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米国BOI報告の違い、外国企業2万8千社に義務が残る
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 国内会社は報告の対象外:あらゆるBOI報告の要件から除外するとされました*1。
- 外国会社には義務が残る:米国で登録した外国会社は報告を続けることになります*1。
- 既存データの削除は一度きり:2027年2月10日より後の提出分は消さないとされています*1。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
取引先や自社グループの情報をどこまで集めるかは、制度が求める範囲で決まります。求められなくなった情報を持ち続けることは、管理の手間だけが残る状態になりがちです。
米国財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)が2026年8月14日、実質的支配者情報(BOI)の報告要件に関する最終規則を連邦官報に掲載しました*1。RIN 1506-AB67で、31 CFR Part 1010の改正です*1。掲載と同日に発効しています*1。2025年3月26日に出された暫定最終規則を、一部の拡張を加えて恒久化する内容です*1。
米国に拠点や登記を持つ企業の管理に関わる立場に向けて、誰の義務が消えたのか、誰に残ったのか、そしてすでに出した情報がどう扱われるのかを一次情報から整理します。
目次
暫定最終規則が恒久化され、範囲が広がった
まず何が確定したのかです*1。
FinCENは暫定的にではなく恒久的にBOI報告規則を改める最終規則を発するとし、受け取った意見と暫定最終規則の実際の効果の双方を評価したうえで、米国人に対する不要な負担を最小化するという全体の意図をもって、暫定最終規則に置かれた改正を、一定の修正と拡張を加えて採用するとしています*1。
採用された内容は4点に整理されています*1。第一にCTAの31 U.S.C. 5336(a)(11)(B)(xxiv)に基づく権限を行使して、国内報告会社をあらゆるBOI報告の要件から除外することで、これは暫定最終規則で取られた同じ措置を確認するものとされています*1。第二に31 U.S.C. 5318(a)(7)に基づく権限を行使して、報告会社(報告規則では外国報告会社と呼ばれる)が、当該会社の実質的支配者または会社申請者である米国人のBOIを報告しなくてよいこととし、また米国人が、自らが実質的支配者または会社申請者である報告会社に対してそうした情報を提供しなくてよいこととすることです*1。
この第二の点が今回の拡張にあたります*1。FinCENはこれは暫定最終規則が示した手法に従うものだが、除外の範囲を米国人である実質的支配者だけでなく、米国人である会社申請者にも広げるものであるとし、さらに混乱を避けるため、最終規則ではこの除外を、暫定最終規則とは異なる31 CFR 1010.380の項に置くと述べています*1。
残る2点も実務に関わります*1。第三に外国のプールされた投資ビークルについての特則を改め、当該事業体に対して実質的な支配を行使する米国人のBOIの報告を要しないこととすること、第四に31 U.S.C. 5336(b)(4)(A)に基づく権限を行使して、米国人が、実質的支配者としてであれ会社申請者としてであれ、FinCEN IDを取得するために提供した情報を更新または訂正する要件を撤廃することです*1。FinCENは最終規則は、暫定最終規則または報告規則に対してこれ以上の変更を加えるものではないとしています*1。
国内会社と外国会社で残る義務が分かれた
線の引き方を確認します*1。
国内側の根拠は、長官が公共の利益に資さず、資金洗浄、テロ資金供与、拡散金融、重大な脱税その他の犯罪を探知し、防止し、または訴追するための国家安全保障、情報、法執行の各機関の取り組みにおいて、極めて有用ともいえないと判断した場合に、事業体の類型をBOI報告義務から除外できるという条項です*1。この判断にはCTAが求めるとおり、司法長官および国土安全保障長官が書面で同意したとされています*1。
外国側の扱いは逆です*1。暫定最終規則の段階で外国報告会社は、高まった国家安全保障上および不正な資金の流れに関するリスクを示しており、規制上の負担についても異なる懸念を示すとされ、長官は外国報告会社を除外することは公共の利益に資さないと判断したと説明されています*1。その結果外国報告会社には、米国人である実質的支配者に関するものを除いて、BOIの報告が引き続き求められることになりました*1。
| 区分 | 最終規則で書かれている扱い |
|---|---|
