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業務委託の競業避止義務|制限できる範囲と条項のよくある質問10選
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論
- 業務委託のエンジニアへの競業避止は、秘密情報を守る目的に照らして合理的な範囲なら、課すだけで直ちに問題とはなりません。
- 期間・対象の仕事と相手・地域・代償の4つを、守りたい情報に合わせて具体的に絞り、抽象的な書き方を避けます。
- 優越する立場で一方的に必要以上の制限を課すと優越的地位の濫用になり得るので、発注前に条項を示して協議します。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
業務委託のエンジニアに自社の開発の中核を任せることになった。契約が終わった後に、同業他社で同じ仕事をされたら困る。とはいえ、どこまで制限してよいのか、期間は何か月までか、見返りは要るのか。契約書の競業避止の条項を書こうとすると、迷う点が次々に出てきます。
本記事では、発注する企業の担当者が迷いやすい10の問いを、公正取引委員会の報告書、フリーランスガイドライン、経済産業省のハンドブックをもとにQ&Aの形で整理します。各問いには、答えの要点と判断の根拠にした一次情報を添えています。
目次
業務委託の競業避止義務で迷う点
業務委託のエンジニアに自社の開発を深く任せると、契約が終わった後に同業他社で同じ仕事をされないかが気になります。一方で、制限を広く書きすぎると相手の仕事の機会を奪い、法律上の問題にもなり得ます。迷う点は、課せるかどうか、どこまで絞るか、見返りをどうするか、どう書くかに分かれます。
次の表で、自社の疑問がどの問いに当たるかを確かめてから、該当するQ&Aを読んでください。
| 問いの種類 | 主な疑問 | 答えの決め手 | Q&A |
|---|---|---|---|
| 課せるかどうか | そもそも課してよいか、秘密保持だけで足りないか、契約中の他社の仕事を止められるか | 公取委の報告書と、フリーランスガイドラインの考え方 | Q1〜Q3 |
| 制限の範囲 | 期間・対象の仕事と相手・地域をどこまで絞るか | 経産省のハンドブックが整理した判例の見方 | Q4〜Q6 |
| 代償 | 補償金などの見返りは要るか | 公取委の報告書とガイドラインの考慮要素 | Q7 |
| 条項の書き方 | 契約書にどう書くか | 経産省のハンドブックの誓約書の例 | Q8 |
| 避けたい設定 | どんな設定や進め方が問題になり得るか | ガイドラインの想定例と、報告書の考え方 | Q9・Q10 |
本記事は、発注する企業が業務委託のエンジニアに対して、同業他社の仕事を制限する場面に絞ります。副業のエンジニアが本業の会社に負う義務を確かめる話は副業エンジニアと契約する前に本人と確かめる5つのことで、派遣やSES(客先に常駐して働く技術者の契約)で来ている人を自社で雇う場面はSESから自社雇用への切り替えで扱っています。
競業避止を課せるかどうかのQ&A
最初に、競業避止義務を課すこと自体がどう扱われているかを押さえます。公正取引委員会の検討会の報告書は、個人として働く者の例にシステムエンジニアやプログラマーを挙げ、雇用・請負・委任のどれも検討の対象にしています。*1

Q1. 業務委託のエンジニアに競業避止義務を課してもよいですか
- 答えの要点:目的に照らして合理的な範囲で課すなら、それだけで直ちに独占禁止法上の問題になるものではない、と整理されています。目的に挙がるのは、営業秘密やその他の秘密情報の漏洩を心配せずに取引することです。ただし範囲が広いほど、相手がほかの発注者に仕事を提供する機会を失わせます。
- 判断の根拠:公正取引委員会「人材と競争政策に関する検討会 報告書」第6の2*1、フリーランスガイドライン第4の3(11)*2
Q2. 秘密保持の条項だけでは足りませんか
- 答えの要点:まず秘密保持で守れるかを考えます。経産省のハンドブックは、競業避止義務契約を秘密保持義務をより実効的にするものと位置づけ、秘密保持契約と異なり、より直接的に職業選択の自由を制限するおそれがあるので、義務の範囲を合理的なものとすることが重要だとしています。
- 判断の根拠:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」第3章3-4(2)*3
- ハンドブックのこの記述は退職する従業員についてのものです。業務委託の相手にも、守りたい情報と制限の重さを並べて考える点は同じです。
Q3. 契約期間中に他社の仕事を受けることを禁止できますか
- 答えの要点:自社とだけ取引させる義務は、報告書では専属義務として扱われます。自社への仕事に専念させる目的や、育成にかけた費用を回収する目的のために合理的に必要な範囲なら、直ちに問題となるものではないとされています。必要な範囲を超えると、ほかの発注者が人を確保できなくなるなどの理由で問題となり得ます。
- 判断の根拠:公正取引委員会「人材と競争政策に関する検討会 報告書」第6の3*1、フリーランスガイドラインの用語の説明(脚注23)*2
競業避止は契約の終了後の制限、専属は契約期間中の制限です。どちらを望んでいるのかを先に分けておくと、条項の書き方が決まります。
期間・対象・地域・代償のQ&A
