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エンジニアの属人化と退職|辞める前に残させる情報と引き継ぎの手順
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論
- 担当エンジニアの退職が決まったら、最初に引き継ぎに使える出勤日の数を確かめ、その日数で残させる情報の優先順位を決めます。
- 残させる情報は、動かし方、システムの在り処、障害時の見方、作りの経緯、権限の5つに分け、後任が手順書だけで動かせるかで確かめます。
- 引き継ぎ期間に重ねる人は辞める人が出勤している間に決め、社内に重ねられる人がいなければ外部の人材を並走させる手もあります。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
担当のエンジニアが来月で辞めることになった。しかも、そのシステムの動かし方と直し方を知っているのは、その人だけだった——。小さな開発チームや情報システム部門では、こうした場面が起こりがちです。エンジニアの属人化とは、システムの動かし方や直し方、作られた経緯といった仕事の知識が、会社の記録ではなく特定の人の頭の中にだけある状態を指します。
退職が決まってからの限られた期間では、全てを書き残すことはできません。本記事では、IT部門の責任者や開発マネージャーに向けて、退職までの期間の考え方、辞める前に残させる情報の種類、引き継ぎ期間に誰を重ねるか、外部の人材を並走させるときの確認点を整理します。
目次
属人化したエンジニアの退職とは
属人化したシステムでは、担当者が辞めた日から困りごとが2つ同時に起こります。1つは、いつもの運用が止まることです。月末の集計処理や定期のバックアップなど、その人が手で動かしていた作業が誰にも分かりません。もう1つは、障害が起きたときに直せないことです。どこを見ればよいかも、前に同じことが起きたときにどうしたかも、記録に残っていません。

JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の「企業IT動向調査報告書2026」は、IT部門を持つ企業954社に、担当業務ごとの人材の課題を尋ねています。主な課題を人材の流出(高齢化を含む)とした企業の割合が最も高かったのは、運用管理・運用担当の13.5%でした。次いでインフラ・ネットワーク担当が12.5%、上流工程担当が11.6%です。*1
属人化している知識は、大きく3つに分けられます。
- 動かし方:定期の作業や、止まったときの再起動の手順
- 直し方:障害の見分け方と、過去に直したときの記録
- 経緯:なぜ今の作りにしたのか、触ってはいけない箇所はどこか
この3つのうち、辞める人でないと用意できないのは、特に3つ目の経緯です。手順は後任が見ながら書けますが、経緯は本人に聞けるうちにしか聞けません。
退職の申入れから退職日までの期間
民法第627条は、雇用の期間を定めていないときは、各当事者がいつでも解約の申入れをでき、雇用は申入れの日から2週間を経過することによって終了すると定めています。*2
実際の退職日は、就業規則や雇用契約の定め、本人との話し合いで決まります。申出の期限を1か月前などと就業規則で決めている会社もあります。まずは自社の就業規則を見て、辞める人の最終出社日と、有給休暇の残りを確かめます。
ここで先に決めたいのは、引き継ぎに使える出勤日の数です。出勤日が10日なのか40日なのかで、残させる情報も重ねる人も変わります。
| 使える出勤日 | 優先して残させるもの | 重ねる人の考え方 |
|---|---|---|
| 10日未満 | 定期の作業の手順、システムの在り処、障害時に最初に見る場所 | 社内の誰か1人を決め、その人が毎日辞める人の隣で作業を見る |
| 10日から30日 | 上の3つに加えて、過去の障害の直し方、権限の切り替え | 後任が手順書だけで定期の作業を1回動かすところまで進める |
| 30日以上 | 上の全てに加えて、作りの経緯の聞き取り | 辞める人の最終出社日まで、外部の人材や後任に並走してもらう |
退職前に残させる情報の種類
残させる情報は、後任が使う場面から逆に決めます。後任が最初の1か月で困るのは、決まった作業を動かす場面、障害に対応する場面、引き継いだあとに仕様を変える場面の3つです。それぞれに必要な情報を、次の表の5つに分けます。
| 情報 | 具体例 | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 定期の作業の手順 | 月次の集計、バックアップ、証明書の更新など日付で決まる作業 | 後任が手順書だけで1回動かす |
| システムの在り処 | サーバー、ソースコードの保管場所、契約しているサービス、取引先の連絡先 | 一覧と実物を照らし合わせる |
| 障害時の見方 | 最初に見る画面、過去に起きた障害と直し方 | 辞める人が過去の障害を1件、実演して説明する |
| 作りの経緯 | 今の作りにした理由、触ると壊れやすい箇所、見送った案 | 後任が質問し、その答えを記録に書き足す |
| 権限と鍵 | 管理者のアカウント、パスワードの保管場所 | 退職日までに後任のアカウントへ切り替える |
表の5つのうち、1つ目と2つ目は文書にしやすい情報です。3つ目と4つ目は本人の頭の中にしかないので、聞き取りの時間を先に押さえます。
確かめ方は、辞める人が説明して終わりにしないことがこつです。後任が手順書を見ながら自分で動かし、つまずいた箇所を直すと、書いた本人には当たり前で抜けていた手順が見つかります。アカウントの切り替えと資料の渡し方は、辞める社員が管理者のまま|外部人材活用で進める退職の引き継ぎで順番を整理しています。
