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AIファクトリーとギガファクトリーの違い
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 使う場所と作る場所が別:AIファクトリーは利用の拠点、ギガファクトリーは訓練の施設です*1。
- 中小企業とスタートアップが優先:EuroHPCが計算時間と支援サービスを提供します*1。
- 19拠点と13アンテナが整備中:少なくとも9台のスパコンを新たに調達・配備します*1。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
AI開発の相談で毎回話題になるのが計算資源をどこから調達するかです。EUはこれを公的な枠組みで用意しています*1。
欧州委員会のAIファクトリーは、計算能力、データ、人材を集めて先端的なAIモデルとアプリケーションを生み出す、動的なエコシステムと説明されています*1。現在19のAIファクトリーと13のアンテナが整備中で、AIのスタートアップと中小企業のアクセスを優先するとされています*1。
AI開発の基盤を検討する立場、あるいはEU拠点での研究開発を支える立場に向けて、AIファクトリーとAIギガファクトリーの役割の違いと使える条件を一次情報から整理します。
目次
AIファクトリーとは何を集めた場所か
まず定義です*1。
欧州委員会は、AIファクトリーがAIの分野でイノベーション、協働、開発を促す動的なエコシステムであり、計算能力、データ、人材を集めて先端的なAIモデルとアプリケーションを生み出すものだとしています*1。
結び付ける相手も具体的です*1。スーパーコンピューティングの拠点、大学、中小企業、産業界、金融の担い手を結び付け、欧州全体での協働を促すとされています*1。対象分野としては健康、製造、気候、金融、宇宙などが挙げられています*1。
利用の窓口も明示されています*1。EuroHPC共同事業(JU)が、EuroHPCのAIファクトリーが提供する計算時間と支援サービスへのアクセスを提供するとされ、AIファクトリーは産業界、研究、学術界、公的機関を含むさまざまな分野の欧州の利用者に開かれていると説明されています*1。
優先順位も書かれています*1。整備中の拠点は汎EUのAIエコシステムを可能にし、AIのスタートアップと中小企業のアクセスを優先することで成長を促すとされています*1。大手だけの設備にしないという設計です。
計算能力の増強も数字で示されています*1。少なくとも9台のAIに最適化されたスーパーコンピュータが新たにEU全域で調達され配備されるとされ、これにより現在のEuroHPCのAI計算能力が3倍を超えるとされています*1。
位置づけとしては、2024年のAIイノベーション・パッケージで発表された戦略的な優先事項であり、AI Continent Action PlanがAIファクトリーへのEUの投資を補強するとされています*1。Apply AI戦略でも、AIファクトリーは支援措置の一部として挙げられていました。
ギガファクトリーとの役割の違い
名前が似ていますが、役割が違います*1。
欧州委員会は、EUが欧州全域に上限7か所のAIギガファクトリーを設置するための入札を公示したとしています*1。欧州の技術主権と、AI大陸になるという野心を加速させる最新の大きな一押しの一部と位置づけられています*1。
中身の説明も明確です*1。AIギガファクトリーは、数兆のパラメータを含む次世代のAIモデルの開発と訓練に特化した大規模な施設とされ、そのために10万を超える先進的なAIプロセッサという計算能力を集めるとされています*1。あわせて電力容量、信頼できるサプライチェーン、先進的なネットワーキング、エネルギー効率、AIによる自動化に強い重点が置かれるとされています*1。
| 観点 | AIファクトリー |
|---|---|
| 性格 | 計算能力・データ・人材を集める動的なエコシステム。スパコン拠点、大学、中小企業、産業界、金融の担い手を結び付ける拠点とされています |
| 利用者 | 産業界、研究、学術界、公的機関を含む欧州の利用者。AIのスタートアップと中小企業のアクセスを優先するとされています |
| 窓口 | EuroHPC共同事業が計算時間と支援サービスへのアクセスを提供します |
| 規模の状況 | 19拠点と13のアンテナが整備中。少なくとも9台のAI最適化スパコンを新たに調達・配備します |
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | 数兆のパラメータを含む次世代AIモデルの開発と訓練に特化した大規模施設とされています |
| 規模 | 10万を超える先進的なAIプロセッサを集めるとされ、電力容量、サプライチェーン、ネットワーキング、エネルギー効率、AIによる自動化に重点が置かれます |
