LASSIC Media らしくメディア

2026.10.25 採用支援コラム

生成AIの開発を頼む業務委託契約書のひな形|8項目と記入の例

監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

契約書の草案の余白に赤ペンで書き込む手元と小袋に入れた記録媒体

この記事の結論

  • 生成AIの開発を外部のエンジニアに業務委託するなら、契約書に業務の範囲からデータ、精度、検収、権利まで8つの項目を書きます。
  • 出力の精度は機械学習の性質上約束しにくいため、目標の値と評価の手順、届かないときの次の手を決めておきます。
  • 渡したデータは本業務のほかに使わせず、学習用に加工したデータも含めて、契約が終わるときの返却か消去を求めます。

※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。

社内の文書を使って回答する生成AIの仕組みを作ることになり、AI開発の経験がある外部のエンジニアに業務委託で頼みたい。ところが手元の業務委託契約書のひな形には、渡すデータの扱いも、回答の精度をどう約束するかも書かれていない——。生成AIの開発を外部の人材と進める企業で出てきている迷いです。

本記事は、生成AIを使ったシステムの開発そのものを外部のエンジニアに業務委託する企業の担当者に向けて、業務委託契約書に入れる項目を8つのひな形の表にまとめます。経済産業省の「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」と民法をもとに、データ、精度、検収、権利の書き方を整理します。

生成AI開発の業務委託契約書とは

生成AIを組み込んだ社内のシステム(問い合わせへの回答や文書の検索など)を作るとき、AI開発の経験を持つ外部のエンジニアに業務委託で加わってもらう方法があります。このとき普通のシステム開発の業務委託契約書をそのまま使うと、データや精度、モデルの扱いが抜けやすくなります。経済産業省の「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」は、AIの開発を伴う契約を開発型契約と呼び、次の点を挙げています。*1

  • 開発型契約では、渡すデータ(インプット)の利用条件が、交渉の重要な検討事項になることが少なくない
  • 準委任契約と理解される場合は善管注意義務を負うにとどまり、請負契約と理解される場合は仕事の完成義務と契約不適合責任を負う。これが一般的に重要な違いになる
  • 契約ガイドラインAI編は、AIモデルが学習用データセットから帰納的に作られることから、完成義務の設定や性能保証が必ずしも容易でないと指摘している
  • 開発が進むにつれて成果物の範囲が不明確になることがあり、開発の初めに当事者の認識をすり合わせることが重要

チェックリストは、契約が準委任か請負かを抽象的に議論するより、成果の内容や水準をどこまで求めるかが重要な論点になる場合が少なくないとしています。*1 何を頼み、何を受け取るかを項目ごとに決めることが出発点です。

業務委託契約書のひな形

生成AIの開発を外部のエンジニアに頼むときの業務委託契約書の項目を、8つのひな形にまとめました。チェックリストは具体的な条項例ではなく、確かめる点を挙げる形をとっています。*1 下の記入の例は、そのチェックポイントをもとに本記事で作った書き方の一例で、システム名や数値は伏せ字にしています。

ホワイトボードに文字の無い表の線を引く右手

生成AIの開発を業務委託するときの契約書のひな形(8項目。出典:経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」のチェックポイントをもとに本記事で作成。2026年10月23日確認)
項目 書く中身 記入の例 よくある抜け
①業務の範囲と成果物 何を作る作業か。何を成果物として受け取るか 受託者は、〇〇システムの回答を作る機能の設計・実装・評価を行い、ソースコードと評価の報告書を成果物とする 作る範囲があいまいなまま始め、途中で範囲が広がる
②契約の形と報酬 準委任か請負か。準委任なら、作業に払うか成果に払うか 本契約は準委任とし、報酬は月〇〇時間の業務に対して毎月支払う 成果に払う形にしたのに、何を成果とするかを書いていない
③渡すデータ 渡すデータの範囲と時期、渡し方、作業する環境 委託者は、別紙に記す〇〇のデータを〇月〇日までに委託者の環境で提供する。受託者はその環境の外にデータを複製しない 個人情報や取引先から預かった情報が混ざっていないかを確かめていない
④データの利用目的と返却 本業務のほかに使わないこと。契約が終わるときの返却と消去 受託者は、提供データとこれを加工したデータを本業務以外に利用せず、契約終了時に返却又は消去し、その旨を書面で報告する 学習用に整えたデータなど、加工したものを含めていない
⑤出力の精度の扱い 精度を約束するのか、目標として扱うのか。届かないときの手順 受託者は、別紙の評価用データで正答率〇%を目標に作業するが、その達成は保証しない。目標に届かないときは〇日以内に原因と対策を報告する 「正しく答えること」とだけ書き、何で測るかが無い
⑥検収と完了の確認 何をもって作業の完了、成果物の受け取りとするか 委託者は、成果物を受け取ってから〇日以内に、別紙の評価手順で確かめ、結果を通知する 評価に使うデータと手順を、誰がいつまでに用意するかが無い
⑦成果物とモデルの権利 開発で生まれたもの(コード、プロンプト、追加学習したモデル)の権利の帰属 本業務で作成した成果物(追加学習したモデルとプロンプトを含む)の著作権その他の権利は、報酬の支払いにより委託者に移転する モデルや評価用データが成果物に入るかを書いていない
⑧受託者が前から持つもの 受託者が開発の前から持っていたプログラムやノウハウの扱い 受託者は、本業務の前から保有するプログラムを成果物に含めるときは事前に知らせる。委託者は、成果物を利用するのに必要な範囲で無償で利用できる 何が前から持っていたものかを、始める前に一覧にしていない

