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何人採るか答えられない、エンジニアの要員計画を4つの数字で作る
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 採用人数は、来期に必要な人数から今いる人数を引き、想定退職を足せば出せます。
- 自社の実績が少ないときは、情報通信業の一般労働者の離職率9.8%(令和6年)を想定退職の目安にできます。
- 人が足りない情報通信業の事業所では、業務の効率化の推進が44%、外注化・下請化等の推進が14%と、採用以外の対応も取られています。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
エンジニアをもっと採りたいという声は出るのに、何人採るのかと聞かれると答えが出てこない。募集を始めてから求める条件が変わり、内定を出す段階になって社内の決裁が止まってしまう——。エンジニアの採用計画では、こうした食い違いが起こりがちです。要員計画とは、事業を進めるのに何人が必要で、いつまでに何人を採用するかを決める計画のことです。
要員計画に、細かな推計は要りません。今いる人数、来期に必要な人数、想定される退職、採用を決めてから入社までの期間(リードタイム)の4つを1枚に書けば、来年の採用人数は出せます。自社の実績が少ない部分は、公的統計を目安にできます。ただし要員計画も万能ではなく、人数の少ない組織では統計の値がほとんど役に立ちません。本記事では、エンジニアの採用を担当する方に向けて、4つの数字の出し方、それぞれに使える公的統計、採用のほかに取られている対応、そして計画を1枚にまとめる書式を整理します。
目次
要員計画とは
要員計画で使う数字は4つです。来年の採用人数は、この4つの足し引きで出ます。
「採用人数=来期に必要な人数-今いる人数+想定退職」という式で想定退職を先に数に入れておかないと、採用は社員が辞めてから動き出す形になります。退職が分かってから募集を始めるので、次の人が入社するまでのあいだ、現場は人が足りないまま仕事を続けることになります。要員計画は何人採るかを決めるものですが、実務で役に立つのは、いつ採用に動き始めるかを決められる点です。
採用の市場を見ると、人が足りないと感じている事業所は多くあります。厚生労働省の労働経済動向調査によると、令和8年5月1日現在の正社員等労働者過不足判断D.I.(「不足」の割合-「過剰」の割合)は、調査産業計で+47ポイントでした。産業別に見ると、情報通信業は不足が55%、過剰が1%で、+54ポイントです。*2
先行きの見込みでも、令和8年7〜9月期に正社員を増やすか減らすかの見込みを尋ねた正社員等雇用判断D.I.は調査産業計で+7ポイント、情報通信業は+14ポイントで、産業別で最も高い値でした。*2 ただし、これらは人が足りないと感じている事業所の割合をもとにした値で、採用できない確率ではありません。自社の採用が難しいかどうかは、求める経験や条件の決め方で大きく変わります。
今いる人数の数え方
1つ目の数字は、今いる人数です。ここで「エンジニア5名」とだけ書いても、どの仕事に人が足りないかが分かりません。数えるのは人の数ではなく、いま誰がどの職責を担っているかです。職責とは、設計の最終判断や障害の一次対応のように、1人が責任を持って受け持つ仕事のまとまりを指します。
| 職責 | 現在の担当 | 状態 |
|---|---|---|
| 設計の最終判断 | Aさん | 1人に集中している |
| 実装(主担当) | Aさん、Bさん | 足りている |
| 運用・障害の一次対応 | Bさん(兼務) | 兼務で対応している |
| 外部委託先との調整 | Cさん(エンジニアではない) | 技術的な判断ができない |
| セキュリティの確認 | 担当なし | 担当者がいない |
職責を細かく分けすぎると表の行が増え、誰も更新しなくなります。反対に大きくまとめすぎると、来期の必要人数に置き換えられません。1行を読んだだけで求人票の担当業務が書けるかどうかを目安にするとよいでしょう。
