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エンジニア中途採用の育成、技術研修と実務で覚えることの違い
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 情報通信業でAI・IT等の研修を行った企業の83.3%が、業務で不足している技術を身につけさせる目的で実施しています。
- 中途採用者の技術研修は入社時点で経験のない技術に絞り、自社のシステムと社内の進め方は実務で覚えてもらいます。
- 研修の前に研修後に任せる仕事を決めておき、その仕事を独力で終えられたかで効果を確かめます。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
経験者だから研修は要らないだろうと考えて配属したものの、半年たっても新しく使い始めたクラウドの設定を任せきれない。逆に、入社してすぐ社外の研修を一通り受けてもらったのに、現場に戻ると社内のやり方が分からず手が止まる——。エンジニア中途採用の育成では、技術研修をするかしないかより、何を研修に任せ、何を実務で覚えてもらうかの線引きでつまずきやすくなります。
本記事では、労働政策研究・研修機構(JILPT)の企業調査のうち、仕事を離れて行う研修(Off-JT)の集計を手がかりにします。開発の現場を預かるマネージャに向けて、情報通信業の企業がどんな研修をしているか、研修で何を埋めるか、社内と社外の分け方、受けてもらう時期、効果の見方を順に整理します。
目次
中途採用者の技術研修とは
手がかりにするのは、JILPTが2025年11月にまとめた「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」です。従業員5人以上の企業20,000社に調査票を送り、2024年10月から11月にかけて6,116社から回答を得ています。このうち第2章第5節が、業務命令に基づき、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練・研修、いわゆるOff-JTを扱っています。*1
2023年度にOff-JTを実施した企業は、全体では31.6%でした。エンジニアの多い情報通信業に絞ると、103社のうち40社で38.8%になります。*2 全体より高いとはいえ、情報通信業でも研修を実施した企業は半数に届いていません。
本記事でいう技術研修は、このOff-JTのうち、プログラミングやクラウド、システムの運用といった技術を身につけさせるものを指します。中途採用者は技術の基本を持って入社してくるので、新卒のように基礎から全部を教える研修は要りません。考えておきたいのは、入社時点の技術と配属先の仕事との差を、研修と実務のどちらで埋めるかです。
なお、調査の設問は中途採用者に限らず従業員全体について聞いたものです。また、情報通信業でOff-JTを実施した企業は40社と少なく、1社の違いで2.5ポイント動きます。差の大きさは割り引いて読み、傾向をつかむ材料として使います。
情報通信業の企業が行う研修
Off-JTを実施した企業に内容を聞いた設問では、全体で最も多いのは「仕事をする上での基本的な心構えやビジネスの基礎知識を習得する研修」の39.5%で、階層ごとに求められる知識・技能を習得させる研修の32.7%が続きます。「AI・IT(システム開発、システム運用、プログラミング)等の研修」は、全体では3.5%にとどまります。*2
情報通信業の40社では、並びが大きく変わります。最も多いのがAI・IT等の研修で42.5%、階層ごとの研修が40.0%、基本的な心構えの研修が37.5%、管理・監督能力を高める研修と法務・法令遵守の研修がともに32.5%でした。*2 技術の研修と、階層や法令の研修が並んで行われている形です。
一方で、「日常の業務では習得が難しい体系的な知識・技能を習得させる研修」は情報通信業で17.5%、「仕事に関連した資格の取得をめざすための研修」は20.0%でした。*2 技術の研修といっても、資格や体系的な知識を一から学ぶものより、目の前の開発や運用に結びつく内容が中心になっていると考えられます。
中途採用者に当てはめると、基本的な心構えや階層ごとの研修は、前の職場で一度受けている人が多いはずです。入社時に受けてもらう研修を新卒と同じ一覧から選ぶと、すでに身につけた内容に時間を使うことになります。中途採用者向けには、情報の取り扱いのように会社ごとに決まりが違うものと、配属先で使う技術に絞って選びます。
研修で何を埋めるのか
調査は、AI・IT等やDX対応の研修を実施した企業に、その研修がどんな技術・知識を身につけさせるものかも聞いています。全体の108社では、「現職の業務を行ううえで不足している専門技術・知識を身につけさせる」が50.0%、「現職の業務に直接関係する、より高度な専門技術・知識を身につけさせる」が44.4%でした。*2
情報通信業の18社では、業務で不足している専門技術・知識を身につけさせる研修が15社、83.3%に上ります。より高度な専門技術・知識は38.9%、業務の変化に対応するための広い範囲の専門技術・知識は33.3%でした。*2 回答は18社と少ないものの、情報通信業の技術研修は、仕事を進めるうえで足りない技術を埋めるために使われていることがうかがえます。
