LASSIC Media らしくメディア
外部エンジニアに要る保険業の業界知識、保険会社と代理店の違い
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 保険料や保険金の計算結果の確認には、監督指針上も商品設計部門などが主体的に関わります。
- 病歴などの特別の非公開情報は、目的外に使わない措置が保険会社にも代理店にも求められています。
- 損害保険代理店の56.4%は自動車関連業で、代理店の案件では所属保険会社のルールまで確かめます。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
保険の案件なので、保険の仕組みが分かる人に来てほしい。でも、保険業の経験まで条件にすると候補者がほとんど残らない——。保険会社や保険代理店のシステム開発に外部エンジニア(業務委託などで社外から開発に加わるエンジニア)を迎える現場では、こうした迷いが起こりがちです。ここでいう保険業の業界知識とは、保険の募集から保険料の計算、保険金の支払いまでの業務の流れと、保険業法や金融庁の監督指針が定める決まりを知っていることを指します。
業界知識があれば、商品を設計する部門との打ち合わせや、テストで確かめる場面の洗い出しは進めやすくなります。ただし万能ではなく、どの業務のシステムに触れるのか、依頼元が保険会社か代理店かによって、要る知識は変わります。本記事では、保険業のシステム開発に外部エンジニアを加えるマネージャーに向けて、業界知識の分け方、保険料と保険金の計算に触れる開発、病歴などの情報の扱い、保険会社と代理店の案件の違い、そして外部に頼むときに確認したい点を整理します。
目次
保険業の業界知識とは
保険業の業界知識は、生命保険か損害保険か、そして業務のどの段階に関わるかで中身が変わります。保険業法は、保険業の免許を生命保険業免許と損害保険業免許の2種類とし、同じ者が両方を受けることはできないと定めています。*1 人の生存や死亡に対して保険金を払う生命保険と、偶然の事故による損害をてん補する損害保険とでは、会社も商品も分かれているということです。
業務の段階は、保険を販売する募集、申込みを受けるかどうかを決める引受け、契約を結んだ後の管理、事故や請求を受けて保険金を払う支払い、と分けて考えると整理しやすくなります。募集は営業職員や保険代理店が担い、引受けと支払いは保険会社が担います。同じ保険会社の案件でも、募集の画面を作るのか、保険金の計算を直すのかで、知っておきたい業務の中身は大きく違います。
決まりの知識は、保険業法とその施行規則、金融庁が検査や監督に使う「保険会社向けの総合的な監督指針」、そしてそれを踏まえて会社ごとに定めた社内規則を知っていることです。
保険料と保険金の計算に触れる開発
業務の知識がもっとも問われやすいのは、保険料や保険金の計算に触れる開発です。監督指針は、保険商品の開発や改定に伴うシステム開発で、商品設計部門、事務設計部門、システム部門の連携が十分図られているかを確かめるとしています。そのうえで、保険料・配当金等の重要な事項に関する計算結果のチェックに、商品設計部門と事務設計部門が「主体的に関与しているか」を問うています。*3
計算の正しさを最後に確かめるのは、商品を設計した部門だということです。外部エンジニアに求めたいのは、保険料の計算方法をすべて知っていることより、商品設計部門の説明を聞いて、どの条件で取扱いが変わるのかを読み取れることです。監督指針も、商品や仕組みの内容に照らして「取扱いの差異が生じる場合を網羅する」ケースを想定し、システム設計、プログラム設計、テストを行っているかを挙げています。*3 たとえば、被保険者の年齢、保険期間、保険料の払い方、特約の有無の組み合わせで保険料が変わる商品なら、その組み合わせを漏れなくテストの場面に起こせるかどうかが、業界知識の要る部分になります。
保険金の支払いも同じ形です。監督指針は保険金等支払管理態勢の項で、保険商品の開発や改定のときに、支払管理部門と関連する部門が連携して、適切に支払いが行えるようシステム設計、プログラム設計、テストを行っているかを問うています。*4 この項の背景には、生命保険会社での保険金・給付金の不適切な不払いや、損害保険会社での付随的な保険金の支払漏れといった問題があったことが書かれています。支払いの条件を直す開発では、支払管理部門の担当者がテストの場面づくりに加わるかどうかを先に確かめておきます。