| 数と進め方 | 上限7か所の設置に向けて入札が公示されました。産業界が主導し、EUと各国の資金で上限100億ユーロが支えるとされています |
| 民間資金 | 域内で少なくとも200億ユーロの民間投資を引き出すことが見込まれるとされています |
整理すると、AIファクトリーは使う場所、ギガファクトリーは巨大なモデルを訓練する場所という分担です*1。自社の用途がどちらに当たるかで、見るべき窓口が変わります。
選定の経緯と、いまの顔ぶれ
整備は段階的に進んでいます*1。
出発点は制度の改正です*1。2024年1月のパッケージがEUの価値と規則を尊重する信頼できるAIの開発において、欧州のスタートアップと中小企業を支援するものとされ、AIファクトリーの設立を可能にするEuroHPC規則の改正を提案したとされています*1。これによりEuroHPCのインフラが、AIに最適化されたスーパーコンピュータについて、スタートアップとより広いイノベーションのコミュニティに開かれたと説明されています*1。
選定は三段階です*1。2024年12月にEuroHPC JUが最初のAIファクトリーを設立する7つの共同事業体を選定し、15の加盟国と2つのEuroHPC参加国が関与してフィンランド、ドイツ、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルク、スペイン、スウェーデンに配備されるとされました*1。
2025年3月にはさらに6つのAIファクトリーの選定が発表され、オーストリア、ブルガリア、フランス、ドイツ、ポーランド、スロベニアに置かれるとされています*1。
2025年10月には6つのAIファクトリーの立ち上げが発表され、チェコ、リトアニア、オランダ、ルーマニア、スペイン、ポーランドに置かれるとされています*1。あわせて13のAIファクトリー・アンテナが選定され、ベルギー、キプロス、ハンガリー、アイルランド、ラトビア、マルタ、スロバキアの7加盟国に加えて、アイスランド、モルドバ、北マケドニア、セルビア、スイス、英国というパートナー国にも置かれるとされています*1。
アンテナの位置づけも説明されています*1。既存のAIファクトリーにあるAIに最適化されたスーパーコンピュータに紐づくものとされています*1。自国に大型機がなくても入口があるという設計です。
他の支援策とも接続します*1。AIファクトリーは相互にネットワーク化され、AIの解決策を試すための専用の資源を提供する試験・実証施設(TEF)や、欧州デジタルイノベーションハブのネットワークといった他の主要なAI支援の取り組みと結び付けられるとされています*1。クラウド・AI開発法(CADA)でも、これらは需要の受け皿として言及されていました。
資金の規模——2つの数字の読み分け
金額はいくつかの単位で語られているため、出どころを分けて読む必要があります。
まずインフラ全体です*1。2021年から2027年の期間で、欧州委員会、加盟国、関係国のスーパーコンピューティングのインフラとAIファクトリーへの投資は、EuroHPC JUを通じて総額100億ユーロに達するとされています*1。
次にギガファクトリーです*1。産業界が主導し、EUと各国の資金で上限100億ユーロが支えるとされ、域内で少なくとも200億ユーロの民間投資を引き出すことが見込まれるとされています*1。
もうひとつ、投資の枠組みの側からの数字もあります*2。2025年2月、パリで開かれたAI Action SummitでフォンデアライエンEU委員長がInvestAIを立ち上げ、AIへの投資として2,000億ユーロを動かすこととしたとされ、そのうち欧州投資銀行グループとともに整備するInvestAIファシリティは、AI Gigafactoriesの設立に向けて200億ユーロの投資を動かすことを視野に入れていると説明されています*2。
同じ「200億ユーロ」という数字が、民間投資の呼び込み見込み(*1)とInvestAIファシリティが動かす投資(*2)という別の文脈で出てきます。社内資料に写すときは、どちらの説明に依っているかを注記しておくと後で混乱しません。
AIファクトリー自体の役割も、Q&A側では別の言い方がされています*2。欧州を代表するEuroHPCスーパーコンピュータの公的なネットワークの周りに形成される、開かれた動的なAIエコシステムとされ、ワンストップショップとして位置づけられています*2。ここでも特に中小企業とスタートアップ、大学、産業界の可能性を引き出すことが挙げられています*2。
調整の担い手も示されています*1。欧州AI Officeが、EuroHPC JUと主要な関係者と密に連携して行動を調整し、資源を組み合わせ、先進的なAIモデルの開発、改良、主要な応用への統合に向けた投資を促すとされています*1。
日本の開発現場から見た使いどころ
着目点を順に挙げます。
第一に、対象者の確認です。AIファクトリーは欧州の利用者に開かれているとされています*1。EU域内に法人や研究拠点を持つ場合と持たない場合で前提が変わるため、自社のどの主体が申請できるかを先に確かめておきます。
