LASSIC Media らしくメディア

2026.08.27 らしくコラム

EU強制労働産品規則、調達先を追えないリスク




監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論

  • 適用は2027年12月14日:その日から、強制労働で作られた製品はEU市場で販売も輸出もできません*1*2。
  • 対象に例外がない:全セクター・全原産地の製品が対象です。品目や国で切り分ける発想は通じません*1。
  • システムの勘どころ:調達先を「どこの、どの産業か」で引けるか。リスクデータベースとの照合がここで決まります*1。

※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。

サプライチェーンの奥が見えているか、という問いが規制になりました。EUの強制労働産品規則(規則(EU) 2024/3015)は2024年11月19日に採択され、2027年12月14日から、強制労働で作られた製品はEU市場で販売することも、EU市場から輸出することもできなくなります*1*2。

特徴は範囲の広さです。対象は全セクター・全原産地の製品で、品目や相手国による切り分けがありません*1。欧州委員会と加盟国が疑いのある事案を調査し、強制労働が確認された場合、その製品はEU市場から締め出されます*2。

本記事は、EU向けに製品を出す企業の調達・情報システムの担当と、その仕組みを受託する立場に向けて、いま何が用意され、どのデータを持っておく必要があるのかを整理します。制度の解釈が必要な部分は、公式資料と現地の専門家への確認を経て進めてください。

コンテナが積み上がった港湾のターミナルを上空から見た様子。ガントリークレーンが並んでいる

一つのルールと、その広さ

まず規制の形です。この規制は、要件を細かく積み上げる型ではありません*2。

EUの強制労働産品規則では2027年12月14日から強制労働で作られた製品をEU市場で販売も輸出もできなくなり対象が全セクター・全原産地であること、そして準備の節目が2024年11月19日の採択、2026年6月30日の準備パッケージとシングルポータルの立ち上げおよびガイドラインとリスクデータベースの提供、2027年12月14日の適用開始と単一の情報提出窓口の運用開始の三つであることを整理した図

ファクトシートの言い方が端的です。強制労働産品規則は一つの明確なルールを定める——2027年12月14日から、強制労働で作られた製品はEU市場で販売することも、EU市場から輸出することもできない、というものです*2。欧州委員会と加盟国が疑いのある事案を調査し、強制労働が確認された場合には、その製品はEU市場から禁止されます*2。

対象の広さも明記されています。すべてのサプライチェーン、すべての製品にわたって適用され、全セクター・全原産地の製品が対象です*1*2。EU域内で作られたか域外で作られたかによる区別もありません*2。

狙いも三つ挙げられています。高い労働基準に基づく公正な競争を促すこと、強靭で責任あるサプライチェーンを強化すること、そして基本的人権と人間の尊厳を守ることです*2。市場からの締め出しという手段で、競争条件をそろえにいくという組み立てだと読めます。

この設計が意味するのは、「うちの品目は対象外だ」という逃げ道がないということです。適合すべき技術要件のリストがあるわけでもありません。問われるのは、自社の製品が強制労働と結びついていないかを、調査の場で説明できるかどうかです。企業サステナビリティ・デューディリジェンスで扱う枠組みとは、効き方が違います。

準備期間は、もう始まっている

適用は2027年ですが、準備の道具立ては2026年に出そろいました*1*2。

時間割は三つの節目で整理できます。2024年11月19日に規則が採択され、所管当局の指定、実施ガイドラインとリスクデータベースの公表、各国の罰則制度の整備といった一部の規定が先に動き出しました*1。そして2026年6月30日に準備パッケージとシングルポータルが立ち上がり、すべての関係者にとっての実施の準備期間が始まりました*1。同じ時点で、EUのガイドラインとリスクデータベースが利用できるようになっています*1。

シングルポータルは、実施を理解し、備えるための中心の入口という位置づけです*2。そこに置かれるものとして、実務でルールがどう働くかについてのガイドライン、所管当局の暫定リスト、中小企業に焦点を当てた支援資料、そしてリスクデータベースを含む追加のツールが挙げられています*2。

中小企業への手当ても用意されました。専用の支援が使えるとされ、「Anti Forced Labour Preparedness Checklist」というチェックリストが提供されています*1。

