LASSIC Media らしくメディア
秘密保持契約と業務委託契約の違い|条項ごとの書き方と確認点
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論
- 秘密保持契約は情報の扱いだけを決め、業務委託契約は仕事の範囲や報酬を決めてその中に秘密保持の条項を置きます。
- 委託の前に案件の中身を見せるなら先に秘密保持契約を結び、検討の目的・有効期限・返還と消去を書きます。
- 業務委託契約には作業の中で生じる情報・再委託・終了時の消去の報告を書き、先の秘密保持契約との関係も明示します。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
業務委託でエンジニアを迎える前に「まず秘密保持契約を」と言われた。業務委託契約にも秘密保持の条項があるのに、2つも要るのか——。初めて外部のエンジニアに開発を頼む企業では、ここで手が止まりがちです。
本記事は、業務委託でエンジニアを受け入れる開発マネージャーや情報システムの責任者、人事の担当者に向けて、秘密保持契約と業務委託契約の役割の違いを整理し、それぞれに書く条項を表で示します。経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」と参考資料の契約書の例、不正競争防止法をもとにまとめます。
目次
秘密保持契約と業務委託契約の違い
秘密保持契約(NDA)は、相手に渡す情報の扱いだけを決める契約です。業務委託契約は、頼む仕事の範囲や報酬、期間を決める契約で、その中に秘密保持の条項を置きます。経済産業省の参考資料には、業務委託などの取引を本格化させる前の検討の段階で使う秘密保持契約書の例があります。*2 業務委託契約の側にも、委託する企業だけが秘密情報を開示する場合の秘密保持の条項の例が載っています。*2
| 比べる点 | 秘密保持契約 | 業務委託契約の秘密保持条項 |
|---|---|---|
| 結ぶ時期 | 委託の前の検討や面談の段階 | 委託を決めて作業を始めるとき |
| 決めること | 渡す情報の扱いだけ | 仕事の範囲・報酬・期間と、その中での情報の扱い |
| 情報を出す側 | 双方が開示する前提の例 | 発注側だけが開示する前提の例(受ける側の情報があれば別に定める) |
| 秘密にする対象 | 検討のために開示した情報。検討している事実そのものを含めることもある | 発注側が開示した情報と、委託の作業の中で生じる情報 |
| 守る期間 | 締結日から満〇年など、契約ごとの有効期限 | 委託の期間。満了や解除のときに返却か廃棄をする |
| 向いている場面 | 候補のエンジニアに案件の中身を説明する前 | 作業のために資料やシステムを渡す前 |
どちらが要るかは、情報を渡す時期で考えます。契約の前の面談で開発中のシステムや顧客の情報を見せるなら、先に秘密保持契約を結びます。契約を結んでから初めて資料を渡すなら、業務委託契約の秘密保持条項で対応する形もあります。参考資料も、検討の段階で秘密保持契約を結ぶ場合のほか、後の業務委託の契約の中に秘密保持の条項を盛り込む場合を挙げています。*2
秘密保持契約に書く条項
検討の段階の秘密保持契約に書く条項を、参考資料の例をもとに表にしました。例は企業どうしの契約ですが、相手が個人のエンジニアでも決める項目は使えます。

| 条項 | 決めること | 書き方の例 | 発注側が確かめる点 |
|---|---|---|---|
| 秘密情報の定義 | 何を秘密にするか | 開示の際に秘密である旨を明示した技術上又は営業上の情報 | 「一切の情報」としたままにせず、渡す資料を特定できるか |
| 対象外の情報 | 秘密に当たらない情報 | 開示を受けたときに既に保有していた情報、公知の情報など5つ | 相手が書面で根拠を示せる場合に限っているか |
| 口頭で伝えた情報 | 面談で話した内容の扱い | 秘密である旨を開示時に伝え、開示後〇日以内に書面で渡す | 話した内容を後から書面にする担当者を決めたか |
| 使う目的 | 情報を使ってよい範囲 | 本取引(検討)の目的以外には使用しない | 何の検討なのかを契約の冒頭に書いたか |
| 第三者への開示 | ほかの人に見せてよいか | 書面による事前の承諾を得て、その相手にも同等の義務を負わせる | 相手が会社なら、社内で資料を見る人の範囲 |
| 返還と消去 | 要らなくなったときの扱い | 不要になったら返還し、消去した旨を書面で報告する | 検討が止まったときも返還の対象か |
