LASSIC Media らしくメディア
データ利活用の体制の作り方|データの受け渡しと役割分担
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論
- データ利活用のための体制整備では、対象企業の45.0%が挙げた「部門をまたがった連携」が最も多い項目でした。
- 「必要なスキルを持つ人材の確保・育成」は、2024年度の52.7%から2025年度は36.8%に下がりました。
- 渡すデータを1つ選び、項目をそろえる作業と、何を渡さないかの判断を分けておくと、担当者が替わっても受け渡しを続けやすくなります。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
隣の部署が持っている数字を見たいのに、頼むたびに担当者に取り出してもらう必要がある。その担当者が異動や退職でいなくなると、どこに何のデータがあるのかを知っている人もいなくなる——。データを集める仕組みはあっても、部署をまたいで使う段階になると、データの受け渡しがこうして止まりがちです。データ利活用の体制とは、社内のデータを誰が取り出し、誰に渡し、何に使うのかを決めておく仕組みと、それを担う人の配置のことです。
体制を決めておけば、担当者が替わってもデータの受け渡しを続けやすくなります。ただし万能ではありません。専門の部署を作ったり、データを扱える人を育てたりするには時間がかかります。本記事では、部署の間でデータを受け渡す実務担当者に向けて、企業調査に見る体制整備の現状、データの種類ごとの使い道、渡す作業の決め方、そして外部に頼むときに確認したい点を整理します。
目次
データ利活用の体制とは
データ利活用の体制は、仕組みの側と人の側の2つに分けて考えると整理しやすくなります。仕組みの側は、部署をまたいでデータを受け渡す決まりや、データを扱う専門の部署を置くことです。人の側は、判断する経営層がどこまで関わるのか、データを扱える人材をどう確保して育てるのかという話になります。どちらか一方だけでは、部署の間でデータが受け渡されません。
体制が決まっていない職場でも、データそのものは日々の記録や集計の形でどこかのシステムに溜まっています。止まっているのはその先で、誰がどの形で取り出し、受け取った側がどう使うのかが決まっていません。取り出す作業が特定の担当者の手順に頼っているため、その人が抜けると受け渡しも止まります。体制を整えるとは、担当者1人しか知らない手順を、ほかの人も使える決まりにすることです。
体制整備で多い項目
IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2026」は、日本の企業を対象に2026年4月17日から6月12日にかけて実施された調査で、有効回答数は1,799です。*3 この調査はデータ利活用のための体制整備の状況も尋ねています。ここで見る集計の対象は、データ利活用にすでに取り組んでいるか、実証実験や検討を進めている企業で、手を付けていない企業や、いったん取り組みをやめた企業は含まれていません。*2
2025年度に最も多かったのは「部門をまたがった連携」で45.0%、次が「経営層の関与」の44.2%でした。2つの差は1ポイント未満で、ほぼ並んでいます。「必要なスキルを持つ人材の確保・育成」は36.8%で、この2つより低い値でした。*2
部門をまたいだ連携が上位にあることは、冒頭に挙げた悩みと重なります。データを取り出す手順が担当者個人のものである限り、誰に何を渡すのかも、どう渡すのかも、担当者以外には分かりません。部署の間で何を渡すかを決めておくことは、担当者の異動や退職に備える意味でも、最初に手を付けやすい体制整備です。
経営層の関与と人材の確保・育成
前年度からの変化を見ると、2つの項目が逆に動いています。「経営層の関与」は2024年度から16ポイント程度増えており、資料は「経営層のリーダーシップが高まっている状況がうかがえる」と述べています。一方、「必要なスキルを持つ人材の確保・育成」は2024年度の52.7%から36.8%へと大きく下がりました。*2
人材の確保・育成が下がった理由は、資料には示されていません。実務で気をつけたいのは、データを渡す作業を社内の育成だけで賄おうとする場合です。人が育つのを待つあいだも、隣の部署からの依頼は毎日届きます。育成を進めながら、当面の作業を誰が担うのかを別に決めておくと、受け渡しが止まりにくくなります。
利活用が進んだ企業との違い