第二に、窓口の把握です。アクセスはEuroHPC共同事業が提供するとされています*1。個々のAIファクトリーではなく、共同事業側の入口を見るのが出発点になります。
第三に、用途の切り分けです。推論や小規模な学習であればAIファクトリー、数兆パラメータ級のモデルの訓練であればギガファクトリーの文脈です*1。自社の計算需要がどの桁かを先に見積もっておくと、話が早くなります。
第四に、アンテナの活用です。13のアンテナは既存のAIファクトリーのスパコンに紐づくものとされ、英国やスイスなどパートナー国にも置かれます*1。近い拠点から入る選択肢があります。
第五に、周辺の施設との組み合わせです。試験・実証施設(TEF)と欧州デジタルイノベーションハブがネットワークで結ばれるとされています*1。計算資源だけでなく、試す場も同じ線でつながっているという読み方ができます。
社内で誤解されやすいのは、「公的なスパコンだから使いにくい」という先入観です。制度の側はスタートアップとより広いイノベーションのコミュニティに開くためにEuroHPC規則を改正した経緯があり*1、中小企業とスタートアップのアクセスを優先すると明記されています*1。優先順位が逆向きに設計されている点は押さえておく価値があります。
もうひとつ、整備中である点は前提に置いておきたい部分です*1。19拠点と13アンテナは整備が進められている段階で、少なくとも9台のスパコンはこれから調達・配備されます*1。いま使える能力と、数年後に使える能力は違うという時間軸で計画を立てる形になります。
あわせて、調整の担い手が誰かも社内で共有しておくと動きやすくなります。欧州AI OfficeがEuroHPC JUと主要な関係者と密に連携して行動を調整し、資源を組み合わせ、先進的なAIモデルの開発、改良、主要な応用への統合に向けた投資を促すとされています*1。制度の窓口と技術の窓口が分かれているため、問い合わせ先を取り違えると時間を失います。
拠点の一覧と選定の状況は、欧州委員会のサイトで公開されています*1。利用の条件は事情によって変わりますので、確認を挟みながら進めてください。
まとめ:AIファクトリーで押さえる3つの視点
EUのAIファクトリーは、計算能力、データ、人材を集めて先端的なAIモデルとアプリケーションを生み出す動的なエコシステムと説明されています。押さえたい視点は三つです。第一に、性格と窓口。スーパーコンピューティングの拠点、大学、中小企業、産業界、金融の担い手を結び付ける拠点で、健康、製造、気候、金融、宇宙などの分野を対象とします。EuroHPC共同事業が計算時間と支援サービスへのアクセスを提供し、産業界、研究、学術界、公的機関を含む欧州の利用者に開かれ、AIのスタートアップと中小企業のアクセスを優先するとされています。第二に、ギガファクトリーとの違い。AIギガファクトリーは数兆のパラメータを含む次世代AIモデルの開発と訓練に特化した大規模施設で、10万を超える先進的なAIプロセッサを集め、電力容量、サプライチェーン、ネットワーキング、エネルギー効率、AIによる自動化に重点が置かれます。上限7か所の設置に向けて入札が公示され、産業界が主導し、EUと各国の資金で上限100億ユーロが支え、少なくとも200億ユーロの民間投資を引き出すことが見込まれるとされています。第三に、整備の状況。現在19のAIファクトリーと13のアンテナが整備中で、少なくとも9台のAIに最適化されたスーパーコンピュータが新たに調達・配備され、現在のEuroHPCのAI計算能力が3倍を超えるとされています。選定は2024年12月の7拠点、2025年3月の6拠点、2025年10月の6拠点と13アンテナという段階を踏み、2021年から2027年のスーパーコンピューティングのインフラとAIファクトリーへの投資はEuroHPC JUを通じて総額100億ユーロに達するとされています。
よくある質問
AIファクトリーとは何ですか。
AIの分野でイノベーション、協働、開発を促す動的なエコシステムで、計算能力、データ、人材を集めて先端的なAIモデルとアプリケーションを生み出すものと説明されています。スーパーコンピューティングの拠点、大学、中小企業、産業界、金融の担い手を結び付ける拠点とされ、健康、製造、気候、金融、宇宙などの分野を対象とします。
誰が使えるのですか。
EuroHPC共同事業が計算時間と支援サービスへのアクセスを提供し、AIファクトリーは産業界、研究、学術界、公的機関を含むさまざまな分野の欧州の利用者に開かれているとされています。整備中の拠点はAIのスタートアップと中小企業のアクセスを優先することで成長を促すとされています。
AIギガファクトリーとの違いは何ですか。
AIギガファクトリーは、数兆のパラメータを含む次世代のAIモデルの開発と訓練に特化した大規模な施設とされ、10万を超える先進的なAIプロセッサを集めるとされています。上限7か所の設置に向けて入札が公示され、産業界が主導し、EUと各国の資金で上限100億ユーロが支え、少なくとも200億ユーロの民間投資を引き出すことが見込まれるとされています。