課すと決めたら、期間、対象の仕事と相手、地域、代償の4つを決めます。業務委託について数字の目安を示した一次情報は見当たらないため、ここでは従業員の退職後の制限について経産省が整理した判例の見方と、公取委が挙げた考慮要素を手がかりにします。4つの関係は次の図のとおりです。
Q4. 契約が終わった後の制限は何か月までなら認められますか
- 答えの要点:形式的に何年以内なら認められるという決まりはありません。経産省の資料は、退職した従業員の判例について、1年以内の期間は肯定的に捉えられている例が多く、近年は2年の期間を否定的に捉える判例が見られると整理しています。公取委の報告書は、義務の内容や期間が目的に照らして過大であるほど問題となりやすいとしています。
- 判断の根拠:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」参考資料5*3、公正取引委員会「人材と競争政策に関する検討会 報告書」第6の2
Q5. 制限する仕事と相手はどう絞りますか
- 答えの要点:経産省の資料によると、一般的・抽象的に競業企業への転職を禁じる規定は合理性が認められないことが多く、在職中に担当した業務や顧客に限る形は肯定的に捉えられることが多くなります。公取委の報告書も、規定が抽象的で発注者が広く解釈できる余地がある場合は問題が起こり得るとしています。
- 判断の根拠:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」参考資料5*3、公正取引委員会「人材と競争政策に関する検討会 報告書」第6の2
Q6. 地域も限定する必要がありますか
- 答えの要点:経産省の資料は、地理的な制限がないことだけで有効性が否定されているわけではないとし、会社の事業内容や禁止する行為の範囲との関係で判断されているとしています。
- 判断の根拠:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」参考資料5*3
- リモートで働くエンジニアは場所で絞りにくいので、地域よりも対象の仕事と相手で絞るほうが書きやすくなります。
Q7. 補償金のような代償は必要ですか
- 答えの要点:公取委の報告書は、不当に不利益を与えるものかどうかを、代償措置の有無とその水準も考慮して判断するとしています。ガイドラインも、補償金等の有無やその水準を勘案するとしています。経産省の資料は、従業員の判例で代償措置と呼べるものが何もない場合には有効性を否定されることが多いとしています。
- 判断の根拠:公正取引委員会「人材と競争政策に関する検討会 報告書」第6の2*1、フリーランスガイドライン第4の3(11)*2、経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」参考資料5
条項の書き方と避けたい設定のQ&A
最後に、契約書への書き方と、優越的地位の濫用(取引上強い立場にある側が相手に不当な不利益を与えること)に当たり得る設定を確かめます。

Q8. 条項はどのように書けばよいですか
- 答えの要点:経産省のハンドブックは、退職する従業員向けの誓約書の例として、期間、会社の許諾があれば外れること、担当した開発とこれに類する開発、競合他社から契約の形態を問わず受注・請負をしないこと、補償手当を並べています。業務委託契約に置き換えると、次の表の項目になります。
- 判断の根拠:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」参考資料2*3
| 条項 | 決めること | 書き方の例 | 発注側が確かめる点 |
|---|---|---|---|
| 目的 | 何を守るための制限か | 本業務で知り得た〇〇の開発に関する秘密情報とノウハウを守るため | 守るべき情報やノウハウが実際にあるか |
| 期間 | 契約の終了後いつまで制限するか | 本契約の終了後〇か月間 | 目的に照らして長すぎないか |
| 対象の仕事 | どの仕事を制限するか | 本業務で担当した〇〇の開発及びこれに類する開発 | 「競合他社の仕事すべて」のように抽象的にしていないか |
| 相手 | 誰から受ける仕事を制限するか | 甲の競合他社から、契約の形態を問わず受注し、または請け負うこと | 競合他社の範囲を〇〇事業などで示せるか |
| 地域 | 場所で絞る必要があるか | 必要な場合だけ〇〇地方などと書く | 事業の地域と仕事の中身に合っているか |
| 代償 | 制限の見返りに何を払うか | 甲は本条の対価として補償金〇〇円を支払う | 制限の重さに見合う水準か |
| 例外 | 制限を外す手続き | 甲の書面による承諾を得た場合はこの限りでない | 相談を受ける窓口と判断する人 |
Q9. どんな設定が優越的地位の濫用に当たり得ますか
- 答えの要点:取引上の地位が優越する発注者が、合理的に必要な範囲を超えて一方的に義務を課し、相手が今後の取引への影響を心配して受け入れざるを得ない場合です。ガイドラインは想定例として、実績の公表を必要以上に制限する秘密保持義務、報酬が著しく低いのに長期間専念させること、育成費用を回収し終えたのにその回収を理由に競業避止義務を課すことを挙げています。
- 判断の根拠:フリーランスガイドライン第4の3(11)*2、独占禁止法 第2条第9項第5号ハ*4
Q10. 相手への説明と合意で気をつけることはありますか
