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エンジニア中途採用の入社後の期待値のずれ、面談で確かめる
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 情報通信業で技術職の転職者を採った事業所の70.1%が、採用理由に「経験を活かし即戦力になるから」を挙げています。
- 入社後の期待値のずれを防ぐには、任せる仕事と求める水準を入社前に書面で共有し、入社後の面談で本人の受け止めと照らし合わせます。
- ずれが見つかったら、仕事の組み直しと会社側の説明の見直しを先に考え、試用期間中の扱いは就業規則と専門家に確かめます。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
経験者として採ったはずなのに、任せた仕事がなかなか進まない。本人からは「聞いていた仕事と少し違う」という声が届く——。エンジニア中途採用では、入社後にこうした期待値のずれが表に出ることがあります。ここでいう期待値のずれとは、会社が中途採用者に任せるつもりの仕事や求める水準と、本人が入社前に思い描いていた仕事や働き方とが、入社後に食い違っている状態を指します。
ずれは、どちらか一方の落ち度というより、入社前に言葉にしきれなかった部分から生まれやすいものです。本記事では、開発組織の採用と受け入れを担う方に向けて、厚生労働省「令和7年転職者実態調査」の数値と労働法令の条文をもとに、会社の側の期待、転職した人の満足と不満、入社前に書面で確かめること、入社後の面談での確かめ方、ずれが見つかったときの手当てを整理します。
目次
入社後の期待値のずれとは
エンジニア中途採用で期待値のずれが起きやすいのは、大きく3つの領域です。1つ目は任せる仕事で、担当するシステムの範囲、使う技術、チームの中での役割が含まれます。2つ目は求める水準です。どこまでを一人で進めてほしいのか、いつまでに何ができていればよいのかといった点を指します。3つ目は働き方で、勤務の時間や場所、チームでの仕事の進め方がこれに当たります。
中途採用では、会社の側が「経験者なのだから、入社直後から前の職場と同じように動けるはず」と考えがちです。一方で本人は、前の職場の経験がこの会社でどこまで通用するのか分からないまま入社します。この前提の違いを話さないまま仕事が始まると、数週間後にお互いが「思っていたのと違う」と感じます。
本記事で使う数値は、厚生労働省の令和7年転職者実態調査のものです。この調査でいう転職者は、雇用期間の定めが無いか1年以上の一般労働者のうち、雇われる前の1年間に他の企業で働いた経験があり、2024年10月1日から2025年9月30日までの間に雇われた人を指します。個人調査の有効回答は7,310人でした。*1 入社からおおむね1年以内の人の声として読めます。
会社が中途採用者に期待すること
まず、会社の側が何を期待して採っているかを見ます。情報通信業で、専門的・技術的な仕事の転職者を採用した事業所を100とすると、採用した理由(3つまでの複数回答)は「経験を活かし即戦力になるから」が70.1%、「専門知識・能力があるから」が63.1%、「職場への適応力があるから」が37.2%、「離職者の補充のため」が32.6%でした。*2 調査産業計の同じ職種では、それぞれ64.1%、51.2%、27.6%で、情報通信業のほうが期待を示す項目がいずれも高くなっています。
即戦力や専門知識に期待すること自体は、中途採用として自然なことです。気をつけたいのは、「即戦力」という言葉の中身が人によって違う点です。入社した月から一人で既存機能の改修を受け持つことなのか、3か月後にチームの設計の判断に加わることなのか。言葉だけを共有して中身がそろっていないと、入社後にずれとなって表に出ます。
「職場への適応力があるから」が4割近いことも見ておきたい点です。会社は技術の力だけでなく、社内の進め方に早くなじむことも期待しています。ただ、なじむまでにかかる期間は、社内の手順がどれだけ書き出されているか、誰に聞けばよいかが決まっているかといった、受け入れる側の準備にも左右されます。適応を期待するなら、その準備も会社の側の宿題になります。
採用する側が抱える問題
