LASSIC Media らしくメディア
レガシー放置の影響と立て直し方|仕様が分からないときの対処
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- レガシーシステムを放置した場合の影響をIPAが尋ねた調査で、回答した384件の77.3%が保守性・効率性の低下を挙げています。
- 影響として人材の欠乏を挙げた172件のうち、79.7%が保守性・効率性の低下も挙げています。
- 担当者が辞めたら、その人の作業を書き出し、仕様を調べる作業を分けて、期間を決めて外部に委託します。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
システムを担当していた人が辞めたあと、仕様を知る人が社内にいない。直したい箇所はあるのに、どこから直し始めればよいか分からない——。古いシステムを抱える会社では、こうした状況が起こりがちです。本記事でIPA(情報処理推進機構)の調査データを集計したところ、レガシーシステムを放置した場合の影響として、77.3%の企業が保守性・効率性の低下と運用コストの増加を挙げていました。*2 レガシー放置の影響とは、古くなったシステムに手を入れないまま使い続けたときに、保守の費用が増える、業務を続けにくくなる、担当する人が足りなくなるといった不都合のことです。
調査の結果を見ると、どの影響が多く挙がり、どの影響が一緒に選ばれているのかが分かります。ただし万能ではなく、分かるのは企業が大きいと考えている影響で、実際に起きた損失の大きさまでは示しません。本記事では、古いシステムの保守や引き継ぎを任された担当者に向けて、挙がった影響の分布、人材の欠乏と一緒に選ばれた影響、担当者が辞めたあとの進め方、そして外部に頼むときに確認したい点を整理します。
目次
レガシーシステムとは
企業がどの影響を心配しているかは、IPAの「2024年度ソフトウェア動向調査」から分かります。調査は2024年12月17日から2025年2月14日にかけて行われ、2025年4月7日時点で企業799件、個人74件の回答がありました。*1 回答は匿名化したうえで、オープンデータ(誰でも使える形の公開データ)として公開されています。本記事では、企業向けの回答をこのデータから集計した値を使います。
調査は、「老朽化・陳腐化」「複雑化・肥大化」「ブラックボックス化」のいずれかに当てはまるシステムをレガシーとみなしています。3つ目のブラックボックス化は、「ドキュメントなどが整備されておらず、属人的に運用・保守が行われ、障害発生元やシステムの仕様がわからない」状態と説明されています。*3 特定の担当者だけが仕様を知っているシステムでは、その人が辞めると、この状態に近づきます。
影響を尋ねた設問の対象は、ユーザー企業(システムを使う側の企業)662件と、そのシステム部門が独立した子会社20件の計682件です。システムを作って売る側の企業117件は、回答の対象ではありません。このうち、レガシーシステムを保有している322件と、過去に保有していた62件を合わせた384件が答えています。*2
回答する企業は、経営やビジネスの上で最も重要と考えるシステムを1つ思い浮かべて答えます。設問は、放置した場合に影響が大きいと思われるものを、10の選択肢から3つまで選ぶ形式です。*3 比率はいずれも384件に対する割合なので、足し合わせると100%を超えます。
どんな影響が挙がったのか
最も多かったのは「システムの保守性、効率性の低下、運用コストの増加」で、297件、77.3%でした。次いで「業務継続性・生産性の低下」が181件(47.1%)、「技術及び業務知識を持つ人材の欠乏」が172件(44.8%)です。*2 1番目と2番目の間には30.2ポイントの差があり、保守の手間と費用が増えることを挙げた企業が飛び抜けて多くなっています。
4番目以下は2割前後です。「セキュリティリスクの増大」が94件(24.5%)、「競争力の低下」が84件(21.9%)、「規制対応が困難になる」が76件(19.8%)、「ビジネス拡大のための高度なシステム連携やデータ連携が困難」が65件(16.9%)でした。「サプライチェーンの持続が困難になる」は11件(2.9%)にとどまり、「わからない」は6件、「その他」は4件です。*2
選ばれた回数を合計すると延べ990回で、上位3つだけで650回、全体の65.7%を占めます。上位3つは、いずれもシステムを動かし続けられるかどうかに関わる影響です。セキュリティや競争力よりも、まず保守を続けられなくなることを心配している企業が多いという結果です。
いくつの影響を選んだのか