- 答えの要点:報告書は、義務の内容について実際と異なる説明をしたり、前もって十分に明らかにしないまま受け入れさせたりすると問題となり得るとしています。不当な不利益かどうかの判断でも、前もって十分な協議が行われたか、ほかの取引の相手と比べて差別的でないかが考慮されます。
- 判断の根拠:公正取引委員会「人材と競争政策に関する検討会 報告書」第6の2*1
- 条項は発注の前に見せ、取引条件を明示する書面に入れておきます。
ここまでの答えは、公表資料と条文から言えることに限っています。個別の契約の条項がどう扱われるかは、契約を結ぶ前に弁護士に確かめてください。
外部人材に頼むときに確認しておきたい点
競業避止の条項は、制限したい中身が決まらないと書けません。相談の前に、次の点を書き出しておくと話が早く進みます。
- 範囲:任せる開発の中身と、外部の人に見せる情報やノウハウ
- 期間:契約の期間と、終了後にも制限したい期間があるか
- 体制:社内で情報の管理を受け持つ人と、例外の相談を受ける窓口
- 費用の決まり方:報酬に制限の見返りを含めるか、補償金を別に払うか
- 引き継ぎ:契約の終わりに受け取る成果物と資料、相手のもとに残る情報の扱い
制限を最小限にして秘密保持と情報の渡し方で守るか、制限を付けたうえで見返りを払うかは、任せる仕事の深さで変わります。業務委託の人材やリモートで働く社員の候補も含めて比べるかは、任せたい開発の範囲と期間を書き出してから決めても遅くありません。
まとめ:業務委託の競業避止義務で確かめる点
業務委託の競業避止義務で確かめたい点は3つです。第一に、営業秘密などを守る目的に照らして合理的な範囲で課すなら、直ちに独占禁止法上の問題とはならないこと。まず秘密保持で守れるかを考え、契約中の制限(専属)と終了後の制限(競業避止)を分けます。第二に、期間・対象の仕事と相手・地域・代償の4つを、守りたい情報に合わせて具体的に決めること。抽象的に競合他社の仕事をすべて禁じる書き方は避けます。第三に、取引上優越する立場で一方的に必要以上の制限を課さず、発注の前に条項を示して十分に協議することです。
よくある質問
フリーランス法に競業避止義務の定めはありますか
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)の条文には、競業避止義務を直接定めた規定はありません。フリーランスガイドラインでは、独占禁止法の優越的地位の濫用の行為類型の一つとして整理されています。
社員に課す競業避止とはどう違いますか
公取委の報告書は、在職中の労働者には労働契約に付随する信義則上の義務として競業避止義務が認められるとしています。業務委託の相手には労働契約がないため、制限したい内容は契約の条項として示して合意しておくことが前提になります。
一人で会社を作っているエンジニアにも同じ考え方ですか
フリーランスガイドラインは、実店舗がなく雇人もいない自営業主や一人社長をフリーランスとしています。法人の形で契約していても、同じ考え方で範囲を確かめます。
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出典
- *1 参考:公正取引委員会 競争政策研究センター「人材と競争政策に関する検討会 報告書」(平成30年2月15日・PDF)(https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/180215jinzai01.pdf)。出典:第1の2(1)(検討対象)、第6の2(秘密保持義務及び競業避止義務)と脚注74、第6の3(専属義務)、第7の1を参照(確認日2026年10月28日)(2026年10月確認)
- *2 参考:内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「フリーランスガイドライン」(PDF)(https://www.mhlw.go.jp/content/001318001.pdf)。出典:令和3年3月26日(改定 令和8年1月1日)。第2の1(定義)、第4の2(書面の交付)、第4の3(11)合理的に必要な範囲を超えた秘密保持義務等の一方的な設定と脚注23・24を参照(確認日2026年10月28日)(2026年10月確認)
- *3 参考:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」(PDF)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf)。出典:平成28年2月(最終改訂 令和6年2月)。第3章3-4(2)b 競業避止義務契約の締結、参考資料2 秘密保持誓約書の例の(*2)、参考資料5 競業避止義務契約の有効性についてを参照(2026年9月19日取得の版で確認)(2026年10月確認)
- *4 参考:e-Gov法令検索「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(昭和22年法律第54号)(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000054)。出典:第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)を参照(確認日2026年10月28日)(2026年10月確認)