| 有効期限 | いつまで守るか | 締結日から満〇年。通知がなければ同一条件で継続 | 検討の事実を秘密にするなら、別に短い期間を置くか |
表の中で迷いやすいのは、定義と有効期限です。参考資料の注は、秘密保持の対象となる情報を特定できるなら、別紙で一覧にするなど、できる限り具体的にすることが重要だとしています。*2 また、業務委託に向けて検討している事実そのものを秘密情報に含めることもあり、その場合の期限は、ほかの秘密情報より短く、自動更新の条項は置かずに6か月~2年程度とするのが一般的とされています。*2
業務委託契約の秘密保持条項
業務委託契約の秘密保持条項は、作業の実態に寄せて書きます。参考資料は、自社の秘密情報に接する可能性のある事業者には、業務中に接する情報の漏えいを防ぐため、業務委託契約の中で秘密保持を合意する必要があるとしています。*2
| 条項 | 決めること | 書き方の例 | 発注側が確かめる点 |
|---|---|---|---|
| 秘密情報の範囲 | 守る情報 | 秘密である旨を明示して開示する情報及び本契約の履行により生じる情報 | 作業の中で作る設計のメモや記録も含めるか |
| 開示情報の一覧 | 渡した資料の特定 | 別紙の一覧(提供年月日・件名・提供方法)を双方で最新に保つ | 一覧を更新する担当と時期 |
| 管理の方法 | 受けた側での扱い | ほかの情報と明確に区別して管理し、本契約の目的の範囲内でのみ使用する | 作業に使う機器と保存先 |
| 再委託 | ほかの人に作業を回してよいか | 事前の書面による承諾がなければ再委託しない。承諾したら同等の義務を書面で課す | 手伝いの人を入れる予定がないか |
| 終了時の返却・廃棄 | 委託が終わったときの扱い | 返却するか自ら廃棄し、廃棄した旨の誓約書を出す。記録媒体の情報は消去して書面で報告する | 手元の機器に残ったデータまで対象か |
| 事故の通知 | 漏えいなどが起きたとき | 事故が起きたら直ちに通知し、再発防止策の協議に加わることを認める | 連絡先と、連絡を受ける社内の担当 |
| 損害賠償 | 違反したとき | 必要な措置を直ちに講じ、生じた損害を賠償する | 契約全体の損害賠償の条項と食い違わないか |
受ける側から発注側に渡す情報があるなら、その扱いの定めも設ける必要があると参考資料の注は書いています。*2 相手が新たに作った情報の帰属を決める条項の例もあり、成果物の権利は業務委託エンジニアの参画後に知る成果物の著作権の基本で扱っています。
反対に、迎えるエンジニアが他社の情報を持ち込む心配もあります。ハンドブックは、転職者を受け入れるときに、前の勤務先に負っている秘密保持義務の有無や内容を確かめ、他社の秘密情報を持ち込まないことを誓約書などで確約してもらうことを挙げています。*1 ほかの企業の仕事も受けるエンジニアにも、同じ確認が考えられます。
2つの契約のつなぎ方と法律
検討の段階で秘密保持契約を結び、その後に業務委託契約を結ぶと、同じ情報に2つの契約がかかります。参考資料は、業務委託の契約書に別の秘密保持契約を結んでいる旨を明示し、それぞれが何に関する契約なのかをはっきりさせることが有効だとしています。*2
- 業務委託契約に、先に結んだ秘密保持契約の名前と締結日を書く
- 検討の段階で渡した資料を、作業に入った後はどちらの契約で守るかを決める
- 2つの契約で守る期間や返還の時期が違うときは、どちらに従うかを書く
契約とは別に、法律が守る情報もあります。不正競争防止法は、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報で、公然と知られていないものを「営業秘密」としています。*3 その営業秘密を示された人が、不正の利益を得る目的や、保有する事業者に損害を加える目的で使ったり開示したりする行為は、不正競争に当たります。*3
法律で守られるのは要件を満たす情報だけです。ハンドブックは、取引先に開示する資料や記録媒体、電子データに「秘密情報」であることを表示することが重要だとしています。*1 要件の考え方は営業秘密の秘密管理措置と秘密管理性が認められる条件で扱っています。
外部に頼むときに確認しておきたい点
ハンドブックは、契約とあわせて取引先に向けた次のような手当てを挙げています。*1
- 渡す情報を必要最低限に絞る。特に重要な情報は渡さず、周辺の範囲だけで委託する例もある
- 情報を扱う人を契約書などで指定し、変えるときは自社の許可を要するとする
- 自社のサーバーを使ってもらい、アクセスの権限を自社で管理する
- 秘密情報のやり取りを台帳で記録する(内容・日時・保管場所・提供先)