処理量の見込みにも業務の知識が関わります。システムリスク管理の着眼点には、1日当たりの処理可能な契約件数などのシステムの制限値を把握・管理し、超えた場合のシステム面・事務面の対応策を検討しているか、という項目もあります。申込みや請求が集中しやすい時期を業務部門から聞いておけば、性能の試験で見込む件数を決めやすくなります。
病歴などの情報の扱い
保険業のシステムで特に気をつけたいのが、顧客の情報の扱いです。保険業法施行規則は保険会社に、個人である顧客の情報の安全管理と従業者の監督、そして情報の取扱いを委託する場合の委託先の監督について、漏えい、滅失、毀損を防ぐための措置を求めています(第53条の8)。*2 開発の中で顧客の情報に触れる外部エンジニアは、この委託先の監督の中で管理される立場になります。
施行規則はさらに、人種、信条、門地、本籍地、保健医療または犯罪経歴についての情報などを「特別の非公開情報」とし、業務の適切な運営の確保その他必要と認められる目的以外に使わないための措置を求めています(第53条の10)。*2 保険の申込みで告知された病歴や、保険金の請求で出される診断書の内容は、保健医療の情報に当たります。
監督指針は、顧客等に関する情報へのアクセスと利用を、業務上の必要がある役職員に限る「Need to Know原則」を示しています。委託先についても、アクセス権限を委託業務の内容に応じて必要な範囲に制限し、権限を与えられた本人と実際の利用者を突き合わせるなどして確かめているかを問うています。*4 二段階以上の委託では、委託先が再委託先を十分に監督しているかを確かめ、必要に応じて保険会社が直接監督することも求めています。
外部エンジニアに要るのは、自分が触るデータのどの項目が特別の非公開情報に当たるかを見分け、その扱いを守れることです。テストに本番のデータを使わない、画面や障害調査用の出力に病歴を出さない、といった点です。監督指針も、洗い出した顧客の重要情報について、重要度やリスクに応じて暗号化やマスキング(一部を伏せて表示すること)のルールを定めているかを問うています。*3
保険会社の案件と代理店の案件の違い
依頼元が保険代理店でも、顧客の情報の決まりは同じ形でかかります。施行規則は保険募集人と保険仲立人にも、個人顧客情報の安全管理と委託先の監督(第227条の9)、特別の非公開情報の取扱い(第227条の10)を、保険会社と同じ文言で求めています。*2 監督指針も、保険募集人の顧客情報管理(外部委託先を含む)は、規模や業務特性に応じて保険会社の情報管理態勢の項に準じるとしています。*4
違うのは、代理店がどんな会社かです。日本損害保険協会の集計では、2025年度の損害保険代理店は124,024店でした。保険募集チャネル別に見ると、自動車販売店や自動車整備工場といった自動車関連業が69,971店と56.4%を占め、保険商品の販売を専門に行う専業代理店は21,804店で17.6%です。*5
損害保険代理店の多くは、車の販売や整備、住宅の販売や賃貸といった本業のかたわらで保険を扱っています。代理店から、本業の顧客台帳と保険契約の情報をつなぐ仕組みを頼まれたときは、どこから先が保険の顧客の情報で、誰がその扱いのルールを決めているのかを最初に確かめておきます。
もう一つの違いは、ルールをたどる先です。監督指針は、顧客等に関する情報の取扱いの「委託」に、保険代理店も含むとしています。*4 保険会社から見ると、代理店そのものが顧客の情報を預ける委託先です。その代理店がさらに開発を頼めば、外部エンジニアは二段階以上の委託の先にいることになります。代理店の案件では、代理店の社内規則だけでなく、所属する保険会社が代理店に示しているルールも確かめておきます。
業界知識の要否をどう見極めるのか
業界知識の要否は一律には決まりません。案件ごとに次の4つを確かめると、見極めやすくなります。
| 確かめること | 当てはまるとき外部エンジニアに求めたいこと | 依頼元の側で補う人 |
|---|---|---|
| 生命保険か損害保険か、どの段階の業務か | その分野と段階の用語を読み、業務の流れを聞き取れること | 業務部門の担当者 |
| 保険料や保険金の計算に触れるか | 商品設計部門の説明から取扱いの差異を読み取り、テストの場面に起こせること | 商品設計部門・事務設計部門・支払管理部門の担当者 |
