります。順序としては①を先に置くのが無理のない形です。
まとめ:試用期間の設計で押さえる3つの視点
第一に、期間の長さに法律上の定めはないという点です。厚生労働省のモデル就業規則は、試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ないとしたうえで、労働者の地位を不安定にすることからあまりに長い期間を試用期間とすることは好ましくないと述べています。上限の数字は示されず、判断の材料が集まるかどうかと、相手の地位を不安定にしないことの間で会社が決める構造です。第二に、法が決めているのは手続きの側だという点です。最初の14日間以内であれば即時に解雇することができますが、14日を超えて雇用した後に解雇する場合には原則として30日以上前に予告をしなければならず、予告をしない場合には平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うことが必要になります。実質的に判断できる期間は、置いた長さより1か月短いと考えて面談の予定を組みます。第三に、判断の軸は就業規則の側に書かれているという点です。モデル就業規則は解雇事由のひとつとして、試用期間における作業能率又は勤務態度が著しく不良で、労働者として不適格であると認められたときを挙げています。この2語を観察できる事実の形に翻訳し、入社時に本人へ渡せる1枚にすることが設計の中身です。あわせて、試用期間は勤続年数に通算され、年次有給休暇は雇入れの日から6か月継続勤務で発生します。まず何を見るかを1枚に書くところから始めてください。
よくある質問
試用期間は何か月にするのが正しいですか。
法律上の正解はありません。厚生労働省のモデル就業規則は、試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ないとしています。一方で、労働者の地位を不安定にすることから、あまりに長い期間を試用期間とすることは好ましくないとも述べています。判断の材料が集まる長さと、相手の地位を不安定にしない長さの間で決めることになります。任せる仕事が1周する期間を目安に置くと、社内でも本人にも説明がつきやすくなります。
試用期間中なら、いつでも解雇できますか。
手続きが変わるだけで、自由に判断できるという意味ではありません。モデル就業規則の解説は、最初の14日間以内であれば即時に解雇することができるものの、試用期間中の者も14日を超えて雇用した後に解雇する場合には原則として30日以上前に予告をしなければならず、予告をしない場合には平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うことが必要になるとしています。個別の判断が認められるかどうかは事情に左右されるため、社会保険労務士等に確認してください。
試用期間中は年次有給休暇を与えなくてよいですか。
そのような扱いにはなりません。モデル就業規則は試用期間は勤続年数に通算すると定めています。年次有給休暇の発生要件は、雇入れの日から6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤することです。継続勤務とは事業場における在籍期間を意味し、勤務の実態に即して実質的に判断されるとされています。4月1日入社であれば、試用期間の有無にかかわらず10月1日に付与が発生します。
試用期間中の労働条件は、本採用後と分けて明示しますか。
明示の枠組み自体は同じです。モデル就業規則の解説は、労働者を雇い入れるに際して賃金、労働時間、その他の労働条件を明示することが必要であるとし、原則書面の交付により明示する項目を列挙しています。その中には退職に関する事項(解雇の事由を含む)も含まれます。試用期間中の扱いを就業規則に定めているなら、規程と労働条件通知書の記載が食い違っていないかを受け入れ前に確認しておきます。
試用期間を設けない採用はできますか。
規程に書いてあれば取れる選択です。モデル就業規則の第6条第2項は、会社が特に認めたときは試用期間を短縮し、又は設けないことがあるという規程例を示しています。経験者の採用で判断の材料が選考段階でそろっている場合などが想定されます。ただし短縮や不設定の運用を始める前に、就業規則の記載と実際の運用が一致しているかを確認してください。
出典
- *1 参考:厚生労働省「モデル就業規則」(令和7年12月版・労働基準局監督課)(https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf)。第6条(試用期間)の規程例と解説、第7条(労働条件の明示)と書面交付により明示する項目、第53条(解雇)の解雇事由および解雇予告の条項の一次情報として(2026年8月確認)
- *2 参考:厚生労働省「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」(リーフレットシリーズ労基法39条)(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-3.pdf)。年次有給休暇の付与日数、発生要件(雇入れの日から6か月継続勤務・全労働日の8割以上出勤)、「継続勤務」の意味の一次情報として(2026年8月確認)
- *3 参考:厚生労働省「モデル就業規則について」(モデル就業規則の配布ページ)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html)。モデル就業規則の最新版および各章の分割版の入手先として(2026年8月確認)