いま何か所あるのですか。
現在19のAIファクトリーと13のアンテナが整備中とされています。選定は2024年12月に最初の7つの共同事業体、2025年3月にさらに6拠点、2025年10月に6拠点と13のアンテナという段階を踏んでいます。アンテナは既存のAIファクトリーにあるAIに最適化されたスーパーコンピュータに紐づくものとされています。
計算能力はどのくらい増えるのですか。
少なくとも9台のAIに最適化されたスーパーコンピュータが新たにEU全域で調達され配備されるとされ、これにより現在のEuroHPCのAI計算能力が3倍を超えるとされています。2021年から2027年の期間では、スーパーコンピューティングのインフラとAIファクトリーへの投資がEuroHPC JUを通じて総額100億ユーロに達するとされています。
AI開発の計算資源の選定はLASSICへ
元請(プライムベンダー)として、計算需要の桁の見積もりから公的資源と商用クラウドの使い分け、申請主体の整理までご提案します。まずはお気軽にご相談ください。
出典
- *1 参考:European Commission「AI Factories」(https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/ai-factories)。AIファクトリーがAI分野のイノベーション・協働・開発を促す動的なエコシステムであり計算能力とデータと人材を集めて先端的なAIモデルとアプリケーションを生み出すこと、スパコン拠点・大学・中小企業・産業界・金融の担い手を結び付け健康や製造や気候や金融や宇宙などの分野を対象とすること、2024年のAIイノベーション・パッケージで戦略的優先事項として発表されAI Continent Action Planが投資を補強すること、現在19のAIファクトリーと13のアンテナが整備中であり汎EUのAIエコシステムを可能にしAIのスタートアップと中小企業のアクセスを優先すること、少なくとも9台のAI最適化スパコンを新たに調達配備し現在のEuroHPCのAI計算能力を3倍超にすること、EuroHPC共同事業が計算時間と支援サービスへのアクセスを提供しAIファクトリーが産業界・研究・学術界・公的機関を含む欧州の利用者に開かれていること、上限7か所のAIギガファクトリー設置に向けた入札公示と産業界主導およびEUと各国の資金による上限100億ユーロと少なくとも200億ユーロの民間投資の見込み、AIギガファクトリーが数兆パラメータの次世代AIモデルの開発と訓練に特化した大規模施設であり10万を超える先進AIプロセッサを集め電力容量・サプライチェーン・ネットワーキング・エネルギー効率・AIによる自動化に重点を置くこと、19拠点と13アンテナの一覧、2024年1月パッケージによるEuroHPC規則改正とスタートアップへの開放、2024年12月の7共同事業体の選定と15加盟国および2参加国の関与とフィンランド・ドイツ・ギリシャ・イタリア・ルクセンブルク・スペイン・スウェーデンへの配備、2025年3月の6拠点(オーストリア・ブルガリア・フランス・ドイツ・ポーランド・スロベニア)、2025年10月の6拠点(チェコ・リトアニア・オランダ・ルーマニア・スペイン・ポーランド)と13アンテナ(ベルギー・キプロス・ハンガリー・アイルランド・ラトビア・マルタ・スロバキアおよびアイスランド・モルドバ・北マケドニア・セルビア・スイス・英国)、試験実証施設と欧州デジタルイノベーションハブとのネットワーク化、2021〜2027年の投資が100億ユーロに達すること、ならびに欧州AI OfficeとEuroHPC JUの連携の一次情報として。最終更新2026年8月12日。確認日は2026年9月2日。(2026年9月確認)
- *2 参考:European Commission「AI Continent Action Plan – Q&A」(https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/faqs/ai-continent-action-plan-qa)。AI FactoriesがEuroHPCスーパーコンピュータの公的なネットワークの周りに形成される開かれた動的なAIエコシステムであり計算能力とデータと人材を集めてワンストップショップとして機能し特に中小企業とスタートアップと大学と産業界の可能性を引き出すとされること、ならびに2025年2月にパリのAI Action Summitでフォンデアライエン委員長がInvestAIを立ち上げAIへの投資として2,000億ユーロを動かすこととし欧州投資銀行グループとのInvestAIファシリティがAI Gigafactoriesの設立に向けて200億ユーロの投資を動かすことを視野に入れていることの一次情報として。確認日は2026年9月2日。(2026年9月確認)