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EUオープンソース戦略がなぜ調達を変えるのか
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- OSSが主権の中心に置かれた:重要領域で非EU製プロプライエタリの代替を推す戦略です*1。
- 調達の評価方法に手が入る:オープン標準の調達指針とOSS応札の公正な評価が挙げられています*1。
- 維持のための仕組みも新設:オープンソース保守インストゥルメントと依存関係の把握です*1。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
オープンソースの話は「ライセンスをどう守るか」に寄りがちですが、EUでは調達の側から動き始めています*1。
欧州委員会のEUオープンソース戦略は、オープンソースをEUの技術主権の中心に据え、重要な領域において非EU製のプロプライエタリな解決策に対する欧州発のオープンな代替を推すものと説明されています*1。欧州技術主権に関する通達に組み込まれ、クラウド・AI開発法やChips Act 2.0と同じEUデジタル主権パッケージの一部とされています*1。
OSSを組み合わせてシステムを作る立場、あるいはEUの公的機関を最終顧客に持つ立場に向けて、4つの目的と調達・維持の具体策を一次情報から整理します。戦略文書ですので、個別の適用は確認を挟んで進めてください。
目次
位置づけと、狙っている効果
まず何のための戦略なのかです*1。
欧州委員会は、この戦略が公共部門と民間部門の双方にわたって、オープンソース技術の開発、拡大、展開および長期的な持続可能性を支えることで、欧州のオープンなデジタルのエコシステムを強めることを目指すとしています*1。
技術主権との関係も一行で示されています*1。オープンソースは非EU製の技術への依存を減らし、ソフトウェアとハードウェアのシステムを含む重要なデジタルインフラに対する統制を高めることに役立つとされています*1。
誰に恩恵が及ぶのかも整理されています*1。
| 対象 | 挙げられている効果 |
|---|---|
| 公的機関 | 選択肢の増加、デジタルインフラに対する統制の強化、相互運用性の改善、ロックインの低減、解決策のより効率的な再利用 |
| 企業と中小企業 | 参入障壁の低下、共有されたイノベーションのエコシステムへのアクセス、新しいデジタル製品を開発し拡大する機会 |
| 市民 | 選択肢の増加、より透明で信頼できる、EUの価値に沿ったデジタルサービス |
| 開発者とイノベーター | 大規模な協働のエコシステムへのアクセスによる、知識の共有、実験、国境を越えた協力 |
課題の側も率直に書かれています*1。長期的な資金の不足、プロジェクトの維持と拡大の難しさ、イノベーションから産業への展開へ移る際の障壁が挙げられ、加えて欧州発の解決策の見えにくさ、公共調達へのアクセスの限られていること、支配的な非EU製技術の提供者への依存が指摘されています*1。
とくに重い一文がこれです*1。多くの場合、オープンソースのプロジェクトが生み出す経済的価値は欧州の外で獲得されており、欧州の開発者と企業が自らの貢献から十分に恩恵を受ける能力を制限しているとされています*1。作る人と稼ぐ人がずれているという問題の立て方です。
全体像——ライフサイクル全体を対象にする
手法の特徴は、切れ目を作らないことです*1。
欧州委員会は、この戦略がライフサイクル全体にわたる手法を採り、研究開発から市場での採用、展開、そして重要なオープンソース構成要素の長期的な保守とガバナンスまでの連鎖全体を対象とするとしています*1。EUの機関の内部も含むと明記されています*1。
具体的な行動として、貢献者、財団、企業、利用者を支えること、実行可能なオープンソースのビジネスモデルを可能にすること、調達においてオープンソースを促進すること、標準化と国際協力においてオープンソースの役割を強めることが挙げられています*1。
実施の重点領域も列挙されています*1。EUデジタルIDのエコシステム(欧州デジタルIDウォレットと欧州ビジネスウォレットを含む)におけるオープンソース解決策の促進、デジタルコモンズのための欧州デジタルインフラ・コンソーシアムを通じた加盟国との協力、公的機関をオープンソースの中核的な利用者かつ貢献者にすることが並びます*1。
技術領域の指定もあります*1。オペレーティングシステム、クラウドとエッジ、AI、サイバーセキュリティ、ソフトウェア開発の基盤、半導体、将来のインターネット構造といった重要な技術領域で、新しいオープンソースの構成要素の開発を支えるとされています*1。