準備の期間が実質1年半しかないという読み方もできます。ファクトシートは「備える時は今です」と書きました*2。調達データの整備は、仕組みを作ってから運用が回るまでに時間がかかる領域です。

リスクデータベース——「どこの、どの産業か」で引く

実装の観点でもっとも具体的なのが、このデータベースです*1。

リスクデータベースは、準備パッケージの一部として2026年6月30日から使えるようになりました*1。ガイドラインと並んで、事業者が備えるための道具として位置づけられています*1*2。

ここから逆算すると、自社側に要るものが見えてきます。データベースが「地域と産業」の軸で危険な組み合わせを示すのであれば、自社の調達先も同じ軸で引けなければ照合できません。取引先の名称と口座情報しか持っていない購買データでは、突き合わせが手作業になります。

持っておきたい属性は三つに整理できます。第一に、所在地です。本社の登記地ではなく、実際に製造や加工が行われる場所が要ります。第二に、産業の区分です。自社の中の呼び名ではなく、外部の区分と突き合わせられるコード体系で持ちます。第三に、階層です。直接の取引先だけでなく、その先の供給元まで届く構造が要ります。

この三つは、他の規制でも同じ形で問われています。森林破壊防止規則への対応では原産地の位置情報が、サプライチェーンの管理では取引先の階層が論点になります。マスタデータの管理で扱う、コード体系を外部と揃える考え方が土台になります。

シングルポータルの四点を、どう使うか

準備パッケージに並ぶものは四つです。それぞれ使い道が違います*2。

実務でルールがどう働くかのガイドライン。これは社内の手順に落とすたたき台になります*2。調達の受入れ手順や取引先の審査基準を、どこまで書き換えるかの判断材料です。適用まで時間があるうちに読み込み、既存の手順との差分を出しておくと、後の作業が軽くなります。

所管当局の暫定リスト。調査を担う相手が国ごとに分かれるため、自社の出荷先ごとに窓口が変わります*2。複数の加盟国へ出している場合、問い合わせや説明の相手が一つではないという前提で体制を考えます。

中小企業に焦点を当てた支援資料。専用の支援が用意され、備えの度合いを点検するチェックリストが提供されています*1*2。自社が大企業でも、供給元の多くは中小です。相手にこの資料を渡せるようにしておくと、情報の依頼が通りやすくなります。

リスクデータベースを含む追加のツール。照合の相手になるデータです*2。前の節で述べたとおり、自社の調達データが同じ軸で引けるかどうかが、この道具を使えるかどうかを決めます。

四点を並べると、この規制が「事業者に自分で調べさせる」設計になっていることが見えます。当局が個別に指示を出すのではなく、道具を配って各社が備える形です。裏を返せば、備えの度合いがそのまま調査時の応答力の差になります。

通報の入口と、調査に備える記録

執行の側の仕組みも用意されます*1。

単一の情報提出窓口(Single Information Submission Point)が2027年12月14日から使えるようになり、強制労働の疑いのある事案を報告できるようになります*1。加えて、協力・情報交換・監視を支える枠組みとして、強制労働産品に対する連合ネットワーク(Union Network Against Forced Labour Products)が位置づけられています*1。

つまり、調査のきっかけが外から来るという構造です。自社が把握していない情報が窓口に届き、そこから調べが始まる可能性があります。この前提に立つと、備えの意味が変わります。

備えとして役に立つのは、「聞かれたときに、その時点で何を知っていたかを示せる記録」です。いつ、どの供給元から、どの部材を、どういう確認をして受け入れたか。確認の結果だけでなく、確認した時点と根拠を残しておくと、後から説明できます。

記録の粒度も論点になります。強制労働の現れ方として挙げられているのは、暴力・脅迫・威圧、債務の操作や賃金の留保、劣悪な労働条件、移動の制限や隔離、そして欺瞞と強制的な採用です*2。いずれも、納品物の検査では見えません。製品の品質記録だけを持っていても、この問いには答えられないということです。取引先に対して何を確認し、その回答をどこに残したか。そこまで含めて記録の対象になります。

逆に弱いのが、現在の状態だけを持つ設計です。取引先マスタを上書きで更新していると、過去のある時点でどの供給元から仕入れていたかを再現できません。貿易管理の仕組みで扱う出荷単位の記録と、調達側の記録がつながっているかも確認しておきたいところです。

