LASSIC Media らしくメディア
事業内職業能力開発計画の作り方|様式がない計画の4ステップ
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 決まった様式はない:形ではなく会社の独自性が伝わることが大切とされています*1。
- 作って周知するまでが責務:作成と従業員への周知の措置がセットで求められます*3。
- 助成金の入口にもなる:人材開発支援助成金の一部のコースで支給要件です*1。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
研修をやってはいるが、体系になっていない。求人票に「研修あり」と書いても中身を聞かれると詰まる。この状態を抜けるための土台が、事業内職業能力開発計画です。
厚生労働省の説明では、雇用する労働者の職業能力の開発及び向上を段階的かつ体系的に行うために事業主が作成する計画とされ、職業能力開発促進法第11条に基づき、事業主の努力義務となっています*1。
身構える必要はありません。作成に当たっては、決まった様式や記載内容の定めといったものはありません*1。形ではなく、会社の独自性がわかりやすく表現されていることが大切だとされています*1。
本記事では、法が求めている中身、計画の基本的な構成、作成の4ステップと9つのシート、そして計画づくりの担い手になる職業能力開発推進者までを整理します。
何のための計画か
まず、この計画が何を解くものなのかを確認します。
効果はこう説明されています。計画の作成により、従業員の職業能力開発について仕事の種類やレベル別に、「何を身につけたらよいか」「そのためにはどのような学習・訓練を受ければよいか」を整理することができます*1。
整理した先にあるものも書かれています。これらを明らかにして示すことで、企業の経営者や管理者と従業員が能力開発について共通の認識を持ち、目標に向かってこれを進める「道しるべ」となり、効果的な職業能力開発を行うことが可能になります*1。
副次的な効果も挙がっています。従業員の自発的な学習・訓練の取組意欲が高まることも期待されます*1。会社が方向を示すことで、個人の側も動きやすくなるという整理です。
手引きは、場当たりの反対語としてこの計画を置いています。場当たり的な教育訓練では効果は期待できませんという書き方で、企業の経営方針や理念に基づいて求められる人材像や能力要件を明確化し、人材の育成方針を定めて体系図と計画を策定する、という順番が示されています*1*3。
実利もあります。この計画の作成は、人材開発支援助成金の一部のコースにおいて支給要件となっています*1。育成の助成金を使うつもりがあるなら、先に用意しておく書類ということになります。
求人票に研修体制をどう書けるかという論点は研修ありと書けるのは、どの水準からかで扱いました。書ける中身をつくる側が、この計画にあたります。
法が事業主に求めていること
根拠法の中身を見ると、計画は単体ではないと分かります。
職業能力開発促進法は、従業員が職業生活の全期間を通じて有する能力を有効に発揮できるようにすることが、職業の安定及び地位の向上のために不可欠であり、経済及び社会の発展の基礎をなすという理念に基づいて、国や都道府県、経営者に責務を定めています*3。
事業主に求められることは9つ挙げられています。職業訓練を行う、教育訓練を受けさせる、職業能力検定を受けさせる、業務の遂行に必要な技能・知識等に関する情報提供や相談その他の援助を行う、配置その他の雇用管理に配慮するまでが前半です*3。
後半には時間と休暇の話が入ります。教育訓練のための有給休暇、長期休暇、その他の休暇を付与する、教育訓練・能力検定を受ける時間確保のために始業・終業時刻に必要な措置を講ずる、事業内職業能力開発計画の作成と周知を行う、職業能力開発推進者を選任するの4つです*3。
このうち経営者の責務として整理されているのが3つです。従業員が能力の開発及び向上を図ることができるように機会の確保に配慮すること、事業内職業能力開発計画を作成し従業員に周知させるための措置を講ずること、職業能力開発推進者を事業所ごとに選任すること*3。
ここで見落とされやすいのが周知です。作って引き出しにしまうのではなく、従業員に伝えるところまでが求められています*3。書類として整えるだけでは足りません。
教育訓練のための休暇についても、制度として用意する道があります。休暇の枠組みはなぜ教育訓練休暇給付金は業務命令だと出ないのかで整理しました。
基本理念の側にも押さえておきたい表現があります。職業能力の開発は従業員の職業生活設計に配慮しつつ、段階的、体系的に行われることとされています*3。段階的・体系的という言葉が、そのまま計画の要件になっています。
基本的な構成は8項目、中心は3つ
次に、何を書くのかです。
