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2026.08.21 らしくコラム

EU森林破壊防止規則|原産地データ設計



監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論

  • 規則の位置づけ:森林破壊のない製品に関する規則(Regulation (EU) 2023/1115)で、大企業・中企業は2026年12月30日から適用とされています*1。
  • 求められるもの:対象品目が最近森林を破壊した土地に由来しないことを示す必要があり、生産地の位置情報とデューディリジェンスの申告が中心になります*1。
  • データの勘どころ:点ではなく区画として位置を持ち、混ざったロットの系譜を辿れるか。既存の仕入データでは足りないことが多くなります。

※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。

調達の履歴を「どの取引先から仕入れたか」まで持っている企業は多いでしょう。しかし「その原料が、地球上のどの区画で生産されたのか」まで持っている企業は限られます。EUの規則は、そこを求めています。

森林破壊のない製品に関する規則(Regulation (EU) 2023/1115)——EU森林破壊防止規則です。対象となるのは、牛、木材、カカオ、大豆、パーム油、コーヒー、ゴムと、革製品・チョコレート・タイヤ・家具といった派生製品です*1。適用の開始は、大企業と中企業が2026年12月30日、小企業とマイクロ企業が2027年6月30日とされています*1。

本記事では、対象品目を扱う企業の情報システム部門と、その改修を受託する立場に向けて、データとして何を持つ必要があるのか、既存システムのどこに手が入るのかを整理します。適用の判断には法務の確認が要るため、実際の対応は最新の公式資料と確かめながら進めてください。

森林と農地が広がる産地のイメージ

規則が求めていること——三つの要素

この規則が事業者に求めていることは、大きく三つに整理できます*1。

EU森林破壊防止規則が求めるデータの流れを四段階(生産地の区画単位の位置情報、原料が混ざる一次加工、派生製品への加工、上市・輸出時のデューディリジェンス申告と記録の保持)で示し、基準日である2020年12月31日と、システム側で新たに必要になる三点(位置情報の器、ロットの系譜、証跡の保持)を整理した図

第一に、由来を示すことです。対象となる品目や製品が、最近森林が破壊された土地に由来しないこと、あるいは森林の劣化に寄与していないことを示す必要があります*1。基準となる日は2020年12月31日とされています*1。

第二に、デューディリジェンスです。供給の連鎖にわたってリスクを評価し、軽減する手続が求められます*1。産地の位置を特定する情報が、この評価の土台になります*1。

第三に、記録と申告です。遵守の状況を文書として残し、上市や輸出の際に申告を行う形になります*1。国ごとのリスク分類に応じて手続の重さが変わる仕組みも置かれています*1。

この三つを見ると、求められているものが「証明書」ではなく「データ」であることがわかります。取引先が発行した書類を集めるだけでは足りません。どの区画で生産されたものが、どの経路を通って自社の製品に入っているのか——それを自社で説明できる状態が必要になります。

対象の見極め——直接輸出していなくても関わる

まず自社が関わるかどうかを見極めます。対象となる品目は、牛、木材、カカオ、大豆、パーム油、コーヒー、ゴムです。そしてこれらから作られる製品——革製品、チョコレート、タイヤ、家具などが挙げられています*1。

日本企業の関わり方は、いくつかのパターンに分かれます。

表1:関わり方のパターンと、必要になる備え
立場 状況 必要になる備え
EUへ直接出す 対象製品をEU市場へ出す、またはEUから輸出する 申告と記録の主体になる。データを揃える責任を負う
EU向け製品へ供給 EUへ出す製品の原料・部材を供給する 取引先から情報提供を求められる。提供できる形が要る
EU拠点で製造 EU域内の自社工場で対象品目を使う 現地法人の手続と、本社側の情報提供が両方関わる
対象外だが隣接 対象品目を扱うが、EUとの取引がない 直ちには不要。ただし取引先の要求として来る可能性

実務でいちばん多いのが二つめのパターンでしょう。自社は日本国内で部材を作っているが、その部材がEU向けの製品に組み込まれる——この場合、取引先から原料の由来についての情報提供を求められることになります。