この形で並べると、人数だけでは見えない3つの状態が分かります。1人に集中している職責、兼務で対応している職責、担当者のいない職責です。採用の優先順位は、この3つを見比べて決めます。担当者のいない職責より、1人に集中している職責を先にすることもあるでしょう。その人が辞めたときに、仕事が止まってしまうからです。
職責の呼び名には、経済産業省と情報処理推進機構の「デジタルスキル標準」が示す人材の類型と役割(ロール)を使えます。*4 1人目のエンジニアを採用する段階で、まだ職責が決まっていない場合の整理は「1人目のエンジニア採用で起きる4つの問題」で扱っています。
来期に必要な人数の出し方
2つ目の数字は、来期に必要な人数です。開発にかかる工数(作業に要る人数×期間)から人数を積み上げようとすると、見積もりに時間を取られ、人数が出ません。開発量の見積もりは、事業計画より不確かなことが多いためです。
実務では、事業計画から来期に増える職責を書き出すほうが進めやすくなります。たとえば新しいサービスを1つ立ち上げるなら、設計を判断する職責が1つ、運用の窓口になる職責が1つ増えます。この単位で数えていきます。
- 増える職責を書く。「モバイル側の設計判断」「データ基盤の運用」のように、任せる仕事の単位で書きます
- 兼務で担えるかを判定する。担えるなら人数は増えず、担えないなら1人増えます
- 常に必要な職責かを判定する。立ち上げの時期だけ必要な職責は、社員を採用する以外の方法も候補になります
- 判断の重さを書く。誰にも相談せずに決めてよいことを書いておくと、あとで等級と賃金を決めやすくなります
4つ目の判断の重さは、賃金の決め方につながります。役割の重さで等級を決める考え方は「マネジメントに進まないエンジニアの処遇設計」で、賃金の水準は「エンジニアの年収レンジと公的統計の使い方」で整理しました。
立ち上げの3か月だけ必要な設計レビューまで正社員の採用で担おうとすると、求める経験が実際の仕事に必要な水準より高くなり、採用そのものが難しくなります。社員を採用して担ってもらう職責と、そうでない職責を先に分けておくことが大切です。
想定退職の見込み方
3つ目は想定退職です。4つの中で最も決めにくい数字ですが、自社の実績が少ない場合でも、公的統計から目安を作れます。
厚生労働省の令和6年雇用動向調査によると、情報通信業の一般労働者(パートタイム以外の労働者)の離職率(1年間に辞めた人の割合)は9.8%、入職率(1年間に入った人の割合)は11.0%で、入職超過率(入職率-離職率)は+1.2ポイントでした。産業計では離職率が11.5%、入職率が11.8%です。*1 情報通信業は産業計より離職率が低く、入職が離職を上回っています。
| 区分 | 入職率 | 離職率 | 入職超過率 |
|---|---|---|---|
| 産業計 | 11.8% | 11.5% | +0.3ポイント |
| 情報通信業 | 11.0% | 9.8% | +1.2ポイント |
使い方は単純です。エンジニアが10名いる会社なら、10名に9.8%を掛けて計算すると約1名になるので、年に1名前後は辞めると見込んで計画を立てます。この1名分を先に計画に入れておけば、退職の申し出を受けてから慌てて募集を始めずに済みます。
ただし、使い方で注意したい点が2つあります。第一に、これは産業全体の率で、自社の率ではありません。3年分の自社の実績があるなら、そちらを優先してください。第二に、人数の少ない組織では率がほとんど役に立ちません。5名に9.8%を掛けると0.49名と計算できますが、実際に辞めるのは0名か1名です。少人数の組織では、今いる人数の表を見て、誰が辞めたら仕事が止まるかを確かめるほうが役に立ちます。
より新しい数値もあります。令和7年上半期の雇用動向調査では、情報通信業の一般労働者の入職率は8.7%、離職率は5.7%で、入職超過率は+3.0ポイントでした。*3 上半期だけの数値なので通年の値とそのまま比べることはできませんが、入職が離職を上回る状態は続いています。退職の理由は「なぜ中途エンジニアは早期に離職するのか」で扱いました。
リードタイムと着手する月
4つ目のリードタイムは、人数ではなく期間の数字です。採用を決めてから入社するまでに何か月かかるかを表します。これを決めておかないと、計画の上では人数が足りているのに、実際には人が足りない期間が生まれます。