今後力を入れていきたいOff-JTを全企業に聞いた設問でも、同じ傾向が出ています。情報通信業の103社では、不足している専門技術・知識が57.3%で最も多く、より高度な専門技術・知識と、管理職等の職層に応じた知識・スキルがともに41.7%でした。全体ではそれぞれ42.7%、33.6%、27.0%です。*2
中途採用者の技術研修も、この不足を埋める使い方が合っています。入社時の面談で、配属先で使う言語やクラウド、テストの手法などを1つずつ確かめ、経験のないものだけを研修の候補にします。経験のある技術まで研修に含めると、本人にとっては復習になり、実務に入る時期も遅れます。
研修と実務の分け方
研修で教えやすいのは、どの会社でも通用する技術の知識です。新しく使うプログラミング言語の文法、クラウドの基本的なサービスと設定、セキュリティの基礎などは、社外の講座や教材がそろっていて、短い期間でまとめて学べます。
反対に、研修では身につきにくいのが自社のシステムの知識と、社内の仕事の進め方です。システムの構成や設計の経緯、レビューや本番環境への反映の手順は、実際の改修を担当しながら覚えてもらうほうが早く身につきます。
| 分野 | 研修で扱うこと | 実務で覚えること |
|---|---|---|
| 言語・フレームワーク | 経験のない言語の文法と標準的な書き方 | 自社のコードの書き方の決まり、既存の部品の使い方 |
| クラウド・基盤 | サービスの基本と設定の考え方 | 自社の環境の構成、権限の申請の手順 |
| テスト・品質 | テストの手法、自動化の道具の使い方 | 自社の試験の基準、レビューの受け方 |
| 情報の取り扱い | 法令と社内規程の研修 | 顧客のデータを扱う作業の手順 |
線を引くときの目安は、その知識が社外でも同じ形で通用するかどうかです。通用するものは研修に、自社でしか使わないものは実務に回します。研修で学んだ技術は、研修のすぐ後に任せる仕事で使ってもらうところまで決めておくと、学んだことが実務に結びつきます。
社内で教えるか社外に頼むか
Off-JTを誰が実施したかを聞いた設問では、全体で多いのは業界団体の34.2%、民間教育訓練機関の31.8%、自社の30.8%でした。情報通信業の40社では、民間教育訓練機関が60.0%で最も多く、自社が40.0%、業界団体が15.0%で続きます。*2 技術の研修を社外の講座に頼る企業が多い業種です。
費用の面でも違いがあります。Off-JTで費用を支出した企業は全体で74.6%、情報通信業では87.5%でした。従業員1人あたりのOff-JT費用を今後3年間で「増加させる予定」とする企業も、情報通信業では35.9%と、全体の26.1%を上回ります。*2
中途採用者の技術研修では、汎用的な技術は社外の講座を使い、自社のシステムに結びつく内容は社内の勉強会や資料で教える、という分け方が現実的です。社内に教えられる人がいる技術まで社外に頼むと、費用がかかるうえ、自社の使い方とのずれを後から埋める手間が出ます。
研修のメニューを従業員自らが選べる形式(カフェテリア形式)を含めている企業は、情報通信業で27.5%でした。*2 中途採用者は自分に足りない技術を自覚していることが多いので、候補をいくつか示して本人に選んでもらうのも一つの方法です。
研修を受けてもらう時期
コロナ以前と比べてOff-JT全体に占めるオンライン研修の割合が増えたとする企業は、全体で29.7%、情報通信業では39.8%でした。*2 オンラインの講座なら、業務の合間に1回数時間ずつ受けてもらうこともできます。
時期については、入社直後にまとめて受けてもらうより、実務で足りない技術が見えてから受けてもらうほうが無駄が少なくなります。入社後の最初の数週間は社内の進め方を覚える小さな改修を担当してもらい、その間に本人と指導役で、どの技術が足りないかを確かめます。
研修を受けてもらう期間は、本人の担当業務をその分だけ減らしておきます。開発の締め切りを抱えたまま研修を入れると、受講が後回しになったり、研修中も仕事の連絡に追われたりしがちです。長い研修を一度に入れるより、短い講座を実務と交互に置くほうが、学んだことをすぐ試せます。
研修の効果の見方
実施したOff-JTの評価を聞いた設問では、全体の83.9%が「効果があった」または「ある程度効果があった」と答えています。情報通信業の40社では、「効果があった」が30.0%、「ある程度効果があった」が52.5%で、合わせて82.5%でした。「あまり効果がなかった」と「効果がなかった」を合わせると15.0%で、全体の9.4%より高くなっています。*2
効果を確かめるには、研修の前に、研修の後に任せる仕事を決めておくのが近道です。たとえばクラウドの研修なら、研修後に検証環境の設定を1件任せ、手順書を見ながら独力で終えられたかを見ます。受講したかどうかや、講座の確認テストの点数だけでは、実務で使えるかまでは見えてきません。
もう一つの手がかりは、レビューでの指摘の中身です。研修の前後で、同じ種類の指摘が減っているかを指導役に見てもらいます。研修から1〜2か月たったところで本人と振り返りの面談を置き、使えた内容と使う場面がなかった内容を分けておくと、次に中途採用者を迎えたときに研修を選ぶ材料になります。