手引きでは主に8つの構成で作られますとされ、「経営理念・経営方針」「人材育成方針・目標」「雇用管理方針など」が中心となりますと説明されています*3。
| 区分 | 項目 | 書く内容 |
|---|---|---|
| 3つの基本 | (1) 経営理念・経営方針 | 経営の基本、活動のよりどころ。社是・社訓でもよい |
| 3つの基本 | (2) 人材育成方針・目標 | 必要な人材像を明確にし、どのような目標を持ってどう育成するかを定める |
| 3つの基本 | (3) 雇用管理方針など | 就業規則などに定めている採用、配置、賃金、昇給等に関する方針 |
| 残りの5つ | (4) 職務要件、職務評価基準 | 各職務に必要な職業能力の内容とレベル |
| 残りの5つ | (5) キャリアマップ(個人別職務評価) | 職務の道筋と、個人ごとの評価 |
| 残りの5つ | (6) 教育訓練体系図 | 人材育成基本方針を図で示し、従業員の理解を容易にする |
| 残りの5つ | (7) 教育訓練計画 | 年度ごとの実施計画 |
| 残りの5つ | (8) 教育訓練カリキュラム | 個々の訓練の中身 |
厚生労働省「『事業内職業能力開発計画』作成の手引き」より作成*3。
3つの基本には例示も添えられています。人材育成方針・目標なら未知なる領域にも積極的に挑戦できる人材を育成する、自ら専門性を磨き高い職務遂行能力を持った人材を育成するといった書き方です*3。
雇用管理方針の例も具体的です。一人ひとりが、やりがいを持って職務に取り組めるよう、適性や要望を尊重して職務配置を行う、職種転換を行う際は必要な訓練を施すとともに転換後のフォローアップを行うといった文が挙げられています*3。
手引きは注意点も置いています。3つの基本は整合性を取りつつ、時代に合致した方向性を織り込み関係者に周知徹底して実践することが重要で、関係者で共有化し、定期的にメンテナンスを行うことも重要とされています*3。一度書いて終わりではありません。
実務の助けになるのは、この3つがすでに手元にあることが多いという指摘です。これらはほとんどの会社では整備されているケースが多いと書かれています*3。ゼロから考えるのではなく、確認から始まります。
作成は4つのステップで進む
手順も示されています。書き出す前にやることがあります。
ステップ1は社内への根回しです。社内の職務を網羅的に取りまとめることは容易ではありません。このため、経営者・役員だけではなく、全部署の管理職へ趣旨目的の周知と情報提供の協力依頼を作成前に行う必要があります*3。
ステップ2が3つの基本の確認です。「構成と基本」で説明した3つの基本をしっかりと押さえたうえで、経営者・役員に確認をとりましょうとされ、この基本を中心として各書類が作られます*3。
ステップ3は3つに分かれます。3-1が各職務に必要な職業能力の明確化で、会社の中の仕事とその仕事に必要な職業能力を洗い出して体系的に整理します*3。
3-2が教育訓練ニーズの確認です。ニーズは時代とともに変わるため、経営戦略サイド、現場サイド、個人サイドという3つの側面から検証することとされています*3。
経営戦略サイドの例として、新規事業の起業や成長期待分野へのシフトが挙げられています*3。現場サイドについては教育訓練のニーズは、机に座って頭で考えることが多くなりがちですが、事業内計画の作成に携わる方はなるべく意識して現場の声も取り上げてという注意が置かれています*3。
3-3が教育訓練体系図です。ニーズの確認後、教育内容別に何のために(到達目標)、誰に対して(対象者)、何を(教育訓練名)、どのように(方法)の4つの切り口で分類・整理し、まとめたものが体系図になります*3。
そしてステップ4が項目ごとに様式を整えて記述です*3。書き出しは最後で、それまでは確認と整理の作業になります。
職務ごとの能力をどう書き出すかで迷うなら、公的な型を借りる手もあります。職業能力評価基準とは|採用要件を書く公的な型とjob tagの使いどころ|求人票と職務の棚卸しの違いで扱いました。
9つのシートに落とす
最後の記述は、シート単位で進めると迷いません。
手引きは基本的な構成の8項目と表紙を加えた9つを1項目1シートとし、事業内計画もこの並び順で作成することをお勧めしますとしています*3。
並びはこうです。シート0が表紙、1が経営理念・経営方針、2が人材育成方針・目標、3が雇用管理方針など、4が職務要件・職務評価基準、5がキャリアマップ、6が教育訓練体系図、7が教育訓練計画、8が教育訓練カリキュラム*3。
表紙は義務ではありません。作成が求められているわけではありませんが、見栄え、使用上や書類整理の利便性から作成することをお勧めしますとされ、タイトル、社名、作成年月日を記すよう案内されています*3。