採用する側の事業所は、どんな問題を感じているのでしょうか。情報通信業で一般労働者の転職者がいる事業所を100とすると、転職者を採用する際に「問題がある」と答えた事業所は91.6%でした。問題点(複数回答)は、「必要な職種に応募してくる人が少ないこと」が60.3%、「採用時の賃金水準や処遇の決め方」が41.2%、「応募者の能力評価に関する客観的な基準がないこと」が29.5%、「採用後の処遇やキャリア形成の仕方」が20.6%です。*3
期待値のずれに関わるのは、後ろの2つです。能力を評価する基準がないまま採ると、面接で何を確かめ、何を確かめていないのかが記録に残りません。入社後に「思ったより進みが遅い」と感じても、入社前にどんな水準を見込んでいたのかを本人に示せず、話し合いが感覚のぶつけ合いになりがちです。
採用後の処遇やキャリア形成の仕方も、ずれの元になります。本人が入社後に担当がどう広がると見込んでいたのか、会社がどんな順番で任せるつもりだったのか。この2つの違いは入社直後には表に出にくく、半年ほどたってから見えてくることがあります。
転職した人の満足と不満
次に、転職した人の側を見ます。今の勤め先が情報通信業の転職者では、仕事内容・職種に「満足」か「やや満足」と答えた人が78.9%で、「不満」か「やや不満」は6.8%でした。労働時間・休日・休暇は満足が86.4%、不満が4.5%、職業生活全体では満足が68.8%、不満が8.0%です。*4 多くの人は、今の勤め先におおむね満足しています。
そのなかで不満が比較的多いのは、通勤の便の18.3%、賃金の15.9%、会社の将来性の15.2%です。役職は不満が8.4%にとどまる一方で、「どちらでもない」が31.6%と3割を超えています。入社して1年以内では、役職についてまだ判断がついていない人が多いとも考えられます。
今の職種で見ると、専門的・技術的な仕事の転職者では、賃金の不満が27.8%、労働時間・休日・休暇が18.4%、仕事内容・職種が11.4%でした。*4 産業の区分と職種の区分は別々の集計で、どちらもエンジニアだけの値ではありません。自社の採用に近いほうを主に見て、もう一方は項目の並び方を確かめるのに使うと扱いやすくなります。
1割から2割台の不満がある項目は、入社後の面談で確かめる候補になります。
入社前に書面で確かめること
入社前の段階では、労働条件の明示が出発点になります。労働基準法第15条第1項は、使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないとしています。*5 明示する事項の一つとして、同法施行規則第5条第1項第1号の3は「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)」を挙げています。*6
同じ第15条の第2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できると定めています。*5 労働条件通知書に書く従事すべき業務と、実際に任せる仕事が離れていないか、内定を出す前に配属先の責任者と一緒に読み合わせておきます。
労働契約法第4条は、使用者は労働者に提示する労働条件と労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとしています。第2項は、労働者と使用者が労働契約の内容を、できる限り書面により確認するものとしています。*7 通知書の業務の欄は短い言葉になりがちです。求める水準や最初の3か月に任せる仕事は、通知書とは別に、期待を書き出した書面にまとめて渡す方法も考えられます。
| 領域 | 書き出すこと | 入社後に確かめる時期の目安 |
|---|---|---|
| 任せる仕事 | 担当するシステム、最初に任せる作業、使う技術 | 入社から1か月 |
| 求める水準 | 一人で進めてほしい範囲、レビューを受ける範囲、期限の考え方 | 入社から3か月 |
| 働き方 | 勤務の時間と場所、会議の頻度、相談の相手 | 入社から1か月 |
| その先の見込み | 担当を広げる順番、評価の時期と見る点 | 入社から半年 |
入社後の面談での確かめ方
入社後の受け入れの実態も見ておきます。情報通信業で転職者がいる事業所のうち、転職者に「教育訓練を実施した」のは80.8%でした。実施した事業所を100とすると、種類(複数回答)は計画的なOJT(日常の業務に就きながら行う計画的な教育訓練)が84.7%、OFF-JT(通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練)が70.2%で、OFF-JTのうち入職時のガイダンスが62.3%、職務遂行に必要な能力・知識を付与する教育訓練が33.5%です。一方、実施しなかった事業所も15.9%ありました。*8