| 国内報告会社 | あらゆるBOI報告の要件から除外されます。初回の報告書の提出も、提出済みの報告書の更新・訂正も要しないとされています |
| 外国報告会社 | 報告の義務は残ります。ただし米国人である実質的支配者と会社申請者の情報は報告を要しません。米国人の実質的支配者しかいない場合でも報告書自体は提出しますが、実質的支配者に関するBOIを含める必要はないとされています |
| 米国人(個人) | 実質的支配者または会社申請者として、報告会社へ自らの情報を提供する義務がありません。FinCEN IDの取得時に提供した情報の更新・訂正も要しないとされています |
| 外国のプールされた投資ビークル | 実質的な支配を行使する者のうち、米国人ではない個人(または戦略的経営について最も大きな権限を行使する個人)のBOIを報告するとされています |
罰則の枠組みは動いていません*1。FinCENは最終規則は報告規則の違反に関する規定を変更しないとし、CTAおよび報告規則における「故意の」違反という基準は、民事上または刑事上の罰則を適用する十分に明確な根拠であると述べています*1。そのうえで執行の措置は、不注意による誤りや報告義務の認識の欠如に基づいて行われるものではないとし、暫定最終規則と本最終規則がBOI報告の範囲を、とりわけ大きな国家安全保障上のリスクを示す事業体すなわち外国報告会社へ絞り込んだため、違反への執行の手法はリスクに基づいて十分に的が絞られたものになるとしています*1。国内の事業体と米国人は責任の対象から外れ、罰則の規定は外国報告会社と外国人に引き続き適用されるという整理です*1。
期限についても暫定最終規則の段階で整理されています*1。外国報告会社が初回の報告書を提出し、または提出済みの報告書を更新・訂正する期限は暫定最終規則の公表日から30日後(すなわち2025年4月25日)と、米国で事業を行うための登録から30日後の、いずれか遅い方とされました*1。米国で新たに登録する外国会社には、登録から30日という起点が今も残っていることになります*1。
対象になる会社の数と、まだ出ていない報告
規模の見積りも公開されています*1。
FinCENは2025年末時点の最新のIRSの税務データを検討した結果、報告会社となりうる会社はおよそ63,000社と数えられたとしつつ、除外に当たる類型を差し引いて除外されない報告会社の総数はおよそ28,000社と見積もっています*1。この28,000社という数は、暫定最終規則の段階の見積りである25,000社を上方に改めたものとされています*1。
提出の進み具合も示されています*1。2025年末時点でFinCENは外国報告会社からおよそ13,000件の報告書を受領しており、これは、当初見込まれていた既存の報告会社の母集団のうち、およそ15,000社の既存の外国会社が新たに報告する必要があることを意味するとされ、加えて年におよそ1,800社の新たな外国報告会社が報告を求められると見込まれると述べられています*1。暫定最終規則の公表後も平均して月におよそ100件という一定の流入が続いているとも書かれています*1。
| 項目 | 文書に書かれている値 |
|---|---|
| 報告会社となりうる会社 | 2025年末時点でおよそ63,000社。うち除外されないものがおよそ28,000社で、割合にしておよそ45パーセントとされています |
| 提出済みと残り | 2025年12月31日時点でおよそ13,000社が提出済み。残るおよそ15,000社が新たに報告する必要があるとされています |
| FinCEN IDの保有者 | 2025年末時点で米国人の保有者がおよそ760,000人。全保有者のおよそ97パーセントにあたり、更新の要件から外れるとされています |
| 更新・訂正の実績 | 受付開始からの2年間で、有効なFinCEN ID 780,000件に対しておよそ38,000件の更新・訂正が行われたとされています |
| 今回の規則による節減 | 初年度がおよそ233,439ドル、以降は各年およそ209,105ドル。1件10分(0.17時間)、時給65.09ドル(基本45.77ドルに上乗せ)という前提です |
国内側を外したことの効果は桁が違います*1。当初の規則では2024年時点の報告会社を32,556,929社と見積もっていましたが、暫定最終規則の発出以降について1報告書あたりの加重平均を665.71ドルとして計算すると、かつて国内報告会社に分類されていた事業体にとっておよそ180億ドルの節減に相当するとされています*1。年間の負担についても平均しておよそ5,300万時間の削減、平均しておよそ90億ドルの削減と述べられています*1。
すでに提出した情報は一度だけ削除される
保管済みのデータの扱いにも答えが出ました*1。