| 病歴などの特別の非公開情報に触れるか | 当たる項目を見分け、マスキングとアクセス権限の決まりを守れること | 顧客の情報管理の責任部署 |
| 依頼元は保険会社か代理店か | 代理店なら、本業の情報と保険の情報の境目を意識して作業できること | 代理店の担当者と、所属保険会社のルールを伝える人 |
2つ目と3つ目のどちらにも当てはまらない仕事、たとえば社内向けの帳票の見た目を直す、基盤の監視の設定を変えるといった仕事なら、保険業の経験を条件にしなくても進められる場合があります。反対に、保険料の計算と病歴の情報の両方に触れる仕事なら、保険業の経験がある人を探すか、依頼元の側で説明する人を厚めに置くかを、募集を始める前に決めておきます。
補う人を置くときは、名前と役割まで決めておくと進めやすくなります。「商品のことは商品設計部の誰に聞くか」「病歴の項目を含むデータを使いたいときは誰の承認が要るか」が参画の初日に分かっていれば、業界知識の浅い外部エンジニアでも、確かめる手順を踏んで作業を進められます。
つまずきやすい点
一つ目は、「保険業の経験あり」だけを条件にすることです。生命保険と損害保険は免許から分かれており、自動車保険の事故受付のシステムに関わった経験が、生命保険の保険料計算にそのまま生きるわけではありません。どちらの保険の、どの段階の経験を求めるのかまで書くと、条件がはっきりします。
二つ目は、テストのために本番のデータを写して使うことです。病歴のような特別の非公開情報が開発の環境に入ると、利用の目的を限る措置との関係を説明しにくくなります。テストデータの作り方と、本番のデータを見る必要が出たときの手順は、参画する前に依頼元と決めておきます。
三つ目は、代理店の案件で所属保険会社のルールを確かめないことです。代理店から聞いたルールだけで進めると、保険会社が代理店に求めている情報の扱いと食い違うことがあります。複数の保険会社の商品を扱う乗合代理店なら、確かめる相手も複数になります。
外部に頼むときに確認しておきたい点
保険業のシステム開発に外部エンジニアを加える前に、少なくとも次の点を決めておくと、候補者に求める条件を書きやすくなります。
- 生命保険か損害保険か、募集・引受け・契約管理・支払いのどの段階の業務に触れるか
- 保険料や保険金の計算に触れるか、触れるなら計算結果を誰が確かめるか
- 特別の非公開情報に当たる項目はどれか、テストデータとアクセス権限をどう決めるか
- 依頼元が代理店なら、所属保険会社のルールを誰から聞くか
- 再委託で加わる人にも、同じルールの説明が届くか
これらが決まれば、募集の条件も「損害保険の保険金支払いのシステムで、テストの設計を担当した経験」のように具体的に書けます。金融機関全般で業界知識を作業ごとに切り分ける考え方は「外部エンジニアに金融業の業界知識をどこまで求めるか」で、代理店のシステムに求められる機能は「保険代理店システム」で扱っています。
まとめ:保険業の業界知識で確かめておきたい3つの点
保険業のシステム開発に外部エンジニアを加えるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、頼む仕事が保険料や保険金の計算に触れるかを確かめ、計算結果を誰が確かめるかを決めること。第二に、病歴などの特別の非公開情報に触れる範囲を決め、テストデータとアクセス権限の扱いを参画の前に伝えること。第三に、依頼元が代理店なら、所属保険会社のルールまでたどって確かめることです。この3点を踏まえておけば、「保険業の経験者に来てもらったのに、商品の条件の抜けがテストで見つからなかった」という事態を避けやすくなります。業界知識をどこまで求めるかに迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
生命保険と損害保険の両方の経験がある人を探すべきですか
案件の分野に合った一方の経験で足ります。保険業法は、生命保険業免許と損害保険業免許を同じ者が受けることはできないと定めているため、1つの保険会社の案件はどちらかの分野に絞られます。*1 募集の条件には、生命保険か損害保険かを書いておきます。
保険業の経験がない外部エンジニアには、参画の前に何を伝えればよいですか
