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中国のAI標識弁法、メタデータに印を入れる義務
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 施行は2025年9月1日:第14条が定めた日付です*1。
- 印は2種類ある:利用者に見える顕式標識と、メタデータに入れる隠式標識です*1。
- 配信側も判定する:隠式標識の有無と申告の別で、周辺に出す文言が変わります*1。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
AIで作ったコンテンツに、見える印と見えない印の両方を入れる。中国の規定は、そういう形をとっています*1。
2025年3月7日に国家インターネット情報弁公室、工業情報化部、公安部、国家ラジオテレビ総局が制定した「人工知能生成合成コンテンツ標識弁法」です*1。同月14日に通知(国信弁通字〔2025〕2号)として印刷配布され、2025年9月1日から施行されています*1。
中国向けにサービスを出している企業と、そうしたシステムを受託して作る立場に向けて、条文から読み取れる要件を整理します。制度の当てはめは事情によりますので、現地の専門家の確認を経て進めてください。
目次
誰が対象で、印は何種類あるのか
まず範囲です*1。
第2条は、「インターネット情報サービスアルゴリズム推薦管理規定」「インターネット情報サービス深度合成管理規定」「生成式人工知能サービス管理暫定弁法」の定める場合に該当するネット情報サービス提供者(以下「サービス提供者」)が生成合成コンテンツの標識活動を行う場合に、この弁法が適用されるとしています*1。
三つの既存規定を入り口にしている点が特徴です*1。この弁法だけを読んでも、自社が対象かどうかは決まりません*1。中国のAI規制の全体像は中国の生成AI規制で扱っていますので、あわせて確認しておくと位置づけが掴めます。
第3条が用語を定めています*1。人工知能生成合成コンテンツは、人工知能技術を用いて生成・合成したテキスト、画像、音声、動画、仮想シーンなどの情報です*1。
そして標識が二つに分かれます*1。
| 種類 | 条文の定義 | 実装のイメージ |
|---|---|---|
| 顕式標識 | 生成合成コンテンツまたはやり取りの画面に付加され、文字・音声・図形などの方式で示され、利用者が明らかに知覚できる標識 | 画面上の注記、冒頭のテロップ、読み上げの一言 |
| 隠式標識 | 技術的措置を用いて生成合成コンテンツのファイルデータに付加され、利用者が明らかには知覚しにくい標識 | ファイルのメタデータへの書き込み、電子透かし |
この二層構造は、カリフォルニアAI透明性法の「顕在的表示」と「潜在的表示」に対応する考え方です*1。名称も役割も似ています。
ただし違いもあります*1。カリフォルニアの規定は顕在的表示について「入れる選択肢を利用者に提供する」という書き方でしたが、中国の弁法は第4条で付加する要件を場面ごとに列挙しています*1。次の節で見ます。
顕式標識はどこに付けるのか
第4条が、顕式標識を付ける位置を媒体ごとに定めています*1。深度合成管理規定第17条第1項の場合に該当する生成合成サービスについて、次の要件に従って付加することとされています*1。
テキストは、冒頭、末尾、または中間の適切な位置に文字の提示や汎用の記号の提示などの標識を付加するか、やり取りの画面や文字の周辺に顕著な提示の標識を付加します*1。
音声は、冒頭、末尾、または中間の適切な位置に音声による提示や音声のリズムによる提示などの標識を付加するか、やり取りの画面に顕著な提示の標識を付加します*1。
画像は、適切な位置に顕著な提示の標識を付加します*1。
動画は、開始画面と再生の周辺の適切な位置に顕著な提示の標識を付加し、末尾と中間の適切な位置にも付加できるとされています*1。
仮想シーンを提示する場合は、開始画面の適切な位置に顕著な提示の標識を付加し、サービス継続中の適切な位置にも付加できるとされています*1。
その他の生成合成サービスの場面については、自らの用途の特徴に応じて顕著な提示の標識を付加するとされています*1。
そして第4条の後段が、実装で見落とされやすい部分です*1。サービス提供者がダウンロード、複製、書き出しなどの機能を提供する場合、ファイルの中に要件を満たす顕式標識が含まれることを確保しなければならないとされています*1。
