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電子通知の既定化|英国は連絡先の未提出で利用を止める
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 既定が電子に切り替わる:拒否の届出がない限りです*1。
- 連絡先は利用の条件になる:出すまで使えなくなります*1。
- 到達の証明も指示で定める:時刻と内容まで対象です*1。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
通知を紙から電子へ移すとき、難しいのは技術ではなく届いたことをどう扱うかです。英国の税務当局は、そこを含めて制度にしました。
デジタル通信・連絡先規則2026が2026年7月13日に制定され、8月3日に施行しました*1。作ったのはHMRC(英国歳入関税庁)の長官で、根拠は財政法1999の第132条と、財政法2026の第261条です*1。
読みどころは3つです。既定を電子にする仕組み、連絡先の提出を利用の条件にしたこと、そして到達の証明の扱い。順に見ていきます。
目次
「既定デジタル事項」という単位を作った
まず全体像です*1*2。
規則の第3条第1項は、長官は、指示により、ある税務事項が既定デジタル事項であることを指定できるとしました*1。ここでいう税務事項は、財政法2026第261条第6項の定義によれば、その徴収と管理が長官の責任である事柄です*2。
第2項が本体です*1。HMRCは、既定デジタル事項に関して電子通信を使うことができる*1。ただし、受け手がその事項に関して電子通信を受け取らない旨の選択をHMRCへ届け出ており、かつその選択の撤回を届け出ていない場合は除かれます*1。
つまり、何もしなければ電子で届くという状態が既定になります*1。紙で受け取りたい人は、そう申し出る必要があります*1。従来の「電子を選んだ人にだけ電子で送る」という発想とは、初期値が逆です*1。
この切り替えを事項の単位で行える点も特徴です*1。制度全体を一度に電子へ移すのではなく、準備の整った事項から指定していけます*1。指定は法令ではなく指示(direction)で行うため、追加のたびに規則を改正する必要もありません*1。
選択の届出についても、第3項が長官は、指示により、選択の届出と、その撤回の届出について、様式、内容、時期、方法を定めることができるとしています*1。ここでも細目は指示に委ねられました*1。
| 条項 | 指示で定められること |
|---|---|
| 第3条第1項 | ある税務事項を「既定デジタル事項」として指定する |
| 第3条第3項 | 電子通信を受け取らない旨の選択、およびその撤回について、届出の様式・内容・時期・方法を定める |
| 第3条第4項 | 電子通信が情報の到達をもたらしたとみなされるか、到達の時刻、到達した情報の内容の証明の方法を定める |
| 第5条第1項(a) | オンラインサービスと事項ごとに、提出すべきデジタル連絡先を特定する |
| 第5条第2項 | 提出の様式と方法、および時期(反復的なものを含む)を定める |
| 第5条第3項 | 提出しない者について、提出して様式にも従うまで、その事項および指示が定める他の事項に関してオンラインサービスを使えないこととする |
| 第5条第4項 | 正当な理由があると長官が認める場合に、第3項の帰結が生じないこととする |
この規則は、実質のほとんどを指示へ委ねています*1。規則の条文は枠だけを与え、どの事項をいつ電子にするか、どの連絡先をどの様式で集めるかは、長官が別に決める作りです*1。改訂の速さと引き換えに、名宛人は「現に有効な指示」を自分で追う必要があります*1。
あわせて第4条が、所得税・法人税(電子通信)規則2003の第3条第1項を改正し、既定デジタル事項をその適用から外しました*1。古い規則との二重適用を避ける整理です*1。
到達したかどうかの証明も、指示で定める
第3条第4項が、実務でいちばん重い規定かもしれません*1。
長官は、HMRCによる関連する電子通信の利用に関して、指示により、次の事項をどのように証明するかを定めることができます*1。その電子通信の利用が情報の到達をもたらしたものとして扱われるかどうか、その到達の時刻、そしてそのようにして到達した情報の内容です*1。
第6項は、この「関連する」の意味を限定します*1。第2項に基づいて行われる利用であり、かつ2003年規則の第2条第1項(a)に当たらない既定デジタル事項に関して行われる利用です*1。