⑦と⑧は、始める前に決めないと後でもめやすい項目です。チェックリストは、開発で生まれた成果をフォアグラウンドIP、各当事者が開発と関係なく持つものをバックグラウンドIPと分けて考えたうえで、範囲を十分に認識しないまま開発が進むと、どちらに当たるかが争点になることがあるとしています。*1 書いたプログラムの著作権の基本は業務委託エンジニアの参画後に知る成果物の著作権の基本で扱っています。

生成AIの開発を業務委託するときに、ひな形の8項目を使う時期の図。契約の前に①業務の範囲と成果物、②契約の形と報酬、⑤精度の扱い、⑧受託者が前から持つものを決める。開発を始めるときに③データを渡す。作業中は⑤の目標との差を報告する。納品のときは⑥評価の手順で確かめ、⑦成果物とモデルの権利を移す。契約が終わるときは④データを返却か消去してもらう。

8つの項目は使う時期が違います。次の節からデータと精度の書き方を見ていきます。

学習データの渡し方と返却

③と④は、生成AIの開発で特に重くなる項目です。チェックリストは、データを渡す側が契約で確かめる点として、次のようなものを挙げています。*1

  • データを渡す義務があるか。ある場合は、提供の時期や頻度などの条件
  • 渡すデータの内容(性質、量、粒度など)に、満たすべき条件があるか
  • 受け取った側が、サービスを提供する目的を超えて、自社の技術の開発や学習の目的に使うことを認めるか
  • 学習用データセットのように、渡したデータを加工して生まれたものを、契約でどう扱うか

個人データを渡すときは、さらに注意が要ります。チェックリストは、受け取った側が自分の目的で使うことや、ほかのデータとの突き合わせが認められる場合は、委託として整理できずに第三者への提供に当たり、本人の同意が必要になる可能性があるとしています。*1 ④で本業務のほかに使わないことを書くのは、このためです。

外部のエンジニアに自社の開発環境で作業してもらう形にすると、③に「環境の外に複製しない」と書けます。契約が終わるときに返却か消去を求める対象は、次のように並べておくと漏れません。

  • 渡した元のデータ
  • 学習用や評価用に整えたデータ
  • 評価の記録と、出力を集めたログ
  • 作業用の端末に残った写し

精度の扱いと検収の基準

⑤の精度は、生成AIの開発で最も書き方に迷う項目です。チェックリストは、保証がある場合でも、機械学習の性質上、出力には不正確な情報や虚偽の情報、他者の権利を侵害する情報が含まれる可能性があり、利用目的に応じて人が確かめることが必要だとしています。*1 このため、精度は約束ではなく目標として書き、何で測るかと、届かないときの手順を決めておく方法があります。

評価用の一覧に緑の色鉛筆でレ点を付ける両手

②の契約の形によって、精度が目標に届かないときの扱いと報酬の払い方が変わります。民法の定めとチェックリストの説明を並べると、次のようになります。*1*2

契約の形ごとの違い(出典:民法第632条・第644条・第648条・第648条の2、経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」4.3.2をもとに作成)
契約の形 約束すること 報酬を払う時 精度が目標に届かないとき
請負 仕事を完成させる 仕事の結果に対して払う 仕事の完成義務と契約不適合責任を負う
準委任(作業に払う) 善良な管理者の注意をもって事務を処理する 事務を履行した後。期間で定めたときは期間が過ぎた後 完成義務は負わない。ただし一定の水準に達しない作業は責任を問われ得る
準委任(成果に払う) 同上 引き渡す成果があるときは、成果の引渡しと同時 同上

⑥の検収は、評価の材料と手順を先に決めておかないと始められません。次の4つを別紙にまとめておくと、受け取る側と頼む側で判断がずれにくくなります。

  • 評価に使うデータ(質問と答えの組など)を、誰がいつまでに用意するか
  • 評価の手順と、何をもって目標に届いたとみるか
  • 人が確かめる範囲(回答の誤りや、他者の権利を侵害するおそれ)
  • 目標に届かないときの次の手(作業の追加、次の段階の契約、中止)