入職時のガイダンスは、主に会社から本人へ伝える場です。期待値のずれを確かめるには、これとは別に、本人の受け止めを聞く場を設けます。入社前に書き出した書面を本人と一緒に見ながら、項目ごとに「説明のとおりだった」「違っていた」「まだ分からない」のどれに当たるかを聞いていくと、話が具体的になります。
面談は1回で終えず、入社から1か月、3か月、半年といった節目で繰り返すのがよいでしょう。任せる仕事や働き方のずれは早く見え、評価や担当の広げ方のずれは遅れて見えるからです。先ほどの満足度の項目を並べて本人に尋ねるやり方は「エンジニア中途採用の早期離職の予兆、入社後の面談で満足度を聞く」で扱っています。
本人からずれを聞いたら、会社の見込みもその場で伝えます。どちらが正しいかを決める場にせず、食い違う点を書き出し、次の面談までに何を変えるかを決めます。
ずれが見つかったときの手当て
ずれが見つかったときの手当ては、3つに分けて考えます。1つ目は任せる仕事の組み直しで、本人の経験が生きる作業を先に回し、社内の知識が要る作業は後に回します。2つ目は水準や期限の見直しで、社内の手順を覚えるまでの期間を見込んで、期限を引き直します。3つ目は会社側の説明の見直しで、求人票や面接で伝えた内容のどこが実際と違ったかを書き留め、次の採用に反映します。
試用期間中だからといって、ずれを理由に雇用を自由に終えられるわけではありません。厚生労働省のモデル就業規則の解説は、試用期間の長さの定めは労基法上ないとしたうえで、あまりに長い期間を試用期間とすることは好ましくないとしています。*9 労働基準法第21条は、第20条の解雇の予告の規定を試の使用期間中の者には適用しないとしつつ、14日を超えて引き続き使用されるに至った場合はこの限りでないと定めています。*5 労働契約法第16条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効としています。*7
実際の扱いは、自社の就業規則と労働契約の内容、それまでの経緯によって変わります。個別の判断に迷うときは、社会保険労務士や弁護士に確かめてください。試用期間の決め方そのものは「試用期間とは何を見る期間か、設計と運用」で、入社後にスキルが足りないように見えるときの見分け方は「エンジニア中途採用の入社後のスキル不足、進め方の違いを先に疑う」で扱っています。
つまずきやすい点
1つ目は、「即戦力」という言葉だけで期待を伝えたつもりになることです。入社前に、最初の3か月で任せる作業を名前で挙げておくと、この食い違いは起きにくくなります。
2つ目は、面談を入社直後の1回で終えることです。評価や担当の広げ方のように遅れて見えるずれは、最初の面談では話題に上がらないので、節目ごとに同じ書面を見直します。
3つ目は、ずれを本人の力の問題とだけ見ることです。能力を評価する客観的な基準がない、と答えた事業所が3割近くあったように、入社前に会社が何を見込んでいたのか自体があいまいなこともあります。本人に何を求めるかを話す前に、会社の側の説明と受け入れの準備に抜けがなかったかを振り返ると、手当ての順番を決めやすくなります。
まとめ:期待値のずれを確かめる3つの点
エンジニア中途採用で入社後の期待値のずれを確かめるうえで、押さえておきたい点は3つです。第一に、「即戦力」の中身を、任せる仕事、求める水準、働き方に分けて入社前に書き出すこと。第二に、労働条件通知書の業務の欄と実際に任せる仕事を読み合わせ、期待を書いた書面を本人と共有すること。第三に、入社後は1か月、3か月、半年の節目に面談を重ね、食い違いを一つずつ書き出して手当てを決めることです。任せたい仕事に合う人の探し方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
期待を書き出した書面は、労働条件通知書の代わりになりますか
代わりにはなりません。労働条件通知書は法令で明示が求められる事項を示すもので、期待を書き出した書面はそれを補うものとして別に用意します。両方の内容が食い違わないよう、同じ人が見比べてから渡します。
面談で本人が「説明と違う」と言ったら、すぐに担当を変えるべきですか
まず、どの点がどう違ったのかを具体的に書き出します。任せる作業の順番を入れ替えれば済む場合もあれば、チームの体制を見直す必要がある場合もあります。すぐに担当を変えるかどうかは、次の面談までに何を試すかを決めてから判断しても遅くありません。