引き継ぎ期間に誰を重ねるか
辞める人の作業は、本人が出勤している間に誰かが隣で見ていないと、記録だけでは受け取れない部分が残ります。重ねる人の候補は、社内の別の人、業務委託の外部エンジニア、採用する後任の3つです。

| 候補 | 向く場面 | 先に確かめる点 |
|---|---|---|
| 社内の別の人 | 同じ言語や構成のシステムを触った経験がある人がいる | 通常の業務に加えての負担になり、引き継ぎが後回しにならないか |
| 業務委託の外部エンジニア | 社内に重ねられる人がいない。辞める日までの期間が短い | 契約、権限、秘密保持を先に整え、辞める人の出勤日に重なる日程にできるか |
| 採用する後任 | 長く任せたい。社内で育てたい | 入社までの期間が辞める日に間に合わない場合に備え、つなぎの人が要らないか |
JUASの調査には、プロジェクトマネジメントや上流工程の担当の育成について自由回答で尋ねた結果があります。その中で、社内で指導できる人材を確保することが難しい企業が、外部人材と仕事を並走するなどの工夫をしている例が報告されています。*1 退職の引き継ぎを尋ねた設問ではありません。
どの候補でも、重ねる人は辞める人が出勤している間に決めます。辞めたあとに探し始めると、質問できる相手がもういません。後任の採用を並行して進めるなら、日程の組み方を欠員の後任採用の進め方で、選べる手段をエンジニア中途採用だけに頼らない欠員補充、9つの選択肢で扱っています。
外部に委託するときに確認しておきたい点
引き継ぎ期間に外部のエンジニアを並走させるときは、頼む前に次の点を確かめます。
- 同じ言語、同じ構成のシステムを触った経験があるか
- 辞める人の最終出社日までに参画でき、その日から手順書を動かせるか
- 参画の前に、秘密保持の契約と、渡す権限の範囲が決まっているか
- 辞めたあとも質問できる窓口として、契約の期間や延長の扱いが決まっているか
- 引き継いだ手順書と記録を、次に使う人へ渡すところまでが業務に含まれているか
辞めたあとに手順書の不足が見つかることもあるため、並走の期間を最終出社日の前後で少し長めに取れるかも聞いておきます。
逆に、業務委託のエンジニアが離任するときの引き継ぎは業務委託エンジニアの離任で引き継ぎが漏れる理由と防ぎ方で、内製化支援のあとの属人化は属人化解消できないと内製化支援のあと自走は止まる|4つの仕組みで扱っています。
まとめ:退職前に確かめておきたい3つの点
エンジニアの属人化が進んだシステムで退職が決まったとき、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、引き継ぎに使える出勤日の数を最初に確かめ、その日数で優先順位を決めること。第二に、動かし方、システムの在り処、障害時の見方、作りの経緯、権限の5つを、後任が手順書だけで動かせるかで確かめること。第三に、重ねる人を辞める人が出勤している間に決め、社内に重ねられる人がいなければ外部の人材の並走も選べるようにしておくことです。重ねる人の探し方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
エンジニアが退職を申し出てから、最短でどのくらいで辞められますか
民法第627条は、期間の定めのない雇用では、解約の申入れの日から2週間を経過すると雇用が終了すると定めています。*2 ただし、就業規則や雇用契約に別の定めがある場合や、期間を定めた雇用の場合は扱いが変わります。個別の判断は、社会保険労務士などの専門家に確かめてください。
辞める人が引き継ぎに時間を取ってくれないときは、どうすればよいですか
引き継ぎを業務として命じられるかどうかは、就業規則や雇用契約によります。まずは最終出社日までの勤務時間の中に、聞き取りの時間を日付つきで入れ、後任と一緒に過ごす日を決めます。個別の事情がある場合は、専門家に相談してください。
手順書が全くない状態でも、外部の人に引き継ぎを頼めますか
頼めます。ただし、外部の人が最初に行う作業は、辞める人に質問しながら手順書を作ることになります。辞める人が出勤している期間に参画できる日程かどうかを、先に確かめておきます。
引き継ぎ期間に並走する人を探す
辞める人の最終出社日と、引き継ぎたいシステムの概要が分かっていれば、そのままご相談いただけます。手順書がない段階でも構いません。
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出典
- *1 参考:JUAS「企業IT動向調査報告書2026」(PDF)(https://juas.or.jp/cms/media/2026/04/JUAS_IT2026.pdf)。出典:一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)。2025年度調査(n=954)。6.4(2)図表6-4-5(採用、育成、流出で課題感の高い担当業務)、6.4(3)(育成の取組み)を参照(確認日2026年10月16日)(2026年10月確認)
- *2 参考:民法(明治二十九年法律第八十九号)第627条(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)。出典:e-Gov法令検索。第627条第1項(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)を参照(確認日2026年10月16日)(2026年10月確認)