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AI推進法|2025施行と企業の実務対応・体制整備
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
2025年5月に成立した「AI推進法」(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)は、AIを正面から扱う日本の基本法です。同年9月には全面施行され、国のAI戦略本部も動き出しました。罰則を伴わない理念・推進型の法律ですが、AIを業務で使う企業には、活用を進めながら適正性を保つための体制づくりが求められます。本記事では、法律の全体像と企業に関わるポイント、そして現場で着手すべき実務対応を、委託・外注の視点も交えて整理します。専門部署がなくても読み進められるよう、要点を絞ってお伝えします。
生成AIの業務利用が急速に広がるなか、「使いたいが、情報漏えいや誤情報が不安で踏み出せない」という声は少なくありません。AI推進法は規制でブレーキをかけるのではなく、活用と信頼性の両立を後押しする枠組みです。だからこそ、企業側が自主的にABにルールと体制を整えることが、落ち着いてAIを使いこなす前提になります。
この記事のポイント
- AI推進法はAIを対象とする日本の基本法で、罰則を伴わない理念・推進型の法律です
- 企業は「活用事業者」として、適正な利用に協力する立場に位置づけられます
- 実務では利用ルール・データ管理・人間の関与という3点の体制整備が中心になります
目次
1. AI推進法とは|AIを対象とする基本法の全体像
AI推進法は、正式名称を「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」といいます。2025年5月28日に成立、6月4日に公布され、同年9月1日に全面施行されました*1。AIの研究開発と活用を国として後押しし、あわせて適正性・透明性を確保していくことを目的とした、AIを対象とする日本の基本法です。
1-1. 罰則のない「理念・推進型」の法律
この法律の大きな特徴は、違反への罰則を設けていない点です。特定の技術や用途を細かく規制するのではなく、AIの活用を進める方向性と、そのために国・自治体・事業者が担う役割を示す理念的な枠組みになっています。EUのAI法(AI Act)のようにリスク区分ごとに義務や制裁を課す方式とは異なり、まずは推進と信頼性向上の土台を整える設計といえます。企業にとっては「何かを禁じられる」というより、「過度な不安なく使うための環境が国全体で整えられていく」と捉えるほうが実態に近いといえます。
1-2. AI戦略本部と基本計画
全面施行にあわせて、内閣総理大臣を本部長とする「AI戦略本部」が設置されました*1。ここで政府全体のAI政策の司令塔として、今後の方向性を定める「AI基本計画」が策定されていきます。基本計画では「AIを使う」「AIを創る」「AIの信頼性を高める」「AIと協働する」といった方針が掲げられており、企業の活用を促す施策と、誰もが使いやすい環境づくりが両輪で進む見通しです。
基本計画やその後のガイドラインで示される具体策は、補助制度や人材育成、品質評価の指針など、企業にとって使える施策として現れてくることが期待されます。裏を返せば、動向を追いながら自社の活用計画に反映していく姿勢が、これからのAI活用では差になっていきます。
2. 企業(活用事業者)に関わる責務
AI推進法は、施策の計画と実施を国および地方公共団体の責務としたうえで、その実効性を確保するには研究開発機関・活用事業者・国民の協力が欠かせないとしています*2。AIを業務に取り入れる一般企業は、このうち「活用事業者」にあたり、国の施策への協力と、適正な活用に努める立場に位置づけられます。
| 主体 | 位置づけ | 企業に関わる点 |
|---|---|---|
| 国・地方公共団体 | 施策の計画・実施の責務 | 基本計画・支援策の受け皿を把握 |
| 研究開発機関 | 研究開発の推進に協力 | 共同研究・技術連携の相手方 |
| 活用事業者(企業) | 適正な活用への協力 | 利用ルール・体制整備が中心 |
