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業務委託の損害賠償の上限|決め方と条項のよくある質問10選
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論
- 民法には賠償額の上限の定めがなく、上限は契約で置くかどうかを決め、置くなら損害の範囲と請求できる期間も合わせて決めます。
- IPAのモデル契約は上限額を個別契約の金額や支払った委託料の合計に結びつけ、具体的な金額は契約ごとに決める形です。
- 故意・重大な過失のときは上限を適用しない項を添え、1か月以上の委託では賠償を報酬から差し引く前に相手の責めを確かめます。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
個人のエンジニアに業務委託で開発を頼むことになり、契約書の案を作り始めた。ところが損害賠償の条項で手が止まる。上限は置くべきか、置くなら委託料の何か月分にするのか、相手に重大なミスがあっても上限で止まるのか。ひな形の空欄をどう埋めるかで、思いのほか迷う点が出てきます。
本記事では、発注する企業の担当者が迷いやすい10の問いを、民法の条文とIPAが公表するモデル契約をもとにQ&Aの形で整理します。各問いには、答えの要点と判断の根拠にした一次情報を添えています。
目次
業務委託の損害賠償の上限で迷う点
個人のエンジニアに業務委託で開発に加わってもらうとき、契約書の損害賠償の条項で手が止まる担当者は少なくありません。相手のミスでシステムが止まったら、どこまで賠償を求められるのか。逆に上限を決めておかないと、相手が契約を受けてくれないのではないか。迷う点は、上限を置くか、何を基準にするか、例外をどう書くかに分かれます。
次の表で、自社の疑問がどの問いに当たるかを確かめてから、該当するQ&Aを読んでください。
| 問いの種類 | 主な疑問 | 答えの決め手 | Q&A |
|---|---|---|---|
| 上限を置くか | 上限を決めないとどうなるか、置くべきか | 民法の原則と、モデル契約の考え方 | Q1・Q2 |
| 上限の基準 | 上限額を何に合わせ、いくらにするか | モデル契約の条項の書き方 | Q3・Q4 |
| 範囲と期間 | どの損害まで、いつまで請求できるか | 民法第416条と、請求できる期間の定め | Q5・Q6 |
| 例外 | 故意や重大な過失のときも上限が適用されるか | モデル契約の除外の項と解説 | Q7 |
| 契約の形と法律 | 準委任と請負の違い、フリーランス法との関係 | 民法と、フリーランス法の禁止事項 | Q8・Q9 |
| 備え | 上限を超える損害にどう備えるか | モデル契約の解説が挙げる対策 | Q10 |
本記事は、発注する企業が個人のエンジニアと結ぶ業務委託契約の損害賠償の条項に絞ります。契約書に入れる項目の全体は業務委託エンジニアの契約書に入れる7つの項目で、社員との労働契約で賠償額を前もって決めることの禁止は賠償予定の禁止で扱っています。
上限を置くかと民法の原則のQ&A
最初に、契約に何も書かなかったときの扱いを押さえます。損害賠償の条項は、民法の原則を契約でどこまで変えるかを決めるものだからです。

Q1. 上限を決めないとどうなりますか
- 答えの要点:相手が契約どおりに仕事をしないときは、それによって生じた損害の賠償を請求できます。ただし相手の責めに帰することができない事由なら請求できません。賠償の範囲は、通常生ずべき損害と、予見すべきであった特別の事情による損害です。この2つの条文は、範囲を定めていますが、金額の上限は定めていません。
- 判断の根拠:民法 第415条第1項・第416条*1
Q2. 上限を置くのは発注側に不利ですか
- 答えの要点:一方に有利とは決めつけられません。モデル契約の検討では、システム開発の特殊性から上限を置くべきだという意見と、民法の原則によるべきだという意見に分かれました。後者の意見には、実際の紛争では特別損害の立証が難しく、過失相殺で賠償額が減ることもある、という指摘も含まれています。
- 判断の根拠:IPA「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」の損害賠償責任の論点*2、民法 第418条(過失相殺)*1
- モデル契約は、損害賠償責任を契約の前の提案・見積もりの段階で説明し、上限額などは個々の情報システムの特性等に応じて決められるように書く、としています。
上限を置くかどうかは、頼む仕事が止まったときの損害の大きさと、その損害を誰がどう抑えるかを並べてから決めます。
上限額の基準と範囲のQ&A
上限を置くと決めたら、上限額を何に合わせるか、どの損害まで含めるか、いつまで請求できるかの3つを決めます。条項で決める点の関係は、次の図のとおりです。
Q3. 上限額は何を基準に決めますか
- 答えの要点:IPAのモデル契約では、上限額を委託料に結びつける書き方が使われています。工程ごとに個別契約を結ぶ開発では原因となった個別契約に定める金額、準委任で続けて加わってもらう形では実際に支払った委託料の合計金額、月ごとの運用では月額の〇か月分です。