電子通知で争いになるのは、たいてい届いたかどうかといつ届いたかです*1。紙の郵便には、発送の記録や配達の証明という長年の慣行があります*1。電子には、それに相当する共通の作法がありません*1。第4項は、その作法を当局側が定められるようにしました*1。
システムの側から見ると、この規定は証跡の設計要件に翻訳されます*1。送信の記録、宛先の記録、本文の版、開封や取得の記録。どれを、どの粒度で、どれだけの期間保持するかが、指示の内容次第で決まります*1。実装の前に、証明の要件を確かめる必要があります*1。
同じ構図は、他国の制度にも現れます。豪州が障害の記録について保存期間と提出の期限を条文に置いたのも、障害履歴の公開仕様で見たとおりです*1。
連絡先の提出が、サービス利用の条件になる
第3部が、利用者側の義務です*1。
第5条第1項は、既定デジタル事項に関してHMRCが提供するオンラインサービスを使う者に対して、2つを求めます*1。そのオンラインサービスと事項に関して長官が指示で定めるデジタル連絡先をHMRCへ提出すること、そして提出した連絡先を使わなくなった場合に、その事実をHMRCへ伝え、指示が定める代わりの連絡先を提出することです*1。
第2項は、提出の様式と方法、そして時期(反復的なものを含む)を、長官が指示で定められるとしました*1。including on a recurring basisという書き方から、定期的な再確認を求める運用も想定されています*1。
そして第3項が、従わない場合の帰結です*1。長官は、指示により、第1項の情報を提出しない者、または第2項に従って提出しない者について、その情報をHMRCへ提出し、かつ第2項(a)に従うまで、その事項および指示が定めるその他の事項に関して、そのオンラインサービスを使えないこととすると定められます*1。
第4項に例外が置かれました*1。長官が、その者に不履行についての正当な理由があると認める場合には、第3項の帰結が生じないことを、指示で定めることができる*1。
連絡先の未提出が、罰ではなく利用の停止につながる設計です*1。「電子で通知する以上、届く先を確保する」という筋は通っています*1。ただ、利用者から見れば、手続きの入口で足止めされることになります*1。
授権法は過料も認めていたが、規則は使わなかった
授権規定の側を見ると、選ばれなかった手段が分かります*2。
財政法2026の第261条第1項は、長官が規則により、HMRCのオンラインサービスを使う者に対して、指定されたデジタル連絡先を提出すること、指定された連絡先を使わなくなった場合にHMRCへ伝えること、その場合に代わりの指定された連絡先を提出することを求められるとしています*2。
第2項は、その規則で置ける内容を列挙します*2。要件の遵守を、HMRCのオンラインサービスを使う条件とすること、不履行について、指定する額(1,000ポンドを超えない額)の過料を科すこと、過料に関する既存の規定(賦課、再審査、不服申立てに関するものを含む)を、修正の有無を問わず適用すること、提出や通知の方法を指定すること、そして過料に関する部分を除き、規則で定めうる事柄を長官の指示に委ねることです*2。
規則2026は、このうち利用の条件とすることと指示への委任を使い、過料は設けませんでした*1*2。金銭の制裁ではなく、サービスの利用停止という手段だけで組み立てられています*1。
デジタル連絡先の定義も第261条第6項にあります*2。電子メールアドレス、携帯電話番号、その他デジタルの手段で連絡するための連絡先です*2。手段を限定せず、将来の追加に開いた書き方です*2。
取得した連絡先の使い道にも規定があります*2。第5項は、この要件に従って提出された連絡先について、歳入関税庁が2005年法第17条に基づき利用できる機能には、HMRCが提供するオンラインサービスに関するあらゆる機能が含まれるとしました*2。目的外の利用を防ぐのではなく、むしろ利用できる範囲を明示する規定です*2。
委託の扱いも押さえられています*2。第7項と第8項は、HMRCが提供するオンラインサービスには、HMRCのために提供されるものを含むとし、その場合、連絡先の提出にはサービスを提供する者への提出を含み、HMRCへ伝えることにはその者へ伝えることを含むとしました*2。
この設計の効きどころと、副作用
制度の作りを、設計の観点から評価してみます*1*2。
効いているのは初期値の反転です*1。電子を選ばせるのではなく、紙を選ばせる形にすると、移行の速度が上がります*1。同意を集める運用は、集め切るまでの期間が読めません*1。
もう一つが単位の細かさです*1。事項ごとに指定できるため、リスクの低いものから順に切り替えられます*1。全面移行の失敗を避ける、段階的な作り方です*1。
