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製造業のエンジニア採用、業界経験を問う範囲は工程で変わる
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 製造業の業界経験は、設計・製造・生産管理・品質管理のどの工程の、どの業務の経験かまで書き出します。
- JILPTの調査では、社内の人を育てる企業の多くが工程に詳しい人を対象にした一方、技術のある人を選んだ企業も2割前後ありました。
- 工程の決まりを知らないと仕様を決められない仕事は経験を重く見て、それ以外は入社後に教える人と方法を決めます。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
製造業の会社でエンジニアを募集するとき、製造業での経験を必須にするかどうかで迷う担当者は少なくありません。必須にすると応募が集まりにくく、問わずに採ると、生産の流れや品質の決まりを一から説明することになるためです。ここでいう業界経験とは、製造業の会社で、設計・製造・生産管理・品質管理といった工程の業務や、その工程を支えるシステムに携わった経験のことです。
業界経験のある人を採れば、現場の説明にかける時間は短くなります。ただし、どの工程の経験かによって役に立つ場面は変わり、経験を求めるほど候補者は限られます。本記事では、製造業でエンジニア採用を担当する人に向けて、労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査から、製造業の企業がデジタル化を担う社内の人材をどう選び、どう育てているかを確かめます。そのうえで、業界経験を求めたい仕事と問わない仕事の分け方、入社後に補う方法、求人票と面接での書き方を整理します。
目次
製造業で問われる業界経験とは
製造業の業界経験と一口にいっても、中身は工程によって違います。製品を考えて図面にする企画・開発・設計、ものをつくる製造、計画を立てて材料や進み具合を管理する生産管理、できあがったものを検査して記録する品質管理では、扱う情報も、システムを使う人も違うためです。
エンジニアの仕事でいえば、設計の部門が使う図面や部品表の仕組み、製造の現場で設備から集めたデータを見る仕組み、生産計画や在庫を扱う仕組み、検査の結果を残す仕組みなどがあります。同じ「製造業の経験あり」でも、生産管理の仕組みを作った人と、検査の記録を扱った人とでは、入社してすぐに分かる業務が異なります。
もう一つ分けておきたいのは、業種の違いです。金属製品と電子部品とでは、つくり方も品質の確かめ方も違います。業界経験を要件にするときは、製造業という大きなくくりではなく、どの工程の、どの業務の経験かまで書き出しておくと、求める中身がぶれにくくなります。
では、製造業の企業は、工程の知識とデジタルの技術のどちらを重く見ているのでしょうか。採用そのものの数字ではありませんが、社内の人をデジタル化の担い手として育てるときに誰を対象にしたかを尋ねた公的な調査があります。
育成の対象にした社内の人材
JILPTの「ものづくり産業におけるDXと人材育成に関する調査」は、プラスチック製品、鉄鋼、金属製品、電気機械器具、輸送用機械器具など11の業種に属する、従業員30人以上の製造業の企業2万社を対象に行われました。調査期間は2024年11月27日から12月23日まで、有効回収数は3,313社です。*1
この調査では、デジタル技術の導入・活用に対応できる人材を「社内人材の活用・育成」で確保した企業に、どのような社内の人材を育成の対象にしたかを工程ごとに尋ねています(複数回答)。製造の工程(775社)では、「関連の製造工程に精通しており、デジタルに関する技術も足りている人材」が43.9%、「関連の製造工程に精通しているが、デジタルに関する技術が不足している人材」が42.3%でした。*3
企画・開発・設計の工程(442社)では、工程に精通していて技術も足りている人材が58.4%で、4つの工程の中でいちばん高い値です。品質管理の工程(425社)では、精通しているが技術が不足している人材が43.8%で、技術も足りている人材の43.1%とほぼ並びました。*3 報告書は、デジタル技術の人材を育てる前提として、関連の製造工程に精通していることが求められていることがうかがえるとまとめています。*2
製造業の企業がデジタル化を社内の人に任せるときは、技術が足りているかどうかよりも先に、工程を知っているかどうかを見ている傾向があるといえます。技術は後から身につけてもらう、という考え方です。
工程に詳しくない人を選んだ企業も
ただし、工程の知識がなければ任せられない、と言い切れるわけではありません。同じ調査では、「関連の製造工程に精通していないが、デジタルに関する技術は足りている人材」を育成の対象にした企業も、どの工程でも2割前後ありました。生産管理で24.4%、製造で22.6%、企画・開発・設計で21.7%、品質管理で18.1%です。*3