維持の話も明示されています*1。重要なオープンソース構成要素の長期的な保守、セキュリティ、持続可能性を確保するとされ、その手段としてスチュワードシップ、EUの評価枠組み、依存関係の分析、そしてオープンソース保守インストゥルメントが挙げられています*1。
人材面も入っています*1。オープンな技術で働くための技能の向上が挙げられ、Erasmus+ Programme 2027のようなプログラムを通じたオープンソース開発の支援と貢献者の移動が示されています*1。
4つの目的と、それぞれの行動
目的は四つに分かれます*1。
| 目的 | 主な行動 |
|---|---|
| 目的1:技術主権のためのオープンソース | EUの優先事項と規則に沿ったオープンソース解決策の目録「Open Internet Stack」の拡大。加盟国とデジタルコモンズEDICとともに、クラウド、業務用ツール、安全な電子メール、分散型ソーシャルメディアといった領域でプロプライエタリの代替の採用を後押し。EUデジタルIDウォレット、欧州ビジネスウォレット、年齢確認におけるオープンソースの促進。半導体、オペレーティングシステム、クラウド、AI、サイバーセキュリティ、将来のインターネットでのオープンソース資金の優先 |
| 目的2:活気あるオープンソースのエコシステム | アクセラレーター、法務・ライセンスの支援、研修、調達機会によるスタートアップの支援。スチュワードシップのツールキットの整備と、戦略的資産についてEU域内のスチュワード組織の支援。セキュリティ面ではオープンソース保守インストゥルメントの創設、重要な依存関係の把握、ミラーリングの能力。学校、大学、公務員、学習者に向けた技能への投資 |
| 目的3:行政におけるオープンソース | オープン標準のための調達ガイドラインと、オープンソースの応札を公正に評価する仕組みの整備。欧州委員会のオープンソース・プログラム・オフィス(OSPO)、EU公共部門OSPOネットワーク、Interoperable Europeの仕組みの強化。欧州委員会のリポジトリに共通のセキュリティ基準(監視、脆弱性、ライセンス遵守、依存関係のリスク)を設定。デジタル投資とガバナンスの点検にオープンさと主権を組み込む |
| 目的4:標準の補強と国際展開 | EU Tech Business Offerを通じたEUのオープンソース開発者と解決策の国際的な発信。パートナー国におけるEU発のツール(Open Internet Stack、AI、デジタルID、ビジネスウォレット)の採用支援。EU標準化規則の改正を含め、オープンソースのコミュニティを標準化に統合 |
この表のうち、受託の実務にいちばん近いのは目的3です*1。オープン標準のための調達ガイドラインとオープンソースの応札の公正な評価が並んでいるため、提案の中身をどう書くかが変わりえます。
あわせて公的機関をオープンソースの中核的な利用者かつ貢献者にするという方針も置かれています*1。手段として調達の指針、オープンソースに親和的な入札、OSPOとそのネットワークの強化、再利用可能な公共デジタル資産、そしてデジタル投資の意思決定にオープンさと主権を組み込むことが挙げられています*1。使うだけでなく還す側にも回すという設計です。
既存の取り組みも紹介されています*1。開かれた、信頼できる、利用者中心のインターネット技術を支えるNext Generation Internet Initiative(NGI)とSIMPLプログラムが例に挙げられています*1。
他の主権関連の提案との重なり
この戦略は、単独で読むと弱く見えます*1。同じパッケージの他の提案と重ねると、方向が揃っていることが分かります。
基盤側では、クラウド・AI開発法(CADA)の主権レベルが動いています。CADAの自律性の領域ではレジリエンスを補強するためにオープンソースの解決策を促進することが挙げられており*2、公的機関の共同購買力を活かすEUレベルの共通調達枠組みを確立することも示されています*2。調達の枠組みと、そこで評価されるものが同時に整備される構図です。
半導体側でも同じ発想が出てきます。Chips Act 2.0では、重要分野の公共調達がEU域内の付加価値に焦点を当てるとされています。チップ・クラウド・ソフトウェアの三層で、同じ問い(どこの誰のものか)が並んでいると読めます。
戦略の側からも、この関係は明示されています*1。欧州技術主権に関する通達に組み込まれ、EUデジタル主権パッケージの一部として、クラウド・AI開発法の提案、Chips Act 2.0の提案、エネルギー分野のデジタル化とAIに関する戦略ロードマップと並ぶとされ、これらの取り組みが一体となって、欧州のデジタルインフラのための一貫した枠組みを作り、レジリエンス、競争力、戦略的自律性を強めることを目指すと述べられています*1。