触れる業務の段階と、その業務でよく使う用語の一覧、特別の非公開情報に当たる項目、テストデータの作り方の4つを伝えます。用語の一覧は、業務部門がふだん使っている資料から抜き出したもので十分です。質問の窓口になる人の名前も、あわせて伝えておきます。
保険会社が事務を外部に委託するとき、監督指針は契約に何を書くよう求めていますか
提供されるサービスの内容と水準、解約などの手続き、契約どおりにサービスが提供されない場合の委託先の責務と損害の負担、委託先から受ける報告の内容、金融当局の検査・監督上の要請に沿って対応するときの取り決めなどが例に挙がっています。*6 開発の契約でも、報告の内容と検査への協力の取り決めを確かめておくと進めやすくなります。
クレジットカードの情報に触れる場合は、何が違いますか
監督指針は、クレジットカード情報等について、保存期間を設定して保存場所を限り、期間が過ぎたら速やかに廃棄することや、業務上必要な場合を除いて画面にカード番号をすべて表示させないことを挙げています。*4 保険料をカードで払う仕組みに触れる開発では、表示と保存の決まりを先に確かめます。
保険業のシステム開発に外部エンジニアを加えたいとき
頼む仕事の整理と、求める業界知識の見極めからご相談いただけます。
Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。
Remoguは、リモート前提で全国から即戦力のITプロ人材を調達するサービスです。リラシクは、扱う求人がすべてリモートワークのITエンジニア専門転職エージェントです。どちらもLASSICが運営しています。
出典
- *1 参考:e-Gov法令検索「保険業法」(https://laws.e-gov.go.jp/law/407AC0000000105)。出典:保険業法(平成7年法律第105号)第3条第2項・第3項(生命保険業免許と損害保険業免許)を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:e-Gov法令検索「保険業法施行規則」(https://laws.e-gov.go.jp/law/408M50000040005)。出典:保険業法施行規則(平成8年大蔵省令第5号)第53条の8(個人顧客情報の安全管理措置等)、第53条の10(特別の非公開情報の取扱い)、第227条の9、第227条の10を参照(2026年9月確認)
- *3 参考:金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」II-3 統合的リスク管理態勢(https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/ins/02c.html)。出典:II-3-13-2 システムリスク管理態勢(システムの制限値、顧客の重要情報の管理ルール、保険商品の開発や改定等に際してのシステム開発)を参照(2026年9月確認)
- *4 参考:金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」II-4 業務の適切性(https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/ins/02d.html)。出典:II-4-2-9 保険募集人の体制整備義務、II-4-4-3 保険金等支払管理態勢、II-4-5 顧客等に関する情報管理態勢を参照(2026年9月確認)
- *5 参考:日本損害保険協会「保険募集チャネル別 代理店数の推移」(https://www.sonpo.or.jp/report/statistics/boshu/ctuevu000000531p-att/chaneru_dairiten.pdf)。出典:日本損害保険協会「募集形態データ」のうち保険募集チャネル別代理店数(2025年度、国内会社・外国会社合計)を参照(2026年9月確認)
- *6 参考:金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」II-5 その他(https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/ins/02e.html)。出典:II-5-1 保険会社の事務の外部委託(主な着眼点の契約内容)を参照(2026年9月確認)