- 判断の根拠:IPA「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」第53条第2項と業務仕様書サンプル*2、IPA「アジャイル開発外部委託モデル契約」第21条第2項*3
| モデル契約 | 上限の基準 | 向いている頼み方 |
|---|---|---|
| 情報システム・モデル取引・契約書(第二版)第53条 | 原因となった個別契約に定める金額(金額の種類は空欄) | 工程ごとに個別契約を結ぶ開発 |
| アジャイル開発外部委託モデル契約 第21条 | その契約で実際に支払った委託料の合計金額 | 準委任で続けて開発に加わってもらう形 |
| 第二版の業務仕様書サンプル(オンサイト型の運用) | 月額契約金額の〇か月分 | 月ごとの定額で続く運用・保守 |
Q4. 上限額の相場はいくらですか
- 答えの要点:モデル契約は、上限額の欄を「○○○の金額」「○ヶ月分」と空けています。具体的な上限額は、個々の情報システムの特性等に応じて定めるものとしているためです。本記事で確かめた法令とモデル契約には、上限額の相場を示す数値はありません。
- 判断の根拠:IPA「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」第53条と解説*2
Q5. 賠償する損害の範囲も絞れますか
- 答えの要点:絞る書き方があります。モデル契約の解説は、範囲を制限する場合には、特別事情による損害、逸失利益(得られたはずの利益)、間接損害を負わない趣旨で、直接の結果として現実に被った通常の損害に限る、と書くことが考えられるとしています。
- 判断の根拠:IPA「アジャイル開発外部委託モデル契約」第21条の解説*3、民法 第416条
Q6. 請求できる期間も決めますか
- 答えの要点:第二版の第53条は、請求できる期間を、納品物の検収完了日または業務の終了確認日から〇か月と定める形です。期間も空欄で、契約ごとに決めます。成果物の不具合の責任を問う期間は、別の条項で定めます。
- 判断の根拠:IPA「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」第53条第1項と解説*2
故意・重過失とフリーランス法のQ&A
上限の条項には、上限を適用しない場面を書く項を添えるのが、モデル契約の形です。あわせて、契約の形と、個人に頼むときの法律との関係も確かめます。

Q7. 故意や重大な過失があっても上限は適用されますか
- 答えの要点:モデル契約は、上限の項を、損害賠償義務者の故意または重大な過失に基づく場合には適用しないと定めています。解説は、故意による場合は判例で責任制限の条項が無効と考えられ、重過失の場合も同様に無効とするのが支配的な考え方だから設ける規定だ、と説明しています。
- 判断の根拠:IPA「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」第53条第3項と解説*2、IPA「アジャイル開発外部委託モデル契約」第21条第3項*3
Q8. 準委任と請負で賠償の考え方は変わりますか
- 答えの要点:変わる点があります。請負は仕事の完成を約束する契約で、成果物が契約の内容に合わないときの責任(契約不適合責任)を負います。準委任は善良な管理者の注意で事務を処理する契約で、契約不適合責任は負いませんが、注意を怠れば通常の債務不履行責任を負います。
- 判断の根拠:民法 第632条・第644条・第656条*1、IPA「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」の契約類型の解説*2
Q9. フリーランス法と上限の条項は関係しますか
- 答えの要点:フリーランス法の条文に、損害賠償の上限を定めた規定はありません。ただし1か月以上の業務委託では、相手の責めに帰すべき事由がないのに報酬の額を減ずることが禁じられています。報酬から差し引く方法も含まれ、あらかじめ合意があっても違反になると説明されています。
- 判断の根拠:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 第2条・第5条第1項第2号*4、公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」*5
- 対象は、従業員を使わない個人と、代表者のほかに役員も従業員もいない法人です。賠償を報酬と差し引きで済ませる前に、相手の責めがあるかを確かめます。
Q10. 上限を超える損害にはどう備えますか
- 答えの要点:モデル契約の検討は、発注側と受注側がリスクの性質と規模を認識し、十分なテスト期間の確保、データの二重化、運用回避策といった対策や、保険によるリスクヘッジの必要性とコストを検討することを期待しています。相手が賠償責任保険に入っているかも、契約の前に聞いておきます。
- 判断の根拠:IPA「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」の損害賠償責任の論点*2