FinCENはプライバシー、情報セキュリティ、公衆の信頼という価値のいずれもが、この最終規則の報告要件が2024年1月1日から適用されていたならば報告されなかったであろう情報を、実行可能な限りBO ITシステムから取り除くことを支持するとしています*1。方法も具体的です*1。提出済みの報告書に記載された情報に依拠して、すべての国内報告会社、会社申請者、および国内報告会社に関係する実質的支配者を特定するとし、国立公文書記録管理局(NARA)と連携し、米国人が提供したとFinCENが合理的に信じる本人確認書類(米国のパスポートや米国の運転免許証など)を届け出た個人の情報を、BO ITシステムから削除する処理を実施すると述べています*1。
申請の窓口は用意されません*1。現時点でFinCENは、米国の会社や米国人がBOIの削除を求めてFinCENへ連絡することを要求または要請する予定はないとされ、削除の承認や確認を提供する意図もない、削除の処理が完了したときにウェブサイトで公衆へ通知すると書かれています*1。
そして期限が切られました*1。この処理は、定期的な掃引としてではなく、データベースの1回の掃引として実施することを見込んでいるとされ、この処理を一度だけ完了させる意図であると明記されています*1。続けて米国の会社または米国人に関するBOIが、意図せずまたは意図的に、2027年2月10日より後に行われた提出に含まれていた場合、FinCENはその情報を削除することを見込んでいないと書かれています*1。期限を過ぎて混ざった情報は残るという整理です*1。
一方で、変わらないものもあります*1。FinCENは報告規則(暫定最終規則および本最終規則により改められたもの)と顧客デューデリジェンス(CDD)規則は、異なる目的に資するものであり、異なる法的根拠に基づいて生じるものであると述べ、CDD規則の撤廃を求める意見を退けています*1。金融機関が口座開設時に法人顧客からBOIを収集するという枠組みはそのまま残ります*1。本人確認や取引時確認の設計そのものについては暗号資産トラベルルールのような別系統の要件も併せて確認しておくところです。
取引先マスタと本人確認の設計に置き換える
制度の話ですが、どの項目をどこまで持つかという設計に直接関わります。義務の範囲が狭まった場面ほど、システム側の見直しは後回しになりがちです。
第一に、登記の区分をマスタで持つことです。義務の有無は国内報告会社か、米国で事業を行う登録をした外国報告会社かで分かれます*1。グループ会社の一覧に「どの国の法で設立され、どこで事業登録しているか」の欄がないと、この判定ができません。
第二に、米国人かどうかが収集の可否を決める項目になったことです。外国報告会社は、米国人である実質的支配者と会社申請者の情報を報告しなくてよく、米国人の側にも提供する義務がありません*1。集める項目を増やすのではなく、集めない条件を判定して止める作りが要ります。同意なく集めた情報を保持し続ける状態は、この規則の趣旨とは逆方向です。
第三に、登録から30日という起点です。新たに米国で事業登録する外国会社の期限は登録から30日後を含む形で残っています*1。子会社や支店を新設する業務フローに、この起算日を拾う手順を組み込んでおくのが早道です。文書では、暫定最終規則の公表後も平均して月におよそ100件の報告が届き続けているとされ、残るおよそ15,000社に加えて年におよそ1,800社が新たに対象になると見込まれています*1。新設のたびに判定と起算が走る前提で設計しておくほうが、後から手作業で追いかけるより安く済みます。
第四に、2027年2月10日という日付です。削除は一度だけで、この日より後に行われた提出に含まれていた米国人の情報は削除を見込んでいないとされています*1。提出用データの生成側で、不要になった項目を落とす修正を入れる時期の目安になります。データの棚卸しと保存期間の設計は米国のデータセキュリティ規則で扱った考え方とも重なります。
第五に、CDD規則との切り分けです。報告規則が緩んでも、金融機関が口座開設時にBOIを収集する枠組みは残ります*1。報告しなくてよいことと取引先から求められないことは別だという整理を、社内の説明資料の段階で分けておくと混乱が減ります。
誤解されやすいのは、BOIの報告義務がなくなったという受け取り方です。国内会社については外れましたが、米国で登録した外国会社にはおよそ28,000社という規模で義務が残っています*1。適用の可否は法人の形態や登録先によって変わりますので、確認を挟みながら進めてください。
まとめ:BOI報告の最終規則で押さえる3つの視点