チェックリストは、契約を結ぶ時点でリスクを十分に分析できない場合は、1つの契約で調整するより、その後に結ぶ契約で段階的に調整するほうが実態に合う場合もあるとしています。*1 試作と本開発で契約を分ける方法もあります。

外部に頼むときに確認しておきたい点

生成AIの開発の経験を持つ外部人材に頼むなら、次の点を先に決めておくと、①から⑧を埋めやすく、人材を探す相談の準備にもなります。

  • 範囲:作る機能と、受け取る成果物(コード、評価の報告書、モデル)
  • 期間:始めたい時期、試作と本開発を分けるか、契約の区切り
  • 体制:社内で評価を担う人、データを用意する人、相手に使ってもらう開発環境
  • 費用の決まり方:作業の時間に払うか、引き渡す成果に払うか
  • 引き継ぎ:契約が終わるときに受け取る資料と、返却や消去を求めるデータ

面談では、これまでの開発で精度の目標をどう決め、何で測ってきたかを聞くと、⑤と⑥を相手と合わせやすくなります。政府が生成AIのシステムを調達するときの決まりは外部人材活用で生成AIの仕事を頼むときに行う5つのことで扱っています。個別の契約の判断は、専門家に確かめてください。

まとめ:生成AI開発の契約で押さえる3つの点

生成AIの開発を外部のエンジニアに業務委託するときに押さえたい点は3つです。第一に、業務の範囲と成果物、契約の形と報酬、渡すデータ、データの利用目的と返却、精度の扱い、検収、成果物とモデルの権利、受託者が前から持つものの8項目を契約書に書くこと。第二に、出力の精度は約束ではなく目標として書き、評価に使うデータと手順、届かないときの次の手を決めておくこと。第三に、渡したデータは本業務のほかに使わせず、加工したデータも含めて返却か消去を求めることです。

LASSICに相談するメリット

作る機能と受け取る成果物、渡すデータの範囲が書き出せたら、その条件で開発に加わる人材を探す相談に進めます。業務委託で頼むか社員で採るかを決めきれていなくても、両方の形で候補を比べられます。

Remoguは、株式会社LASSICが運営するフリーランス・業務委託のITプロ人材サービスです。リモート前提で全国から登録が集まっており、登録は約20,000名規模、その約8割が開発系です。人材が必要になった時点から4時間以内に候補者を提案し、最短1週間で実際の業務開始まで進みます(条件によっては実現できない場合があります)。

よくある質問

生成AIの開発は請負と準委任のどちらで頼めばよいですか

どちらと決まっているわけではありません。チェックリストは、契約の形を抽象的に議論するより、成果の内容や水準をどこまで求めるかが重要な論点になる場合が少なくないとしています。*1 精度がどこまで出るか分からない段階は準委任、作るものと合格の基準が決まった段階は請負、と段階で分ける方法もあります。

出力の精度を保証してもらうことはできますか

契約で決めることはできますが、チェックリストは、契約ガイドラインAI編がAIモデルの完成義務の設定や性能保証は必ずしも容易でないと指摘している点を挙げています。*1 目標の値と評価の手順を決め、届かないときの扱いを書いておくほうが現実的です。

外部のエンジニアが作ったプロンプトの権利も移せますか

成果物の範囲にプロンプトを含めると書き、権利の移転の対象にしておく方法があります。開発の前から相手が持っていたものは、⑧の項目で使える範囲を決めておきます。

生成AIの開発に加わる専門人材を探す

作りたい機能と渡せるデータの範囲が決まっていれば、そのままご相談いただけます。契約の項目を固めきれていない段階でも構いません。

Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。

Remoguは、リモート前提で全国から即戦力のITプロ人材を調達するサービスです。リラシクは、扱う求人がすべてリモートワークのITエンジニア専門転職エージェントです。どちらもLASSICが運営しています。

無料相談はこちら

出典

  1. *1 参考:経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(令和7年2月・PDF)(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/connected_industries/sharing_and_utilization/20250218003-ar.pdf)。出典:経済産業省。3 チェックリスト(A-2-1、A-3-1、A-3-2、A-6-1、B-2-3)、4.3 開発型に関する留意点(4.3.1、4.3.2)を参照(確認日2026年10月23日)(2026年10月確認)
  2. *2 参考:民法(明治二十九年法律第八十九号)e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)。出典:e-Gov法令検索。第632条(請負)、第644条(受任者の注意義務)、第648条(受任者の報酬)、第648条の2(成果等に対する報酬)を参照(確認日2026年10月23日)(2026年10月確認)




View