工程にも技術にも精通していない人材を対象にした企業も、8.1〜10.1%ありました。*3 複数回答なので、1社が工程に詳しい人と技術に詳しい人の両方を対象にしている場合もありえます。工程の知識と技術を1人がそろえて持っていなくても、人の組み合わせで仕事を進めている企業があると考えられます。
採用に置き換えると、業界経験を必須にするか問わないかは、会社や工程によって答えが分かれるということです。生産管理のように、技術に詳しい人を対象にした割合が比較的高い工程もあれば、品質管理のように低めの工程もあります。自社がどちらに近いかは、任せる仕事と、社内にいる人の顔ぶれで決まります。
なお、この調査は社内の人材の育て方を尋ねたもので、中途採用で業界経験を求めたかどうかを直接尋ねたものではありません。数字は、製造業の企業がデジタル化の担い手に何を求めているかを知る手がかりとして使います。
誰が選び、どう育てているか
社内の人材をどのように選んだかも、工程ごとに尋ねられています。いずれの工程でも「技術を導入する部署による選出」が最も多く、企画・開発・設計で57.7%、製造で51.6%、品質管理で50.1%、生産管理で47.9%でした。「幅広く全社員を対象とした」は20.8〜27.1%、「人事部主導の選出」は16.1〜19.3%です。*3
育て方では、「現場での作業の実践を通じて(OJT)」がどの工程でも5割を超えました。「会社の指示による社外機関での研修・講習会への参加」は、企画・開発・設計で56.8%、製造で50.6%、品質管理で46.6%、生産管理で39.9%です。「社内での研修・セミナーの実施」も、どの工程でも3割を超えています。*3
この2つの結果からは、技術を導入する部署が人を選び、現場の仕事を通じて育てている企業が多いことが分かります。工程の知識を持つ人がその部署にいるからだと考えられます。中途で採ったエンジニアに工程の知識を身につけてもらうときにも、同じ形を使えます。配属先の部署が教える役を引き受け、実際の仕事を通じて覚えてもらう形です。
業界経験を求めたい仕事
業界経験を重く見たいのは、工程の決まりを知らないと仕様を決められない仕事です。たとえば、検査の結果や製造の記録を扱う仕組みでは、どの記録をいつまで残すか、誰が承認するかといった決まりが業務の中にあります。こうした決まりを知っている人なら、利用者の説明を聞いたときに、抜けている点に自分から気づけます。
設備とつながる仕事も、経験を重く見たい場面です。製造の現場で設備からデータを集める仕組みを作り直すときは、設備を止められる時間や、現場で守る作業の決まりを踏まえて段取りを組む必要があります。現場の事情を知らずに進めると、段取りを一から組み直すことになりかねません。
社内に工程に詳しい人が少ない場合も、業界経験の重みは増します。調査では、多くの企業が技術を導入する部署の中から人を選び、現場の仕事を通じて育てていました。*3 教えられる人が社内にいない工程では、この形がとれないため、入社後に工程の知識を補うのは難しくなります。教える人がいない工程の仕事ほど、入社の時点で経験を確かめておく理由があります。
業界経験を問わない仕事と補い方
反対に、業界経験を問わなくてよいのは、工程の決まりよりも技術の深さが仕事の中身を決める場面です。社内のネットワークやサーバーの基盤、全社で使うデータの置き場所、社員が使う業務アプリの作り直しなどは、製造業でなくても経験を積めます。こうした職で業界経験を必須にすると、候補者を必要以上に狭めてしまいます。
経験を問わずに採ったときは、入社後に何を、誰が、いつまでに教えるかを先に決めておきます。調査で多かった育て方に沿えば、次のような補い方が考えられます。
- 担当する工程の部署から教える役を1人決め、現場の作業を見る機会をつくる
- 社外の研修や講習会を使い、工程の基本を学んでもらう
- 工程に詳しい社員と組んで仕事を進め、仕様を決める場に同席してもらう
3つ目のやり方は、調査で工程に詳しい人だけでなく、工程に詳しくないが技術のある人を育成の対象にした企業もあったことと合います。工程の知識は社員が、技術はエンジニアが持ち寄れば、1人に両方を求めなくても仕事は進められます。外部のエンジニアに製造業の知識をどこまで求めるかは「外部エンジニアの業界知識、製造業の4工程で求める範囲を決める」で扱っています。
求人票と面接での書き方
求人票では、業界経験を「製造業での経験3年以上」のように年数だけで書かないようにします。どの工程の、どの業務の仕組みに、どんな作業で関わったかまで書くと、応募する側が自分の経験と比べやすくなります。必須、歓迎、問わないの3つで書き分けると、次のようになります。