ここまでの答えは、モデル契約と条文から言えることに限っています。個別の契約の条項がどう解釈されるかは、契約を結ぶ前に弁護士に確かめてください。
外部人材に頼むときに確認しておきたい点
個人のエンジニアと直接、業務委託契約を結ぶなら、損害賠償の条項は自社で案を作り、相手と話し合って決めることになります。相談の前に、次の点を書き出しておくと話が早く進みます。
- 範囲:頼む開発の中身と、止まったときに業務へ響く範囲
- 期間:契約の期間と、1か月以上続くか(フリーランス法の禁止事項がかかるか)
- 体制:社内でテストと受け入れを受け持つ人、障害が起きたときの連絡の流れ
- 費用の決まり方:委託料を成果物ごとに払うか月ごとに払うか(上限額の基準がここで決まる)
- 引き継ぎ:契約の終わりに成果物と資料をどう受け取り、請求できる期間をいつまでにするか
契約の形の違いはシステム開発の準委任契約と請負契約の違いでも整理しています。個人に直接頼むか、業務委託の人材やリモートで働く社員の候補も含めて比べるかは、頼みたい開発の範囲と期間を書き出してから決めても遅くありません。
まとめ:業務委託の損害賠償の上限で確かめる点
業務委託契約の損害賠償の上限で確かめたい点は3つです。第一に、民法は賠償の範囲を通常の損害と予見すべきであった特別の事情による損害で定めるだけで、金額の上限は定めていないため、上限を置くかどうかを契約で決めること。第二に、置くなら上限額を個別契約の金額や実際に支払った委託料の合計といった委託料に結びつけ、損害の範囲と請求できる期間もあわせて決めること。第三に、故意・重大な過失のときは上限を適用しない項を添え、1か月以上の業務委託では、賠償を報酬から差し引く前に相手の責めに帰すべき事由があるかを確かめることです。
よくある質問
違約金の額を前もって決めておくことはできますか
民法は、当事者が債務の不履行について損害賠償の額を予定できると定め、違約金は賠償額の予定と推定するとしています。上限とは別に、遅れたときの額などを決める書き方です。
上限の条項は発注側が負う賠償にもかかりますか
モデル契約の第53条は「甲及び乙は」と双方を主語にしており、上限も双方の損害賠償にかかる形です。発注側の協力が足りずに受注側に損害が出た場合も、同じ条項で扱います。
一人で会社を作っているエンジニアと契約するときも同じですか
代表者のほかに役員がなく従業員もいない法人は、フリーランス法の特定受託事業者に当たります。報酬の減額の禁止など、個人と同じ決まりがかかります。
業務委託で開発に加わる専門人材を探す
頼みたい開発の範囲と期間が決まっていれば、そのままご相談いただけます。個人に直接頼むか、ほかの形も含めて比べるかを決めきれていない段階でも構いません。
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出典
- *1 参考:e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)。出典:第415条(債務不履行による損害賠償)、第416条(損害賠償の範囲)、第418条(過失相殺)、第420条(賠償額の予定)、第632条(請負)、第644条(受任者の注意義務)、第656条(準委任)を参照(確認日2026年10月28日)(2026年10月確認)
- *2 参考:IPA「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」(https://www.ipa.go.jp/digital/model/model20201222.html)。出典:<第二版>(2025年4月8日更新)の損害賠償責任の論点(範囲・限度額・期間)、第53条(損害賠償)と解説、契約類型の解説、業務仕様書サンプル(オンサイト型アウトソーシングサービス)を参照(確認日2026年10月28日)(2026年10月確認)
- *3 参考:IPA「アジャイル開発外部委託モデル契約(解説付き)」(PDF)(https://www.ipa.go.jp/digital/model/ug65p90000001ldr-att/000081484.pdf)。出典:第21条(損害賠償)と解説を参照(確認日2026年10月28日)(2026年10月確認)
- *4 参考:e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号)(https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000025)。出典:第2条(定義)、第5条(特定業務委託事業者の遵守事項)を参照(確認日2026年10月28日)(2026年10月確認)
- *5 参考:公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(PDF)(https://www.mhlw.go.jp/content/001572556.pdf)。出典:第5条の対象となる業務委託の期間(1か月)、報酬の減額の禁止(第5条第1項第2号)の説明を参照(確認日2026年10月28日)(2026年10月確認)