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LLMデータ保護条項|4つの役割とフローダウン
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 役割を4つに分けて定義:Developer/Integrator/Operator/Service Providerです*1。
- 条項を下位へ流す仕組み:役割ごとのフローダウン補助条項が用意されています*1。
- 学習への流用は禁止の例:政府データでの訓練・微調整・改善が挙げられています*1。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
生成AIを業務に入れるとき、揉めるのは入れたデータがどこまで使われるのかです。ここを契約の文面で決めようとしている例があります。
米国の連邦調達庁(GSA)が2026年6月17日、LLMの中の政府データの基本的な保護に関する新しい調達規則条項(GSAR 552.239-7001)の案について意見を求める通知を連邦官報に掲載しました*1。意見の期限は2026年8月3日でした*1。
生成AIを組み込む立場、あるいは委託先にLLMを使わせる立場に向けて、条項案が何をどう縛っているかを一次情報から整理します。日本の委託契約でも、そのまま論点として使えます。
目次
何のための条項案か
まず位置づけです*1。
GSAはLLMの中の政府データの基本的な保護に関する、新しい連邦調達庁調達規則(GSAR)条項の案について公衆の意見を求めているとしています*1。問題が複雑であるため、将来の措置(たとえば特例や正式な規則制定)をとる前に、関係者から意見を集めるためにこの通知と条項案を公表すると説明されています*1。
使う場面も示されています*1。条項は552.239-7001「大規模言語モデル人工知能システム(LLM)の中のデータの基本的な保護」として、GSAの政府全体向けの契約(たとえばFederal Supply Schedule、GWACs、OASIS+)で使われうるとされています*1。
背景も明記されています*1。LLMシステムの急速な進展と普及は、連邦機関に前例のない機会と大きな課題の双方をもたらすとされ、GSAがこれらの技術について契約を整えるにあたり、政府データの完全性、セキュリティ、適切な取り扱いを確保することが最重要であると述べられています*1。
参照している文書も具体的です*1。大統領令(たとえば大統領令14110「安全で、セキュアで、信頼できるAIの開発と利用」)やOMBの覚書(たとえばOMB覚書M-25-22「政府におけるAIの効率的な調達の推進」)に示された原則、およびこの条項の最初の案に寄せられた意見によって形づくられたとされ、最初の案は2026年1月12日にGSA Interactで出されたとされています*1。
適用範囲の絞り方が実務的です*1。この条項は、政府データがLLMによって処理される場合にのみ適用されるとされ、適用されない場合としてLLMがワードプロセッサや地図ナビゲーションのような一般的な商用製品に組み込まれている場合、LLMの機能が、調達される中核要件の主たる目的に対して付随的である場合が挙げられています*1。「AIが入っていれば全部対象」ではありません。
役割を4つに分ける——誰が何を握っているか
この条項案の骨格は役割の定義です*1。改定の要点としてLLMのサプライチェーン内の各機能に関わる共通の役割(すなわちLLM Developer、LLM System Operator、LLM System Integrator、LLM Service Provider)を定め、共通して当てはまる役割で機能する下請業者またはサービス提供者に対して、基本条項の特定の項・要件を流すこと(フローダウン)を義務づけるよう更新したとされています*1。目的は、データ保護の責任をLLMの開発と展開の複雑なエコシステム全体へ適切に及ぼすこととされています*1。
| 役割 | 定義の内容 |
|---|---|
| LLM Developer | 設計、開発、訓練、微調整、校正、試験、公開、ライセンス供与などによりLLMを利用可能にする者。モデルの重み、インターフェース、モデルカード、安全性の文書、条件付きの利用制限を含むとされ、NIST AI RMF 1.0 附属書AのAI Developmentの主体区分に主として対応するとされています |
| LLM System Integrator | 特定の展開や利用事例においてLLMシステムの振る舞いを選定、設定、適応、または実質的に統制する者。モデルの選定、システムプロンプト、プロンプトのテンプレート、RAGの参照元、微調整データ、ツール、プラグイン、エージェント、ガードレール、フィルタ、評価基準、人の確認の閾値、出力の制約の設定が挙げられています |
| LLM System Operator | LLMまたはLLMシステムをホストし、提供し、運用し、またはアクセスを提供する者。クラウド基盤、モデルのエンドポイント、実行環境、APIの可用性、容量管理、ログ、保持、実行時のセキュリティを通じた提供を含むとされています |
| LLM Service Provider | LLMを用いたアプリケーション、製品、サービス、ワークフロー、API、ユーザーインターフェース、業務機能を顧客または利用者に提供し、そのアプリケーションやワークフローの中で、サービスの提示、アクセス、管理、支援、利用のあり方を統制する者とされています |