受託の立場から見ると、「OSSを使っている」と言うだけでは足りなくなる可能性があります*1。目的3にはライセンス遵守と依存関係のリスクがセキュリティ基準の項目として並んでいます*1。何を使い、誰が保守し、どこに依存しているかを出せる状態が、説明の前提になります。
受託・提案の実務で先に整えること
着手の順序を挙げます。
第一に、依存関係の一覧です。戦略は重要な依存関係の把握と依存関係の分析を挙げています*1。使用しているOSSと、その上流をたどれる状態を作っておきます。他の規制対応で整えたソフトウェア部品表があれば、そのまま使えます。
第二に、ライセンス遵守の記録です。目的3ではライセンス遵守が共通セキュリティ基準の一項目として挙げられています*1。誰がいつ確認したかまで残しておくと、公共案件での照会に答えやすくなります。
第三に、保守の担い手の明示です。戦略はスチュワードシップとオープンソース保守インストゥルメントを挙げています*1。提案の際に使うOSSの保守が誰によって続いているかを書けると、リスクの説明が具体になります。
第四に、貢献の記録です。公的機関を貢献者にする方針が置かれています*1。自社が上流へパッチを戻している事実があるなら、提案書に書ける材料です。
第五に、EU発のツールの把握です。Open Internet Stackという目録が拡大されるとされています*1。EU向けの案件で構成を選ぶとき、目録に載っている選択肢を検討したかが問われる場面がありえます。
社内で誤解されやすいのは、「オープンソース推奨だからコストが下がる話」という受け取りです。戦略が挙げる課題は長期的な資金の不足、維持と拡大の難しさ、産業展開への障壁で*1、対処として保守の仕組みと資金の優先付けが置かれています*1。無償だから安いではなく、維持に金と人を付けるという方向です。
もうひとつ、これは規則ではなく戦略である点も押さえておきたい部分です*1。義務が直接生じるわけではありませんが、調達ガイドラインや標準化規則の改正といった、後から拘束力を持つ形に落ちる項目が含まれています*1。いま形だけ整えておくと、確定後の作業が軽くなる類の内容です。
戦略の本文と関連資料は、欧州委員会のサイトで公開されています*1。個別の該当性は事情によって変わりますので、確認を挟みながら進めてください。
まとめ:EUオープンソース戦略で押さえる3つの視点
EUオープンソース戦略は、オープンソースをEUの技術主権の中心に据え、重要な領域において非EU製のプロプライエタリな解決策に対する欧州発のオープンな代替を推すものです。押さえたい視点は三つです。第一に、位置づけと課題認識。公共部門と民間部門の双方にわたってオープンソース技術の開発、拡大、展開、長期的な持続可能性を支えることを目指し、欧州技術主権に関する通達に組み込まれ、クラウド・AI開発法の提案やChips Act 2.0の提案と同じEUデジタル主権パッケージの一部とされています。課題としては長期的な資金の不足、プロジェクトの維持と拡大の難しさ、産業展開への障壁、欧州発の解決策の見えにくさ、公共調達へのアクセスの限られていること、支配的な非EU製技術への依存が挙げられ、オープンソースが生み出す経済的価値が欧州の外で獲得されているとの指摘もあります。第二に、ライフサイクル全体を対象とする手法。研究開発から市場での採用、展開、重要なオープンソース構成要素の長期的な保守とガバナンスまでを対象とし、EUの機関の内部も含みます。重点領域としてEUデジタルIDのエコシステム、デジタルコモンズのための欧州デジタルインフラ・コンソーシアム、公的機関を中核的な利用者かつ貢献者にすること、オペレーティングシステムやクラウドとエッジやAIやサイバーセキュリティや半導体などでの新しい構成要素の開発、スチュワードシップやEUの評価枠組みや依存関係の分析やオープンソース保守インストゥルメントによる維持、技能の向上が挙げられています。第三に、4つの目的。技術主権のためのオープンソース、活気あるオープンソースのエコシステム、行政におけるオープンソース、標準の補強と国際展開です。行政の目的にはオープン標準のための調達ガイドライン、オープンソースの応札の公正な評価、OSPOとそのネットワークの強化、リポジトリの共通セキュリティ基準(監視、脆弱性、ライセンス遵守、依存関係のリスク)が含まれます。
よくある質問
EUオープンソース戦略とは何ですか。
オープンソースをEUの技術主権の中心に据え、重要な領域において非EU製のプロプライエタリな解決策に対する欧州発のオープンな代替を推す戦略です。公共部門と民間部門の双方にわたって、オープンソース技術の開発、拡大、展開および長期的な持続可能性を支えることで、欧州のオープンなデジタルのエコシステムを強めることを目指すとされています。
他のEUの提案とどうつながっていますか。