3つまで選べる設問で、各社がいくつ選んだかを数えると、3つを選んだ企業が271件で70.6%を占めました。2つは64件(16.7%)、1つは49件(12.8%)です。*2 選んだ数の中央値(多い順に並べて真ん中の値)は3つ、平均は2.58個でした。
上限まで選ぶ企業がこれだけ多いことから、レガシーを放置したときの不都合は、1つだけで済むものではなく、いくつかが同時に出るものと考える企業が多いと分かります。自社で影響を洗い出すときも、1つの影響だけを取り上げて判断しないほうが、見落としが少なくなります。
1つだけ選んだ49件では、「システムの保守性、効率性の低下、運用コストの増加」が16件で最も多く、「業務継続性・生産性の低下」が12件で続きました。「わからない」と「技術及び業務知識を持つ人材の欠乏」は6件ずつです。*2 1つに絞った企業でも、保守の費用と業務の継続が上に来る点は全体と変わりません。
人材の欠乏と一緒に選ばれた影響
3つを選んだ271件の組み合わせは、34種類ありました。最も多かったのは「保守性・効率性の低下」「業務継続性・生産性の低下」「技術及び業務知識を持つ人材の欠乏」の3つの組み合わせで、57件です。*2 3つを選んだ271件の21.0%、384件全体の14.8%にあたります。
人材の欠乏を選んだ172件に絞ると、そのうち137件(79.7%)が保守性・効率性の低下も選び、70件(40.7%)が業務継続性・生産性の低下も選んでいました。人材の欠乏だけを選んだ企業は6件(3.5%)です。*2 人が足りないことは、単独の問題としてではなく、保守の手間と費用が増えることとほぼ一緒に挙がっています。
仕様を知る人がいなければ、小さな改修でも、プログラムや設定を調べる作業から始めることになります。調べる時間が読めないので、改修に着手する日も決まらず、手を入れないまま使い続けることになりがちです。2つは同じ企業で一緒に選ばれることが多いので、担当する人の問題と保守の負担は、分けずに考えておくと対策を立てやすくなります。
担当者が辞めたあとの進め方
担当者が辞めて仕様が分からなくなったシステムは、次の4つの手順で進めると整理しやすくなります。
- 辞めた人が担当していた作業を、作業の単位で書き出す
- 仕様を調べる作業と、業務をどうするかを決める作業を分ける
- 調べる作業を、外部に委託する分と社内に残す分に分ける
- 委託する分は、期間と受け取る文書を決めて頼む
最初に作業を書き出すのは、ブラックボックス化したシステムでは、作業の中身を特定の人だけが知っているためです。辞めた人が何をしていたのかを、「月末の締め処理の確認」「取引先の登録情報の更新」のように作業の名前で並べないと、誰にどの作業を頼むかを決められません。役割の名前だけでは、どの作業が止まっているのかが分からないためです。
次に、調べる作業と決める作業を分けます。仕様を調べる作業は、プログラムや設定を読めば進められます。一方、古い機能を残すか止めるかといった業務の判断には、社内の決裁が要ります。この2つを分けておけば、調べる作業だけを先に進められます。
3つ目と4つ目は、調べる作業のうち何を委託するかを決める手順です。業務の判断が絡む作業は社内に残し、プログラムを読んで仕様を文書にまとめる作業を分けて委託します。すべてを一度に片づけるのは難しいので、機能ごとに期間を決めて進めるほうが扱いやすくなります。仕様書の引き継ぎ方は「レガシーの仕様書を引き継ぐ手順」で扱っています。
つまずきやすい点
一つ目は、辞めた人の役割名だけを引き継ぎの単位にしてしまうことです。「基幹システムの担当」のままでは、どの作業が止まっているのかが分からず、委託先にも頼む内容を伝えられません。作業の名前と、その作業を月に何回、いつ行うのかまで書き出しておきます。
二つ目は、仕様を調べる作業と、業務をどうするかを決める作業を、同じ相手にまとめて任せることです。社内に詳しい人がいないからといって、決める作業まで委託先に任せると、何を残して何を止めたのかを社内で説明できなくなります。決める作業は、業務を知る社内の担当者が受け持ちます。
外部に委託するときに確認しておきたい点
仕様を調べて文書にまとめる作業は、期間と成果物を決めて頼みやすい作業です。フリーランスを含む業務委託で頼む場合は、どの機能を、いつまでに調べ、結果をどんな文書で受け取るのかを最初に書き出しておきます。調べた結果が文書で残れば、委託の期間が終わったあとも社内で引き継げます。
反対に、辞めた人の作業の書き出しと、業務をどうするかの判断は社内で行います。委託先には、社内で決めた方針をもとに、調べる作業と文書づくりを任せる形にすると進めやすくなります。
IT人材の不足への対応方針は「IT人材不足の対応とは」で、委託した人の稼働や契約期間の管理は「人的リソースの管理」で整理しています。