流し方も条項番号で決まっています*1。受託者は、フローダウン補助条項に定める当てはまる役割で機能するいかなる下請業者またはサービス提供者に対しても、基本条項の特定の項を及ぼさなければならないとされ、552.239-7001-1(LLM Developer)、-2(LLM System Operator)、-3(LLM System Integrator)、-4(LLM Service Provider)が挙げられています*1。単一の主体が複数の役割を果たす場合には、複数のフローダウン補助条項を用いるべきとされています*1。
LLMそのものの定義も広く取られています*1。LLMには、モデルが設定され、展開され、運用され、監視され、または政府データの処理のために利用可能にされる、統合された技術的・運用的な環境が含まれるとされ、内訳としてモデル、ホスティングとアクセスの基盤、システムプロンプト、設定、知識ベース、検索の仕組み、API、ユーザーインターフェース、ガードレール、監視システム、関連するワークフローが挙げられています*1。EU AI Actの高リスク分類と同様に、モデル単体ではなく周辺を含めて一体で見る組み立てです。
データの範囲と、禁じられる使い方
何が「政府データ」なのかが細かく定義されています*1。
Data Inputsは政府によって、または政府のために作られ、LLMおよび関連する運用システムに提出されたすべてのデータ、情報、個人識別情報(PII)、コンテンツとされ、例として利用者のプロンプト、クエリ、指示、システムプロンプト、元データ、文書、知識ベース、政府のメールアドレス、利用者アカウント情報が挙げられています*1。
Data OutputsはLLMが契約の履行において生成したすべてのデータ、情報、PII、Data Inputsに加えられた改善・強化・修正・注釈その他の変更、コンテンツとされ、例として応答、結果、分析、匿名化されたデータ、派生データ、メタデータ、ログ、合成データが挙げられています*1。Background Dataを取り込んでいるか、それに由来するかを問わないとされ、一方で性能指標、トークン数、処理時間のように、政府の情報や利用の文脈を含まない技術的なシステムレベルのデータは除くとされています*1。
| 禁止例 | 内容 |
|---|---|
| 学習への流用 | 第三者が運用するものを含め、LLMの訓練や微調整に用いること、あるいは他の顧客向けや商用・非商用の目的でLLMを開発するために用いることとされています |
| 事業判断への利用 | 受託者の広告、マーケティング、販売、収益化、戦略、運営その他の事業上の判断に活かすこと、あるいは他の政府・非政府の主体に提供することとされています |
| 範囲外の保持 | 契約で明示的に認められた範囲と期間を超えて保持し、アクセスし、または利用することとされています |
| 未承認の相手への移転 | 契約で認められていない相手、または適用要件の適切な拡張(フローダウン)を経ていない相手とともに処理・保存し、またはその相手に移転することとされています |
| 販売・ライセンス | 政府データをいかなる相手に対しても販売しまたはライセンス供与することとされています |
権利関係も明確です*1。政府は、すべての政府データとCustom Developmentsの完全な所有権を保持し、また所有するとされ、受託者には個々の契約の期間中、限定的で撤回可能な、非独占の、譲渡不能のライセンスが与えられるとされています*1。用途は要件の履行、必要な技術支援と保守、契約担当官が書面で認めたその他の用途に限られます*1。
人が見ない仕組みと、期限が数字で書かれた通知
技術要件の書き方が具体的です*1。
受託者は、通常の運用において、受託者または第三者の人員が政府データを閲覧し、アクセスし、または確認することを防ぐデータ取扱手続を実装しなければならないとされ、その中身として人による内容確認を伴わない自動的なデータ取り込み・処理・応答生成、人員が政府データを閲覧できないようにする技術的なアクセス制御、政府データを人員が読めない状態にする暗号化された伝送と処理、政府データの内容を露出させずにシステムの運用・監視・保守を可能にする管理的・技術的な保護策、実際の政府データを取り込んだり表示したりせずにデータ処理の活動を追跡する監査ログのシステムが挙げられています*1。
期限が数字で並ぶのも特徴です*1。
72時間(不適合の通知)。この条項への不適合を知った場合、72時間以内に契約担当官に通知するとされています*1。
72時間(インシデント)。政府データを扱う受託者(第三者を含む)に影響するインシデントの発見から、できるだけ速やかに、遅くとも72時間以内に契約担当官と政府が示す連絡先に通知し、解決するまですべての連絡先に日次で状況を更新するとされています*1。通知に含める事項としてインシデントの性質と範囲、影響を受けた可能性のあるデータ、直ちにとった是正措置、完全な解決までの見通し、再発を防ぐ措置が挙げられています*1。
90日(証跡の保存)。政府データが関係するセキュリティインシデントから最低90暦日、関連するすべてのログ、フォレンジックイメージ、インシデントの成果物を保存し、法執行機関による後続の調査活動を支えるとされています*1。あわせてCISAのインシデント報告フォームの記入も求められています*1。