米国財務省の金融犯罪取締ネットワークは2026年8月14日、実質的支配者情報(BOI)の報告要件に関する最終規則を連邦官報に掲載しました。RIN 1506-AB67で、31 CFR Part 1010の改正であり、掲載と同日に発効しています。2025年3月26日の暫定最終規則を、一部の拡張を加えて恒久化するものです。押さえたい視点は三つです。第一に、義務の線引き。国内報告会社はあらゆるBOI報告の要件から除外され、初回の報告も更新・訂正も要しません。一方、米国で事業を行う登録をした外国報告会社には報告の義務が残り、米国人である実質的支配者と会社申請者の情報だけが対象から外れます。第二に、今回広がった部分。除外の範囲が米国人の実質的支配者に加えて米国人の会社申請者へ広がり、米国人がFinCEN IDの取得時に提供した情報の更新・訂正の要件も撤廃されました。対象となるFinCEN IDの保有者は2025年末時点でおよそ760,000人、全体のおよそ97パーセントとされています。第三に、既存データの扱い。すでに提出された米国人と国内会社の情報は、国立公文書記録管理局と連携した一度限りの掃引で削除される予定で、削除の申請窓口や個別の確認は設けられません。2027年2月10日より後に行われた提出に含まれていた情報については削除を見込んでいないとされています。金融機関の顧客デューデリジェンス規則は目的も法的根拠も異なるとして、変更されていません。
よくある質問
どんな規則ですか。
米国財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)が発した、実質的支配者情報(BOI)の報告要件に関する最終規則です。RIN 1506-AB67として2026年8月14日に連邦官報へ掲載され、同日に発効しました。2025年3月26日の暫定最終規則を、一部の拡張を加えて恒久化する31 CFR Part 1010の改正です。
誰が報告しなくてよくなったのですか。
国内報告会社です。あらゆるBOI報告の要件から除外され、初回の報告書の提出も、提出済みの報告書の更新・訂正も要しないとされています。この判断には、CTAが求めるとおり司法長官と国土安全保障長官が書面で同意したと説明されています。
外国の会社はどうなりますか。
米国で事業を行う登録をした外国報告会社には、報告の義務が残ります。ただし米国人である実質的支配者と会社申請者の情報は報告を要しません。米国人の実質的支配者しかいない場合でも報告書自体は提出しますが、実質的支配者に関するBOIを含める必要はないとされています。
すでに提出した情報はどうなりますか。
FinCENは国立公文書記録管理局と連携し、米国人が提供したと合理的に信じる本人確認書類を届け出た個人の情報を、BO ITシステムから削除する処理を実施するとしています。処理は1回の掃引で一度だけ行い、削除の申請窓口や個別の確認は設けないとされています。
金融機関に求められる本人確認は変わりますか。
変わりません。FinCENは、報告規則と顧客デューデリジェンス(CDD)規則は異なる目的に資し、異なる法的根拠に基づいて生じるものであると述べ、CDD規則の撤廃を求める意見を退けています。口座開設時に法人顧客からBOIを収集する枠組みはそのまま残ります。
出典
- *1 参考:Financial Crimes Enforcement Network「Beneficial Ownership Information Reporting Requirement Revision」(連邦官報 2026年8月14日・最終規則)(https://www.federalregister.gov/documents/2026/08/14/2026-16576/beneficial-ownership-information-reporting-requirement-revision)。最終規則の連邦官報掲載。RIN 1506-AB67と発効日、暫定最終規則の恒久化と4点の改正内容、国内報告会社の除外と外国報告会社に残る義務、米国人の実質的支配者および会社申請者の扱い、外国のプールされた投資ビークルの特則、FinCEN IDの更新要件の撤廃、登録から30日という期限、報告会社の母集団や提出済み件数などの数値、BO ITシステムからの一度限りの削除と2027年2月10日の扱い、ならびに顧客デューデリジェンス規則を変更しない旨の一次情報として。確認日は2026年9月7日。(2026年9月確認)
- *2 参考:Financial Crimes Enforcement Network「同 最終規則(連邦官報掲載 全文テキスト)」(https://www.federalregister.gov/documents/full_text/text/2026/08/14/2026-16576.txt)。上記の連邦官報掲載全文。I. Background、II. The Final Rule、III. Other Issues Raised in Comments to the Interim Final Rule、V. Regulatory Impact Analysis の各節の原文の確認に使用。確認日は2026年9月7日。(2026年9月確認)