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外部人材活用のトラブル、早期離任に備えて契約で決めておくこと
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 作業に当たる人を交代するときは、事前に書面で知らせ、十分に引き継ぐことを契約に書いておきます。
- 問題が起きたら書面で協議を求め、話し合いがまとまらないまま何日たてば解除できるかも決めておきます。
- 最初の契約期間は短めにし、作業の手順を文書に残して、連絡の窓口を複数の人にしておきます。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
業務委託で開発に加わってもらったエンジニアが、参画して数か月で抜けることになった。後任はいつ来るのか、それまでの作業を誰が続けるのかを委託先に尋ねても、はっきりした答えが返ってこない——。外部のエンジニアと開発を進める現場では、こうしたトラブルが起こりがちです。外部人材活用の早期離任とは、業務委託などで開発に加わった人が、予定していた契約の期間を終える前に現場を離れることを指します。
交代するときの知らせ方や引き継ぎ、問題が起きたときの話し合いの手順を契約に書いておけば、離任が決まってからの混乱を小さくできます。ただし万能ではなく、早期離任そのものを防げるか、後任がすぐに見つかるかは、契約だけでは決まりません。本記事では、外部のエンジニアと開発を進めるマネージャーに向けて、早期離任が起こる仕組み、契約に書いておく交代の手続き、問題が起きたときの協議、契約期間の決め方、そして外部に頼むときに確認したい点を整理します。
目次
外部人材の早期離任とは
早期離任は、誰の判断で現場を離れるかによって3つに分けると整理しやすくなります。一つ目は、委託先の会社に雇われているエンジニアが、その会社を辞める場合です。二つ目は、委託先の会社が、別の案件への配置換えなど自社の都合でエンジニアを交代させる場合です。三つ目は、個人事業主として直接契約しているエンジニアが、契約そのものを途中で終える場合です。
どれに当たるかで、発注する側が話をする相手が変わります。一つ目と二つ目は委託先の会社が相手で、後任を出してもらえるかどうかも委託先との話し合いになります。三つ目は本人が契約の相手なので、後任は発注する側が自分で探すことになります。どの場合も、離任が決まってから手順を考え始めると、引き継ぎに充てる日数が足りなくなるトラブルが起きやすくなります。
契約の期間が満了して担当者が入れ替わるときの引き継ぎは「SES契約終了の後任への引き継ぎ、要員交代と会社交代の違い」で、離任するときの情報の扱いは「業務委託エンジニアの離任時に情報漏えいを防ぐ3つの対策」で扱っています。本記事では、期間の途中で離れることに備えて、契約と体制で先に決めておく点に絞ります。
なぜ契約の途中でも離任が起こるのか
委託先の会社に雇われているエンジニアの場合、発注する側と委託先の契約と、委託先と本人の雇用は、別々の契約です。民法第627条第1項は、雇用の期間を定めなかったときは、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができ、雇用は申入れの日から2週間を経過することによって終了すると定めています。*2
開発の業務委託を準委任(仕事の完成ではなく作業を行うことを約束する契約)で結ぶ場合は、民法第656条により、委任の規定が同じように当てはまります。 第651条第1項は「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」と定めています。 同じ条の第2項は、相手方に不利な時期に解除したときなどは相手方の損害を賠償しなければならないとし、やむを得ない事由があったときはこの賠償の定めは当てはまらない、としています。*2
どの事情がやむを得ない事由に当たるのか、賠償が必要になるのかは、個々の事情によって異なります。発注する側が押さえておきたいのは、条文のうえでは、契約の途中でも関係を終えられる仕組みになっているという点です。だからこそ、交代や解除のときの手順を、契約の中に先に書いておく意味があります。
契約に書いておく交代の手続き
手順を考えるときの手がかりになるのが、IPA(情報処理推進機構)の「情報システム・モデル取引・契約書<アジャイル開発版>」です。アジャイル開発(短い期間で作っては見直す進め方)を準委任で委託するときの契約のひな型と解説で、解説付きの版は2025年4月8日に更新されています。*1 業務従事者(契約にもとづいて作業に当たる人)の交代について、条文と解説の両方があります。
第3条第5項は、自らの業務従事者を変更する場合は、委託業務の遂行に支障を及ぼさないよう、「事前に相手方に対し、新旧の業務従事者の氏名及び交替理由を書面により通知するものとし、変更に当たって十分な引継ぎを行わせるものとする。」と定めています。*1 解説は、スクラムチーム(開発を一緒に進める少人数の単位)の人員の交代はプロジェクトに大きな影響をもたらすため、なるべく避けることが望ましいとしています。 そのうえで、交代しなければならない場合もあるので、交代に向けた準備ができるよう事前に知らせることにした、と説明しています。