120日と30日(開示)。契約または発注の履行において使用し、または利用可能にしたすべてのLLMを開示し、フローダウン補助条項が定める役割を担うすべての主体を開示するとされ、期日が指定されていない場合は、契約または発注のもとで作業を開始してから120日以内とされています*1。またLLMが米国連邦政府以外の法令や政策に適合するよう改変または設定されているかを、契約締結後30日以内に開示するとされています*1。
追跡可能性の要件も設計に直結します*1。政府が人による監督、介入、追跡可能性を実装できる手段を提供するとされ、LLMが推論、検索、エージェント的な処理といった中間的な処理を用いる場合、データ入力からデータ出力までの中間の段階を要約し、その情報をデータ出力、監査証跡、および該当する場合はユーザーインターフェースを通じて参照できるようにしなければならないとされています*1。最低限の内容として要約された中間の処理動作と判断点、モデルのルーティングの判断とその根拠、用いたデータ取得の方法(RAG、ウェブ検索など)と、直接のリンクおよび応答の生成に用いた資料の関連する抜粋を含む完全な出所の表示が挙げられています*1。
日本の委託契約に引き写せる論点
そのまま自社の契約と設計に置き換えて読める部分を挙げます。
第一に、適用の入口を絞る書き方です。条項案は政府データがLLMによって処理される場合にのみ適用とし、一般的な商用製品への組み込みや付随的な機能を外しています*1。「AI利用を全部申告」にすると運用が止まるので、自社データが処理されるかを線引きにする発想は流用できます。
第二に、役割で責任を割る発想です。4つの役割は誰がモデルを作ったか、誰がプロンプトとRAGの参照元を決めたか、誰が動かしているか、誰が画面を出しているかで分かれています*1。一次請けが全部を負う形ではなく、握っている変数の持ち主に条項を当てる設計です。
第三に、データの定義に出力とログを含めることです。Data Outputsには応答、派生データ、メタデータ、ログ、合成データが入ります*1。入力だけを守る条項では足りません。
第四に、受託者側の資産を名前で切り出すことです。条項案は、受託者が所有・管理する既存のコンテンツや知識ベースをBackground Dataとして別に定義し、ベクトルストア、埋め込み、知識グラフ、プラグイン、ツール呼び出し、エージェントの動作を通じて出力に混ざりうるものとしています*1。RAGの参照元の権利関係を先に切り分けておくと、後で揉めません。
誤解されやすいのは、これは米国政府の調達だから関係ないという受け取り方です。中身は生成AIを他社に使わせるときの契約と設計のチェックリストとして読めます。ただしこれは条項の案で、GSAは将来の措置をとる前に意見を集めるために公表したとしています*1。意見の期限は2026年8月3日で、最終的な条項の文言は変わりえます*1。
条項案の全文は連邦官報で公開されています*1。適用の可否は事情により変わりますので、確認を挟みながら進めてください。
まとめ:LLMデータ保護条項で押さえる3つの視点
米国GSAは2026年6月17日、LLMの中の政府データの基本的な保護に関するGSAR条項552.239-7001の案について意見を求める通知を連邦官報に掲載しました。Notice-MVAC-2026-01で、意見の期限は2026年8月3日でした。押さえたい視点は三つです。第一に、適用と役割。条項は政府データがLLMによって処理される場合にのみ適用され、一般的な商用製品への組み込みや機能が付随的な場合は適用されません。そのうえでLLM Developer、LLM System Operator、LLM System Integrator、LLM Service Providerという4つの役割を定め、役割ごとのフローダウン補助条項によって下請業者やサービス提供者へ要件を及ぼします。第二に、データの範囲と禁止事項。Data Inputsにはプロンプトやシステムプロンプトや知識ベースが含まれ、Data Outputsには応答や派生データやメタデータやログや合成データが含まれます。政府データを訓練・微調整・改善に用いること、事業判断に活かすこと、範囲と期間を超えて保持すること、未承認の相手へ移転すること、販売やライセンス供与することが禁止の例として挙げられています。政府はすべての政府データとCustom Developmentsの所有権を保持します。第三に、技術要件と期限。人による内容確認を伴わない自動処理、実データを表示しない監査ログ、FedRAMP認証サービスの外への持ち出し禁止、他顧客データとの論理的分離、終了時の恒久的な削除と書面での証明が求められます。通知は不適合とインシデントのいずれも72時間、証跡の保存は最低90日、使用LLMと関与主体の開示は着手から120日以内、非米国政府向けの改変の開示は30日以内とされています。
よくある質問
どの段階の文書ですか。
GSAR条項552.239-7001の案について意見を求める通知で、2026年6月17日に連邦官報に掲載されました。Notice-MVAC-2026-01、意見の期限は2026年8月3日でした。GSAは、問題が複雑であるため、将来の措置(たとえば特例や正式な規則制定)をとる前に関係者から意見を集めるために公表したとしています。
どんな場合に適用されるのですか。