1枚に詰め込むかどうかも自由です。シート1と2、3をまとめて1枚に記載しても構わないとされていますが、見る側に立って文字の間隔が詰まりすぎ見にくくならないようご注意くださいという注意が添えられています*3。
別紙の使い方も示されています。就業規則などに定められている人事管理規程のように別の定めがあるものや組織図は、「別紙」または「別添」として、このシートの後に付則します*3。
組織図には一工夫があります。組織図に人材育成の実務責任者である「職業能力開発推進者」を加えると、理解され易くなるでしょうとされています*3。誰が担当なのかを図の中で示す形です。
体裁の推奨も具体的です。使用する用紙についてはA4用紙をお勧めしますとされ、変更に対応できることとデータとして保存できることから、ワープロソフトなどによる作成・保存が勧められています*3。
計画を動かす担い手を決める
計画とセットで求められているのが、担当者の選任です。
厚生労働省は従業者の職業能力開発を計画的に企画・実行することが大切ですが、こうした取組を社内で積極的に推進するキーパーソンが「職業能力開発推進者」ですと説明しています*2。
役割は3つです。事業内における職業能力開発計画の作成と実施、企業内での従業員に対する職業能力の開発に関する相談と指導、国・都道府県・中央職業能力開発協会(各都道府県協会)との連絡等*2。
誰を選ぶかも書かれています。人事・教育訓練等で担当部署の部・課長などを職業能力開発推進者として選任することが、職業能力開発促進法第12条において事業主の努力義務となっています*2。
計画づくりとの関係も明確です。事業内計画は、職業能力開発推進者が中心となって作成を進めます*3。先に推進者を決めてから計画に着手する順番が想定されています。
選任のしかたは3類型に分かれます。単独選任は選任される推進者がその事業所のみで活動する場合、本社選任は推進者が属している事業所が本社でかつ各支店も統括して活動する場合、共同選任は推進者が属している事業所が支店で近隣の営業所なども統括する場合、または2つ以上の事業主が共同して推進者を立てる場合です*4。
この区分で選任基準が変わり、本社選任と共同選任の場合、担当する支店等の情報は申請用紙の裏面に記入するとされています*4。拠点が複数ある会社は、どの型で出すかを先に決めておくことになります。
用語の定義も確認しておきます。ここでいう常時雇用する労働者とは2か月を超えて使用されている者で、かつ週当たりの所定労働時間が当該企業の通常の従業員と概ね同等である者です*4。
採用の場面では、この計画と推進者があること自体が説明材料になります。作成のメリットとして内外へ示すことで職業能力開発に対する企業の取組みを示すこともできますと挙げられています*4。研修の中身を言葉で説明する代わりに、体系図を見せられる状態になります。
なお、計画づくりは各部署からの情報収集を伴うため、着手から完成まで時間がかかります。整えるあいだの実務をどう回すかは別の判断で、その工程だけ業務委託で回すという分け方もあります。
まとめ:確認する3点
第一に、位置づけです。事業内職業能力開発計画は、雇用する労働者の職業能力の開発及び向上を段階的かつ体系的に行うために事業主が作成する計画で、職業能力開発促進法第11条にもとづく事業主の努力義務です。人材開発支援助成金の一部のコースでは支給要件にもなっています。経営者の責務としては、能力開発の機会の確保への配慮、計画の作成と従業員への周知、そして職業能力開発推進者を事業所ごとに選任することの3つが整理されています。作って終わりではなく、周知するところまでが求められている点に注意してください。第二に、中身と手順です。決まった様式や記載内容の定めはなく、形ではなく会社の独自性がわかりやすく表現されていることが大切とされています。基本的な構成は8項目で、中心となるのは経営理念・経営方針、人材育成方針・目標、雇用管理方針などの3つです。作成は、全部署の管理職への周知と協力依頼、3つの基本の確認、各職務に必要な職業能力の明確化と教育訓練ニーズの確認と教育訓練体系図、項目ごとに様式を整えて記述、という4ステップで進みます。体系図は、何のために、誰に対して、何を、どのようにの4つの切り口でまとめます。第三に、担い手です。計画は職業能力開発推進者が中心となって作成を進めます。役割は計画の作成と実施、従業員への相談と指導、国や都道府県などとの連絡等の3つで、選任は単独選任、本社選任、共同選任の3類型に分かれます。
よくある質問
事業内職業能力開発計画とは何ですか。
雇用する労働者の職業能力の開発及び向上を段階的かつ体系的に行うために事業主が作成する計画です。職業能力開発促進法第11条にもとづく事業主の努力義務で、企業内における職業能力開発を段階的・体系的に紙面等で作成した計画書とされています。作成により、仕事の種類やレベル別に何を身につけたらよいか、そのためにどのような学習・訓練を受ければよいかを整理でき、経営者や管理者と従業員が能力開発について共通の認識を持つ道しるべになります。