画面に注記を出しているだけでは足りません*1。書き出したファイルそのものに印が残る形が求められます*1。画像であれば焼き込み、動画であればフレームへの合成といった実装になります。
隠式標識は第5条です*1。深度合成管理規定第16条の定めに従い、生成合成コンテンツのファイルのメタデータに隠式標識を加えることとされています*1。含める内容は、生成合成コンテンツの属性情報、サービス提供者の名称または符号、コンテンツ番号などの制作要素情報です*1。
あわせて、デジタル透かしなどの形式の隠式標識をコンテンツに加えることが奨励されています*1。義務ではなく奨励という書き方です*1。
メタデータの意味も条文が定めています*1。特定の符号化形式に従ってファイルのヘッダ部分に埋め込まれる記述的情報であって、ファイルの出所、属性、用途などの情報を記録するために用いられるものです*1。
配信する側の三段階の判定
作る側だけでなく、流す側にも義務があります*1。第6条です*1。
ネット情報コンテンツの伝播サービスを提供するサービス提供者は、生成合成コンテンツの伝播活動を規範するため、次の措置をとることとされています*1。
第一に、メタデータに隠式標識が含まれているかを検証することです*1。メタデータが生成合成コンテンツであると明確に示している場合、適切な方式で公開されるコンテンツの周辺に顕著な提示の標識を付加し、当該コンテンツが生成合成コンテンツであることを公衆に明確に注意喚起するとされています*1。
第二に、メタデータから隠式標識が検証されなかったが、利用者が生成合成コンテンツであると申告した場合です*1。この場合は、適切な方式で周辺に顕著な提示の標識を付加し、当該コンテンツが生成合成コンテンツである可能性があることを公衆に注意喚起するとされています*1。
第三に、隠式標識が検証されず、利用者の申告もないが、伝播サービスの提供者が顕式標識その他の生成合成の痕跡を検出した場合です*1。この場合は生成合成コンテンツの疑いがあるものとして識別し、適切な方式で周辺に顕著な提示の標識を付加して、当該コンテンツが生成合成コンテンツの疑いがあることを公衆に注意喚起するとされています*1。
三段階で文言が変わるという設計です*1。「である」「可能性がある」「疑いがある」*1。UIの文言を三通り用意することになります*1。
第四に、必要な標識の機能を提供し、公開するコンテンツに生成合成コンテンツが含まれるかを利用者が自ら申告するよう促すこととされています*1。
そして、前記の第一から第三の場合には、メタデータに生成合成コンテンツの属性情報、伝播プラットフォームの名称または符号、コンテンツ番号などの伝播要素情報を加えることとされています*1。
作る側が入れる「制作要素情報」と、流す側が入れる「伝播要素情報」*1。メタデータに二段で情報が積まれる構造です*1。既存の画像処理でメタデータを落としている経路があると、この積み上げが途切れます。
アプリの配布についても規定があります*1。第7条は、インターネットアプリケーションの配布プラットフォームが、アプリの公開または掲載の審査の際に、アプリのサービス提供者に対して人工知能生成合成サービスを提供するかを説明させることとしています*1。提供する場合、配布プラットフォームはその生成合成コンテンツ標識に関する資料を検証するとされています*1。
ストアの審査で問われる項目になるということです*1。中国向けにアプリを出す場合、審査の準備物として標識の資料を用意しておく必要があります*1。
利用者との取り決めと、6か月のログ
利用者との関係も条文が扱っています*1。
第8条は、サービス提供者が利用者サービス協議(利用規約)の中で、生成合成コンテンツ標識の方法や様式などの規範の内容を明確に説明し、標識管理の要求を注意深く読んで理解するよう利用者に促すこととしています*1。
そして第9条が、実務でもっとも重い規定です*1。
利用者が、顕式標識を付加していない生成合成コンテンツの提供をサービス提供者に申請した場合、サービス提供者は利用規約により利用者の標識義務と使用責任を明確にしたうえで、顕式標識を含まない生成合成コンテンツを提供することができるとされています*1。
そして、その場合は法に従って提供対象の情報などの関連するログを6か月以上保存することとされています*1。
「見える印なし」で出すことは可能だが、誰に出したかを6か月以上残すという交換条件になっています*1。透かしを外すオプションを製品に持たせる場合、ログ設計が同時に必要になります*1。