政府データがLLMによって処理される場合にのみ適用されるとされています。適用されない場合として、LLMがワードプロセッサや地図ナビゲーションのような一般的な商用製品に組み込まれている場合、およびLLMの機能が調達される中核要件の主たる目的に対して付随的である場合が挙げられています。
4つの役割とは何ですか。
LLM Developer(設計・開発・訓練・微調整などでLLMを利用可能にする者)、LLM System Integrator(モデル選定、システムプロンプト、RAGの参照元、ガードレール、人の確認の閾値などを決める者)、LLM System Operator(ホスティング、モデルのエンドポイント、実行環境、APIの可用性、ログ、保持、実行時セキュリティを担う者)、LLM Service Provider(LLMを用いたアプリや製品やAPIやUIを提供し、その利用のあり方を統制する者)です。役割ごとにフローダウン補助条項が用意されています。
政府データはどう使えないのですか。
第三者が運用するものを含めLLMの訓練・微調整・改善に用いること、受託者の広告や販売や戦略などの事業判断に活かすことや他の主体に提供すること、契約で認められた範囲と期間を超えて保持・アクセス・利用すること、認められていない相手やフローダウンを経ていない相手とともに処理・保存し移転すること、販売やライセンス供与することが禁止の例として挙げられています。
通知や保存の期限はどうなっていますか。
条項への不適合を知った場合は72時間以内に契約担当官へ通知します。インシデントは発見からできるだけ速やかに、遅くとも72時間以内に通知し、解決するまで日次で状況を更新します。関連するログやフォレンジックイメージは最低90暦日保存します。使用したすべてのLLMと関与する主体の開示は、期日の指定がない場合は作業開始から120日以内、米国連邦政府以外の法令や政策への適合のための改変の有無は契約締結後30日以内とされています。
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出典
- *1 参考:U.S. General Services Administration「General Services Acquisition Regulation; Acquisition of Information and Communication Technology」(連邦官報 2026年6月17日)(https://www.federalregister.gov/documents/2026/06/17/2026-12205/general-services-acquisition-regulation-acquisition-of-information-and-communication-technology)。GSAがLLM内の政府データの基本的な保護に関する新GSAR条項の案について意見を求めていることと将来の措置の前に意見を集める趣旨、2026年6月17日の連邦官報掲載と2026年8月3日の意見期限およびNotice-MVAC-2026-01、条項552.239-7001の名称とFederal Supply ScheduleやGWACsやOASIS+での利用可能性、大統領令14110およびOMB覚書M-25-22と2026年1月12日のGSA Interact初版案という経緯、適用が政府データがLLMで処理される場合に限られることと一般的商用製品への組み込みおよび付随的機能の除外、4つの役割の定義とNIST AI RMF 1.0附属書Aの主体区分への対応、フローダウン補助条項552.239-7001-1から-4の構成、LLMの定義に統合された技術的運用的環境が含まれること、Data InputsとData OutputsとBackground Dataの定義と除外事項、政府データの禁止される使い方の5例、政府がすべての政府データとCustom Developmentsの所有権を保持することと受託者に与えられる限定ライセンスの範囲および創出と同時の権利譲渡、人による内容確認を伴わない自動処理と実データを表示しない監査ログを含むデータ取扱手続、FedRAMP認証サービス外への持ち出し禁止と論理的分離の要件およびFedRAMP認証レベル遵守による充足のみなし、契約終了時の恒久的削除と書面での証明、不適合の72時間通知とインシデントの72時間通知および日次更新と通知記載事項、証跡の最低90暦日保存とCISAインシデント報告フォームの記入、使用LLMと関与主体の120日以内の開示と非米国政府向け改変の30日以内の開示、ならびに人による監督と介入と追跡可能性の手段の提供および中間処理の要約の一次情報として。確認日は2026年9月4日。(2026年9月確認)
- *2 参考:U.S. General Services Administration「GSAR clause 552.239-7001 draft(全文テキスト)」(https://www.federalregister.gov/documents/full_text/text/2026/06/17/2026-12205.txt)。上記通知の連邦官報掲載全文。背景、変更点の説明、意見を求める5つの質問、および条項案本文((a)適用とフローダウンから(j)まで)の原文の確認に使用。確認日は2026年9月4日。(2026年9月確認)