まとめ:レガシー放置で確かめておきたい3つの点
レガシーシステムを放置したときの影響に備えるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、保守の手間と費用、業務の継続、担当する人の確保が、同時に問題になりやすいと知っておくこと。第二に、担当者が辞めたら、その人が担当していた作業を作業の名前で書き出すこと。第三に、仕様を調べる作業と業務を決める作業を分け、調べる作業は期間と受け取る文書を決めて頼むことです。この3点を踏まえておけば、「仕様が分からないので、直したいのにいつまでも着手できない」という事態を避けやすくなります。引き継ぎの進め方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
この調査の数値は、どのような会社の回答ですか
IPAの2024年度ソフトウェア動向調査に答えたユーザー企業と、そのシステム部門が独立した子会社のうち、レガシーシステムを保有している、または過去に保有していた384件の回答です。*2 回答は任意で、日本の企業全体を代表するように選ばれたものではありません。
この設問から、実際に起きた影響の大きさも分かりますか
分かりません。設問は、放置した場合に影響が大きいと思われるものを3つまで選ぶ形式で、実際に影響が起きたかどうかや、その金額・期間は尋ねていません。*3 選んだ3つの間の順位も尋ねていないため、自社の影響の大きさは、自社の保守の記録などで確かめます。
辞めた人の作業を書き出すとき、何を手がかりにすればよいですか
運用手順書や引き継ぎのメモのほか、定期的に動かしている処理の設定、社内からの問い合わせの記録が手がかりになります。書き出した作業ごとに、いつ、どのくらいの頻度で行うものかを添えておくと、委託するときに作業の量を見積もりやすくなります。
仕様を調べる作業は、どのくらいの単位で頼めばよいですか
システム全体を一度に頼むより、機能ごとに区切って頼むほうが進めやすくなります。最初の機能で受け取った文書の形や細かさを確かめてから、次の機能に進めば、途中で求める内容がずれても直しやすくなります。
レガシーシステムの引き継ぎを相談したいとき
辞めた人の作業の書き出し方や、仕様を調べる作業の分け方からご相談いただけます。
Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。
Remoguは、リモート前提で全国から即戦力のITプロ人材を調達するサービスです。リラシクは、扱う求人がすべてリモートワークのITエンジニア専門転職エージェントです。どちらもLASSICが運営しています。
出典
- *1 参考:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査」調査結果データの公開と分析レポートの募集(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/software-engineering/result-software2024.html)。出典:公開日2025年2月27日・最終更新日2025年4月25日。調査期間(2024年12月17日〜2025年2月14日)、2025年4月7日時点の回答件数(企業799件・個人74件)、オープンデータとしての公開を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 企業向け 調査結果(選択肢項目文字列)」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/software-engineering/h5f8pg00000028n8-att/software2024-c-result-data-str.csv)。出典:Q5-10の回答。件数・比率・延べ選択数・選んだ個数の分布・組み合わせの件数・中央値と平均は、このCSVから集計・計算した値(2026年9月確認)
- *3 参考:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 企業向け 設問一覧」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/software-engineering/h5f8pg00000028n8-att/software2024-c-questions.xlsx)。出典:Q5-10の設問文と選択肢、3つまでという上限、回答対象の企業種別、Q5-2のレガシーの定義とブラックボックス化の説明、Q5-3の「一つ思い浮かべて」という指示を参照(2026年9月確認)