資料は、体制整備の状況をデータ利活用の進み具合で分けた集計も示しています。「全社で利活用している」と「事業部門・部署ごとに利活用している」を「すでに利活用できている」、「現在実証実験を行っている」と「利用に向けて検討を進めている」を「検討・実証を進めている」としてまとめたものです。
その結果、すでに利活用できている企業では「専門部署の設置」と「部門をまたがった連携」が進んでいる傾向があるとされています。*2 ただし、連携を整えたから利活用が進んだのか、利活用が進んだ企業が連携も整えたのか、どちらが先かまでは示されていません。
専門部署を置くかどうかを決める前に、部署の間で何を渡すかを決めることはすぐに始められます。専門部署を作るには人と予算が要りますが、まずは1つのデータで受け渡しの決まりを作り、それが回るようになってから、専門部署を置くかどうかを考えても遅くはありません。
データの種類ごとの使い道
何のためにデータを使っているかは、データの種類ごとに集計されています。最も多いのは「経営指標関連データ」を「経営企画」に使う企業で78.2%、次が「業務記録データ」を「経営企画」に使う企業で54.2%でした。「外部情報データ」でも、「経営企画」が44.7%とほかの目的より高くなっています。*2
使い道の順位がほかと違うのは「顧客接点データ」で、「販売・マーケティング」が49.3%と最も多い目的でした。資料によると、「販売・マーケティング」は経営指標関連データと業務記録データでも「経営企画」の次に高い目的です。*2
この違いは、データを渡す形を決めるときに影響します。同じ売上の記録でも、経営企画で使うのか、販売で使うのかで、どの項目をそろえるのかが変わります。受け取る側が何に使うのかが分からないまま渡すと、項目の名前や単位をそろえた作業がむだになりかねません。渡す前に使い道を聞いておけば、やり直しを減らせます。
渡す作業をどう決めるのか
ここまでの結果をふまえて、隣の部署にデータを渡す作業を1つ決める手順を、4つの段階に分けました。
| 段階 | やること | 担う人 |
|---|---|---|
| 1 | 隣の部署に渡っていないデータのうち、いま頼まれているものを1つ選ぶ | 社内 |
| 2 | そのデータを誰が何に使うのかを書き、どの項目をどこまで整えるかを決める | 社内 |
| 3 | 項目の名前や単位をそろえる作業と、何を渡さないかを決める判断を分ける | 社内 |
| 4 | そろえる作業のうち作業量を見積もれる部分を、期間を決めて委託する | 外部に委託できる |
1段目では、全部のデータを洗い出す前に、いま隣の部署から頼まれているデータを1つだけ選びます。2段目では、そのデータを誰が何に使うのかを書きます。経営企画で使うのか、販売で使うのかが決まると、どの項目をどこまで整えればよいかも決まります。この2つの段階は、社内の事情を知っている人でなければ決められません。
3段目は、そろえる作業と決める作業を分けることです。項目の名前や単位をそろえる作業は手順にしやすく、ほかの人にも任せられます。一方、どのデータや項目を渡さないのか、誰に見せるのかといった判断は、社内で持っておく必要があります。4段目では、そろえる作業のうち作業量を見積もれる部分から、期間を決めて外部に委託します。
4段目で外部の手を借りる理由は、先に見た人材の結果にあります。人材の確保・育成を体制整備として挙げる企業は前年度より少なく、人が育つのを待ってからデータを渡すことにすると、そのあいだに頼まれた作業が片付かないまま増えていきます。そろえる作業を期間を決めて任せ、判断は社内に残しておけば、担当者が替わっても受け渡しを続けやすくなります。
データの置き場所を管理して引き継ぐ方法は「データの置き場所の管理と引き継ぎ」で、担当者が離れる前に確かめておきたいことは「担当者の離脱に備える確認」で扱っています。データを扱う人材の見極め方は「AI人材の採用で見るべき点」、判断する人の置き方は「AI導入の体制」も参考になります。
つまずきやすい点
一つ目は、最初から全社のデータを洗い出そうとすることです。対象が広いほど準備に時間がかかり、そのあいだも隣の部署からの依頼は担当者個人の手順で処理され続けます。まず1つのデータで渡す形を決め、それが回るようになったら次のデータに広げるほうが進めやすくなります。