- 必須の例:製造業の品質管理の部門で、検査の記録を扱う仕組みの要件をまとめ、改修した経験
- 歓迎の例:生産計画や在庫を扱う仕組みの導入や改修に携わった経験
- 問わない場合の例:製造業の経験は問いません。配属後は、生産管理の部門の担当者が業務の流れを説明します
問わない場合は、経験を問わないと書くだけで終わらせず、入社後に誰が何を教えるかまで添えます。応募する側は、工程を知らない自分が入社後に困らないかを気にするからです。
面接では、業界経験がある人にも、どの工程の仕組みに関わったかを尋ねます。同じ製造業の経験でも、設計の部門の仕組みを作った人と、製造の現場の仕組みを作った人とでは、入社後すぐに任せられる仕事が違います。技術の経験は、業界経験とは別に質問を用意して確かめます。
業界経験がない人には、利用者の説明を聞いて仕様をまとめた経験を尋ねると、入社後に工程を覚えていけるかを見る手がかりになります。金融業や保険業での考え方は「金融業のエンジニア採用と業界経験」と「保険業のエンジニア採用、業界経験を要件にするか決める3つの点」で扱っています。
まとめ:業界経験は工程ごとに決める
製造業のエンジニア採用で業界経験を要件にするかどうかは、一律には決まりません。JILPTの調査では、デジタル化の担い手として社内の人を育てるとき、多くの企業が工程に精通した人を対象にしていた一方で、工程に詳しくないが技術のある人を対象にした企業も2割前後ありました。業界経験は、どの工程の、どの業務の経験かまで書き出し、工程の決まりを知らないと仕様を決められない仕事や、社内に教える人がいない工程の仕事では重く見ます。それ以外の職では経験を問わず、配属先の部署の誰が教える役になり、社外の研修をどう使うかを決めておくと、候補者を狭めずに済みます。
よくある質問
製造業向けのシステムを作る開発会社での経験も、業界経験に入りますか
入れて考えてよいでしょう。製造業の会社の社員でなくても、工程を支えるシステムに携わっていれば、利用者の業務を知る機会はあります。求人票では勤め先の種類ではなく、どの工程の、どの業務の仕組みに関わったかで書くと、こうした経験の人も応募しやすくなります。
業界経験を必須にしたら応募が集まりません。どう見直せばよいですか
必須の条件を、工程の決まりを知らないと進められない仕事に限れるかを見直します。それ以外は歓迎の条件に移し、入社後に誰が工程を説明するかを求人票に書き添えると、経験のない人も応募を考えやすくなります。
生産管理と品質管理では、業界経験の求め方に違いはありますか
調査では、工程に精通していないが技術のある人を育成の対象にした企業は、生産管理で24.4%、品質管理で18.1%でした。*3 ただし工程ごとの差は小さく、自社で求め方を決めるときは、任せる仕組みの中身と社内に教える人がいるかで判断します。
業界経験のない人に、工程の知識はどの順番で教えればよいですか
任せる仕組みを使う工程から教えます。生産管理の仕組みなら計画から出荷までの流れを、品質管理の仕組みなら検査と記録の流れを先にします。そのうえで、担当する画面や帳票が工程のどの場面で使われるかを、実際の利用者から聞く機会をつくると覚えやすくなります。
製造業のエンジニア採用を相談したいとき
任せる工程の整理と、業界経験を求めるかどうかの判断からご相談いただけます。
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出典
- *1 参考:労働政策研究・研修機構「調査シリーズNo.267 ものづくり産業におけるDXと人材育成に関する調査」(https://www.jil.go.jp/institute/research/2026/267.html)。出典:研究の方法(調査対象・調査期間・有効回収数)を参照(2026年4月27日掲載、確認日2026年10月2日)(2026年10月確認)
- *2 参考:労働政策研究・研修機構「調査シリーズNo.267」分割版 本文(PDF)(https://www.jil.go.jp/institute/research/2026/documents/267_01.pdf)。出典:第3章第2節の図表3-2-64(社内人材の選出)、図表3-2-69(育成の対象にした社内人材)、図表3-2-70(社内人材の育成の方法)と本文の記述を参照(確認日2026年10月2日)(2026年10月確認)
- *3 参考:労働政策研究・研修機構「調査シリーズNo.267」付属統計表(PDF)(https://www.jil.go.jp/institute/research/2026/documents/267_03.pdf)。出典:付問12-9-1(活用・育成した社内人材の選出方法)、付問12-9-2(育成対象にした社内人材)、付問12-9-3(社内人材の育成方法)の各工程の全体の値を参照(確認日2026年10月2日)(2026年10月確認)