罰則がないとはいえ、AIの誤作動や不適切な出力が実害につながれば、個人情報保護法や著作権法など既存の法令、あるいは取引先との契約責任が問われる場面はあります。AI推進法への「協力」は、こうした周辺リスクへの備えと一体で考えると実務に落とし込みやすくなります。つまり、法律への対応を独立した宿題として身構えるのではなく、日頃の情報管理やコンプライアンスの延長線上に位置づけると、着実に前へ進められます。
3. 企業に求められる実務対応|3つの柱
法律の詳細な運用は今後の基本計画で具体化されますが、企業が先行して着手できる備えは大きく3つに整理できます。いずれも特別な仕組みではなく、既存の社内ルールや情報管理を土台に組み立てられます。
3-1. 利用範囲と方針の明確化
まず、どの業務で・どのAIサービスを・誰が使ってよいのかを定めます。無秩序な利用は情報漏えいの温床になり、逆に一律禁止では現場が遠回りをします。用途ごとに可否を切り分けた利用規程を整え、機微な情報を外部AIに入力しないといった基本ルールを周知しておくことが出発点です。ルールは作って配って終わりにせず、新しいAIサービスの登場や利用状況の変化に合わせて見直すことで、実態に合った運用を保てます。
3-2. データ・個人情報・著作権の管理
AIに入力するデータには、個人情報や機密情報、第三者の著作物が含まれることがあります。入力してよい情報の範囲、外部サービスへのデータ送信の可否、生成物を業務利用する際の権利関係を、あらかじめ整理しておく必要があります。個人情報を含む場合は、既存の個人情報保護の運用と矛盾しないよう連携させておくと無理がありません。利用するサービスによっては、入力データが学習に使われる設定になっていることもあるため、契約条件や設定を確認したうえで、業務で使う範囲を見極めることが求められます。
3-3. 精度と人間の関与
生成AIは、もっともらしい誤り(ハルシネーション)を出すことがあります。出力をそのまま鵜呑みにせず、重要な判断や対外的な成果物には人による確認を挟む運用が欠かせません。どの工程で誰がチェックするのかを決め、AIはあくまで人の判断を支える道具として位置づけておくと、品質と説明責任を保ちやすくなります。特に顧客対応や公開文書のように、誤りが信用に直結する場面では、確認の工程を省かない運用が信頼につながります。
4. AIの開発・運用を委託するときの留意点
AIを使ったシステムの開発や運用を外部に委託する場合、統制の考え方は自社利用と共通です。委託先がどのモデルやサービスを使い、学習や推論にどのデータを用いるのかを把握できていなければ、有事の説明も改善もできません。契約や体制を見直す際は、次のような点を確認しておくとよいでしょう。
- 利用するAIモデル・外部サービスと、そのデータの取り扱い範囲
- 学習・推論に自社データを用いる場合の目的と再利用の可否
- 生成物の権利帰属と、第三者の権利を侵害しないための確認体制
- 誤作動・不適切な出力が生じた際の連絡と是正の手順
- 精度や品質の評価方法と、運用後の見直しの仕組み
これらは高度な専門知識がなくても、委託契約を一度点検すれば洗い出せる項目が中心です。丸投げにせず、自社が最終的な説明責任を負う前提で、状況を把握し続けられる関係を築いておくことが肝心です。委託先を選ぶ際は、単にツールを提供するだけでなく、リスク管理や動向のフォローまで伴走してくれるかどうかを見極めると、長い目で落ち着いて任せられます。
5. 内製と外注、段階的な進め方
利用ルールの整備や社内啓発といった上流は、自社の業務を最もよく知る内部が主導するのが向いています。一方で、AIを組み込んだシステムの構築や、精度・品質の評価、継続的な運用監視には専門的な体制が要り、多くの企業では内製と外注の組み合わせが現実的です。
| 観点 | 内製 | 外注(委託) |
|---|---|---|
| 立ち上げの速さ | 人材の育成に時間を要する | 既存の知見を早期に活用できる |
| 最新動向の追随 | 自社で情報収集が必要 | 専門ベンダーの知見を借りやすい |
| 運用・監視 | 体制の維持が負担になりやすい | 継続的な運用を任せやすい |
| ノウハウの蓄積 | 社内に残りやすい | 委託先依存になりやすい |
進め方としては、いきなり全社展開を目指すのではなく、小さく試して手応えを確かめながら広げるのが無理のない道筋です。まず利用ルールと確認体制という土台を整え、限られた業務で運用してみて、そこで得た知見を全社の方針に反映していく。段階を踏むことで、活用の効果と適正性のバランスを取りやすくなります。