利用者側の義務も置かれています*1。第10条は、利用者がネット情報コンテンツの伝播サービスを使って生成合成コンテンツを公開する場合、自ら申告し、サービス提供者が提供する標識の機能を用いて標識を行うこととしています*1。
そして禁止です*1。いかなる組織および個人も、この弁法が定める生成合成コンテンツ標識を悪意をもって削除、改ざん、偽造、隠匿してはならないとされ、他人がそうした悪意ある行為を行うためのツールやサービスを提供してはならないとされ、不正な標識の手段によって他人の合法的な権益を害してはならないとされています*1。
ツールの提供も禁じられている点は、開発する立場として押さえておく価値があります*1。透かし除去の機能を作ること自体が射程に入りえます*1。
その他の規定も見ておきます*1。第11条は、標識活動を行う際に、関連する法律、行政法規、部門規則、そして強制性国家標準の要求に適合することも求めています*1。技術的な細目は国家標準に委ねられる建て付けです*1。
第12条は、サービス提供者がアルゴリズムの届出や安全評価などの手続を履行する際に、この弁法に従って生成合成コンテンツ標識に関する資料を提供し、標識情報の共有を強化して、関連する違法犯罪活動の防止と取締りに支持と協力を提供することとしています*1。
第13条は、この弁法の規定に違反した場合、ネット情報、電気通信、公安、ラジオテレビなどの関係主管部門が職責に応じ、関連する法律、行政法規、部門規則の規定に従って処理するとしています*1。この弁法自体には過料の額が書かれていません*1。処分の内容は上位の法令に委ねられています*1。
着手の順序と、受託で進めるときの要点
順序をつけます。
第一に、入り口の三規定の確認です。この弁法の対象は、アルゴリズム推薦規定・深度合成規定・生成式AIサービス管理暫定弁法の定める場合に該当するサービス提供者です*1。自社がどの規定の下に位置づけられるかを先に整理します*1。
第二に、書き出しファイルの確認です。ダウンロードや複製、書き出しの機能を提供する場合、ファイルに顕式標識が含まれることを確保するとされています*1。画面表示だけで済ませていないかを見ます*1。
第三に、メタデータの経路の点検です。制作要素情報と伝播要素情報の二段で積まれます*1。リサイズや最適化の処理でメタデータが落ちていないか、配信までの経路を追う必要があります*1。
第四に、三通りの文言の用意です。「である」「可能性がある」「疑いがある」*1。配信側の立場なら、三つの表示を作ることになります*1。
第五に、6か月ログの設計です。顕式標識なしの提供を機能として持つなら、提供対象の情報などのログを6か月以上保存します*1。保存先と削除方針を先に決めておくことです*1。
受託で進める場合の要点も挙げます。
利用規約の文面を成果物に含めることです。第8条は標識の方法や様式を利用規約で説明することを求め、第9条は顕式標識なしの提供にあたって利用規約で利用者の義務と責任を明確にすることを求めています*1。実装だけ納めても、条文の要求は満たせません*1。
アプリ審査の準備物を先に揃えることです。配布プラットフォームが標識に関する資料を検証するとされています*1。審査で止まると、リリースの計画がずれます*1。
国家標準の更新を追う担当を決めることです。第11条が強制性国家標準への適合を求めています*1。標準が更新されれば実装も変わります*1。誰が確認するかを決めておかないと、気づかないうちに外れます。
他の法域と項目を揃えることです。カリフォルニアAI透明性法も二層の表示を求めますが、含める項目や配布側の義務が違います。EU AI規則への対応も透明性の要求を持ちます。同じ「印を入れる」でも中身が違うので、共通の台帳を先に決めておくと管理が楽です。
体制としては、生成の実装を知る人と、中国向けの運用と規約を知る人が同じ場にいるかが分かれ目になります。標識は技術だけの話ではなく、規約とログと審査資料が一体で求められます。実装と運用を通して見られる進め方ができる委託先かどうかを、選定の観点に入れておくとよいでしょう。
まとめ:AI標識弁法で押さえる3つの視点