副作用もあります*1。第一に、届かない相手が見えにくくなることです*1。紙なら、宛先不明で戻ってきます*1。電子では、送信に成功しても読まれないことがあります*1。第3条第4項の証明の規定は、この曖昧さに対応するためのものと読めます*1。
第二に、連絡先の鮮度です*1。第5条第1項(b)は、使わなくなった連絡先について申告と差し替えを求めます*1。ただ、使わなくなったことを自分で申告する人は多くありません*1。第2項が反復的な提出を認めているのは、その現実への手当てでしょう*1。
第三に、利用停止の副作用です*1。連絡先が古いまま放置された利用者は、通知が届かず、かつサービスも使えない状態になりえます*1。正当な理由の例外(第4項)が、そこを緩める弁になります*1。
日本のIT部門が持ち帰れる論点
この規則と法は英国の制度で、日本の事業者に直接の義務を課すものではありません*1*2。ただし、通知を電子へ移す設計では参考になります*1。
第一に、既定値を先に決めることです*1。電子を既定にするのか、選択制にするのか、事項ごとに変えるのか*1。この選択は、後から変えると利用者の設定を一斉に書き換えることになります*1。移行の計画を作る段階で、初期値と、既存の利用者の扱いを決めておくのが要点です*1。
第二に、到達の定義を仕様に書くことです*1。到達したとみなす時点を「送信が成功した時刻」にするのか、「利用者がログインして表示した時刻」にするのか*1。前者なら送信ログ、後者なら閲覧ログが証跡になります*1。どちらを採るかで、保持すべきデータが変わります*1。
第三に、連絡先の鮮度を測ることです*1。バウンスや配信の失敗を記録し、一定回数を超えたら「到達しない」状態としてフラグを立てる仕組みが要ります*1。利用者へ再入力を促す導線と、それでも直らない場合の代替手段(紙、電話、窓口)を、あらかじめ用意しておくことになります*1。
第四に、止める前に猶予を置くことです*1。英国の制度でも、正当な理由がある場合の例外が用意されました*1。利用の停止は強い手段なので、事前の予告、猶予の期間、救済の窓口をセットで設計しないと、問い合わせが集中します*1。近い論点は、英国の自動意思決定の規律が求める、人による介入と異議の導線にも通じます*1。
まとめ:英国のデジタル通信・連絡先規則で押さえる3つの視点
英国では、デジタル通信・連絡先規則2026が2026年7月13日に制定され、7月14日に下院へ提出、2026年8月3日に施行しました。HMRCの長官が、財政法1999第132条および財政法2026第261条に基づいて作った規則です。押さえたい視点は三つあります。第一に、既定の反転。第3条第1項は、長官が指示により、ある税務事項を既定デジタル事項として指定できるとし、第2項は、指定された事項についてHMRCが電子通信を使えるとしました。ただし、受け手がその事項について電子通信を受け取らない旨の選択を届け出ており、かつその撤回を届け出ていない場合は除かれます。選択とその撤回の届出について、様式、内容、時期、方法は長官の指示で定められます。あわせて第4条が、所得税・法人税(電子通信)規則2003の第3条第1項から既定デジタル事項を外しました。第二に、到達の証明。第3条第4項は、HMRCによる関連する電子通信の利用について、その利用が情報の到達をもたらしたものとして扱われるかどうか、到達の時刻、到達した情報の内容を、どのように証明するかを指示で定められるとしています。第6項は、関連する利用を、第2項に基づく利用であって、2003年規則第2条第1項(a)に当たらない既定デジタル事項に関するものと限定しました。第三に、連絡先の提出。第5条第1項は、既定デジタル事項に関してHMRCのオンラインサービスを使う者に、指示が定めるデジタル連絡先の提出と、使わなくなった場合の申告および代替の提出を求めます。第2項は、様式、方法、時期(反復的なものを含む)を指示で定められるとし、第3項は、従わない者について、提出して様式にも従うまで、その事項と指示が定めるその他の事項に関してオンラインサービスを使えないとする定めを置けるとしました。第4項により、正当な理由があると長官が認める場合の例外を指示で置けます。授権法である財政法2026第261条第2項は、1,000ポンドを超えない額の過料を規則で定めることも認めていますが、規則2026は過料を設けず、利用の停止のみを手段としています。
よくある質問
既定デジタル事項とは何ですか。