期待値のずれは、面接の段階で防げますか
すべては防げませんが、減らすことはできます。面接で最初の3か月に任せる作業を具体的に伝え、応募者がそれをどう受け止めたかを聞いておくと、入社後の面談でも同じ話から始められます。
任せる仕事が決まったら相談
中途採用で任せたい仕事と、求める水準が書き出せていれば、そのままご相談いただけます。どこまでを入社直後に任せるか決めきれていない段階でも構いません。
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出典
- *1 参考:厚生労働省「令和7年転職者実態調査の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/6-18c-r07.html)。出典:厚生労働省「令和7年転職者実態調査の概況」(2026年9月25日公表)。調査の概要(個人調査の有効回答7,310人)と主な用語の定義(転職者)を参照(確認日2026年9月29日)(2026年9月確認)
- *2 参考:厚生労働省「令和7年転職者実態調査」事業所票 第8表(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040505200&fileKind=4)。出典:第8表 職種、産業・事業所規模ほか別転職者の有無、転職者を採用した理由別事業所割合(複数回答3つまで)。構成比3の専門的・技術的な仕事の調査産業計・情報通信業の行を参照(確認日2026年9月29日)(2026年9月確認)
- *3 参考:厚生労働省「令和7年転職者実態調査」事業所票 第14表(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040505206&fileKind=4)。出典:第14表 産業・事業所規模ほか別転職者の有無、転職者を採用する際の問題の有無、問題点別事業所割合(複数回答)。構成比1の情報通信業の行を参照(確認日2026年9月29日)(2026年9月確認)
- *4 参考:厚生労働省「令和7年転職者実態調査」個人票 第31表(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040505241&fileKind=4)。出典:第31表 現在の職場での満足度項目、性、産業・職種ほか、満足度別転職者割合及び満足度D.I.。性別計の情報通信業と、現在の勤め先での職種の専門的・技術的な仕事の行を参照(確認日2026年9月29日)(2026年9月確認)
- *5 参考:e-Gov法令検索「労働基準法」(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)。出典:労働基準法 第15条(労働条件の明示)、第21条を参照(確認日2026年9月29日)(2026年9月確認)
- *6 参考:e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)。出典:労働基準法施行規則 第5条第1項第1号の3を参照(確認日2026年9月29日)(2026年9月確認)
- *7 参考:e-Gov法令検索「労働契約法」(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)。出典:労働契約法 第4条(労働契約の内容の理解の促進)、第16条(解雇)を参照(確認日2026年9月29日)(2026年9月確認)
- *8 参考:厚生労働省「令和7年転職者実態調査」事業所票 第15表(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040505207&fileKind=4)。出典:第15表 産業・事業所規模ほか別転職者の有無、転職者に対する教育訓練の実施の有無、実施した教育訓練の種類別事業所割合。構成比1・構成比2の情報通信業の行を参照(確認日2026年9月29日)(2026年9月確認)
- *9 参考:厚生労働省「モデル就業規則」(令和7年12月版・労働基準局監督課)(https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf)。出典:第6条(試用期間)の解説1を参照(確認日2026年9月29日)(2026年9月確認)