ここで問題になるのが、自社の仕入データの粒度です。「どの商社から、どの月に、何トン仕入れたか」までは持っていても、「その原料がどの区画で生産されたか」までは持っていない。多くの企業がこの状態にあります。

派生製品まで対象に含まれる点も見落としやすい部分です。木材そのものを扱っていなくても、木材から作られた部材を使っていれば関わってきます。輸出入の管理で扱うような品目分類の作業と重なる部分があるため、担当部署と情報を共有しておくと重複を避けられます。

位置情報をどう持つか——点ではなく区画

データ設計でいちばん新しいのが、位置情報の扱いです。生産が行われた土地の位置を特定する情報が求められます*1。

ここで注意したいのは、「産地の国名」や「地域名」では足りないという点です。土地の単位で特定する必要があるため、緯度と経度の情報を持つことになります。しかも、小さな農地であれば一点の座標で足りる場合もありますが、面積のある区画では形として持つ必要が出てきます。

システム側で用意すべきものを挙げます。

第一に、位置情報を格納できる項目です。既存の仕入マスタや原料マスタには、こうした項目がないことが普通です。緯度・経度の組、あるいは多角形として区画を表す情報を持てる構造が必要になります。データベースが地理情報を扱える形になっているかも確かめます。

第二に、精度と形式の統一です。取引先から受け取る座標が、桁数の違う形式で来る、測地系が異なる、小数点の表記が揺れる——こうした乱れは実際に起こります。受け取る段階で形式を検査し、揃える処理が要ります。

第三に、区画と原料の紐づけです。一つの原料ロットが複数の区画に由来する場合、その組み合わせを持てる必要があります。一対一の関係で設計すると、後で作り直しになります。

第四に、時点の管理です。基準となる日が2020年12月31日とされているため*1、その時点でその土地がどうだったかが問われます。区画の情報に「いつの情報か」を添えて持つ設計にしておくと、後の確認がしやすくなります。

この種のデータは、既存のマスタ管理の枠組みに載せるのが素直です。マスタデータ管理で扱うような、正となるデータをどこに置き、どう配るかという設計がそのまま当てはまります。

混ざるという問題——ロットの系譜

位置情報を集められたとしても、次の難所が待っています。原料が混ざることです。

カカオも大豆もパーム油も、多くの場合は複数の生産地の原料がまとまって流通します。集荷の段階で混ざり、一次加工の段階でさらに混ざる。この状態で「この製品はどの区画に由来するか」を答えるのは簡単ではありません。

実務での対応は、いくつかの形に分かれます。

ロットを分けて管理する形です。混ざらないように保管と加工の単位を分け、それぞれの由来を保つ。品質としては確実ですが、在庫の管理も設備の運用も負担が増えます。

組み合わせとして持つ形です。混ざることを前提に、「このロットは、これらの区画の原料から成る」という集合として持つ。実務的で、多くの場面でこの形になります。ただし集合が大きくなるほど、一つの区画に問題が見つかったときの影響範囲が広がります。

投入と産出の対応で追う形です。工程ごとに、何を投入して何が出たかを記録し、遡れるようにする。製造の実行管理で扱うような仕組みを持っている企業なら、この記録を土台にできます。

どの形を選ぶかは、扱う品目と工程の性質で決まります。決め方の順序としては、まず「どこまで遡れる必要があるか」を確かめ、次に「現状の工程でどこまで分けられるか」を測り、その差を埋める方法を考えることになります。

食品を扱う企業では、既存の追跡の仕組みが土台になります。食品のトレーサビリティで扱うようなロット管理があれば、そこに位置情報の項目を足す形で進められる場合があります。ゼロから作るより、既存の仕組みを拡張できるかを先に確かめるのが得です。

取引先からデータを集める仕組み

自社のシステムを整えても、データが集まらなければ意味がありません。取引先から情報を受け取る仕組みが要ります。

受け取る手段です。表計算のファイルをメールでもらう形から始まることが多いでしょう。件数が少なければ回りますが、区画の単位で情報を扱うと行数が膨らみます。入力用の画面を用意する、あるいは決まった形式のファイルを受け取る仕組みを作るかを、量を見て判断します。

検査の仕組みです。受け取ったデータが使える形かを、受け取った時点で確かめます。座標の形式、必須項目の欠落、数量の整合。ここを人が目で見る運用にすると、量が増えたときに破綻します。