長官が指示で指定した税務事項です。規則2026の第3条第1項は、長官が指示により、ある税務事項が既定デジタル事項であることを指定できるとしています。税務事項は、財政法2026第261条第6項により、その徴収と管理が長官の責任である事柄と定義されます。第3条第2項により、指定された事項については、受け手が電子通信を受け取らない旨の選択を届け出ており、かつその撤回を届け出ていない場合を除き、HMRCが電子通信を使えます。
紙で受け取り続けることはできますか。
届け出れば可能です。規則2026の第3条第2項(a)は、受け手がその事項に関して電子通信を受け取らない旨の選択をHMRCへ届け出た場合を、電子通信を使える場合から除いています。同項(b)は、その選択の撤回を届け出ていないことも条件としています。第3項により、選択の届出と撤回の届出について、様式、内容、時期、方法は長官の指示で定められます。
デジタル連絡先を出さないと、どうなりますか。
オンラインサービスを使えなくなることがあります。規則2026の第5条第3項は、長官が指示により、第1項の情報を提出しない者や、第2項に従って提出しない者について、その情報をHMRCへ提出し、かつ第2項(a)に従うまで、その事項および指示が定めるその他の事項に関して、そのオンラインサービスを使えないこととする定めを置けるとしています。第4項により、長官が正当な理由があると認める場合には、この帰結が生じないことを指示で定められます。なお、授権法である財政法2026第261条第2項(b)は1,000ポンドを超えない額の過料も認めていますが、規則2026は過料を設けていません。
デジタル連絡先には何が含まれますか。
電子メールアドレスと携帯電話番号のほか、デジタルの手段で連絡するための連絡先が含まれます。財政法2026第261条第6項は、デジタル連絡先を、電子メールアドレス、携帯電話番号、またはデジタルの手段で連絡する目的のその他の連絡先と定義しています。第7項と第8項により、HMRCが提供するオンラインサービスにはHMRCのために提供されるものが含まれ、その場合、連絡先の提出にはサービスを提供する者への提出が、HMRCへ伝えることにはその者へ伝えることが含まれます。
出典
- *1 参考:英国法令データベース「The Digital Communications and Contact Details Regulations 2026」(SI 2026 No. 804・2026年7月13日制定/2026年8月3日施行)(https://www.legislation.gov.uk/uksi/2026/804/made)。本記事の一次情報。制定日、下院への提出日、施行日、根拠(財政法1999 第132条および財政法2026 第261条)、第2条の定義(2003年規則、長官、既定デジタル事項、指示、HMRC)、第3条(第1項の指示による指定、第2項の電子通信の利用と選択による除外、第3項の届出と撤回に関する指示、第4項の到達の有無・時刻・内容の証明に関する指示、第5項の税務事項の意味、第6項の「関連する」の限定)、第4条(所得税・法人税(電子通信)規則2003 第3条第1項の改正)、第5条(第1項のデジタル連絡先の提出と使わなくなった場合の申告・代替の提出、第2項の様式・方法・時期の指示と反復的な提出、第3項のオンラインサービスの利用停止、第4項の正当な理由による例外)、ならびに説明ノートを確認した。確認日は2026年9月10日。(2026年9月確認)
- *2 参考:英国法令データベース「Finance Act 2026」第261条(デジタル連絡先を求める権限)(https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2026/11/section/261)。授権規定の一次情報として。第1項(提出、使わなくなった場合の通知、代替の提出を規則で求められる旨)、第2項(利用の条件とすること、1,000ポンドを超えない額の過料、過料に関する既存の規定の適用、提出や通知の方法の指定、過料以外の事項の指示への委任)、第3項(適用範囲・例外・異なる定め・補則・経過措置)、第4項(下院の決議による廃止に服する統計文書としての手続き)、第5項(提出された連絡先について2005年法第17条に基づき利用できる機能の範囲)、第6項の定義(長官、デジタル連絡先=電子メールアドレス・携帯電話番号その他デジタルの手段で連絡するための連絡先、HMRC、歳入関税庁、税務事項)、ならびに第7項と第8項(HMRCのために提供されるオンラインサービスの扱い)を確認した。あわせて第260条が財政法1999第132条第5項(a)および財政法2002第135条第4項(a)を改正したことも確認した。確認日は2026年9月10日。(2026年9月確認)