二つ目は、判断まで委託先に任せてしまうことです。どのデータを選ぶのか、誰に何のために渡すのかまで委託先が決めるようになると、何を渡さないかという社内で持つべき判断が社外に移ります。委託が終わったとき、その判断の理由を知る人が社内にいなくなるおそれもあります。委託するのは、そろえる作業のように手順と期間を決められる作業にとどめます。
三つ目は、経営層の関与が得られたことで体制が整ったと考えてしまうことです。調査でも経営層の関与は増えていますが、実際にデータを取り出してそろえる人の確保は別の話です。判断する人と作業する人の両方が決まって、はじめてデータの受け渡しが続くようになります。
まとめ:データ利活用の体制で確かめたい3つの点
データ利活用の体制を整えるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、隣の部署に渡っていないデータを1つ選び、誰が何に使うのかを書くこと。第二に、項目や単位をそろえる作業と、何を渡さないかを決める判断を分けること。第三に、そろえる作業のうち作業量を見積もれる部分を、期間を決めて任せられるようにしておくことです。この3点を踏まえておけば、「担当者が辞めたら、どこに何のデータがあるのか誰も分からなくなった」という事態を避けやすくなります。データをそろえる作業を誰が担うかに迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
この調査は、どのような企業を対象にしていますか
日本の企業が対象です。企業データベースから業種や従業員規模で割り付けてランダムに抽出しており、調査対象数は10,000、有効回答数は1,799、調査項目は60問でした。*3 報告書とデータ集は2026年7月30日に公開されています。*1
経営層の関与は、前年度からどのくらい増えましたか
資料は、2024年度から16ポイント程度増加したと述べています。2025年度の値は44.2%です。*2 2024年度の値そのものは資料に示されていません。
専門部署を置かないと、データ利活用は進みませんか
そうとは言い切れません。資料が示しているのは、すでに利活用できている企業では専門部署の設置が進んでいる傾向までです。*2 専門部署を置く前でも、部署の間で渡すデータを1つ決め、受け渡しの手順を作ることから始められます。
業務委託の人に任せやすいのは、どの作業ですか
項目の名前や単位をそろえる作業のように、手順と期間を決めやすい作業です。フリーランスを含む業務委託なら、作業と期間を決めて依頼し、終われば契約を終えられます。どのデータや項目を渡さないか、誰に見せるかという判断は社内に残しておくのがおすすめです。
データ利活用の体制を相談したいとき
どのデータを誰に渡すか、そろえる作業のどこを任せるかの整理からご相談いただけます。
Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。
Remoguは、リモート前提で全国から即戦力のITプロ人材を調達するサービスです。リラシクは、扱う求人がすべてリモートワークのITエンジニア専門転職エージェントです。どちらもLASSICが運営しています。
出典
- *1 参考:IPA「DX動向2026」広がるAI導入、DXは変われるか(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2026.html)。出典:IPA「DX動向2026」公開ページ。公開日(2026年7月30日)と収録章の構成を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:IPA「DX動向2026」(本文)(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/rcu1hd0000017uk8-att/dx-trend-2026.pdf)。出典:同報告書 第3章。図表3-28(データ利活用のための体制整備状況)、図表3-29(データ利活用状況別の体制整備状況)、図表3-27(データの種類別の利活用の目的)の記述と、各図表の集計対象を参照(2026年9月確認)
- *3 参考:IPA「DX動向2026」(データ集)(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/rcu1hd0000017uk8-att/dx-trend-data-collection-2026.pdf)。出典:同データ集(2026年7月30日第1版)。調査対象・調査期間・調査項目数・調査対象数・有効回答数・抽出方法を参照(2026年9月確認)