逆算に使う期間は3つあります。募集を始めてから応募が集まるまでの期間、選考にかかる期間、内定から入社までの期間です。自社の過去の実績があればそれを使い、無ければそれぞれの期間に幅を持たせて見込みます。入社してほしい月からこの3つの期間をさかのぼれば、募集を始める月が決まります。
新卒採用もあわせて行う場合は、さらに早い時期から採用計画を立てることになります。労働経済動向調査は、令和8年5月1日現在で令和9年の新規学卒者の採用計画を尋ねています。採用予定者数を前年より「増加」とした事業所の割合は、大学卒(理科系)が19%、大学院卒が12%でした。*2
増やす理由も尋ねています。どの学歴でも「長期的に育成することが必要な基幹的業務を担う者の確保」が最も多く、大学卒(理科系)で37%、大学院卒で41%でした。*2 新卒の採用は、辞めた人の代わりを採るためというより、時間をかけて育てることを前提に計画している事業所が多いようです。採用と育成のどちらを選ぶかの判断材料は「DX人材は採用か育成か、助成金を含めて比較する」で整理しています。
採用のほかに取られている対応
式で出した採用人数を、そのまま募集する人数にする前に、確かめておきたいことがあります。人が足りないときの対応は、採用だけではないという点です。
労働経済動向調査では、人が足りない部門などに何らかの対応をした事業所の割合は、調査産業計で63%、情報通信業で68%でした。*2 情報通信業の対応内容は、次の表のとおりです。
| 対応内容 | 割合 |
|---|---|
| 中途採用の開始・拡大・強化 | 81% |
| 新規学卒者の採用の開始・拡大・強化 | 45% |
| 業務の効率化の推進 | 44% |
| 省力化投資の実施 | 17% |
| 在職者の労働条件の改善(賃金) | 17% |
| 教育訓練・能力開発による業務可能範囲の拡大 | 15% |
| 時間外労働の増加 | 14% |
| 外注化・下請化等の推進 | 14% |
| 人事・能力評価基準の見直し | 11% |
情報通信業の結果から分かることは2つあります。第一に、中途採用が主な対応であることです。情報通信業では81%で、ほかの対応を大きく上回っています。第二に、業務の効率化の推進が44%で、2番目に多いことです。*2 効率化を挙げた事業所も半数近くあります。
一方で「時間外労働の増加」も14%あります。対応の一つとして数えられてはいますが、長く続けられるやり方ではありません。要員計画を作る目的の一つは、残業を増やさなくても済むように、先に採用を進めておくことです。
「外注化・下請化等の推進」も14%です。*2 少数ですが、来期の必要人数を出すときに分けておいた、常に必要ではない職責に向いた方法です。立ち上げの時期だけ必要な設計レビューや、忙しい時期だけ増える実装の作業まで社員の採用で担うと、その後も人件費がかかり続けます。
1枚にまとめる書式
最後に、4つの数字を1枚にまとめる書式です。項目は次の7列で足ります。
| 列 | 書く内容 | もとにするもの |
|---|---|---|
| 職責 | 任せる仕事の単位で1行 | 今いる人数の表から書き写す |
| 現在 | 担当者名(担当者がいなければ空欄) | 今いる人数の表 |
| 来期必要 | 人数(0.5は書かない) | 来期に増える職責 |
| 想定退職 | 人数と、その根拠を一言 | 自社の実績または公的統計 |
| 採用数 | 来期必要-現在+想定退職 | 計算の結果 |
| 手段 | 社員の採用/期間を決めた外部委託/育成 | 常に必要な職責かの判定 |
| 着手月 | 入社してほしい月から逆算 | リードタイム |
運用で決めておくことは2つです。更新は四半期に1回とすること、そして状況が変わったら着手月も書き換えることです。人数だけを直して着手月を直さないと、募集を始めるのが遅れます。
計画の数字が出たら、社内の決裁を通します。決裁で止まる計画に欠けているのは、たいてい次の3つです。第一に、採用以外の方法を検討した記録です。決裁する側は、本当に人を増やすしかないのかを確かめます。検討したうえで採用が必要だと書いてあれば、決裁する人とのやり取りが減ります。
第二に、採用しなかった場合に何が起きるかの説明です。今いる人数の表で、1人に集中している職責に挙げたものがそのまま材料になります。その人が辞めたときに止まる業務を1行で書けば、優先順位を話し合えます。第三に、時期の根拠です。逆算した着手月を書き、なぜその月なのかを添えます。