なぜ全産業が対象なのか——規模の話

範囲の広さの背景には、問題の規模があります*2。

表1:ファクトシートが引用する強制労働の規模(出典はILO・Walk Free・IOMおよびILO)
項目 数値
世界で強制労働の状態にある人 2,760万人(うち女性1,180万人、子ども330万人)*2
民間部門で搾取されている人 1,730万人。国家が課す強制労働は390万人*2
地域別(アジア太平洋) 1,510万人。アフリカも1,510万人、欧州・中央アジア410万人、米州360万人、アラブ諸国90万人*2
強制労働で作られた製品による年間の違法な利益 404億米ドル(産業354億米ドル、農業50億米ドル)*2

数字の出典は、ファクトシートに明記されています。人数はILO・Walk Free・国際移住機関(IOM)による2022年の推計、利益の額はILOの2024年の報告によるものです*2。

強制労働の現れ方も列挙されています。暴力・脅迫・威圧、債務の操作や賃金の留保、劣悪な労働条件、移動の制限や隔離(書類の取り上げを含む)、そして欺瞞と強制的な採用です*2。これらは工程の外形からは見えにくいという点が、規制の作り方に影響しています。

そして、強制労働で作られた製品はEUを含む世界の市場に届いている、というのがこの規制の出発点です*2。狙いとして掲げられているのは、高い労働基準に基づく公正な競争の促進、強靭で責任あるサプライチェーンの強化、そして基本的人権と人間の尊厳の保護です*2。外国人材の雇用管理で扱う論点とも、地続きの話です。

受託・システム側で押さえる要点

着手の順序を挙げます。データの整備には時間がかかるため、棚卸しから入るのが現実的です。

第一に、調達先の所在地を製造の場所で持つことです。リスクデータベースは地域と産業の組み合わせを示す道具です*1。本社の住所しか持っていないと、照合の意味が薄れます。

第二に、産業の区分を外部の体系で持つことです。自社の分類と外部の区分が対応づかないと、機械的な突き合わせができません。

第三に、階層を持つことです。直接の取引先の先まで届かないと、サプライチェーン全体を対象とする規制には応えられません*2。

第四に、時点を持つことです。調査は過去の取引について行われます。上書き更新の設計では、当時の状態を再現できません。

第五に、取引先から情報を集める経路を用意することです。所在地も産業区分も、社内の購買データだけでは埋まりません。相手に入力してもらう窓口と、その回答を取引先マスタへ取り込む流れが要ります。一度きりの調査票ではなく、更新され続ける仕組みとして作れるかが分かれ目になります。

受託で進める場合の要点も挙げておきます。

判定を自社システムに閉じ込めないことです。強制労働の有無は、最終的には所管当局の調査で判断されます*2。開発側が判定ロジックを作り込むより、確認した事実と時点を記録できる作りのほうが実用的でしょう。

中小の取引先の負担を見込むことです。規制の側でも中小企業向けの支援資料が用意されています*1。情報の提出を求める仕組みを作るときは、相手が入力できる形かどうかが実装の成否を分けます。

他のEU規制と土台を共有することです。玩具の規則森林破壊防止規則と同じく、求められているのは供給網のデータを構造化して持つことです。規制ごとに別の台帳を作ると、同じ情報を何度も集めることになります。

体制としては、調達の実務と情報システムの設計の両方を追える要員が入れるかが分かれ目です。取引先の階層、部材の来歴、確認の記録。これらは仕様書の項目名だけを見ていても判断できません。適用まで時間があるうちに、いま持っているデータで何が引けて何が引けないのかを確かめておきたいところです。