仲介の会社を通してエンジニアを迎えると、契約の相手が個人ではなく会社になることがあります。参考資料は、自社内で働く委託先の労働者とは直接の契約がないため、委託先の企業と秘密保持契約などを結び、その企業を通じて自社の取扱いを守ってもらう形になるとしています。*2 誰と結ぶかを確かめ、次の点を書き出しておくと、どちらの契約に何を書くかも決めやすくなります。
- 範囲:任せる作業と、そのために見せる資料やシステム
- 期間:面談で案件を説明する時期、作業を始める時期、終わりの見込み
- 体制:情報を扱う人の人数、社内の窓口、作業に使う機器と保存先
- 費用の決まり方:月額で固定するか、稼働の時間で精算するか
- 引き継ぎ:終了のときに返してもらう資料と、消去の報告の形
個別の契約の内容は、専門家に確認してください。契約書全体に入れる項目は業務委託エンジニアの契約書に入れる7つの項目で整理しています。
まとめ:秘密保持契約と業務委託契約の違い
秘密保持契約と業務委託契約の違いで押さえたい点は3つです。第一に、秘密保持契約は渡す情報の扱いだけを決める契約で、業務委託契約は仕事の範囲や報酬を決め、その中に秘密保持の条項を置くこと。第二に、契約の前に案件の中身を見せるなら先に秘密保持契約を結び、検討の目的や有効期限、返還と消去を書くこと。第三に、業務委託契約の秘密保持条項には作業で生じる情報や再委託、消去の報告を書き、先の秘密保持契約との関係を明示することです。条項の書き出しに迷ったら、外部の手を借りるのも一つの方法です。
よくある質問
秘密保持契約を結ばずに業務委託契約だけでもよいですか
契約を結ぶ前に資料を見せないなら、業務委託契約の秘密保持条項で対応する形もあります。面談の段階で開発中のシステムの構成や顧客の情報を見せて相談するなら、その前に秘密保持契約を結んでおきます。
秘密保持契約の有効期限は何年にすればよいですか
経済産業省の参考資料の例は「満〇年」と伏せてあり、決まった年数はありません。業務委託を検討している事実そのものを秘密にする場合は、ほかの情報より短く、自動更新を置かずに6か月~2年程度とするのが一般的とされています。
個人のエンジニアと結ぶときも同じ条項でよいですか
決める項目は同じように使えます。そのうえで、手伝いの人を入れないか(再委託)、作業に使う機器と保存先、ほかの企業の情報を持ち込まないことを確かめておくと、作業を始めてからの行き違いを減らせます。
業務委託で開発に加わるエンジニアを探す
任せたい作業の範囲と始めたい時期が分かっていれば、そのままご相談いただけます。契約の条項を整理している段階でも構いません。
Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。
Remoguは、リモート前提で全国から即戦力のITプロ人材を調達するサービスです。リラシクは、扱う求人がすべてリモートワークのITエンジニア専門転職エージェントです。どちらもLASSICが運営しています。
出典
- *1 参考:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」(2024年2月改訂)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf)。出典:経済産業省。第3章3-4(3)取引先に向けた対策(開示する情報の厳選、取扱者の限定、自社サーバーの利用、秘密情報であることの表示、授受の台帳)と、第5章(1)転職者の受入れを参照(確認日2026年10月22日)(2026年10月確認)
- *2 参考:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」参考資料2「各種契約書等の参考例」(2024年2月改訂版)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html)。出典:経済産業省(営業秘密のページからWord版を取得)。第1の注(委託先の労働者との関係)、第4「業務提携等の事前の検討・協議段階における秘密保持契約書の例」とその注、第6「業務委託契約書(抄)の例」とその注を参照(確認日2026年10月22日)(2026年10月確認)
- *3 参考:不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/index.html)。出典:経済産業省 不正競争防止法のページ。第2条第1項第7号と第2条第6項を参照。条文はe-Gov法令API(2026年5月21日施行の版)で確認(確認日2026年10月22日)(2026年10月確認)