この3点は、4つの数字を出す作業の中で書けます。この1枚があれば、求人票も作りやすくなります。職責と判断の重さが書かれているので、担当業務と賃金を書く材料がそろっているからです。求人票の書き方は「エンジニア求人票の書き方と必須14項目」で、応募者を集める方法は「エンジニア採用の母集団形成、先に決める9つのこと」で扱っています。
まとめ:要員計画で確かめておきたい3つの点
エンジニアの要員計画を立てるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、来期に必要な人数から今いる人数を引き、想定退職を足して採用人数を出し、リードタイムから着手月を決めること。第二に、自社の実績が少ない想定退職は、情報通信業の離職率9.8%のような公的統計を目安にすること。第三に、出た人数をそのまま募集する人数にせず、社員を採用する職責と、期間を決めて外部に委託する職責を分けることです。この3点を踏まえておけば、「募集を始めたのに、何人採るのかが決まらず決裁が止まった」という事態を避けやすくなります。職責の整理や採用計画の立て方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
要員計画は、誰が作るとよいですか
職責の表は、エンジニアのチームをまとめる責任者が作るのが進めやすいでしょう。そのうえで、人事の担当者が公的統計の値と着手月を書き加え、決裁に回す形にすると、現場と人事の数字がそろいます。
新卒採用も、中途採用と同じ表に入れてよいですか
分けて作るほうが扱いやすいでしょう。新卒採用は入社までの期間が長く、育てることを前提にした採用なので、中途採用とは計画を立てる時期も目的も異なります。表を分けたうえで、来期の必要人数のうち、どの職責を新卒の採用と育成で担うのかを書き添えておきます。
来期に必要な人数が0.5人のように割り切れないときは、どうしますか
来期必要の欄には小数を書かず、1人か0人かで決めます。半分ほどの仕事量しかない職責は、今いる社員の兼務で担うか、期間を決めて外部に委託するかを検討します。
職責の整理からご相談ください
どの職責が1人に集中しているか、どの職責を社員の採用で担うか。人数がまだ決まっていない段階から、担当者が一緒に整理します。
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出典
- *1 参考:厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/dl/gaikyou.pdf)。産業計および情報通信業の一般労働者・パートタイム労働者別の入職率・離職率・入職超過率、ならびに転職入職率の一次情報として(2026年9月確認)
- *2 参考:厚生労働省「労働経済動向調査(令和8年5月)の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keizai/2605/dl/7roudoukeizaidouko.pdf)。正社員等労働者過不足判断D.I.(令和8年5月1日現在)、正社員等雇用判断D.I.(令和8年7〜9月期見込)、労働者が不足している部門等への対応状況と対応内容、および令和9年新規学卒者の採用計画と増加理由の一次情報として(2026年9月確認)
- *3 参考:厚生労働省「令和7年上半期雇用動向調査結果の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/26-1/dl/gaikyou.pdf)。令和7年上半期における情報通信業の一般労働者の入職率・離職率・入職超過率の確認として(2026年9月確認)
- *4 参考:経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構「デジタルスキル標準」(DX推進スキル標準)(https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about_dss-p.html)。職責を並べる際の共通語彙として人材類型とロールが示されていることの確認として(2026年9月確認)