まとめ:強制労働産品規則で押さえる3つの視点

EUの強制労働産品規則(規則(EU) 2024/3015)は2024年11月19日に採択され、2027年12月14日から、強制労働で作られた製品はEU市場で販売することも輸出することもできなくなります。押さえたい視点は三つあります。第一に、対象の広さです。全セクター・全原産地の製品が対象で、すべてのサプライチェーン、すべての製品にわたって適用されます。品目や相手国による切り分けはありません。第二に、準備の道具立てがすでに出ていることです。2026年6月30日に準備パッケージとシングルポータルが立ち上がり、EUのガイドラインとリスクデータベース、所管当局の暫定リスト、中小企業向けの支援資料が使えるようになりました。強制労働の疑いを報告する単一の情報提出窓口は2027年12月14日から使えます。第三に、調査のきっかけが外から来ることです。窓口に届いた情報から調べが始まる可能性があるため、聞かれたときにその時点で何を知っていたかを示せる記録が要ります。システム側の備えとしては、調達先の所在地を製造の場所で持つこと、産業の区分を外部の体系で持つこと、取引先の階層と時点を持つことから着手するのが堅実でしょう。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)として、調達や取引先の情報を扱う業務システムの開発と改修を受託しています。製造の場所まで持つ取引先マスタ、外部の区分と対応づく産業コードの設計、直接取引の先まで届く階層の構造、上書きではなく時点で残す記録まで、供給網を説明できる形をご提案できるのが強みです。

よくある質問

強制労働産品規則はいつから適用されますか。

規則(EU) 2024/3015は2024年11月19日に採択され、2027年12月14日から適用されます。その日から、強制労働で作られた製品はEU市場で販売することも、EU市場から輸出することもできません。所管当局の指定、実施ガイドラインとリスクデータベースの公表、各国の罰則制度の整備といった一部の規定は、それより前に動き出しています。

どんな製品が対象になりますか。

全セクター・全原産地の製品です。すべてのサプライチェーン、すべての製品にわたって適用され、EU域内で作られたか域外で作られたかによる区別もありません。品目や相手国による切り分けがないため、対象外だと判断できる範囲は基本的にありません。

いま何が使えるようになっていますか。

2026年6月30日に準備パッケージとシングルポータルが立ち上がり、すべての関係者にとっての実施の準備期間が始まりました。同じ時点でEUのガイドラインとリスクデータベースが利用できるようになっています。ポータルには、実務でルールがどう働くかのガイドライン、所管当局の暫定リスト、中小企業に焦点を当てた支援資料も置かれています。

疑いのある事案はどう扱われますか。

欧州委員会と加盟国が調査し、強制労働が確認された場合、その製品はEU市場から禁止されます。強制労働の疑いのある事案を報告するための単一の情報提出窓口は2027年12月14日から使えるようになります。また、協力・情報交換・監視を支える枠組みとして、強制労働産品に対する連合ネットワークが位置づけられています。

システム側では何から準備すべきですか。

調達データの棚卸しからです。リスクデータベースが地域と産業の組み合わせを示す道具である以上、自社の調達先も同じ軸で引けなければ照合できません。製造が行われる場所としての所在地、外部の体系と対応づく産業の区分、直接の取引先の先まで届く階層、そして上書きではなく時点で残る記録。この四つが揃っているかを確かめるところから始めます。

調達データと供給網の可視化はLASSICへ

元請(プライムベンダー)として、取引先マスタの整備から産業コードの対応づけ、階層と時点を持つ記録の設計までご提案します。まずはお気軽にご相談ください。

無料相談はこちら

出典

  1. *1 参考:欧州委員会「Forced Labour Regulation」(Internal Market, Industry, Entrepreneurship and SMEs)(https://single-market-economy.ec.europa.eu/single-market/goods/forced-labour-regulation_en)。規則の採択日と2027年12月14日の適用開始、先行して適用される規定、2026年6月30日の準備パッケージとシングルポータルの立ち上げ、ガイドラインとリスクデータベースの提供、単一の情報提出窓口と連合ネットワーク、中小企業向けチェックリストの一次情報として(2026年8月確認)
  2. *2 参考:欧州委員会「The EU Forced Labour Regulation — What You Need to Know」(ファクトシート、2026年)(https://single-market-economy.ec.europa.eu/document/download/56190160-4acb-45a6-82c2-9895a7e1a858_en?filename=Forced+Labour+Factsheet_Final.pdf)。一つの明確なルールという規制の骨格、調査と市場からの禁止、全サプライチェーン・全製品という範囲、シングルポータルに置かれるもの、規制の狙い、強制労働の現れ方とILO等による規模の推計の一次情報として(2026年8月確認)




View