アジャイル開発ではない準委任の契約でも、交代を事前に書面で知らせることと、引き継ぎを行わせることの2つは、契約書に取り込んでおくと話を進めやすくなります。条文は「事前に」と書いているだけなので、何日前までに知らせるか、引き継ぎに何日を充てるか、その間の費用をどう扱うかは、委託先と話し合って決めます。
後任を誰にするかにも注意がいります。解説は、発注する側が委託先の業務従事者を選ぶと、労働者派遣事業と評価されうるため注意を要する、としています。*1 モデル契約の別紙では、体制の欄に役割ごとの「求められる経験・スキル」を書く形をとっています。 後任の条件は、人の名前ではなく、この欄に書いた経験と技能で委託先に伝えます。
問題が起きたときの協議と解除
早期離任の前には、作業が予定どおりに進まない、担当者が役割を果たしていないといった問題が出ていることもあります。モデル契約の第7条は、相手方が自らの役割を十分に果たさない場合や、スクラムチームの体制に不足がある場合を含めて、チームの中では解消が難しい問題が生じたときは、問題の具体的な内容を示した書面を渡して、問題解消協議の開催を求められると定めています。*1 求められた側は速やかに協議に応じなければならず、協議には双方の意思決定の権限を持つ責任者が出席できます。
協議をしても調わないまま一定の日数が過ぎた場合や、求めてから一定の日数が過ぎても協議が開かれない場合は、書面で通知して、その時点から先の契約を解除できます。日数は空欄になっていて、当事者が決めて書き込む形です。解除したときは、それまでに行われた業務に対応する委託料を支払うとしています。*1 相手方に義務の違反があれば、解除した後でも損害賠償の請求は妨げられない、とする項も置かれています。
第22条第5項は、契約に定めのある場合を除いて解除できないとし、民法の原則よりも解除できる場面を絞っています。*1 解説は、準委任契約では民法第651条第1項でいつでも解除できるのが原則だとしたうえで、信頼関係を危うくする問題が生じたときは、すぐに解除するのではなく、いったん協議を試みた方が柔軟な問題解決につながりうる、という考えを示しています。早期離任を申し出られたときも、まず書面で問題を示して話し合うという順番を決めておくと、委託先との話を始めやすくなります。
契約期間の決め方
モデル契約の解説は、この契約は準委任で成果物の完成を約束するものではないため、契約期間をリリースの予定と一致させる必要はないとしています。*1 そのうえで、アジャイル開発を初めて委託する相手とは、契約期間を短めに設定しておき、その期間中に作業の進み方や自社との相性を見極めてから、延長するかどうかを決める方法も考えられる、としています。
IPAが事例調査から紹介している工夫にも、相性や信頼関係を確かめるため、最初は短期(例えば2〜3か月)の準委任契約を結び、お試し期間とするものがあります。*1 延長の方法について、第8条は書面による合意で延長できると定め、別案として、期間が終わる一定の月数前までにどちらからも終了の意思表示がなければ自動で更新される形も用意しています。*1 解説は、アジャイル開発では延長に両者の合意を求める方法を原則にした、と説明しています。
短い期間で区切り、合意して延長を重ねる形にしておくと、期間の終わりが近づくたびに、次の期間も続けてもらえるかを委託先と確かめる機会ができます。そこで交代の予定が分かれば、後任の手配を早めに始められます。早期離任が起きたときも、残りの期間が短いので、担当の割り振りを組み直す手間も小さくて済みます。
一人が抜けても作業が止まらない体制
契約とあわせて、一人が抜けても作業を続けられる体制を先に作っておきます。モデル契約の第9条は、発注する側が仕様書などの文書の作成を求める場合は、要求事項の一つとしてプロダクトバックログ(作るものの一覧と優先順位)に加えるとしています。*1 解説は、アジャイル開発では文書を作成しないというのは誤解で、将来のメンテナンスなどのために設計書が作成されることも多いとし、作成に必要な時間を明示的に確保することにした、と説明しています。
連絡の窓口も、一人に集めないようにします。モデル契約の第3条第3項では、双方が実施責任者(指示や依頼の連絡を受ける窓口の人)を選び、本件業務に関する指示や依頼の連絡は、この実施責任者を通じて行います。*1 IPAの検討会の議論では、実施責任者の業務量が多い場合や現場に不在となる場合にも対応できるよう、サブの実施責任者を選任することも考えられるという意見が出ています。 委託先の窓口の人が離任しても、次の連絡相手が決まっていれば、交代の話し合いをすぐに始められます。
発注する側でも、委託先の人しか知らない作業を残さないようにします。設定の変更やリリースの手順を文書にして、社内の担当者も一度は自分で操作して確かめておくと、交代の間に作業が止まる期間を短くできます。技術情報が特定の人に偏っていないかの洗い出し方は「担当者の離脱に備えて技術情報の個人依存を洗い出す」で扱っています。
