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副業エンジニアの稼働時間、稼働上限を本業との合計から決める
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 副業を本業の勤め先に知らせている人でも67.0%は副業の時間を報告しておらず、依頼する側でも稼働上限を置いておきます。
- 本業の残業時間を聞き、本業と合わせて週40時間を超える分が月45時間に収まるように、週と月の上限を決めるのが目安です。
- 上限を超えそうなときは時間を増やす前に作業の量か納期を見直し、やむを得ず超えた翌週は作業の時間を減らします。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
遅れを取り戻そうと、副業エンジニアに「今週だけ多めに」と何度か頼んでいた。後から聞くと、本業も繁忙期で、毎晩遅くまで作業していた——。副業エンジニアに開発を頼む現場では、本業と合わせた負担が見えないまま、こうした頼み方が続きがちです。稼働上限とは、1週間や1か月のうちに自社の作業に使ってもらう時間の上限を、本人と決めておくものです。
上限を決めておくと、本人の働き過ぎを防ぎやすくなり、依頼する側も作業の量を無理なく組めます。ただし万能ではなく、上限を置いても本業でどれだけ働いているかまで見えるわけではありません。本記事では、副業エンジニアに業務委託で開発を頼むマネージャーに向けて、上限を置く理由、本業の勤め先が副業の時間をどこまで見ているか、本業との合計から上限を決める手順、契約に書く上限と超えたときの扱い、そして外部に頼むときに確認したい点を整理します。
目次
稼働上限とは
稼働時間の見込みと稼働上限は、似ているようで役割が違います。見込みは「週8時間ほど作業してもらえそうだ」という計画の数字で、納期を組むときに使います。稼働上限は「週10時間を超えては頼まない」という線で、作業が遅れたときに時間を積み増してよい範囲を決めます。見込みの立て方と納期の組み方は「副業エンジニアの稼働時間、依頼の前に決める3つのこと」で扱いました。
上限は、週と月の2つで持っておくと扱いやすくなります。週の上限は、特定の週に作業が集中するのを防ぐためのものです。月の上限は、本業の繁忙期をまたいで作業が続くときに、合計の時間がふくらみ過ぎないようにするためのものです。これに、1日のうち何時までに作業を終えるかという終わりの時刻を加えると、夜遅くまでの作業が何日も続くことも防げます。
ここでいう上限は、雇われて働く人の時間外労働の上限とは別に、依頼する側と本人が話し合って決めるものです。何時間にするかに決まった答えは無く、本人の本業の働き方を聞いたうえで決めることになります。
なぜ上限を置くのか
国の「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(2024年8月閣議決定)は、副業・兼業を行う者について「長時間労働となるおそれがあること」に留意する必要があるとしています。*1 副業の作業は本業の勤務時間の外で行われるため、本業が忙しい月にも同じ時間を頼めば、そのぶん本人の合計の時間は長くなります。
厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」も、雇用されない働き方も含めて副業・兼業を行える環境を整えることが重要だと述べたうえで、「いずれの形態の副業・兼業においても」長時間労働にならないよう留意して行われることが必要だとしています。*2 業務委託で副業をする人も、この「いずれの形態」に含まれます。
時間が問題になるのは、疲れがたまるからです。脳・心臓疾患の労災認定基準は、労働時間を「疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる」ものとし、その時間が長いほど業務の過重性が増すとしています。*3 依頼する側にとっても、本人が疲れて見落としが増えたり、体調を崩して作業が止まったりすれば、そのまま納期に響きます。
もう一つの理由は、作業が遅れたときの歯止めです。上限を決めていないと、「今週だけ」と時間を増やしてもらう頼み方が何度も続きやすくなります。上限があれば、遅れたときに時間を増やすのではなく、作業を減らすか納期を延ばすかを選ぶことになります。
本業の勤め先は副業の時間を見ているか
本業の勤め先が副業の時間を把握していれば、本業と合わせた時間はそちらで見てもらえそうに思えます。ところが、労働政策研究・研修機構(JILPT)の2022年の調査では、本業で雇われている副業者8,984人のうち、副業を本業の勤め先に「知らせている」人は38.7%でした。*4 残りは「知らせていない」が37.5%、「正式な届け出などはしていないが、上司や同僚は知っている」が23.8%です。*4
知らせている3,480人に、本業の勤め先から副業の労働時間の報告を求められているかを尋ねると、「報告を求められていないし、報告していない」が67.0%を占めました。何らかの形で報告している人は26.7%です。*4 本業が正社員の人に限っても、報告を求められず報告もしていない人は57.8%でした。*4
報告している928人に、報告した時間に応じて健康に配慮した措置が講じられたことがあるかを尋ねた設問では、「自身の健康について使用者と話し合ったことも、措置が講じられたこともない」が48.8%でした。*4 報告している人の間でも、副業の時間が本業の側の健康への配慮に結びついているとは限らないことが分かります。
ガイドラインは、健康診断や長時間労働者への面接指導などの健康確保措置について、対象者を選ぶ際に「副業・兼業先における労働時間の通算をすることとはされていない」としています。*2 本業の勤め先が副業の時間をどう扱っているかは会社ごとに違いますが、本業と合わせた時間を誰も見ていない場合があると考え、依頼する側でも上限を置いておきます。