欧州技術主権に関する通達に組み込まれ、EUデジタル主権パッケージの一部として、クラウド・AI開発法の提案、Chips Act 2.0の提案、エネルギー分野のデジタル化とAIに関する戦略ロードマップと並ぶとされています。これらが一体となって、欧州のデジタルインフラのための一貫した枠組みを作り、レジリエンス、競争力、戦略的自律性を強めることを目指すと説明されています。
4つの目的とは何ですか。
技術主権のためのオープンソース、活気あるオープンソースのエコシステム、行政におけるオープンソース、そして標準の補強と国際展開です。Open Internet Stackの拡大、スタートアップ支援とオープンソース保守インストゥルメントの創設、調達ガイドラインとOSPOの強化、EU標準化規則の改正を含む標準化への統合などが行動として挙げられています。
調達にはどのような影響がありますか。
行政におけるオープンソースの目的として、オープン標準のための調達ガイドラインと、オープンソースの応札を公正に評価する仕組みの整備が挙げられています。あわせて、公的機関をオープンソースの中核的な利用者かつ貢献者にするため、調達の指針、オープンソースに親和的な入札、OSPOとそのネットワークの強化、再利用可能な公共デジタル資産、デジタル投資の意思決定へのオープンさと主権の組み込みが示されています。
維持や保守についてはどう扱われていますか。
重要なオープンソース構成要素の長期的な保守、セキュリティ、持続可能性を確保するとされ、その手段としてスチュワードシップ、EUの評価枠組み、依存関係の分析、オープンソース保守インストゥルメントが挙げられています。エコシステムの目的のもとでは、重要な依存関係の把握とミラーリングの能力も示されています。
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出典
- *1 参考:European Commission「The EU Open Source Strategy」(https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/open-source-strategy)。戦略がオープンソースをEUの技術主権の中心に据え重要領域で非EU製プロプライエタリ解決策の欧州発の代替を促すこと、公共部門と民間部門の双方でオープンソース技術の開発・拡大・展開・長期的持続可能性を支えること、欧州技術主権に関する通達に組み込まれEUデジタル主権パッケージの一部としてクラウド・AI開発法の提案とChips Act 2.0の提案およびエネルギー分野のデジタル化とAIに関する戦略ロードマップと並ぶこと、オープンソースが非EU製技術への依存を減らし重要なデジタルインフラへの統制を高めること、受益者ごとの効果(公的機関・企業と中小企業・市民・開発者とイノベーター)、課題(長期的資金の不足、維持と拡大の難しさ、産業展開への障壁、欧州発解決策の見えにくさ、公共調達へのアクセスの制限、非EU製技術への依存、経済的価値が欧州外で獲得されていること)、ライフサイクル全体を対象とする手法とEU機関内部を含むこと、具体的行動(貢献者・財団・企業・利用者の支援、実行可能なビジネスモデル、調達での促進、標準化と国際協力での役割強化)、実施の重点領域(EUデジタルIDエコシステムとEUDIウォレットおよび欧州ビジネスウォレット、デジタルコモンズのための欧州デジタルインフラ・コンソーシアム、公的機関を中核的利用者かつ貢献者にすること、オペレーティングシステム・クラウドとエッジ・AI・サイバーセキュリティ・ソフトウェア開発基盤・半導体・将来のインターネット構造での構成要素の開発、スチュワードシップとEU評価枠組みと依存関係分析とオープンソース保守インストゥルメント、Erasmus+ Programme 2027を含む技能向上)、4つの目的とそれぞれの行動、ならびに既存の取り組み(Next Generation Internet Initiative、SIMPLプログラム)の一次情報として。確認日は2026年8月31日。(2026年8月確認)
- *2 参考:European Commission「Cloud and AI Development Act」(https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/cloud-and-ai-development-act)。クラウド・AI開発法(CADA)が自律性の領域において、レジリエンスを補強するためにオープンソースの解決策を促進することおよび公的機関の共同購買力を活かすEUレベルの共通調達枠組みを確立することを掲げていること、CADAがAI Continent Action Planの重要な一部でありEU全域で単一の主権評価の枠組みを導入する規則案であることの一次情報として。確認日は2026年8月31日。(2026年8月確認)