中国の人工知能生成合成コンテンツ標識弁法は、2025年3月7日に国家インターネット情報弁公室、工業情報化部、公安部、国家ラジオテレビ総局が制定し、第14条により2025年9月1日から施行されています。押さえたい視点は三つです。第一に、二層の標識。利用者が明らかに知覚できる顕式標識と、技術的措置によりファイルデータに付加され知覚しにくい隠式標識に分かれます。顕式標識はテキスト・音声・画像・動画・仮想シーンごとに付ける位置が示され、ダウンロードや複製、書き出しの機能ではファイルに含めることが求められます。隠式標識はメタデータに生成合成の属性情報、提供者の名称または符号、コンテンツ番号などの制作要素情報として加え、デジタル透かしの追加が奨励されています。第二に、配信側の三段階。隠式標識が確認できれば「生成合成である」、確認できないが利用者の申告があれば「可能性がある」、申告もないが痕跡を検出すれば「疑いがある」と、周辺に出す文言が変わります。あわせて伝播要素情報をメタデータに加えます。第三に、規約とログ。標識の方法や様式を利用規約で説明し、顕式標識なしの提供を行う場合は利用者の義務と責任を規約で明確にしたうえで、提供対象の情報などのログを6か月以上保存します。標識の悪意ある削除・改ざん・偽造・隠匿と、そのためのツールやサービスの提供は禁じられています。
よくある質問
中国のAI標識弁法はいつから施行されていますか。
第14条は、この弁法が2025年9月1日から施行されると定めています。2025年3月7日に国家インターネット情報弁公室、工業情報化部、公安部、国家ラジオテレビ総局が制定し、同月14日に通知(国信弁通字〔2025〕2号)として印刷配布されました。
顕式標識と隠式標識の違いは何ですか。
第3条は、顕式標識を、生成合成コンテンツまたはやり取りの画面に付加され、文字・音声・図形などの方式で示され、利用者が明らかに知覚できる標識としています。隠式標識は、技術的措置を用いて生成合成コンテンツのファイルデータに付加され、利用者が明らかには知覚しにくい標識とされています。
画面に表示するだけでは足りませんか。
第4条の後段は、サービス提供者が生成合成コンテンツのダウンロード、複製、書き出しなどの機能を提供する場合、ファイルの中に要件を満たす顕式標識が含まれることを確保しなければならないとしています。画面上の表示だけでは、この要求を満たしません。
透かしなしで出力する機能は持てますか。
第9条は、利用者が顕式標識を付加していない生成合成コンテンツの提供を申請した場合、サービス提供者は利用規約により利用者の標識義務と使用責任を明確にしたうえで、顕式標識を含まないコンテンツを提供することができるとしています。その場合、法に従って提供対象の情報などの関連するログを6か月以上保存することとされています。
違反した場合の過料はいくらですか。
この弁法自体に金額は書かれていません。第13条は、この弁法の規定に違反した場合、ネット情報、電気通信、公安、ラジオテレビなどの関係主管部門が職責に応じ、関連する法律、行政法規、部門規則の規定に従って処理するとしています。処分の内容は上位の法令に委ねられているため、個別の確認が必要です。
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出典
- *1 参考:中央网络安全和信息化委员会办公室(国家インターネット情報弁公室)「关于印发《人工智能生成合成内容标识办法》的通知(国信办通字〔2025〕2号)」(https://www.cac.gov.cn/2025-03/14/c_1743654684782215.htm)。国家インターネット情報弁公室・工業情報化部・公安部・国家ラジオテレビ総局が2025年3月7日に制定し2025年3月14日に印刷配布したこと、第1条(制定の根拠となるサイバーセキュリティ法・アルゴリズム推薦管理規定・深度合成管理規定・生成式人工知能サービス管理暫定弁法)、第2条(適用対象となるサービス提供者)、第3条(生成合成コンテンツの定義、顕式標識と隠式標識の定義)、第4条(媒体ごとの顕式標識の付加要件=テキスト・音声・画像・動画・仮想シーン・その他、およびダウンロード・複製・書き出し機能におけるファイルへの顕式標識の確保)、第5条(メタデータへの隠式標識と制作要素情報、デジタル透かしの奨励、メタデータの定義)、第6条(伝播サービス提供者の三段階の判定と注意喚起、標識機能の提供と自主申告の促し、伝播要素情報の追加)、第7条(アプリ配布プラットフォームによる説明の要求と標識資料の検証)、第8条(利用規約での標識の方法・様式の説明)、第9条(顕式標識なしの提供の条件と提供対象情報などのログの6か月以上の保存)、第10条(利用者の自主申告と標識機能の利用、標識の悪意ある削除・改ざん・偽造・隠匿およびそのためのツールやサービスの提供の禁止)、第11条(強制性国家標準への適合)、第12条(アルゴリズム届出・安全評価における資料提供と情報共有)、第13条(関係主管部門による処理)、第14条(2025年9月1日からの施行)の一次情報として(2026年8月確認)