本業との合計から上限を決める
上限を決めるときは、本業でどれだけ働いているかを先に聞きます。JILPTの同じ調査では、本業が正社員の副業者は、本業と副業を合わせて週平均54.9時間働いていました。*4 副業の時間を決めるときは、自社の作業だけでなく、この合計がどこまで伸びるかを見ておく必要があります。
目安として参考になるのが、先の労災認定基準の時間の考え方です。認定基準は、1週間に40時間を超えて働いた時間を時間外労働として数えます。発症前1か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は業務と発症との関連性が弱く、45時間を超えて長くなるほど関連性が徐々に強まるとしています。発症前1か月間におおむね100時間、または発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える場合は、関連性が強いと評価できるとしています。*3
認定基準は雇われて働く人の労災を判断するためのもので、2つ以上の事業で働く人については、異なる事業における労働時間を通算して評価するとしています。*3 業務委託の作業時間にそのまま当てはめるものではありません。それでも、本人の体にとっては、本業の時間も副業の時間も同じ1日の中の時間です。本業と副業を合わせて週40時間を超える分を月45時間の中に収めることを一つの目安にしておくと、上限の根拠を本人と共有しやすくなります。
| 本業の残業(1か月) | 副業を週10時間にしたときの時間外(1か月) | 時間外を月45時間に収める副業の上限(1週) |
|---|---|---|
| なし | 40時間 | 11時間 |
| 20時間 | 60時間 | 6時間 |
| 40時間 | 80時間 | 1時間 |
本業の残業が月20時間ある人に週10時間を頼むと、合わせた時間外は月60時間になり、45時間を超えます。この人の上限を週6時間ほどにしておけば、月45時間の中に収まります。本業の残業が月40時間ある人では、副業に回せる時間はほとんど残りません。本業の残業は月によって変わるので、繁忙期の残業時間も聞き、その月の上限は別に決めておきます。
1日の終わりの時刻も決めます。認定基準は、睡眠時間の確保の観点から、勤務間インターバル(終業から次の始業までの時間)がおおむね11時間未満の勤務の有無や頻度を検討するとしています。*3 本業の始業が9時の人なら、前の晩の作業を22時までに終えれば11時間が空きます。夜の作業と連絡の時間帯の決め方は「副業エンジニアの夜間稼働、返事が遅れる理由と稼働時間の決め方」でも扱っています。
契約に書く上限
決めた上限は、業務委託契約か、契約とあわせて取り交わす作業の依頼書に書いておきます。口頭で決めただけでは、社内の担当者が替わったときに引き継がれません。書いておきたいのは次の項目です。
- 週の稼働上限と月の稼働上限(例:週8時間・月32時間まで)
- 本業の繁忙期の上限(例:3月と9月は週4時間まで)
- 作業を終える時刻(例:平日は22時まで)
- 作業した日・時間帯・時間の報告の仕方と頻度
- 上限を超えそうなときに相談する期限(例:その週の水曜日まで)
- 上限を見直す時期(例:3か月ごと)
上限は、本業との合計から出した時間を超えない範囲で、見込みの時間より少し上に置きます。見込みと同じにすると、少しの遅れでも上限に届き、毎週のように相談が要るようになります。見込みが週6時間で合計から出した上限が週8時間なら、その2時間が遅れを吸収する幅になります。
報告には、作業した時間だけでなく、作業した日と時間帯も書いてもらいます。時間帯が分かれば、終わりの時刻を過ぎた作業が続いていないかも確かめられます。本業の勤め先に副業の時間を届け出る必要があるかどうかは本業の勤め先の決まりによるため、本人に確かめてもらいます。報告の記録は、本人が本業の勤め先に説明するときにも使えるよう、本人の手元に残る形にしておくと親切です。
上限を超えたときの扱い
上限に届きそうなときは、時間を増やす前に、作業の側を動かします。選べるのは、頼む作業を減らす、作業の順番を入れ替えて急ぐものだけ先に終えてもらう、納期を延ばす、一部を社内の別の人か別の外部人材に回す、の4つです。どれを選ぶかは、上限を超えそうだと相談を受けた時点で、依頼する側が決めます。
やむを得ず上限を超えて作業してもらうときは、事前に本人の了承を取り、超えるのは1週だけにとどめます。翌週は上限より少ない時間にするか、作業を休む週にしておきます。認定基準は、休日のない連続勤務の評価に当たって、休日が十分確保されている場合は「疲労は回復ないし回復傾向を示す」ことを踏まえるとしています。*3 超えた分を取り戻す週を置いておくと、疲れが積み上がり続けるのを避けやすくなります。
上限を超える週が2か月のうちに何度も出るなら、上限の決め方ではなく、頼んでいる作業の量が本人の時間に合っていないと考えます。作業の量か納期を見直し、それでも足りなければ、稼働できる時間の長い人を加えることを検討します。本人から「今月は本業が忙しいので減らしたい」と申し出があったときに、それを理由に不利な扱いをしないことも、社内の担当者と共有しておきます。
外部に委託するときに確認しておきたい点
副業エンジニアを探す段階で、次の点を候補者に確かめておくと、稼働時間の上限を決めやすくなります。
- 本業の所定の勤務時間と、ふだんの月と繁忙期の残業時間
- 本業の始業時刻と、平日に作業を終えられる時刻
- ほかの副業の有無と、そこで使っている時間
- 本業の勤め先に副業の時間を報告しているか、報告が必要か
- 上限を超えそうなときに、何日前までに相談できるか