判断の軸は、「ルール整備という一過性の取り組み」と「運用・監視という継続的な負荷」を分けて考えることです。方針づくりや社内啓発は自社が主導し、システムの構築や精度・品質の評価、日々の運用監視は専門ベンダーに委ねる、といった役割分担が現実的です。委託する場合も、説明責任は自社に残る点を踏まえ、状況を把握し続けられる関係にしておくことが欠かせません。
6. 段階的に進める備えのロードマップ
すべてを一度に整えようとすると負荷が大きく、途中で止まりがちです。優先度の高いものから順に着手するのが現実的で、おおまかには次の3ステップで進めると無理がありません。
ステップ1:現状把握(着手すべき最優先)
社内でどのAIサービスが、どの業務で使われているかを洗い出します。無自覚な利用(シャドーAI)が広がっていると、リスクの所在も見えません。あわせて、AIを含むシステムをどこまで外部に委託しているかを整理し、有事の連絡経路を確認しておきます。
ステップ2:ルールと確認体制の設計
次に、利用してよい範囲・入力してよい情報・生成物の確認方法を文書化します。判断の責任者と、誤った出力に気づいたときの連絡先を決め、限られた業務で一度運用してみると、抜け漏れが具体的に見えてきます。
ステップ3:運用定着と見直し
ルールは作って終わりではなく、技術の進歩や基本計画の具体化に合わせて更新し続ける必要があります。定期的に利用状況を点検し、現場の声を反映しながら磨いていくことで、形骸化を防げます。
いずれのステップも、完璧を目指すより「まず動く状態を作り、回しながら精度を上げる」姿勢が有効です。全容が固まるのを待つのではなく、着実に進められる現状把握から始めることが、結果的に最短の備えになります。
7. まとめ
AI推進法は、罰則で縛るのではなく、AIの活用と信頼性の両立を後押しする、AIを対象とした基本法です。企業は「活用事業者」として、自主的に利用ルール・データ管理・人間の関与という体制を整えることが求められます。法律の詳細は今後の基本計画で具体化されますが、待つのではなく、着手できる備えから始めることが、AIを使いこなす近道です。委託先を含めて統制の考え方をそろえ、段階的に広げていくことが、これからのAI活用を支えます。
よくある質問
AI推進法に違反すると罰則はありますか?
AI推進法自体には罰則規定がありません。理念・推進型の基本法であり、特定の行為を禁止して制裁を科す仕組みではないためです。ただし、AIの利用に伴う実害については、個人情報保護法や著作権法など既存の法令、契約上の責任が別途問われる場合があります。
中小企業もAI推進法の対象になりますか?
AIを業務で活用する企業は、規模を問わず「活用事業者」として適正な利用に協力する立場に位置づけられます。義務や罰則があるわけではありませんが、情報漏えいや誤情報のリスク管理は企業規模に関わらず必要であり、利用ルールの整備から着手することをおすすめします。
EUのAI法(AI Act)とは何が違いますか?
EUのAI法はリスクの高さに応じて義務や制裁を課す規制型ですが、日本のAI推進法は罰則を伴わない理念・推進型です。方向性が異なるため、EU向けにサービスを提供する企業は両方の考え方を踏まえておくとよいでしょう。
まず何から始めればよいですか?
AIの利用範囲と方針を定めた利用規程の整備が出発点です。あわせて、入力してよい情報の範囲や生成物の確認体制を決めておくと、現場が落ち着いてAIを使えるようになります。小さな業務で試しながら広げるのが無理のない進め方です。
AI開発を外注しても自社の責任は残りますか?
開発や運用を委託しても、AIを使って事業を行う主体としての説明責任は自社に残ります。委託先が使うモデルやデータ、生成物の権利関係を把握し、状況を確認し続けられる契約と体制を整えたうえで委託することが重要です。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:内閣府「AI法 全面施行 -次なるフェーズへ-」(https://www.cao.go.jp/press/new_wave/20251003.html)
- *2 出典:e-Gov法令検索「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(https://laws.e-gov.go.jp/)