更新の扱いです。産地は変わります。取引先が仕入先を変えることもあります。一度集めて終わりではなく、いつの情報なのかを持ち、更新を受け取れる形にしておく必要があります。

取引先側の負担への配慮です。相手にとっても、区画の座標を集めるのは新しい作業です。無理な形式を求めると、そもそもデータが集まりません。段階的に精度を上げる進め方も選択肢になります。

この構造は、他の情報開示の枠組みと似た形をしています。排出量の算定で扱うような、取引先からデータを集めて自社で集計するという流れと、仕組みの作り方は共通します。担当部署が分かれていると、同じ取引先へ別々に依頼する事態が起こります。窓口を整理しておく価値があります。

申告と証跡——出したあとに問われる

デューディリジェンスの申告を出すことと、記録を保持することが求められます*1。システムの側から見ると、この二つは性格が違います。

申告は、決まった形式で出す作業です。提出の仕組みが用意されている場合、そこへ送るデータを自社のシステムから生成できるかが問われます。手作業で転記する運用は、件数が増えると回りません。

記録の保持は、後から問われることへの備えです。どのデータに基づいて、どう判断し、何を申告したか。時間が経ってから確認を求められる可能性があるため、当時の状態を再現できる形で残す必要があります。

ここで実装上の注意点があります。マスタを上書きで更新していると、当時の状態が失われます。区画の情報が更新された、取引先が変わった——こうした変化があると、過去の申告の根拠を示せなくなります。

対策としては、申告の時点でのデータを固めて保持する形が確実です。参照ではなく、その時点の値を写して残す。容量は増えますが、後から説明できる状態を保てます。監査ログの考え方で扱うような、後から追える形での記録が土台になります。

加えて、国ごとのリスク分類に応じて手続の重さが変わる仕組みが置かれています*1。分類が見直されれば、必要な作業も変わります。分類を設定として持ち、変更に追随できる形にしておくと、そのたびの改修を避けられます。

時間軸と、着手の順序

適用の開始は、大企業と中企業が2026年12月30日、小企業とマイクロ企業が2027年6月30日とされています。なお、EUの木材規則の対象だった小企業・マイクロ企業については2026年12月30日とされています*1。

この時期から逆算すると、着手の順序は次のようになります。

第一に、対象の特定です。自社が扱う品目・製品のうち、対象に当たるものを洗い出します。派生製品まで含めるため、部材の構成を追う作業が必要になることもあります。

第二に、現状データの測定です。いま持っている仕入や原料のデータで、どこまで遡れるのか。取引先の名前までか、産地の国名までか、それ以上か。この測定が改修の範囲を決めます。

第三に、取引先への打診です。データを提供できるかを確かめます。ここで提供できない取引先が見つかると、調達の見直しという別の判断が必要になります。システムの改修より前に、この確認を進めておく価値があります。

第四に、器を作ることです。位置情報を持てる構造、ロットの系譜を辿れる構造。データが集まってから作るのでは間に合いません。

第五に、集めて検査する運用を回すことです。実際にデータを集め始めると、想定していなかった形式や欠落が出てきます。早めに小規模で試し、問題を洗い出しておきます。

優先順位としては、EUへ直接出している製品、そして数量の多い品目から着手するのが現実的でしょう。すべてを同時に整えようとすると、どれも中途半端になります。

受託・委託で進めるときの要点

この種の改修を外部と進める場合の要点を挙げます。

第一に、現状データの調査を独立した工程にすることです。どこまで遡れるかの測定は、それ自体に工数がかかります。この結果で改修の範囲が変わるため、調査と実装を分けて発注する形が合理的です。

第二に、位置情報の扱いに慣れた要員を入れることです。座標の形式、測地系、区画を面として扱う処理。一般的な業務システムの開発とは別の知識が要る領域です。この部分を担える体制かを確かめます。

第三に、既存システムの拡張か新設かを早く決めることです。既存の在庫や生産の仕組みに項目を足すのか、別の仕組みを作って連携するのか。この判断で工数が大きく変わります。既存システムの構造を調べたうえで決めます。