外部に委託するときに確認しておきたい点
外部人材活用の契約を結ぶ前に、委託先と次の点を話し合っておきます。表の「モデル契約の箇所」の列は、モデル契約の中で近い定めがある箇所です。
| 項目 | 確かめる内容 | モデル契約の箇所 |
|---|---|---|
| 交代の知らせ方 | 何日前までに、誰から、書面で知らせるか | 第3条第5項 |
| 引き継ぎ | 引き継ぎに充てる日数と、その間の費用の扱い | 第3条第5項 |
| 後任の条件 | 役割ごとに求める経験と技能 | 別紙 第4項(体制) |
| 問題が起きたとき | 協議を求める方法と、協議が調わないときの日数 | 第7条 |
| 契約期間 | 最初の期間の長さと、延長の決め方 | 第8条、別紙 第7項 |
| 文書と窓口 | 作る文書と作成に充てる時間、窓口の人数 | 第3条第3項、第9条 |
委託先に尋ねるときは、「交代があった場合、後任が作業に入るまで何日かかるか」「引き継ぎの期間に、前任と後任の両方の費用がかかるのか」のように、日数と費用で尋ねると答えを比べやすくなります。複数の委託先を比べているなら、同じ質問を全社に出しておきます。答えが契約書の案に書かれていなければ、条項として加えるよう求めます。
まとめ:早期離任に備えて確かめておきたい3つの点
外部人材活用で早期離任に備えるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、業務従事者を交代するときは事前に書面で知らせ、十分に引き継ぐことを契約に書くこと。第二に、問題が起きたときに書面で協議を求める手順と、協議が調わないときの日数を決めておくこと。第三に、最初の契約期間を短めにし、作業の手順を文書に残して、連絡の窓口を複数の人にしておくことです。この3点を踏まえておけば、「来月で抜けると言われたのに、後任も引き継ぎの日数も何も決まっていない」という事態を避けやすくなります。契約の書き方や後任の探し方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
早期離任の引き継ぎには、何日くらい取ればよいですか
作業の中身によって変わるので、契約の前に委託先と日数で決めておきます。モデル契約の第3条第5項も「十分な引継ぎ」と定めていて、日数までは書いていません。*1 文書の説明、操作の立ち会い、質問を受ける期間のように引き継ぎの中身を並べ、それぞれに何日かかるかを積み上げると、委託先とも話し合いやすくなります。
個人のフリーランスと直接契約している場合も、同じ備えが使えますか
使えます。ただし契約の相手が本人なので、委託先の会社に後任を出してもらう形はとれず、後任は発注する側が探します。契約期間を短めに区切ること、作業の手順を文書に残し、連絡の窓口を複数の人にしておくことは、そのまま当てはまります。
外部の人が役割を果たしていないとき、交代を求めてもよいですか
まず委託先の責任者に、問題の具体的な内容を書面で示して協議を求めます。モデル契約の第7条も、相手方が自らの役割を十分に果たさない場合を、問題解消協議を求められる問題に含めています。*1 後任を誰にするかは委託先が選び、発注する側は求める経験と技能を伝える形にしておきます。
委託先に、過去の交代の件数を尋ねてもよいですか
尋ねてかまいません。契約の途中で担当者が交代した件数や、交代のときに後任が作業に入るまでの日数を聞いておくと、委託先ごとの備え方を比べられます。件数を出せない場合は、交代のときの社内の手順が決まっているかを聞きます。
外部人材の早期離任に備えたいとき
交代の手続きや、後任に求める経験と技能の整理からご相談いただけます。
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出典
- *1 参考:IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「情報システム・モデル取引・契約書(アジャイル開発版)」(https://www.ipa.go.jp/digital/model/agile20200331.html)。出典:IPA「アジャイル開発外部委託モデル契約(解説付き)」(2025年4月8日更新)。第3条(体制)第2項・第3項・第5項とその解説、第7条(問題解消協議)、第8条(契約期間及び更新)、第9条(文書作成)、第22条(解除)第5項とその解説、別紙第4項(体制)・第7項(本契約の有効期間)とその解説、ノウハウ事例【工夫3】を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:e-Gov法令検索「民法」(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)。出典:民法(明治29年法律第89号)第627条第1項(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)、第651条(委任の解除)、第656条(準委任)を参照(2026年9月確認)