決まった様式はありますか。
ありません。作成に当たっては決まった様式や記載内容の定めといったものはなく、形ではなく会社の独自性がわかりやすく表現されていること、従業員に正しく伝えられるものであることが大切とされています。手引きでは、経営理念・経営方針、人材育成方針・目標、雇用管理方針など、職務要件と職務評価基準、キャリアマップ、教育訓練体系図、教育訓練計画、教育訓練カリキュラムという8項目の構成が示されています。
作るとどんなメリットがありますか。
従業員の職業能力開発を計画的に行えるようになり、内外へ示すことで職業能力開発に対する企業の取組みを示すこともできます。また、国の助成金である人材開発支援助成金の一部のコースにおいて、申請要件の1つに挙げられています。従業員の側から見ると、仕事の種類やレベル別に何を身につければよいかが分かるため、自発的な学習・訓練の取組意欲が高まることも期待されています。
職業能力開発推進者は誰を選べばよいですか。
人事・教育訓練等で担当部署の部・課長などを選任することが、職業能力開発促進法第12条において事業主の努力義務とされています。役割は、事業内における職業能力開発計画の作成と実施、企業内での従業員に対する職業能力の開発に関する相談と指導、国・都道府県・中央職業能力開発協会との連絡等の3つです。選任には単独選任、本社選任、共同選任の3類型があり、区分によって選任基準が変わります。
出典
- *1 参考:厚生労働省「事業内職業能力開発計画」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/jigyounaikaihatukeikaku.html)。計画の定義(雇用する労働者の職業能力の開発及び向上を段階的かつ体系的に行うために事業主が作成する計画)、作成により整理できること(仕事の種類やレベル別に何を身につけるか、どのような学習・訓練を受けるか)と道しるべとしての効果、職業能力開発促進法第11条にもとづく事業主の努力義務であること、人材開発支援助成金の一部のコースで支給要件となること、決まった様式や記載内容の定めがないこと、記載すると良い内容(経営理念、人材育成の基本方針、雇用管理の方針、各職務に必要な職業能力、教育訓練体系図)の一次情報として(2026年8月確認)
- *2 参考:厚生労働省「職業能力開発推進者」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/suisinnsya.html)。職業能力開発推進者の位置づけ(社内で取組を積極的に推進するキーパーソン)、役割3つ(事業内における職業能力開発計画の作成と実施、企業内での従業員に対する職業能力の開発に関する相談と指導、国・都道府県・中央職業能力開発協会との連絡等)、人事・教育訓練等で担当部署の部・課長などを選任することが職業能力開発促進法第12条において事業主の努力義務であることの一次情報として(2026年8月確認)
- *3 参考:厚生労働省「『事業内職業能力開発計画』作成の手引き」(https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/0000199757.pdf)。職業能力開発促進法の基本理念と事業主に求められる9項目、経営者の責務3つ、事業内計画の基本的な構成8項目と3つの基本(経営理念・経営方針、人材育成方針・目標、雇用管理方針など)の説明と例示、作成の4ステップ(経営者や全部署の管理職への周知と協力依頼、3つの基本の確認、各職務に必要な職業能力の明確化・教育訓練ニーズの確認・教育訓練体系図、項目ごとに様式を整えて記述)、ニーズを検証する3つの側面、教育訓練体系図の4つの切り口、9つのシートの並びと表紙・別紙・用紙の扱い、組織図に推進者を加える助言の一次情報として(2026年8月確認)
- *4 参考:厚生労働省「事業内職業能力開発計画及び職業能力開発推進者の選任に関するQ&A」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/jigyounaikaihatukeikaku_3.html)。事業内職業能力開発計画の定義と法的根拠、作成のメリット(計画的な実施と、内外へ示すことによる取組みの提示、人材開発支援助成金の申請要件)、常時雇用する労働者の定義(2か月を超えて使用され、週当たりの所定労働時間が当該企業の通常の従業員と概ね同等である者)、単独選任・本社選任・共同選任の違いと、本社選任・共同選任の場合に申請用紙の裏面へ担当支店等の情報を記入することの一次情報として(2026年8月確認)