外部に委託するときに確認しておきたい点
中途採用者の育成期間は、本人も指導役も、研修と実務の両方に時間を割くことになります。指導役が抱えている開発の一部を外部の専門人材に任せ、教える時間をつくるという方法があります。任せるのは期限と範囲がはっきりした作業にとどめ、自社のシステムの知識を教える役は社内に残しておきます。
研修そのものを社外に頼む場合は、受講後に任せる仕事と確かめる観点を、研修の提供元にも伝えておきます。研修の委託先の選び方は職業訓練サービスガイドラインで研修委託先を見極めるで扱っています。
入社時の経験と実績から育成計画を立てる方法はエンジニア中途採用の育成計画、入社時の経験と実績から立てるにまとめました。
OJT(仕事を通じた育成)の指導役と最初に任せる仕事の決め方はエンジニア中途採用の育成、OJTの指導役と最初の仕事を決めるにあります。
入社後にスキルが足りないように見えるときの確かめ方はエンジニア中途採用の入社後のスキル不足、進め方の違いを先に疑うで整理しています。
まとめ:技術研修で確かめておきたい3つの点
エンジニア中途採用の育成で技術研修を組むうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、入社時の面談で配属先の技術を1つずつ確かめ、経験のない技術だけを研修の候補にすること。第二に、社外でも通用する技術は研修に、自社のシステムと社内の進め方は実務に回し、研修の後に学んだ技術を使う仕事を用意しておくこと。第三に、研修の前に研修後に任せる仕事を決め、その仕事を独力で終えられたかとレビューの指摘の変化で効果を確かめることです。この3点を踏まえておけば、「研修は受けてもらったのに、現場では使えていない」という事態を避けやすくなります。研修の期間に指導役の手が足りなくなりそうなら、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
経験者の中途採用者にも入社時の研修は必要ですか
技術の研修は、入社時点で経験のない技術があるときに絞れば足ります。情報の取り扱いや法令遵守のように会社ごとに決まりが違う内容は、経験者でも入社時に受けてもらいます。
技術研修は社内と社外のどちらで行えばよいですか
調査では、情報通信業でOff-JTを実施した企業のうち、民間教育訓練機関を利用した企業が60.0%、自社で行った企業が40.0%でした。*2 汎用的な技術は社外、自社のシステムの知識は社内という分け方にすると選びやすくなります。
研修の期間はどのくらい見込めばよいですか
決まった目安はありません。短い講座を実務と交互に置き、研修の後に任せる仕事で学んだ技術を使えたかを確かめながら、次の研修を入れるかどうかを決めていきます。
オンラインの研修でも構いませんか
構いません。この調査には、オンラインかどうかで研修の効果を比べた集計はありません。形式よりも、研修の後に学んだ技術を使う仕事を用意しておくことを優先します。
研修の期間に開発の手を確保したいときに相談
中途採用者の研修や指導の期間に、どの開発作業を任せたいかが決まっていれば、そのままご相談いただけます。任せる範囲をまだ決めきれていない段階でも構いません。
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出典
- *1 参考:労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」調査シリーズNo.257 本文(PDF)(https://www.jil.go.jp/institute/research/2025/documents/0257_01.pdf)。出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」JILPT調査シリーズNo.257(2025年11月)。調査対象は従業員5人以上の企業20,000社、調査期間は2024年10月15日〜11月8日、有効回収数6,116社。第1章(調査の概要)と第2章第5節 OFF-JT(図表2-5-1、2-5-6、2-5-8、2-5-12、2-5-14、2-5-15、2-5-19、2-5-20)を参照(2026年10月確認)
- *2 参考:労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」付属統計表(PDF)(https://www.jil.go.jp/institute/research/2025/documents/0257_03.pdf)。出典:同調査の付属統計表。合計と情報通信業の行(問17、問17付問1、問17付問2、問17付問3、問17付問4、問17付問4-2、問17付問5、問18、問19、問20)を参照。割合は表の件数から筆者が計算し直して確かめた(2026年10月確認)
- *3 参考:労働政策研究・研修機構「調査シリーズNo.257 人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」(https://www.jil.go.jp/institute/research/2025/257.html)。調査の目的、調査方法、調査対象、調査実査期間、有効回収数の確認として(2026年10月確認)