確かめた結果、本業の残業が多く、自社に回せる時間がほとんど無いと分かることもあります。その場合は、作業を小さく分けて頼むか、稼働できる時間の長い人に任せる分け方を考えます。自社で雇って副業人材を受け入れる場合は、労働時間の通算のルールが別にあるので「副業人材の受け入れ、後から契約する側の違い」を、契約の前に本人と確かめる事項は「副業エンジニアと契約する前に本人と確かめる5つのこと」を参照してください。
まとめ:稼働上限で確かめておきたい3つの点
副業エンジニアの稼働上限を決めるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、本業の勤め先が副業の時間を見ているとは限らないため、依頼する側でも週と月の上限を置くこと。第二に、本業の残業時間を聞き、本業と合わせて週40時間を超える分が月45時間に収まるように、上限と作業を終える時刻を決めること。第三に、上限を超えそうなときは時間を増やす前に作業の量や納期を見直し、超えた翌週は作業の時間を減らすことです。この3点を踏まえておけば、「遅れを取り戻そうと時間を増やしてもらううちに、本人が体調を崩して作業が止まった」という事態を避けやすくなります。上限の決め方や作業の分け方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
本人が上限より多く働きたいと言った場合はどうすればよいですか
本業の残業時間と合わせた合計を確かめてから決めるのが無難です。合計に余裕があれば、期間を区切って上限を引き上げ、その期間が終わったら元に戻します。引き上げた内容は、口頭ではなく契約の変更として書面に残しておきます。
本業が自営業やフリーランスの人にも上限は必要ですか
必要です。本業に決まった勤務時間が無い分、本業と合わせた時間はかえって見えにくくなります。本業の週の作業時間を本人に見積もってもらい、繁忙期の見込みも聞いたうえで、会社員の場合と同じように合計から上限を決めます。
同じチームに副業エンジニアが複数いる場合、上限は人ごとに変えますか
変えるのが基本です。本業の残業や始業時刻は人ごとに違うため、同じ上限にすると、ある人には余裕があり、別の人には重すぎるということが起こります。作業の割り振りも、それぞれの上限の合計から考えます。
稼働上限は契約の途中で変えられますか
本人と合意すれば変えられます。本業の異動や繁忙期の変化で残業時間が変わったときが、見直しのきっかけになります。変えた上限と適用する期間は、依頼書や覚書に書いて残しておきます。
副業エンジニアの稼働上限と作業の分け方を相談したいとき
頼みたい作業と見積もりの時間、希望の納期が分かっていれば、そのままご相談いただけます。副業の人に頼む作業と、別の人に任せる作業の分け方が決まっていない段階でも構いません。
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出典
- *1 参考:厚生労働省「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(令和6年8月2日閣議決定・PDF)(https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001282629.pdf)。出典:厚生労働省「過労死等の防止のための対策に関する大綱~過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ~」(令和6年8月2日閣議決定)。第2の現状と課題(テレワーク・副業・兼業・フリーランスに関する記述)、第4の(9)イ 副業・兼業を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月改定・PDF)(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf)。出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和2年9月改定、令和4年7月改定)。1(3)(副業・兼業の促進の方向性)、3(3)健康管理とそのア(健康確保措置の対象者)を参照(2026年9月確認)
- *3 参考:厚生労働省「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(令和3年9月14日基発0914第1号・法令等データベース)(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6319&dataType=1&pageNo=1)。出典:同通達。第4の2(4)ウ(ア)労働時間、(イ)勤務時間の不規則性のb 休日のない連続勤務・c 勤務間インターバルが短い勤務、第6 複数業務要因災害を参照。令和5年10月18日基発1018第1号で別表2が改正されているが、本記事で参照した箇所は改正の対象外(2026年9月確認)
- *4 参考:労働政策研究・研修機構「副業者の就労に関する調査」(JILPT調査シリーズNo.245・PDF)(https://www.jil.go.jp/institute/research/2024/documents/0245.pdf)。出典:労働政策研究・研修機構「副業者の就労に関する調査」(JILPT調査シリーズNo.245、2024年7月)。調査は2022年10月のインターネット調査で、副業者1万1,358人を集計。図表2-4-18(本業と副業の労働時間の総計)、図表2-5-10(副業していることの本業の勤め先への通知状況)、図表2-5-23(本業の勤め先から労働時間の報告を求められているか)、図表2-5-25(健康確保措置の実施状況)を参照。図は資料に示された数値をもとに筆者が作成した(2026年9月確認)