第四に、取引先とのやり取りの担い手を決めることです。データの提供を依頼し、形式を調整する作業は、調達部門の領域です。開発側は受け取る仕組みを作る役割に集中し、依頼の窓口を分けておきます。

第五に、段階的に出す計画にすることです。位置情報を持てる器を先に、取引先からの受け取りを次に、申告データの生成をその後に。全部を一度に作るより、順に出すほうが確実です。

体制としては、調達と生産の業務を理解している要員が入れるかが分かれ目になります。データ構造だけを設計する体制では、混ざる原料の扱いという実務の勘所に届きません。業務側と設計側が同じ場で話せる形を作れるかを、委託先を選ぶ観点に入れておくとよいでしょう。

まとめ:EU森林破壊防止規則への備えで押さえる3つの視点

森林破壊のない製品に関する規則(Regulation (EU) 2023/1115)は、牛・木材・カカオ・大豆・パーム油・コーヒー・ゴムとその派生製品を対象とし、大企業と中企業には2026年12月30日から、小企業とマイクロ企業には2027年6月30日から適用されるとされています。押さえたい視点は三つです。第一に、求められているのが証明書ではなくデータであり、生産が行われた土地の位置を区画の単位で特定し、2020年12月31日という基準日との関係を示せる状態が必要になること。第二に、原料が混ざる工程をどう扱うかが実務の難所であり、ロットを分ける形、組み合わせとして持つ形、投入と産出の対応で追う形のいずれを選ぶかを、遡る必要のある範囲と現状の工程の実態から決める必要があること。第三に、申告の根拠を後から示せるよう、その時点のデータを固めて残す設計にしておく必要があることです。まずは対象品目の洗い出しと、現状の仕入データでどこまで遡れるかの測定、そして取引先がデータを提供できるかの打診から着手するのが堅実でしょう。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)として、調達・生産・在庫に関わる業務システムの開発と改修を受託しています。位置情報を扱えるデータ構造の設計、ロットの系譜を辿る仕組み、取引先からのデータ受付と検査、申告データの生成と証跡の保持まで、業務の実態に合わせた形をご提案できるのが強みです。

よくある質問

EUへ輸出していなければ関係ありませんか。

直ちに申告の主体になるとは限りませんが、EU向け製品へ原料や部材を供給している場合、取引先から由来についての情報提供を求められることになります。派生製品まで対象に含まれるため、木材やパーム油などを直接扱っていなくても、それらを使った部材を通じて関わる可能性があります。

産地の国名までしか持っていません。足りますか。

足りません。生産が行われた土地の位置を特定する情報が求められるため、区画の単位で緯度・経度を持つ必要があります。既存の仕入マスタにはこうした項目がないことが普通なので、位置情報を格納できる構造を用意するところから始まります。

原料が混ざる工程はどう扱えばよいですか。

三つの形があります。ロットを分けて混ざらないように管理する形、混ざることを前提に「これらの区画の組み合わせ」として持つ形、そして工程ごとの投入と産出の対応で遡る形です。多くの場面では二つめか三つめになります。遡る必要のある範囲と、現状の工程でどこまで分けられるかを測って決めます。

いちばん先に着手すべきことは何ですか。

取引先がデータを提供できるかの打診です。システムの器を作っても、データが集まらなければ機能しません。提供できない取引先が見つかれば調達の見直しという別の判断が必要になるため、確認は早いほうがよいでしょう。並行して、現状の仕入データでどこまで遡れるかを測ります。

申告したあとに問われることはありますか。

遵守の状況を文書として残すことが求められます。時間が経ってから確認を求められる可能性があるため、どのデータに基づいてどう判断し何を申告したかを再現できる形で残す必要があります。マスタを上書きで更新していると当時の状態が失われるため、申告時点のデータを固めて保持する設計が確実です。

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出典

  1. *1 参考:European Commission「Regulation on deforestation-free products」(https://environment.ec.europa.eu/topics/forests/deforestation/regulation-deforestation-free-products_en)。規則の番号、適用開始日、対象品目と派生製品、由来の証明・デューディリジェンス・位置情報・基準日・国別リスク分類・記録の保持に関する一次情報として(2026年8月確認)




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